ペルソナ ユング心理学入門
＃１
ペルソナという言葉は、もともと古典劇において役者が用いた仮面のことである。ユングがこのような言葉を借りてきた意図は明らかであり、ペルソナとはわれわれが外界に対してつけている仮面であるということができる。ペルソナは夢の中で人格化されて表現されることが少なく、一般に「衣服」など自分の身につけているもので表されることが多い。適切なペルソナをもっていないという意味で、衆人のなかで裸体でいる夢をみたり、あるいは、まったく場違いの服装をしていることに示されたりする。ペルソナが人格化されることは少ないが、この場合は通常は同性の人間によって示されることが多い。
＃２
次にペルソナの問題を示している夢の一例をあげる。これは、職業をもったある未婚の女性の夢である。
≪夢≫私は数人の男と戦っていた。私は坐って、彼らを次々と、こうもり傘や棒切れでなぐりつけ、彼らはのびて順番に川に落ちてゆく。さて、最後の一人になって、もう降参しろといったが聞き入れない。そこで、私は今日でも明でもいつでも相手になってやると立ち上がった。そのとたん、私は自分がまったく何も着ていないことに気がついて、恥ずかしさでとまどってしまう。私は坐りこんで、ともかく水泳着を着ることにしようといった。われわれは、戦うために海水浴場に行ったようである。
人間はときにペルソナを取り去って、真の自分の姿を見せることや、それを自ら認識することは大切で、そのような意味において、裸の夢が肯定的な面を示しているときもあるが、この夢の場合は、むしろ適当なペルソナを欠いているといった意味の強い夢と思われる。この女性は実際に能力のある女性であるが、職場では対人関係がうまくゆかず困っていた人である。…このように、本当のことを話したり、仕事に熱中しすぎて対人関係を悪化させるひともある。裸になるのはけっこうなのだが、時と場所によるわけである。
＃３
衣服がペルソナを表すことは、実際生活において、あまり自分の「こころ」を示すと危険な職業についている人が制服を着ていることにも反映されている。軍人、警官、車掌など、これらのひとは、つねに人間のこころの問題にふれねばならないので、それに深入りする危険性を制服によって防衛しているということもできるだろう。しかしながら、防衛の手段としての制服は、しばしばそのひとの全身をおおってしまって、そのなかに生きた人間がいるのかどうかを疑いたくなるようなことも起こってくる。これが、ペルソナとの同一視の危険性である。ペルソナの形成に力を入れすぎ、それとの同一視が強くなると、ペルソナはそのひとの全人格をおおってしまって、もはやその硬さと強さを変えることができなくなり、個性的な生き方がむずかしくなる。…ペルソナが、このように一面的で硬化したものでなく、もっと上手に使い分けている人もある。実際に、われわれは、その場所の異なるに従い、外界から期待される役割も異なるわけであるから、それに従ってペルソナの種類も変えてゆかねばならないわけである。そして、このようなペルソナを発達させることを怠る人は、とかく外界と摩擦を起こしやすく、他人の感情を害したり、自分の能力をスムースに発現しがたくすることが多い。ペルソナは自分の内的なものに根ざしながらも、外的なものに対する役割を演ずるために採用されたもので、社会のなかにスムースに生きてゆくためには必要なものである。
＃４
一人の男性が「男らしさ」を強調するペルソナをもつとき、それはうちに存在する女らしさ、アニマによって平衡が与えられ、女性の場合は、その女らしさをアニムスによって補償される。しかし、これが相補的に働くよりも、極端な同一化の機制によって、むしろ破壊的に作用を及ぼすこともある。つねに、強く、厳しい男性が、浅薄な同情心に動かされて失敗したり、いつも愛想のよい奥さんが、新聞に書いてあった偉い先生の意見を基にして、お客様に演説を始めたりするのも、このためである。こんなとき、われわれは、あの人はまったく別人のようだといったりするが、これは、まさに男性の背後から一人の女性が、あるいは女性のなかから他の男性が出てきて行動しているかのような感じさえ抱かせるのである。われわれは、このような危険性を防ぐためには、あくまでペルソナやアニマ・アニムスとの同一視を避け、それらを分化して、よく認識してゆくように努めなければならない。アニマ・アニムスは無意識の奥深く存在し、ともすれば硬くなりがちなペルソナに柔軟性と躍動性を与えるものである。
ペルソナという言葉は、もともと古典劇において役者が用いた仮面のことである。ユングがこのような言葉を借りてきた意図は明らかであり、ペルソナとはわれわれが外界に対してつけている仮面であるということができる。ペルソナは夢の中で人格化されて表現されることが少なく、一般に「衣服」など自分の身につけているもので表されることが多い。適切なペルソナをもっていないという意味で、衆人のなかで裸体でいる夢をみたり、あるいは、まったく場違いの服装をしていることに示されたりする。ペルソナが人格化されることは少ないが、この場合は通常は同性の人間によって示されることが多い。
＃２
次にペルソナの問題を示している夢の一例をあげる。これは、職業をもったある未婚の女性の夢である。
≪夢≫私は数人の男と戦っていた。私は坐って、彼らを次々と、こうもり傘や棒切れでなぐりつけ、彼らはのびて順番に川に落ちてゆく。さて、最後の一人になって、もう降参しろといったが聞き入れない。そこで、私は今日でも明でもいつでも相手になってやると立ち上がった。そのとたん、私は自分がまったく何も着ていないことに気がついて、恥ずかしさでとまどってしまう。私は坐りこんで、ともかく水泳着を着ることにしようといった。われわれは、戦うために海水浴場に行ったようである。
人間はときにペルソナを取り去って、真の自分の姿を見せることや、それを自ら認識することは大切で、そのような意味において、裸の夢が肯定的な面を示しているときもあるが、この夢の場合は、むしろ適当なペルソナを欠いているといった意味の強い夢と思われる。この女性は実際に能力のある女性であるが、職場では対人関係がうまくゆかず困っていた人である。…このように、本当のことを話したり、仕事に熱中しすぎて対人関係を悪化させるひともある。裸になるのはけっこうなのだが、時と場所によるわけである。
＃３
衣服がペルソナを表すことは、実際生活において、あまり自分の「こころ」を示すと危険な職業についている人が制服を着ていることにも反映されている。軍人、警官、車掌など、これらのひとは、つねに人間のこころの問題にふれねばならないので、それに深入りする危険性を制服によって防衛しているということもできるだろう。しかしながら、防衛の手段としての制服は、しばしばそのひとの全身をおおってしまって、そのなかに生きた人間がいるのかどうかを疑いたくなるようなことも起こってくる。これが、ペルソナとの同一視の危険性である。ペルソナの形成に力を入れすぎ、それとの同一視が強くなると、ペルソナはそのひとの全人格をおおってしまって、もはやその硬さと強さを変えることができなくなり、個性的な生き方がむずかしくなる。…ペルソナが、このように一面的で硬化したものでなく、もっと上手に使い分けている人もある。実際に、われわれは、その場所の異なるに従い、外界から期待される役割も異なるわけであるから、それに従ってペルソナの種類も変えてゆかねばならないわけである。そして、このようなペルソナを発達させることを怠る人は、とかく外界と摩擦を起こしやすく、他人の感情を害したり、自分の能力をスムースに発現しがたくすることが多い。ペルソナは自分の内的なものに根ざしながらも、外的なものに対する役割を演ずるために採用されたもので、社会のなかにスムースに生きてゆくためには必要なものである。
＃４
一人の男性が「男らしさ」を強調するペルソナをもつとき、それはうちに存在する女らしさ、アニマによって平衡が与えられ、女性の場合は、その女らしさをアニムスによって補償される。しかし、これが相補的に働くよりも、極端な同一化の機制によって、むしろ破壊的に作用を及ぼすこともある。つねに、強く、厳しい男性が、浅薄な同情心に動かされて失敗したり、いつも愛想のよい奥さんが、新聞に書いてあった偉い先生の意見を基にして、お客様に演説を始めたりするのも、このためである。こんなとき、われわれは、あの人はまったく別人のようだといったりするが、これは、まさに男性の背後から一人の女性が、あるいは女性のなかから他の男性が出てきて行動しているかのような感じさえ抱かせるのである。われわれは、このような危険性を防ぐためには、あくまでペルソナやアニマ・アニムスとの同一視を避け、それらを分化して、よく認識してゆくように努めなければならない。アニマ・アニムスは無意識の奥深く存在し、ともすれば硬くなりがちなペルソナに柔軟性と躍動性を与えるものである。
2005年08月04日(木) 12:44:20 Modified by gedo5