最終更新:ID:eGYbMxdAEA 2011年01月05日(水) 21:41:15履歴
頭痛ぇ……ていうか全身痛ぇ……。
ここは何処だ?
「うぅ……ぁ……」
「良かった!気がついたんですねっ……!」
カノンが居る。カノンが泣いてる。何故泣いてる?
俺のせい?誰かのせい?どうしたら泣き止んでくれる?
くっそ頭が回らねぇ……。身体が重てぇ……。
「まだ安静にしていて下さい。死んでしまってもおかしくない怪我をしていたんですから……」
そう言ってまた大粒の涙を流すカノン。
頼むから泣かないでくれ。あんたに泣かれると落ち着かない。
「な……く…………な」
どうにか声を絞り出してみたが殆ど呻き声みたいな音しか出なかった。
それでもカノンにはちゃんと聞こえてたようで、一瞬驚いた表情をしたあと笑ってくれた。
そうだ、あんたは笑っている方がいい。
「今はゆっくり……身体を休めて下さいね…………ちゅ」
ふいにカノンが顔を近づけたと思ったら頬に柔らかい感触が当たった。
キスをされたのだと判断出来たのは、顔を真っ赤にしたカノンが病室を出た後だった。
……そして俺は、気を失った。
―――
――――――
―――――――――
「それでは!リーダーの退院を祝して、カンパーイ!!」
コウタの音頭で一斉に乾杯の声が挙がる。
今日は俺の退院祝いという事で第一〜第三部隊の面々が集まってちょっとした宴会をする事になった。(料金は俺持ち)
ちなみにヒバリさんとリッカさんも参加している。
俺の身体はかなり重傷だったらしいが、優秀な医療班とカノンの甲斐甲斐しい介護のお陰で今ではすっかり元通りだ。
一度リンドウさんの差し金でピンク色のナース服を着たカノンがやって来た時は色んな意味で己が身の不自由を悔いた。
しかし、サクヤさん用と思われるその服をバッチリ着こなしていた辺り侮れんなカノン……。
「リ〜ダ〜!シユウ三体相手に戦ったんだって!?すっげぇじゃん!」
興奮した様子でコウタが絡んできた。オイ、なんかコイツ酒臭くないか?
「戦ったんじゃなくて逃げてただけだよ」
「逃げてただけなら何でリーダーはシユウの死体の上で倒れてたんですかねぇ〜」
近くで飲んでいたアリサも会話に混ざってきた。
おいおい……素面っぽいがアイツが飲んでるのも酒じゃないのか……?
「あ、これですか?」
俺の視線に気付いたらしいアリサが頼んでもいないのに喋り始めた。
「ロシアに居た頃はよく紅茶にウォッカ入れて飲んでましたし……」
そう言ってグラスの中身をグイッと飲み干す。
「このぐらい水みたいなものです」
いやいやいや……俺が気にしてるのはそこじゃない。
お前も未成年だろうが!
「いよぉリーダー楽しんでるか?」
「……リンドウさんですね?お酒持ち込んだの」
リンドウさんもお酒と思わしき液体の入ったグラスを持っているが、当然というべきか酔っている様子はない。
「祝いの席なんだからちょっとぐらい羽目外してもバチは当たらんだろ。ホラっお前も飲め」
「遠慮します!」
くそっ!こんな酒乱共と一緒の部屋に居られるか!俺は帰る!
「逃がしませんよっリーダー!」
立ち上がった俺の右腕にアリサが抱きついてきた。
当たってる!当たってるから!
「あらぁ〜私を置いて帰ってしまうなんてツレナイのねぇ……」
今度はジーナさんが背中に撓垂れ掛かってくる。
酒臭っ!普段と言動変わらないけど多分この人も酔ってる!
「主賓が真っ先に帰るなんてありえないよ。キミはもう少し空気を読むべきだね」
そう言って今度はリッカさんが俺の左腕に絡みついてくる。
あなたも結構なモノをお持ちで……じゃなくて!
「読みましたよ!?危険な空気を読んだから帰るんです!」
「おぉっ!モテモテだなリーダー。いいぞお前ら!そのまま押し倒せ!」
「煽らないで下さいリンドウさん!」
「リーダー冷たーい!それにほらぁ、あんな状態の"彼女"を放っておくんですか?」
アリサの視線の先には既にダウンしているカノンが居た。
あの性格だ。きっと皆(主にリンドウさん)に勧められるまま飲みまくったんだろう。
「"彼氏"として、ちゃんと介抱してあげなくちゃ駄目じゃない」
おい待て、勘違いしてないか?
「いや……ジーナさん、俺は別にカノンさんとそういう関係じゃ……」
「「「え?」」」
女性陣の声がハモる。
そんなに意外だったか?
「有り得ないです!!だって、あんな健気にリーダーの看病してましたし!」
「あたしはもうとっくに付き合ってると思ってた」
「私はする事しちゃってるような関係だと思ってたわ」
あんた達はどんな目で俺達を見てたんだ……。
確かにカノンとは仲がいいが別に恋人じゃない。
そもそも俺は告白を断ったわけだし。
「もう一度言いますが俺とカノンさんは付き合っていません。それに俺じゃなくたってカノンさんなら、その気になれば選り取り見取りでしょう?」
事実カノンは老若男女に人気がある。
告白を断った俺なんかよりもっとイイ男だって沢山いるだろう。
「選り取り……」
「見取り……」
「ねぇ……」
え?何その目……俺何か間違ったか?
「はぁ〜……リーダーがそれを言いますか……ドン引きです」
「カノンさん可哀想」
「不憫ねぇ」
俺にいったいどうしろって言うんだよ……。
「私はリーダーとカノンさん、お似合いのカップルだと思うんだけどなぁ」
「二人は似てるしね」
似てる……か?
「別に姉弟でも従姉弟でも無いですし、そもそも俺とカノンさんは男と女で……」
「いや、容姿の事じゃなくて中身の事」
リッカさんの意見に他二名も頷くが正直どこが似てるのかサッパリわからない。
「わからない?」
「わかりません」
「じゃあ、キミから見てカノンさんはどんな人?」
「俺から見て……」
自分がカノンに抱いているイメージを思い起こしてみる。
「そうですね……優しくて、頑張り屋で、ちょっと頑固で……あとは目を離すと直ぐ無茶をする危なっかしい人……ですかね」
「ほら、キミの事」
うーむ……。
そう言われてもやっぱりピンとこない。
「フフ……ピンとこないって顔してるわね。アナタのそういう所も味があって素敵よ」
「はぁ……」
味があるとか言われてもなぁ。
「もうっ!この際なんでもいいですからリーダーはちゃんとカノンさんを介抱してあげて下さい!」
「うぉっ!?」
アリサが言うやいなや女性陣が俺をカノンの方へ突き飛ばした。
「いや、別に俺じゃなくても……リンドウさん代わりにお願いしま……」
「うっ!急に右腕が……!すまんサクヤ。部屋まで付き添ってくれ」
リンドウさんはわざとらしく右腕を抑えながらサクヤさんと共に去って行ってしまった。
逃げるな!俺を助ける事から逃げるな!
他の人もさっさと身支度を整え撤収していく。まさに神速。
「リーダー!頑張って下さいねっ!」
主犯格が何を言うか。というか頑張れってなんだ。何をだ。
そしてあっという間に俺とカノンだけが残された。
「どうすりゃいいんだよ……とりあえず運ぶか……」
このままにしとくわけにもいかない。
どこかちゃんとした場所に寝かせてやらないと。
しかし、問題がひとつ。
「何処に運べばいいんだ……?」
―――
――――――
―――――――――
「うぅ……もう飲めません……」
とりあえず自分の部屋へ運びベッドに寝かせた。
何やら呻いているが俺にはどうしてやる事も出来ない。
せめて少しでも楽になればと思い頭を撫でていると、幾分か表情が和らいだ気がした。
しかしこうして改めて見ると…………
「綺麗……だよなぁ……」
サラサラの髪、長い睫毛、柔らかそうな唇…………キス……。
不意に病室でのカノンの笑顔とキスが頭をよぎりドキッとした。
………………ガキか俺は……。
「うぅ……んぅ……んぇ?」
頭を撫でていたせいかカノンが目を覚ました。
うっすらと開いた瞳が俺を捉える。
「おはようさん。気分悪くないか?酔いつぶれてたからとりあえず俺の部屋に運んだんだが」
「ふぇ?」
寝ぼけているのか体調が悪いのかどうも反応が鈍い。
「おい……大丈夫か?水飲むか?」
顔の前で手をヒラヒラと振っていると漸くまともに覚醒したようで、恥ずかしそうに毛布を鼻まで被せて話し始めた。
「すいません……またご迷惑をおかけして……」
「いやいい、体調は平気か?」
「まだ少しポーっとしますが大丈夫です。ご心配ありがとうございます」
カノンがゆっくりと起き上がる。
「まぁ、単なる飲み過ぎだろうからな。問題ないならここで寝ちまっていいぞ?こんな時間に帰るのもダルいだろ」
寝るだけなら俺はソファーでも床でも平気だからな。
同室が嫌だと言われれば廊下だっていい。
「い、いえ!本当に大丈夫ですっ!そこまでご迷惑お掛けするわけにはいきませんっ」
「そうか、なら自分の部屋に帰るか?付き添いぐらいはするぞ」
「えと……もしお時間宜しければ少しお話ししませんか?宴の席では全然お話し出来なかったので」
確かにあの時はお互い酒乱共に捕まって話している暇など無かった。
退院したばかりで任務も暫く無いし、多少夜更かししても問題無いだろう。
「いいぜ。何の話だ?」
ベッドに腰を下ろし、先を促す。
「なんで……あんな無茶したんですか……?」
「ん?」
「なんで……あんな大怪我するまで戦ったんですか?逃げ回るだけって……言ったじゃないですか……!」
あぁ……あの時の事か……。
最初は本当にシユウ達を誘いながら逃げるだけのつもりだった。
だが一対三では誘導にも限界があって、相手がこちらの思うように動いてくれない事が多々あった。
動けないカノンの所には絶対に行かせるわけにはいかず、無茶を承知で倒す事にしたのだ。
「作戦の完遂を優先した結果、倒す必要があった。それだけだ」
「本当に……それだけが理由ですか?」
「本当にそれだけだ」
納得いかないといった顔をしているが納得してもらう他ない。
「〇〇さんがそう言うのであれば……これ以上は訊きません……」
「なぁ、俺からも訊いていいか?」
「はい、なんでしょうか?」
「なんで……そこまで俺の事を心配するんだ?」
俺は何を言っているのだろう。
答えなんてわかりきっているはずなのに。
自分の考え、希望、気持ちを確信したかった?
それにしたって自分から堂々と告げるべきだろう。
それが出来なかったのは……俺が臆病なだけなんだろうな。
勇気と無謀は違うと誰が言っていた。
こういう時に勇気を出せない俺の"勇気"は……きっとただの"無謀"だったんだろう。
「好き……だからですよ」
「……」
「以前、私が告白した時に約束しましたよね?今まで通りの関係を続けようって……」
確かに俺はそういう約束をした。
あの時は関係が拗れるのを避けたかっただけだが……今更それを後悔する事になるとはな。
「ごめんなさい……私にはあの約束を守れそうにありません。未練がましいと思うかもしれませんが、やっぱり好きなんです。
〇〇さんが大怪我をしたと聞いて、胸が張り裂けそうな気持ちになりました……今までみたいになんて……出来ませんっ……」
カノンの瞳から涙が零れ落ちる。
彼女は俺を想い続けてくれていた。
俺が告白を断ってからも、ずっと。
こんなにも一途な少女の想いを蔑ろにしていた自分を殴りたくなってくる。
そして、俺は自身の抱く気持ちを確信した。
「〇〇さんが私の事をただの仲間として見ているのはわかってます……。
ですから、これは我が儘です……。一方的な……私の我が儘。
こんな気持ちを抱いてしまうのを許して下さい……〇〇さんは約束通り……"今までのまま"で……構いませんからぁっ……」
「カノン!」
俺は思わずカノンを抱き締めていた。
「すまない……いや、ありがとう。俺の事をこんなにも想ってくれていて」
「なに……を……駄目ですよ……?こんな……抱き締められたら私……勘違い……しちゃいます……」
「勘違いだと思うなら今ハッキリさせてやる。カノン、好きだ」
「え……?え?」
「今の俺はカノンが好きだ。昔の俺とは違う。だからもう"今までのまま"じゃない」
「あ……ぁぁ……」
「これは俺の我が儘だが、あの時の約束は無かった事にして欲しい。そして、改めて言う」
「カノン、好きだ。俺と付き合ってくれ」
涙を零しながらもカノンは強く抱き返し、応えてくれた。
「はいっ!宜しくお願いします!」
―――
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マジで胸が張り付けそうになった!