多人数で神話を創る試み『ゆらぎの神話』の、徹底した用語解説を主眼に置いて作成します。蒐集に於いて一番えげつないサイトです。

結界の六十二妹

アーズノエルの御手左翼4番手。

性質

【地獄】の門

ネクロゾーンの体には【地獄】への門が刻まれている。
彼女はここから【異獣】を百足にも似た左手で引きずり出して使役する。
しかしこの【門】は傍目から見ると大きく痛々しい傷であり、
ネクロゾーンがまとう黒霧はこれを隠すためのものでもある。

ネクロゾーンの地獄門は元はアヌンのものであった。
使役される異獣たち

裏返り

ネクロゾーンは、自分の体を自らに刻まれた門に押し込むことによって、地獄に転移できる。
その際彼女は裏返り、左腕のみが人間の、地獄に相応しい異形の者と化す。

エピソード

悪魔憑き】ビースマン?に誘拐され、封印されたジャンザビオンンの解放に使われた。

ビークレットとの約束

ネクロゾーンの地獄の門が暴走した時、ビークレットはその身体を焼き尽くすことを約束している。ネクロゾーンもまた姉に全てを委ねる事を覚悟している。
二人の間には姉妹愛という言葉では片付けられない奇妙な繋がりがある。

ネクロゾーンの暴走時にはカルル・アルル・アが抑え、ビークレットに連絡する事になっている。

その終焉

我々の世界(猫の国?)へ飛ばされ/移動し、魔力の殆どと不死を失った/失っていない。その後マンコ・カパックを名乗り、クスコ王国初代国王となったらしい。

容姿

44番目のネクロゾーンは常に漆黒の霧を纏わせた不気味な女性である

累卵の記述項

累卵の記述項
Cu1-44霧のネクロゾーン

「病気持ち」 【慈獄紋】 「澱む黒霧」

彼女の始まりは、とある東方の山奥に求められる。
起源は古く、人里からは遥かに離れ。 その場所を知るものも少なく、ネクロゾーンは裸身のままこの世で覚醒した。
その裸身は、つくりもののように美しく、穢れが無かった。
あまりにも無垢であったため、相対的に穢れすぎていた周囲の存在全てが羞恥死んだ。
その無垢なる破壊と虐殺はその範囲を広げていき、穢れ無き生まれたての赤子以外の全てが己が身の穢れを恥じて死んでいく。取り残された幼子達も、また死に絶えた。
この由々しき事態に立ち上がったのは東方五大宗教の一角、正統ゆらぎ帝教の穢れ無き六大聖人である。
彼らはなんら後ろ暗い所なく、罪なるものとは無縁の存在であった。ネクロゾーンを救うため、全くの善意から彼らはネクロゾーンを汚す事を決定した。
保護されたネクロゾーンは、六人の聖人君子たちによってその左腕を切り落とされ、神体にして教祖たるハズラッカーグの左腕を移植された。

正統ゆらぎ帝教は【均衡】を何より重んじる宗教である。正邪、清濁、対立するもののバランスを保つ事こそが最善であり、優れて美しいものは適度に汚し、極めて醜いものは形を整える事が至上とされた。
教祖を最も邪悪にして醜悪なるものの象徴として崇め、六人の聖人の聖性を以って調和を成す。それこそがこの教団の基本理念であった。
古の伝承では魔王ハズラッカーグは伝説の英雄シャーフリート岩穿ちの剣によって打ち滅ぼされたとされているが、少なくとも東方に居を構えるこの教団は魔王を名乗る者が作り上げたものであることは確かであり、その魔王は確かな邪悪と強大な魔力を備えていた事も事実であった。
空前絶後ともいえる純粋な無垢性のバランスを執るため、邪悪なるハズラッカーグは自らの腕を少女に分け与えた。
そしてその身の美しさとバランスをとるため、少女の名を最も醜く残虐な豚、ネクロゾーンと定めた。
想像を絶する痛みと屈辱。そして植えつけられた、長虫のごとき忌まわしく醜い左腕。
貴様は世界で最も愚鈍で醜悪な豚である。会う者全てにそう言われ続けた。
長くのたうつ左腕は動かすたびに嫌悪感と激痛が走り、おまけに接合部からは自身の身体へと茶黒い穢れが這い進んで来る。生まれて初めての身の穢れに、少女は初めて憎悪という感情を覚えた。
その後も彼女は教団の中で、残った清らかな部分を一定量汚し続ける為、ありとあらゆる汚濁と陵辱に晒された。
未発達な自我の中で育まれて行った彼女の中の憎悪は、周囲の人間が、そして本人すら気付かぬうちに暗黒にまで肥大していった。
否、それはもはや「変質」だった。
ある時、ネクロゾーンと侮蔑された少女は信徒の一人を、何の気もなしに美しい右手で触れ、羞恥死なせた。
彼女の無垢性は未だ残っており、彼女が害意を持って他者に接すれば、死が訪れた。
六大聖人は彼女の聖性が未だに大きすぎる事を危ぶみ、いっそ彼女を徹底的に「邪悪な」存在に作り変えてしまおうかと考えた。完全に邪悪になった分は、自分達の聖性で抑えられると考えた。
まず一人の聖人が、彼女を拷問にかけた。
ありとあらゆる刑罰によって傷を付け、彼女の美しい身体に消えない傷を刻み付けた。
次に二人の聖人が、ありとあらゆる責め苦によって彼女を陵辱した。
絶え間無き非道に、彼女の精神は消えない傷を負った。
更に二人の聖人が、彼女の肉体を解剖した。
頭部を解体し、腹を開き、内臓を幾多の獣や異形のものと入れ替えた。その中にはネクロゾーンという豚もいた。
皮膚以外の大半の組織が獣のそれに置き換わった少女は、その時虚ろな瞳の中に何かの兆しを見ていた。
最後に、一人の聖人がこの世に於いて考えられるありとあらゆる病毒細菌を彼女に感染させた。
不治の難病のウィルスを、決して助からぬだけ投与された少女は、それでもなお生き続けた。
絶望的な・・・そのような言葉を使うのすら生ぬるい地獄の最奥を味わいつくした少女の中で、その瞬間暗黒が弾けた。
報復を。
調和を重んじ、戒律を以って正統な邪悪を行う彼らに、自らが同様の邪悪で報いるべきである。
少女は、自らに邪悪を行ったもの全てに同じく邪悪を与える事で調和を保とうと考えた。そう、彼女は教団の真理にどこまでも忠実だった。彼女は幼少より教団に育てられた。故に教えが全てであったのだ。
その日のうちに彼女は教団を脱走し、去って行った。
古代ジャッフハリムの都へ足を運んだ少女は、そこで女帝レストロオセの側近の騎士たるアヌンミシャルヒに師事して邪悪なる異獣召喚の術を会得する。
だが少女が撒き散らす病毒の嵐はジャッフハリムの住人を地獄に叩き落した。疫病が渦巻き、人々は苦しんだが女帝レストロオセは逆に彼女を重用した。
ありとあらゆる病毒の素が手元にあるということは、医学的に最も優れたサンプルが手元にあるということである。
女帝は可能な限りの人体実験を行うことと引き換えに、騎士たちから邪法の術を学ぶ事を許した。
少女はそれを受け入れ、非道な人体実験と過酷な修行の日々を耐え忍んだ。
噂を聞きつけて訪れたキュトスの姉妹の長女ヘリステラは彼女が魔女である事や自分達が味方であることを説明したが、少女は興味を示さなかった。
彼女はただ報復に向けてまい進を続け、幾人か来訪した魔女達は皆そろって帰っていった。
そして時は流れた。
その身に刻んだ傷口を【?】として異獣を召喚する邪法を会得した少女は、報復の為に正統ゆらぎ帝教の総本山へと赴く。
仇は七人。忌むべき聖人と、この左腕の本来の持ち主たる偽りの魔王。

途切れることなく彼女の中で保たれていた暗黒は、遂に向かうべき先を見据えたのだ。
東方の一大国家ハズラース?(現在のボーステンタクス)では、正統ゆらぎ帝教が隆盛を誇り、寺院が絶対的な権力を誇る宗教国家として繁栄の形を成していた。
教祖と六大聖人はそこで絢爛な栄華を貪り続けていた。信徒と非信徒を厳密に区別し、その信仰心の段階に応じて幸福を享受できるシステムが確立されていた。
信徒たちが贅沢を甘受する代わりに、非信徒たちは苦渋を味わう。聖人達が雲上の如き悦楽を噛み締める代わりに、非信徒たちは絶望を押し付けられる。
完全な均衡。正と負の役割分担が成された都市。
調和都市ハズラース。幾つもの区画に分割された都市、そのいくつかに分かれて豪遊する聖人たちに、少女は一人ずつ狙いを定めた。
その日。ハズラースの汚濁に塗れたスラム街を一人の少女が通り過ぎていった。
その左腕は長く垂れ下がる異形にしておぞましく、全身には総計四十四枚からなる呪符が貼り付けられているのみの全裸の少女。
腐臭と漆黒の体液を零しながら歩むその美しくもおぞましい少女に、誰も近寄る事は出来なかったという。

その、始まりの日の夜。
ある聖人は何故か眠る事が出来ず、目を覚ましては部屋の中を歩き回り、また暫く床に付いては目覚めるということを繰り返していた。彼は少女に拷問を繰り返し、美しい体に傷を刻み込んだ男だった。暫くして、気付かぬうちに部屋の窓が開いている事に気付く。
族が侵入したのかとその肥え太った身体を慌てふためかせるが、そこにいたのはみすぼらしい少女一人。
聖人は思い出す。遠い昔、自らの行いで散々に汚し抜いた少女のことを。
しかしあの少女は逃げ出して音沙汰が無かったはず。どこぞでのたれ死んだものとばかり思っていたが、何故ここに。
聖人は、少女をあの名前で呼んだ。この世で最も醜い豚、忌まわしく、そして少女が心の中では嫌だったあの名で。
「そうだ、私の名前はネクロゾーンだ!」
忌むべき豚。醜き異形として仇の前に現れたネクロゾーンは、報復を開始した。その全身に張り巡らされた四十四枚の符が独りでに蠢き、彼女の肉体の内側に吸い込まれていく。レストロオセの側近たる四十四騎士たちの一人ひとりから授けられし、封印の符。露わになった四十四の傷口が門となり、彼女の内部からおぞましき異獣たちが這いずり出る。
「見ろ、これが貴様の付けた傷跡が生んだものだ」
聖人は断末魔すら上げることなく、獣の牙にかかって死んだ。
次の晩、ネクロゾーンは自分を陵辱した二人の聖人の下に訪れ、それぞれにこう囁いた。
「貴様かもう一人か、どちらか一人を助けてやる。自分が助かりたいと思ったならもう一人の首を私に差し出せ」
二人は殺し合い、一人は死に、もう一人はネクロゾーンがミシャルヒに教わった邪視の術で意識のあるままに石像となった。半永久的に続く石の牢獄の罰に、聖人の心はやがて死に絶えた。
ネクロゾーンの内蔵を入れ替えた二人は、しかしそれまでの仲間の訃報を受けて警戒に警戒を重ねた。
一人は屈強な護衛たちによって守られ、もう一人は肉体を改造し恐るべき戦闘能力を持つ超人になっていた。
ネクロゾーンは護衛に守られた聖人を異獣たちを駆使して何とか追い詰めた。強靭な護衛たちは無類の戦士であり、さしものネクロゾーンも苦戦を強いられたのだ。なんとか聖人を仕留めたネクロゾーンだが、その時彼女は疲弊し傷付いていた。その隙を突いて、もう一人の聖人が襲撃を行った。その超人的な身体能力によってネクロゾーンは地に伏せる事となるが、一際大きな腹部の傷に左腕を突き入れると、そのままその中にもぐりこんでいった。
ネクロゾーンが肉体の内部に入り込むと、女の身体は裏表が反転し、左腕が人間のもの、その他全てが恐るべき異形の肉体に変質した。
「見るがいい、これが貴様達が詰め替えた汚らしい私の中身だ」
極彩色の臓器が露わとなり、異形の怪物の姿を顕現させていた。その頭部は豚のようであり、細長い首は不吉な小腸のごとく脈打ち、蛇の尾と蛙の心臓が数珠繋ぎとなって這い回り、蜥蜴の胴と鶏の翼がねじれたように繋がっていた。
その中で、不自然に白い左の繊手がかえっておぞましく見えた。
それは正しく異獣そのものであった。彼女は師アヌンより自らを異獣と化す邪法を教わっていたのだ。
ネクロゾーンは聖人を見つめて石化させると、その完全な石化を待たずに巨大な顎で喰らい尽くした。
最後の聖人の下へ赴かんとするネクロゾーンは、しかしその聖人が魔王を名乗るハズラッカーグを殺害しその屍を我が物としていることを知る。
報復鬼ネクロゾーンを脅威と見なした彼は教祖の膨大な魔力を取り込み、魔王に成り代わったのである。
新たなる魔王が誕生した。聖人はハズラッカーグとなり、ハズラッカーグは聖人になった。
ネクロゾーンはハズラッカーグに挑むが、その強大な魔力によってあらゆる攻撃は無力化された。
使役する異獣も、石化の邪視も、異獣となる化身の術も、師らから教わったありとあらゆる術が通用しなかった。
魔王の持つ邪悪なる霧の防壁?。それがありとあらゆる攻撃を無力化する原因であった。
漆黒の霧が魔王の身体を覆い隠し、破壊と悪意を棄却する。
ネクロゾーンは万策尽きて膝を突いた。
その時彼女の脳裏によぎったのは、師ら四十四騎士の言葉でも自らをモノとして扱った外道たちへの憎しみでもなく、自分の存在を嘲弄と興味の視線で眺めるだけだった呪祖レストロオセの言葉だった。
『力とは、自らを規定する信念より生まれ出ずるもの。借り物の力で報復を為そうなどと、そなたも大概歪んだ小娘よな』
ネクロゾーンはその言葉にはっとなった。自らの報復は、自らの信念、けして譲れぬ根底の意思によって為されるべきである。そのことを失念していては、たとえ相手を打倒できたとしても真の報復足りえぬのだ。
ならば自分の内に秘められた信念とは何か。
それは「正統なる調和」である。かの教団の、自らが利益を貪るためだけの詭弁の調和ではない。目には目を、侮蔑には侮蔑を、悪意には悪意を、地獄の苦しみには地獄の苦しみを。
大いなる慈悲と地獄へ向かう苦しみの境界に押し込められながら何一つ自由にならない絶望と暗黒に耐え続けた日々。
そこで学び、理解したのは「おためごかし」の醜悪さだ。
口では綺麗なことを言いつつ平然と醜悪な行為を行ってのける聖人達。確信犯故に、一切の穢れが自分の中には無いのだと信じる、狂的にして最悪の利己主義者ども。
そうした吐き気をもよおす邪悪に正しき怒りを叩きつけることだけが少女の目的だった。
そう、正しき怒り。正しさを持ちつつも醜悪な暴力を用いて下す、正義の邪悪。
矛盾した彼女の信念、だがそれこそが真実の力であった。
醜く歪んだ左腕と傷付いた人の肉体の接合部、その継ぎ目からそれは現れた。無骨な柄を握り締めると、ネクロゾーンは勢いも良くその大剣を引き抜いた。
それこそは最強の刃、かつて古の英雄シャーフリートが魔王ハズラッカーグを誅する際に用いたといわれる伝説の剣、『岩穿ちの剣』である。
この剣はあらゆる障害や雑念を貫き通す、強き意思を持つ者の下へ何処からとも無く出現するという世界存在にして無敵の剣。如何なる防御をも貫くその一撃は、魔王の霧を引き裂いてその胴を穿ち抜いた。
魔王は死に際に怨嗟の声を上げると、その身に纏わり付かせていた漆黒の霧を呪詛と成してネクロゾーンに取り付かせた。これによりネクロゾーンは霧の防壁?の加護を得る事になったが、同時に魔王の呪詛に肉体を蝕まれる事にもなった。
伝説の剣、魔王の霧の鎧、異獣軍団を従える事になったネクロゾーンは報復を終え、その目的を見失った。
その強大な力を持て余した彼女は、自らの力を封印するためかつて自分の本来の巣であるという星見の塔・・・魔女たちの総本山へと向かう。
そこで彼女は美しき炎の魔女、白焔のビークレットと運命的な出会いを果たすことになる。
しかし、これはまた別の話。
此処でひとまず、魔王を滅ぼせし醜悪にして華麗なる英雄の話は区切りとしよう。

余談だが、ネクロゾーンというのは基本的には豚の名前、種族としての固有名詞である。
故に、キュトスの魔女のネクロゾーンを指す場合、その異称で呼ぶか、あるいはその身にまとう漆黒の霧にちなんで、「霧の」ネクロゾーンと呼び習わす。

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