ウェンディ・ジレンマ ダン・カイリー
＃１
“ピーター・パン・シンドローム”とは、大人になりきれない男性たちがひきおこす社会的・心理学的問題であった。彼らはナルシシズム（自己愛）に溺れ、わがままいっぱいに夢を追い続け、大人としての責任を回避する。日本の高名な精神医学者、小此木啓吾博士は、こうした男性を“モラトリアム人間”と命名した。つまり、彼らは成熟するプロセスにモラトリアム（猶予期間）を宣言し、アイデンティティを持たないまま暮らそうとしているからだ。しかし、そんなピーター・パン人間を愛した女性はどうなるのだろうか？彼女たちは彼らの言いなりになっているのだろうか？
＃２
男性をお母さん気取りで甘やかすから、いつまでたっても彼は未成熟な振る舞いをするのだと頭ではわかっていても、その一方で、時にはそれが最高の愛情表現だと思ったりする。愛することを止めずに、お母さんごっこを止められたらいいのに…。
＃３
Ｊ・Ｍ・バリーの作品『ピーター・パン』に登場したピーター・パンのガールフレンド、ウェンディは、子どもじみたピーター・パンを、たえず母親気取りで甘やかした女性である。困ったことに、こういったウェンディ型の女性は、ピーター・パン人間が抱えているのと同じくらい、社会的にも感情的にも大きな問題を抱えている。だからといってウェンディ型の女性が、ピーター・パン・シンドロームの直接の原因とはいえないが、彼女たちがこのシンドロームを助長していることは間違いない。彼女たちは、ピーター・パン人間とはまるで逆の悩みをもっている。ピーター・パン人間が無責任を標榜するのに対して、ウェンディ型の女性は極度に責任感が強い。ピーター・パン人間がめったに「ごめんなさい」と言わないのに対し、ウェンディ型の女性はうまくいかないことはすべて自分が悪いと、責任を取りたがる。まさに殉教者の精神である。ピーター・パン人間が、何でも物事は思い通りになると信じて疑わないのに対し、ウェンディ型の女性は、ほんのささやかな願望でも、まず不平・不満を並べ立ててからでないと実現できないと考えている。また、彼女たちは、母性本能を発揮することで結婚生活に満足を見出そうとするが、それと気づかないうちに、ピーター・パン人間の子どもじみた駆け引きにひっきかってしまう。これは、母親と息子の関係がそのまま再現されたものであるが、当然のことながら、大人としての男女の関係に大きな支障を来たすことになる。ウェンディ型の女性がこういう状況から脱出し、個人的な満足感とアイデンティティを得るためには、相手をマザリングする、つまり母親役を演ずるのを止めなくてはならない。しかし、ここでジレンマ（葛藤）が生じる。これが、本書のテーマ、“ウェンディ・ジレンマ”である。
＃４
ウェンディ・ジレンマを克服するためには、彼の中の“少年”をマザリングすることなく、彼その人を愛することを覚える必要がある。これができたとき、その女性は“ティンカー”になれる。Ｊ・Ｍ・バリーが描いたティンカー・ベルは、ピーター・パンの母親を演ずることをあっさり拒否し、自分自身が成長し、アイデンティティを見出すことに専念しようとした。そして、ティンカーは二人の関係がよくなるのも悪くなるのも、その責任の半分は自分にあると考えている。当然、残りの半分の責任は相手にあるというわけだ。彼女は相手が気ままに未熟な行動をすることを許さないし、自分の弱さは自分の弱さと認め、克服しようと、たいへん前向きに生きようとする女性だ。ウェンディが母親を演じるのに対して、ティンカーは男性のよき伴侶になる。ウェンディは罠にかかったが、ティンカーは違う。たいていの女性は、このウェンディでもティンカーでもない、そのどこか中間に位置する。心ときめく素晴らしい瞬間もあったが、相手のふてくされや身勝手さに泣いたりしたのではなかろうか。相手の気まぐれに耐えたのは、いつか彼も大人になるのではないかと期待したからだが、ウェンディ・ジレンマを起こしている女性には、それがどんなに望みのないことかがわからない。母親役を演じれば演じるほど、二人の関係は大人の愛情関係からほど遠いものになっていく。
“ピーター・パン・シンドローム”とは、大人になりきれない男性たちがひきおこす社会的・心理学的問題であった。彼らはナルシシズム（自己愛）に溺れ、わがままいっぱいに夢を追い続け、大人としての責任を回避する。日本の高名な精神医学者、小此木啓吾博士は、こうした男性を“モラトリアム人間”と命名した。つまり、彼らは成熟するプロセスにモラトリアム（猶予期間）を宣言し、アイデンティティを持たないまま暮らそうとしているからだ。しかし、そんなピーター・パン人間を愛した女性はどうなるのだろうか？彼女たちは彼らの言いなりになっているのだろうか？
＃２
男性をお母さん気取りで甘やかすから、いつまでたっても彼は未成熟な振る舞いをするのだと頭ではわかっていても、その一方で、時にはそれが最高の愛情表現だと思ったりする。愛することを止めずに、お母さんごっこを止められたらいいのに…。
＃３
Ｊ・Ｍ・バリーの作品『ピーター・パン』に登場したピーター・パンのガールフレンド、ウェンディは、子どもじみたピーター・パンを、たえず母親気取りで甘やかした女性である。困ったことに、こういったウェンディ型の女性は、ピーター・パン人間が抱えているのと同じくらい、社会的にも感情的にも大きな問題を抱えている。だからといってウェンディ型の女性が、ピーター・パン・シンドロームの直接の原因とはいえないが、彼女たちがこのシンドロームを助長していることは間違いない。彼女たちは、ピーター・パン人間とはまるで逆の悩みをもっている。ピーター・パン人間が無責任を標榜するのに対して、ウェンディ型の女性は極度に責任感が強い。ピーター・パン人間がめったに「ごめんなさい」と言わないのに対し、ウェンディ型の女性はうまくいかないことはすべて自分が悪いと、責任を取りたがる。まさに殉教者の精神である。ピーター・パン人間が、何でも物事は思い通りになると信じて疑わないのに対し、ウェンディ型の女性は、ほんのささやかな願望でも、まず不平・不満を並べ立ててからでないと実現できないと考えている。また、彼女たちは、母性本能を発揮することで結婚生活に満足を見出そうとするが、それと気づかないうちに、ピーター・パン人間の子どもじみた駆け引きにひっきかってしまう。これは、母親と息子の関係がそのまま再現されたものであるが、当然のことながら、大人としての男女の関係に大きな支障を来たすことになる。ウェンディ型の女性がこういう状況から脱出し、個人的な満足感とアイデンティティを得るためには、相手をマザリングする、つまり母親役を演ずるのを止めなくてはならない。しかし、ここでジレンマ（葛藤）が生じる。これが、本書のテーマ、“ウェンディ・ジレンマ”である。
＃４
ウェンディ・ジレンマを克服するためには、彼の中の“少年”をマザリングすることなく、彼その人を愛することを覚える必要がある。これができたとき、その女性は“ティンカー”になれる。Ｊ・Ｍ・バリーが描いたティンカー・ベルは、ピーター・パンの母親を演ずることをあっさり拒否し、自分自身が成長し、アイデンティティを見出すことに専念しようとした。そして、ティンカーは二人の関係がよくなるのも悪くなるのも、その責任の半分は自分にあると考えている。当然、残りの半分の責任は相手にあるというわけだ。彼女は相手が気ままに未熟な行動をすることを許さないし、自分の弱さは自分の弱さと認め、克服しようと、たいへん前向きに生きようとする女性だ。ウェンディが母親を演じるのに対して、ティンカーは男性のよき伴侶になる。ウェンディは罠にかかったが、ティンカーは違う。たいていの女性は、このウェンディでもティンカーでもない、そのどこか中間に位置する。心ときめく素晴らしい瞬間もあったが、相手のふてくされや身勝手さに泣いたりしたのではなかろうか。相手の気まぐれに耐えたのは、いつか彼も大人になるのではないかと期待したからだが、ウェンディ・ジレンマを起こしている女性には、それがどんなに望みのないことかがわからない。母親役を演じれば演じるほど、二人の関係は大人の愛情関係からほど遠いものになっていく。
2005年08月04日(木) 16:59:49 Modified by gedo5