心理学と錬金術�機．罐鵐�
＃１
個体化過程と錬金術には関係がある。
＃２
ユングは、何よりも先ず人間の観察にもとづいて、人間の心の本質を考えている。
＃３
「分析の過程、つまり意識と無意識との弁証法的対決においては、ある目的ないし終始点への発展、進歩といったものが見られる。多年に亘って私が探求してきたのも、この目的や終始点の解き難い性質であった。心の治療は発展のすべての段階である終始点に行き着くが、その際、終始転に到達したからといって必ずしも目的に到達したという感じを懐きうるわけではない。」
＃４
「典型的な一時的終始に達するのは次の場合である。
１、患者が適切な助言を受け入れた後。
２、完全さに程度の差はあるが、十分な告白（懺悔）を行なった後。
３、これまで無意識下に置かれていたが、しかしそれを意識することが人生や活動に新たな刺戟を与えることになるような、ある重要な心的内容を認識した後。
４、比較的長期を要する治療を経て幼児心理が除去された後。
５、厄介な、あるいは異常なものと想像される環境条件に、新たに理性的に順応する術を見出した後。
６、苦痛の症状が消え去った後。
７、試験、婚約、結婚、転職等々の運命の決定的転換が生じた後。
８、以前懐いていた信仰を再び取り戻した後、あるいは改宗した後。
９、実践的な人生哲学が芽生え始めた後（人生哲学といってもギリシャ・ローマ的な意味における真の哲学である）。」
＃５
「経験の教えるところによれば、患者の中には、治療という医者との共同作業は外面的に終了しても、分析過程そのものは決して終わっていないというような人々が比較的多数存在する。これらの患者にあっては治療終了後も無意識との対決は続いているのである。…この種の経験が度重なるにつれて私は先ず第一に、心には外的諸条件からいわば独立した、目的志向的な過程が存在するという私の仮定に、ますます確信を懐くようになった。そして、ひょっとすると私自身が患者の非本来的な（それゆえ不自然なものと想像される）心的過程の唯一の原因なのではあるまいかという懸念からも解放された。…そしてまさにこの、神経症の苦痛症状が消え去ってもなお分析過程が終わらないという事例こそ、神経症の治療によって、単なる医療の域をはるかに越えた、単なる医学的知識では解明することのできない問題が顕在化してくるということを、私にはっきりと教えてくれたものに他ならない。」
＃６
物事はすべて両面から眺められて初めて正当に理解されるものである
＃７
「分析作業は遅かれ早かれ不可避的に、あまりにも人間的な偏見をすべて捨て去った地点における、わたしとあなたとの、あなたとわたしとの裸の人間同士の対決という形をとらざるをえないのであって、そうなれば、単に患者の心の秘密にというばかりでなく、医者の心の秘密にも触れるという、いやそれを発き出すというようなことも当然起こりかねないからである。というよりもむしろ必然的にそういう結果にならざるをえないからである。誰であろうと火や毒にさわれば、それが火の弱い部分であっても毒の薄い部分であっても何らかの傷を負わないでは済まないものだ。つまり真の医者たるものはいついかなる場合でも側に立っているのではなく、常に渦中に身を置いているのである。」
＃８
『「わが術の求めると欲するは全き人間なり」と昔のある錬金術師は言い放っている。追求されているのは、他ならぬ「全き人間 home totus」なのだ。医者の努力も患者の追及も、より一層偉大であると同時に未だ可能性としてしか存在していない人間、隠れている、まだ顕在化していない「全き人間」を目指しているのである。全体性への正しい道はしかし、―まことに残念なことに―避けることのできない迂路や迷路から成っている。それは「最長の道」であり、真直ぐではなくヘルメスの蛇杖さながらに反対の極と極を結びつつ曲がりくねった道である。その迷宮にも似た紆余曲折を前にすれば何人も恐怖のあまりに後込みせずにはおれないような道である。そしてこの道の途上で、人々が「めったに出会うことのない」と形容したがるあのさまざまな経験が生まれるのである。めったに出会えないのは、それが非常な努力を要するからに他ならない。なぜならこれらの経験が要求しているのは、世間の人々が最も恐れているもの、すなわち全体性だからである。なるほどこの言葉を絶えず口にはしている。このことについて議論するとなると延々ととどまるところを知らない。ところがいざ自分自身の具体的な生き方としてという段になると、誰もかれも極力これに近づくまいとする。心を全体として考えるのではなく、これはこれあれはあれという具合に処理する「部分心理学」の習慣の方がどれほど好ましいか知れないというわけである。』
＃９
「私は、事態（＃８）がこういうふうになったのは単に個々人の無知や無気力のせいであるというだけではなく、ヨーロッパーの人のすべてに共通する心の教育のせいではないかと危惧している。ヨーロッパのにおいて心の教育を引き受けているのは、カトリシズムとプロテスタンティズムとの別を問わず、支配的宗教であるキリスト教である。しかもそれはキリスト教の公的な任務であるというばかりでなく、同時にその本質に根差すものでもある。なぜならひとり宗教のみが、いかなる合理的組織にもまして、人間の外的側面と内的側面とに同程度にかかわりを持つものだからである。…私は、何よりも先ず人間の未熟さに起因している事柄を、宗教の側のせいにするという過ちを犯したくない。したがって私がここで問題にしようとしているのは、真に内面的に理解されたキリスト教精神ではなく、キリスト教の表面的な理解や誰の目にも明らかな宿命的な誤解である。キリストの「まねび」、すなわちキリストという模範に倣ってこれと同じものになろうという欲求は、もともと人間の内的な発展と高揚とを目指すところから生じたものであるはずなのに、機械的形式主義でものを考えがちな浅薄な信者たちの手にかかると、この模範は人間の心の外に存在する崇拝対象にされてしまう。そして崇拝対象となった模範は、まさにそれが崇拝の対象であるということが妨げとなって人間の心の深みにまで達することがなく、従って心を変革して当の模範にふさわしいあの全体性に至らしめるということもない。こうして神と人間との仲介者たるキリストは心の祖となる像であり続け、人間の方はいつまでも断片的存在にとどまり、心の最も深い本質は何の影響も受けない。…重要なのはむしろわれとわが手段で―モシ神ガ許シ給ウナラバ―自分自身の個人的な生の領域において、模範を現実化することである。しかしながら、誤解にもとづいてなされる模倣の中にも、場合によっては極めて道徳的だと評価しうる精神的努力が見られるということ、そしてこの努力は、本来の目的に到達することができないとしても、ある最高の価値―もちろんそれは外在的なものとして捉えられた価値ではあるが―に全的に身をゆだねようとする長所を持っているということを看過してはならない。なぜなら、まさしくこのような全的な努力の中で、あるいはそれを通じて、自己の全体性を予感するという体験に出会い、この体験に固有の恩寵の感情に身を包まれるということも、決して考えられないことではないからである。」
個体化過程と錬金術には関係がある。
＃２
ユングは、何よりも先ず人間の観察にもとづいて、人間の心の本質を考えている。
＃３
「分析の過程、つまり意識と無意識との弁証法的対決においては、ある目的ないし終始点への発展、進歩といったものが見られる。多年に亘って私が探求してきたのも、この目的や終始点の解き難い性質であった。心の治療は発展のすべての段階である終始点に行き着くが、その際、終始転に到達したからといって必ずしも目的に到達したという感じを懐きうるわけではない。」
＃４
「典型的な一時的終始に達するのは次の場合である。
１、患者が適切な助言を受け入れた後。
２、完全さに程度の差はあるが、十分な告白（懺悔）を行なった後。
３、これまで無意識下に置かれていたが、しかしそれを意識することが人生や活動に新たな刺戟を与えることになるような、ある重要な心的内容を認識した後。
４、比較的長期を要する治療を経て幼児心理が除去された後。
５、厄介な、あるいは異常なものと想像される環境条件に、新たに理性的に順応する術を見出した後。
６、苦痛の症状が消え去った後。
７、試験、婚約、結婚、転職等々の運命の決定的転換が生じた後。
８、以前懐いていた信仰を再び取り戻した後、あるいは改宗した後。
９、実践的な人生哲学が芽生え始めた後（人生哲学といってもギリシャ・ローマ的な意味における真の哲学である）。」
＃５
「経験の教えるところによれば、患者の中には、治療という医者との共同作業は外面的に終了しても、分析過程そのものは決して終わっていないというような人々が比較的多数存在する。これらの患者にあっては治療終了後も無意識との対決は続いているのである。…この種の経験が度重なるにつれて私は先ず第一に、心には外的諸条件からいわば独立した、目的志向的な過程が存在するという私の仮定に、ますます確信を懐くようになった。そして、ひょっとすると私自身が患者の非本来的な（それゆえ不自然なものと想像される）心的過程の唯一の原因なのではあるまいかという懸念からも解放された。…そしてまさにこの、神経症の苦痛症状が消え去ってもなお分析過程が終わらないという事例こそ、神経症の治療によって、単なる医療の域をはるかに越えた、単なる医学的知識では解明することのできない問題が顕在化してくるということを、私にはっきりと教えてくれたものに他ならない。」
＃６
物事はすべて両面から眺められて初めて正当に理解されるものである
＃７
「分析作業は遅かれ早かれ不可避的に、あまりにも人間的な偏見をすべて捨て去った地点における、わたしとあなたとの、あなたとわたしとの裸の人間同士の対決という形をとらざるをえないのであって、そうなれば、単に患者の心の秘密にというばかりでなく、医者の心の秘密にも触れるという、いやそれを発き出すというようなことも当然起こりかねないからである。というよりもむしろ必然的にそういう結果にならざるをえないからである。誰であろうと火や毒にさわれば、それが火の弱い部分であっても毒の薄い部分であっても何らかの傷を負わないでは済まないものだ。つまり真の医者たるものはいついかなる場合でも側に立っているのではなく、常に渦中に身を置いているのである。」
＃８
『「わが術の求めると欲するは全き人間なり」と昔のある錬金術師は言い放っている。追求されているのは、他ならぬ「全き人間 home totus」なのだ。医者の努力も患者の追及も、より一層偉大であると同時に未だ可能性としてしか存在していない人間、隠れている、まだ顕在化していない「全き人間」を目指しているのである。全体性への正しい道はしかし、―まことに残念なことに―避けることのできない迂路や迷路から成っている。それは「最長の道」であり、真直ぐではなくヘルメスの蛇杖さながらに反対の極と極を結びつつ曲がりくねった道である。その迷宮にも似た紆余曲折を前にすれば何人も恐怖のあまりに後込みせずにはおれないような道である。そしてこの道の途上で、人々が「めったに出会うことのない」と形容したがるあのさまざまな経験が生まれるのである。めったに出会えないのは、それが非常な努力を要するからに他ならない。なぜならこれらの経験が要求しているのは、世間の人々が最も恐れているもの、すなわち全体性だからである。なるほどこの言葉を絶えず口にはしている。このことについて議論するとなると延々ととどまるところを知らない。ところがいざ自分自身の具体的な生き方としてという段になると、誰もかれも極力これに近づくまいとする。心を全体として考えるのではなく、これはこれあれはあれという具合に処理する「部分心理学」の習慣の方がどれほど好ましいか知れないというわけである。』
＃９
「私は、事態（＃８）がこういうふうになったのは単に個々人の無知や無気力のせいであるというだけではなく、ヨーロッパーの人のすべてに共通する心の教育のせいではないかと危惧している。ヨーロッパのにおいて心の教育を引き受けているのは、カトリシズムとプロテスタンティズムとの別を問わず、支配的宗教であるキリスト教である。しかもそれはキリスト教の公的な任務であるというばかりでなく、同時にその本質に根差すものでもある。なぜならひとり宗教のみが、いかなる合理的組織にもまして、人間の外的側面と内的側面とに同程度にかかわりを持つものだからである。…私は、何よりも先ず人間の未熟さに起因している事柄を、宗教の側のせいにするという過ちを犯したくない。したがって私がここで問題にしようとしているのは、真に内面的に理解されたキリスト教精神ではなく、キリスト教の表面的な理解や誰の目にも明らかな宿命的な誤解である。キリストの「まねび」、すなわちキリストという模範に倣ってこれと同じものになろうという欲求は、もともと人間の内的な発展と高揚とを目指すところから生じたものであるはずなのに、機械的形式主義でものを考えがちな浅薄な信者たちの手にかかると、この模範は人間の心の外に存在する崇拝対象にされてしまう。そして崇拝対象となった模範は、まさにそれが崇拝の対象であるということが妨げとなって人間の心の深みにまで達することがなく、従って心を変革して当の模範にふさわしいあの全体性に至らしめるということもない。こうして神と人間との仲介者たるキリストは心の祖となる像であり続け、人間の方はいつまでも断片的存在にとどまり、心の最も深い本質は何の影響も受けない。…重要なのはむしろわれとわが手段で―モシ神ガ許シ給ウナラバ―自分自身の個人的な生の領域において、模範を現実化することである。しかしながら、誤解にもとづいてなされる模倣の中にも、場合によっては極めて道徳的だと評価しうる精神的努力が見られるということ、そしてこの努力は、本来の目的に到達することができないとしても、ある最高の価値―もちろんそれは外在的なものとして捉えられた価値ではあるが―に全的に身をゆだねようとする長所を持っているということを看過してはならない。なぜなら、まさしくこのような全的な努力の中で、あるいはそれを通じて、自己の全体性を予感するという体験に出会い、この体験に固有の恩寵の感情に身を包まれるということも、決して考えられないことではないからである。」
2005年07月28日(木) 15:16:58 Modified by gedo5