涼宮ハルヒ性転換設定
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がらんどう(超短編) 作者:チャペル


 その日もいつも通り、半ば癖のようにSOS団が占拠している文芸部部室へとあたしは赴いたのだが、部室に入った瞬間部屋を間違えたのかと思ってしまった。
 がらんどう。
 そう表現するのが一番正しい。部室の3割程を占めていた長机と団員数以上にハルヒコがかき集めてきたパイプ椅子が消失している。もとの部室を思い浮かべつつよく見れば、朝比奈先輩のコスプレ衣装も無くなっていた。
 ただ、定位置で――パイプ椅子が無いため床に直座りではあるが――長門が普段と変わらず本を読んでいたおかげで文芸部室であると断言できた。

「長門…こりゃ一体どう言うことだ?」
 長門の方へと向かいながらあたしが声を掛けると、今気が付いたかのように長門が顔を上げる。
「とうとう生徒会が強制撤去に乗り出してきたか?」
「違う」
 相変わらず無駄の一切ない答えだが、その答えに軽く安堵する。
 もし生徒会がんなことやったのなら、今頃生徒会室はハルヒコの独壇場と化しているだろうからな。
「それじゃあ、机とか椅子とかはどこいったんだ?」
 あと、朝比奈先輩の衣装もだ。積極的に参加する気はないが、あの朝比奈先輩は幼い頃に遊んだ着せ替え人形をほうふつとさしてくれるくらいカワイイ。
 そんなことを思いながら朝比奈先輩の衣裳があった場所に視線を滑らせ、あたしが定位置にしている椅子もないため長門の隣に座り込む。
「涼宮ハルヒコが持っていった」
 本に目線をもどした長門が淡々と説明してくれる。
 なるほど…机やら椅子やらは解らんが朝比奈先輩の衣装が消えてることには納得だ。哀れ朝比奈先輩。

「……………」
「……………」
 見事に沈黙。
 どうするかな、ハルヒコと朝比奈先輩は撮影会でどこにいるのか分らんし、一姫はハルヒコ達に同行でもしているだろう。かと言って長門と愉快におしゃべりなんて想像すら出来ん。
 そう思いつつもちらりと長門を覘く。
 無表情、無感情。最近多少マシになってきたとは言っても、本を読んでるときは前とほぼ変わらない。動くのは眼球とページをめくる右手のみだ。
「ふわぁ〜…」
 ほとんど動かない長門を眺めていたせいか欠伸がもれてしまった。
 そういや、近頃ハルヒコが後ろからあたしの髪の毛いじくってくるせいで授業中に寝ることもできなかったな。
 特に寝不足ってわけじゃないけどちょどいいか…








バタンっ!!
 物理的な振動さえ伝わってきた轟音であたしは目を覚ました。
 よく頭が回らないが、こんな騒々しい奴はあたしの知っている限り一人しかいない。
「お…お前、なにやってんだよ!!キョン!!」
 あたしの予測どおり聞こえてきたのはハルヒコの怒声。

 怒声?
 なんで怒ってんだ?
 とにかく状況を確認するために体を動かそうとして自分が横になっていて、頭がなにかちょうどいい感じのものに乗っていることに気付いた。デパートで試してみた低反発枕よりもはるかに寝心地のいいものの正体を確かめるため、まだダルイ体をむりやり起こす。
 ……長門だった。

 なんか異常に寝心地良かったことに納得。

 いや、まあ、改める必要もなく、どうやらあたしは長門の膝枕で寝ていたようだ。
 自分でも赤面していることが解る。
「あー、その。長門、すまん。重かっただろう?」
 上気している頬をごまかす意味も込めてそっけなく言う。
「問題ない。同年代平均と比べればむしろ軽い」
 長門に限って他意は無いと信じるが、ちょっと傷つく。

「キョンッ!」
 大声であだ名を呼ばれてそちらの方を向くと、眉尻を吊り上げたハルヒコがいた。
 そういえば、なんでだか知らんがハルヒコの奴怒ってたんだっけ。
 寝ぼけて頭がよく回らんし、ハルヒコが起こっている理由も解らんのでじっとハルヒコと睨み合う形になる。
「あら、まるで不倫現場みたいですね」
 そんな声がハルヒコの後ろから聞こえてきた。
 やっぱり一姫はハルヒコと一緒にいたのか。と言うか、なんだ不倫現場ってのは。
「俺達が活動していたのに、優雅に寝ていたお前には罰ゲームだ」
 いらんことを言った一姫にあたしが視線をずらすと、ハルヒコがそう宣言した。
 正直、嫌な予感しかしない。
「みつる撮影会の衣装持ちをすること!」
 思ったよりも甘い罰ゲームに拍子ぬけしていると、まるでハルヒコがそう言うのが分かっていたみたいな素早さで一姫が十着ほどの衣装を渡してくる。
 こんなにあったのか…
「さあ、行くぞ。ゆうきもだぞ」
 あたしが衣装を受け取ったのを確認すると、ハルヒコは言うだけ言ってさっさと部室を出ていき一姫もそのあとに続く。
 はあ、と一度溜息を吐いた後、あたしも後を追うために立ち上がる。


 数歩進んだところで振り返り、あたしは未だ座ったままの長門に声を掛ける。
「そうだ、長門。なかなか寝心地良かったぞ」


 あたしの思い込みの可能性も多分にあるが、長門が微笑んだように見えた。
2008年03月13日(木) 01:59:40 Modified by ID:OYL9AZyN8w




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