涼宮ハルヒ性転換設定
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カレーライス  作者:23:55

「おいキョン、これ甘すぎないか」
「そうですね。私としても甚だ意外ですね。辛いのお嫌いでしたっけ?」
 そこの2人、文句があるなら食うな。我が家には甘口しか食べれない奴がいるから仕方なくだ。
「あ、あのぅ。僕はこのくらいのほうが良いと思うんだけど」
「……」
 朝比奈先輩の口にあって幸いです。長門、お前も黙ってないで何か言え。……いや、やっぱいいや。たくさんあるからおかわりしてもいいぞ。
「なに、そういうことは先に言えキョン!ほらもってこいよ」
 あんたに言ったんじゃないがねハルヒコよ。まあいいさ、とあたしは空の器を受け取ると横においてあるおぼんの上におく。なんだかんだできれいに食べたじゃないか、可愛いやつめ。
「あ、キョンちゃんぼくもー」
へいへいお前もか、と夢中になって食べていた弟からも皿を受け取る。おかわりをよそいに席を立ったところに横から、すっと手が伸ばされた。
「…………」
 見事に三点リーダーを並べた長門が、無表情に皿を突き出している。それにふっと笑うと、あたしは右手に持っていた皿をおぼんの上において長門のを受け取った。
「じゃあ、ちょっとまってな」
「おう!はやくしろよな」
 本当にあんたは無意味に偉そうだな、ナポレオンとタイマンはったらどっちが勝つだろうね。不用意に口に出しはしないさ、ハルヒコだったらやりかねないからな。ナポレオンにも迷惑だろうし、せっかくここ最近平和に過ごしてるんだ、厄介ごとはごめんだしね。
 なんて考えながら、結構楽しんでる自分がいるんだ。家族で食べるのもいいが、こういう騒がしいのも悪くない。なんとなく頬が緩むのを感じながら、あたしは台所に入っていった。
 なべからおかわりをよそっていると、電話の子機が軽快なメロディを流し始めた。おっと電話ですか。
「はい、もしもしって母さんか。どうしたの?」
 電話の相手は母親、どうやら夕飯の心配をしてかけてきたらしい。まあ心配してくれることはありがたいことだ。
「うん、作ったよ。いつものやつ。うん、うん、もちろん甘口だって」
 あたしは受話器を肩にはさむと、次の皿におかわりをよそう。
「え?ああ、学校の友達が遊びに来てるから。はいはい、わかりましたよっと。うん、こっちは大丈夫だから楽しんでおいで。うん、わかってる。じゃあね」
 子機を元に戻すと、最後の皿に盛り付けする。ちらとリビングの方に目をやれば、朝比奈先輩の皿をよこから突っついているハルヒコがいる。やれやれ、食い意地のはった奴だよな本当に。

 何十周年目だかの結婚記念日祝いだからということで、明後日から三泊四日の夫婦旅行に行ってきます。と言われたのがおとといの夜だった。つまり今日から三日、我が家は弟と2人だけと言うわけだ。なんでまた2人きりなんだとも思ったが、母親のうれしそうな顔をみたら笑顔で送り出してやりたくなった。父親と仲が良くていい夫婦だ、なんて妙に達観した思いになったよ。問題は弟だったが、土産の約束とちょいとばかりの小遣いで簡単にいってらっしゃいって言ってやがった。できた弟でおねえちゃんはうれしいよ、将来が心配だ。
 別に両親が旅行に行ってる間は連休と言うわけではなく、あたしには普通に学校がある。
 朝、三倍に増設された目覚まし時計によって、あたしは布団から跳ね起きた。いつもなら気持ちよく惰眠をむさぼっている時間だが、今日から三日はそうも言っていられない。      
 あたしは目覚ましを止めると、気だるげにあくびを一つして背伸びをした。布団の誘惑を頭から追い出すと立ち上がって制服に着替えてから台所へ。朝食と自分の弁当を作らねばならない。別にあたしは購買のパンでもいいのだが、ちゃんと作りなさいよと母親に釘を刺されてしまった。
 正直メンドイのだがたまには自分でつくるのもいいか、と気分転換的感覚で作ってみることにした。
 定番の卵焼きにミニトマト。なんとなくウインナーはタコさん型にして、ひき肉をいためてそぼろご飯に。ちと作りすぎたが、朝食で弟に出せば良いだろう。最後にブロッコリーを入れて出来上がり。うん、どこから見ても立派でお手本みたいな弁当だ。なんて自画自賛していると、どたどたと慌しく階段を駆け下りてくる音がする。
「あーキョンちゃんが料理してるー」
お、おきたか弟よ。ちゃんと朝食もできてるぞ、味わって食すがいい。
「うん。じゃあ顔洗ってくるね」
 弟の背を見送ってから、皿に目玉焼きとレタスを盛り付けて、ごはんをよそう。弟のほうにはもちろんそぼろがかかっている。これで豆腐とわかめの味噌汁、なんてのがあると最高なのだが、さすがにそこまでは出来なかった。仕方が無いのでコップに牛乳を注ぐ。
「キョンちゃんのごはん食べるの久しぶりだねー」
 そうだな、あたしも作るのは久しぶりだ。だがこの程度で料理っていえるのかね。まあその辺は気にしないことにして、いただきますっと手を合わせた。
 食器を洗っている時間は無かったので水にだけ浸しておく、そういえば洗濯をし忘れていた。今からでは到底無理なので明日にしようと今は諦めておく。弟がいってきまーすと元気に声を上げて家を飛び出していったのを見送ると、つけていたエプロンをはずしてイスの背にかける。
 こんなことを毎朝してる母親は偉大だなと考えながら髪をポニーテールにし、カーディガンを羽織る。
 いつものように自転車を置いて坂道を登っていると、背中から声をかけられた。
「おや、あなたにこの時間に会うとはめずらしいですね」
 言わなくてもわかると思うが古泉だ。おまえはいつもこの時間に登校しているのか。
「そうですね。バイトがなければだいたいこの時間ですよ。あなたはどうしてまた」
 さあねちょっとした気分転換てやつだろうよ、たまにはハルヒコより早く学校に言ってみようかと思ってね。
「なるほど。あなたらしいですが、たぶんそれは無理でしょう」
 ……まあそうだとは思ったんだが、あいつはいつも何時ごろ登校してるんだ。
「わたしも正確には知りませんが、始業開始30分前にはだいたいいらっしゃるそうですよ」
 いつも始業開始5分前くらいにすべりこむあたしとは大違いだな。ふと長門のことが思い浮かんだ、あいつなら1時間前からいても不思議じゃないな。……校門が開いてないか?。
 それから古泉は今の涼宮くんは安定していて助かりますとか、深夜のバイトは翌日肌が荒れて大変なんですよとか、どーでもいいことを話し続けて、下駄箱のところで爽やかに笑って自分のクラスのほうへ去っていった。
 教室のドアを開けると、いつもの半分くらいの生徒しか登校しておらず、そこそこ仲のいい友人たちに挨拶をしてから自分の席に着く。もちろんハルヒコはすでにそこにいた。
「おはよーさん」
「ああ、キョンか」
 肩肘ついて窓の外を眺めていたハルヒコは、ちらとこちらを見てそういうとまた窓のほうに視線を……向けはしなかった。
「!?っキョン!?おま、なんで」
 そこまで驚かなくても良いんじゃないかいハルヒコよ。あたしが早く登校しただけで天地がひっくり返ったような声をあげるな。
「だってお前がこの時間帯に登校するなんて、なんかありえないだろうが」
……始業20分前に来るのがそんなにおかしいかね
「お前だからおかしいんだ。どうしたなんかあったのか」
 考えすぎだ、とここであたしは古泉にはなしたとおりにハルヒコにも話してやった。するとハルヒコはいつもの小ばかにしたような笑みを浮かべて
「ふん甘いなキョン。SOS団の団長はな、他の団員より早く来ていなければならないのだ。お前が俺より早く来るなんてあってはならないんだ」
 そうかい、そいつは無駄な努力をしちまったな。
「無駄な努力が好きな奴だな、お前って」
 ……そうでもないんだな。あたしの無駄なような努力が結構事件を解決してるんだ。あんたには話せないがね。
 担当の岡部が入ってきたところで、この話はおしまいになった。

 昼休みが終わった授業中、ふと弟のことを思い出した。いつもは母親がいるから、弟は鍵を持っていない。ということは、あたしが早く帰らないとあいつは家に入れないわけだ。それは結構まずいんじゃないか?
 人と言うのは不思議なもので、気になり始めるとそのことばかり考えてしまう。結局その時間と6限を上の空ですごしたあたしは、ハルヒコに今日団活休む。と一言いうと、誰よりも早く教室を飛び出した。何か後ろで声が聞こえたが気にせず、そのまま正面玄関へ突っ走った。
 坂を新記録の速さで駆け下り、自転車を全行程立ち漕ぎで家に着くと、玄関前に弟が座り込んでいた。ああ、やっぱり帰ってたかと思いながら自転車を降りて近づくと、こちらに気が付いた弟がぱっと駆け寄ってきた。
「キョンちゃん、よかったー。ぼく」
 わかってるさ。あたしも気づかなくてわるかったなと頭を撫でてやる。へへへっと笑う弟にほっとすると、自転車を定位置に戻して玄関を開ける。2人してただいまーと言うが返事が返ってくることはなく、そこに少し寂しい気がしたのでおかえり。と弟に向かっていてやる。
「キョンちゃんも、おかえりなさい」
 うれしそうに言い返す弟に、急いで帰ってきて良かったなと再度思うと、制服を脱ぎに自分の部屋へ。ジーンズに、Tシャツの上にはパーカーを羽織って終了。
 そこで携帯を確認しておけばよかったと後で思うことになるのだが、ほっとしていたあたしはあの集団と、その他もろもろの存在をすっかり忘れていたのだ。それより明日もこんなことがあっては困ると思い、自宅の合鍵を探さなければということで頭がいっぱいだった。

 無事に合鍵が見つかって弟に渡したあと、朝水につけておいた食器を洗っていた時のことだ。自宅の電話が鳴り始めたのは。何が楽しいのか隣で見ていた弟が、ぼくでるーと言って子機を手に取った。このときあたしが出てればなにか変わったのかもね。まあ、変わらなかっただろうな。
「あ、ハル兄ぃだ。うん。ぼく元気だよー。え、キョンちゃん?今ねー食器を洗ってるの」
 あたしはずっこけそうになった。なんだってハルヒコが電話をかけてくるんだ。いや、そういえば今日は詳しい説明もせずに団活をほうり投げてきたな。そのことか。
 考え事をしながらも食器を洗い終え、手も拭きながら弟に手を振る。代わってほしいと言う合図だったのだが、何を勘違いしたのかうれしそうに手を振りかえした。そして
「うん?違うよ。キョンちゃんはいつもやらないよ。うん、それはね、今日から三日間お母さんたちがいないの。だからキョンちゃんがお母さん代わりなんだよ」
 ああしまったと思ったね。別に隠していたわけじゃないが、あいつに、ハルヒコにだけは知られると厄介なことになりそうだと思っていたのだ。案の定ハルヒコは弟になにか言ったらしい。
「ハル兄ぃがキョンちゃんにだってー」
そういって渡された受話器を、しぶしぶ受け取って耳に当てる
「かわった」
『キョン!お前なんで俺に隠していた!団員としての自覚が足りないんじゃないのか!?』
 別に隠していたわけじゃない、話さなかっただけだ。自分の家の事情をいちいち言うまでもないと思ったのさ、といっても納得しないんだろうねこいつは。
『ああ、納得できないな!罰として、お前の家に夕飯を食いに行ってやるSOS団全員でだ』
「いや、ちょっとまて。なんでそういう話になる。たしかに言わなかったあたしも悪いが、それがどうしてそうなるんだ」
 思わず大きな声を上げたあたしの耳にハルヒコのふっふっふとという笑いが響いてきた。嫌な予感がする、頼むから外れてくれと思うが、あたしの悪い予感ってのは結構あたるものなんだよね。
『お前、今日掃除当番だったんだぜ。それを誰がかわったと思う?』
 ああやってしまったと思ったね。掃除当番か、完全に失念してたよ。あたしはため息をつくとわかったよといった。こういう場合諦めが肝心だ。
「ただし、味は保証できないし。凝った料理でもないからな」
『キョンにそこまで望んでねえよ。じゃああと二時間したらいくからな。ちゃんと作って待ってろよ』
 そういって切られた受話器にもう一つため息をつくと、隣の弟に言ってやった。
「今日、ハルヒコたちが夕飯食べにくるってよ」
 ハル兄ぃたちとごはんーと喜んでいる弟を見て、まあいいかと思いながら自分の料理のレパートリーを思い出す。はっきり言ってそんなに多くないし、大量に作るとなるとあれしか思いつかないのだが。一応こいつには聞いておかなければなるまい。
「お前は今日の夕飯、何が食べたいんだ」
「ぼくカレーライスー!」
 まあ、わかってたさ。あたしも作るならそれだと思っていたしな。さて、そうと決まったらさっそく取り掛かろうとしようかね。あいつのことだから本当に2時間後丁度に来るだろうからな。

 弟の手を借りてカレー作りもひと段落したところで、チャイムが鳴った。時間をみれば本当に2時間きっかりで来やがったと思いつつ、弟に出てくれるように言う。
 ご飯もカレーもこんなにたくさん作ったのは初めてだな。男4人に女2人、育ち盛りという意味も含めて8合ほど炊いたが、多すぎたのか少なかったのか解らん。もっと大変だったのはカレーだ。今までにみたことも無い量だ。味は何度も確認したから大丈夫だと思うのだがね。
「この匂いはカレーか。また定番中の定番ってものをつくったなキョン」
台所に入ってきたハルヒコは開口一番にそういった。
 掃除当番を代わってもらったことには感謝しているが、そこまで配慮する義理は無い。それにこれは弟のリクエストでもある、いやなら食べなくてもいいんだぞ。
「それを先に言えキョン。食わないとはいってないぜ。それに俺が食ってやるんだ、ありがたく思えよ」
 へいへいありがたいことで。こっちじゃ狭い、リビングのほうでまっててくれ。
「あ、キョンちゃん。今日は急に押しかけちゃってごめんね」
「……」
 ハルヒコの後に続いて入ってきた、申し訳なさそうな朝比奈先輩と無言で頭を下げて長門を見て苦笑した。
「まあ2人には何かと世話になっていますから、遠慮なさらずにどうぞ」
「おや、私はその中に含んでくれないのですか?」
 最後に入ってきたのは弟と手をつないだ古泉だった。おいおい弟よ、その正体不明。IFFも混乱するような奴に惑わされないほうがいいぞ。
「それはひどい。私はSOS団のためなら命だってはれますのに」
 その笑みでいわれてもな、説得力がないといい加減に気づけ。ああリビングに行くならそのサラダもってってくれると助かる。
「あ、それならぼくが持っていきますね」
 朝比奈先輩がサラダの大皿をもってリビングに歩いていった。少々あぶなっかしと思ったが、なにもないところで転ぶという技能はまだ持っていないようなので大丈夫だろう。
 じゃあ古泉は小皿を持っててくれ。
「はい、お安い御用です」
 我が家の一番大きいおぼんでも、カレー皿となると三枚しか乗らない。とりあえず男ならこれくらいかと、父親目安で盛り付けるとリビングへ持っていく。
「お、やっときたな!」
 随分うれしそうな声を上げるじゃないか、結構楽しみだったのかハルヒコよと思いつつとりあえずハルヒコ、長門、朝比奈先輩の前へ。
「もう少し待ってろよ」
 なにか言いたげだった弟に先に口をだして黙らせ、台所へ取って返す。古泉と自分の分はとりあえず同じくらい。弟はいつもの量っと、そういえばスプーンを出し忘れていた。
 スプーンとカレーをテーブルに並び終えると、待ち構えていたようにハルヒコが声を上げた。
「みんなじゃんじゃん食えよ。いただきますっと」
「いただきます」「……いただきます」
 誰が作ったんだよと思いながらも、ハルヒコ以下5人の声が揃った後、我が家はにぎやかな声に包まれた。
2008年03月22日(土) 11:00:05 Modified by ID:a0r2W/qqmA




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