ユング心理学と仏教 １９９５
＃１
河合は第二次世界大戦の幻滅のなかで、最初、西欧の自我（自己）の立場をとることになる。しかし個性化への道程で、彼は最終的には禅仏教的なスタンスである非自我（非自己）の立場をとる。沈黙というかたちで河合は、対立物すべてを創造的に包括する。すなわち自我―非自我と、自己―非自己という対立のなかで、彼は「真の中庸」を保持するのである。
＃２
歴史的にみると、仏教渡来以前の古代日本において文化は母系的であった。神道の主要な神は太陽の女神であったが、これは、他の殆どすべての文化と異なる。なぜならふつう太陽は男性神であるからだ。ここで留意すべきは、河合が、ユング派精神分析教育のなかで、日本の太陽の女神についての論文を提出したことである。グノーシスや道教、またユング心理学と同じく、古代日本では光とエネルギーは暗き女性的なもの（アニマそのもの）から出現した。河合はユングの明るい陽（ヤン）の石の傍らに、暗い陰（イン）の石を置こうとしているとでもいえようか。陰と陽、ふたつのものがあわさって全体をかたちづくる。そしてそれは、わたしたちに意味の輝きと発光をもたらしてくれる。
＃３
心理療法においては、クライエントの意識と無意識がうまく調和して関係しあっている心の状態を得ることが重要であります。近代西洋文化において、西洋の人々は、エーリッヒ・ノイマンが「西洋に特有の成果」と呼んだような、強い自我意識を確立することに成功しました。この強い自我は豊かな科学的知識の獲得を促進させましたが、それは常に無意識との接触を失うという危険にさらされています。現在の多くのクライエントは「関係性の喪失」に悩まされています。このような喪失からの回復をはかるには、深層心理学者が試みてきたように、自分自身の無意識の探索をすることが必要です。
＃４
早くも１９３９年に、ユングが禅の重要性を認識し、鈴木大拙の『禅仏教入門』の序文において次のように述べているのはのは注目すべきことであります。「これは『悟りの内容』について多くをわれわれに教えてくれる。悟りの生じることは自我という形で限定された意識による、非自我としての自己へのブレイクスルーとして解釈され、また、公式化される。このような観点は、禅に対するのみならず、マイスター・エックハルトの神秘主義にも適合される」。彼はこのようにして禅の本質を把握しましたが、それを直接的に西洋に取り入れることには躊躇を示しました。ユングは「禅を西洋の文化に直接に移植することは、すすめるべきことでもないし、可能でもない」と述べています。これは当時としては真実であったでしょう。それは今も真実でしょうか。かれは簡単な質問ではありませｎ。私はたとい「直接に移植すること」は不可能であるというユングに賛成するとしても、既に述べましたように、お互いが学び合うことは意味があると思っています。
河合は第二次世界大戦の幻滅のなかで、最初、西欧の自我（自己）の立場をとることになる。しかし個性化への道程で、彼は最終的には禅仏教的なスタンスである非自我（非自己）の立場をとる。沈黙というかたちで河合は、対立物すべてを創造的に包括する。すなわち自我―非自我と、自己―非自己という対立のなかで、彼は「真の中庸」を保持するのである。
＃２
歴史的にみると、仏教渡来以前の古代日本において文化は母系的であった。神道の主要な神は太陽の女神であったが、これは、他の殆どすべての文化と異なる。なぜならふつう太陽は男性神であるからだ。ここで留意すべきは、河合が、ユング派精神分析教育のなかで、日本の太陽の女神についての論文を提出したことである。グノーシスや道教、またユング心理学と同じく、古代日本では光とエネルギーは暗き女性的なもの（アニマそのもの）から出現した。河合はユングの明るい陽（ヤン）の石の傍らに、暗い陰（イン）の石を置こうとしているとでもいえようか。陰と陽、ふたつのものがあわさって全体をかたちづくる。そしてそれは、わたしたちに意味の輝きと発光をもたらしてくれる。
＃３
心理療法においては、クライエントの意識と無意識がうまく調和して関係しあっている心の状態を得ることが重要であります。近代西洋文化において、西洋の人々は、エーリッヒ・ノイマンが「西洋に特有の成果」と呼んだような、強い自我意識を確立することに成功しました。この強い自我は豊かな科学的知識の獲得を促進させましたが、それは常に無意識との接触を失うという危険にさらされています。現在の多くのクライエントは「関係性の喪失」に悩まされています。このような喪失からの回復をはかるには、深層心理学者が試みてきたように、自分自身の無意識の探索をすることが必要です。
＃４
早くも１９３９年に、ユングが禅の重要性を認識し、鈴木大拙の『禅仏教入門』の序文において次のように述べているのはのは注目すべきことであります。「これは『悟りの内容』について多くをわれわれに教えてくれる。悟りの生じることは自我という形で限定された意識による、非自我としての自己へのブレイクスルーとして解釈され、また、公式化される。このような観点は、禅に対するのみならず、マイスター・エックハルトの神秘主義にも適合される」。彼はこのようにして禅の本質を把握しましたが、それを直接的に西洋に取り入れることには躊躇を示しました。ユングは「禅を西洋の文化に直接に移植することは、すすめるべきことでもないし、可能でもない」と述べています。これは当時としては真実であったでしょう。それは今も真実でしょうか。かれは簡単な質問ではありませｎ。私はたとい「直接に移植すること」は不可能であるというユングに賛成するとしても、既に述べましたように、お互いが学び合うことは意味があると思っています。
2005年08月02日(火) 20:06:23 Modified by gedo5