涼宮ハルヒ性転換設定
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校内ランキング〜一部某所〜

ここ最近大人しく過ごしている晴彦に安心感を感じつつ、またいつこの爆発したら地球――いや、もしかしたら宇宙――の果てまで飛ばされかねん爆弾に怯えると言う…我ながら器用な毎日を過ごしていた、ある夏の日の事である。
涼宮晴彦と幸か不幸か出逢って2年目の夏、去年と同じ、もしくはそれ以上の熱波線を地表もろともぶつけてくる太陽にあたしの心痛はオーバーキル寸前。
あの地獄のハイキングコースを売られていく子牛のようにドナドナな気分でなんとか登りきり、退屈な授業に船を漕ぎつつも、また晴彦の奴が面倒な事を思い付きませんように!と神――神と言っても間違っても一姫が言う神ではない――に祈りながらも気付けば昼休みに入り
あたしはいつものように口を開けば男の話ばかりする谷口と、一姫とはまた違ったスマイルを浮かべる国木田と弁当をつつく事にする。
当たり障りのない会話を広げていると、クラスの委員長でもあり、生徒会会計と言う微妙な役職に就いている朝倉が話しかけて来た。

「三人ともちょっといいかな?」
「ん?どうしたの朝倉君」

いち早く返事を返したのは過去に34回朝倉に告白しフラれ続けている谷口だ、ストーカーと間違われない事を祈ってやらんでもない。

「今生徒会でアンケートを取ってるんだが…協力してくれないかな?」
「へ〜、アンケートねぇ。一体どんな内容なの?」
人懐っこい笑みを浮かべながら朝倉が差し出したアンケート用紙に目を通す国木田、それに習うあたしと谷口。
その瞬間、飲んでいたお茶をぶちまけんばかりの衝撃があたしの大脳の裏っ側を襲った。

『校内ランキング!一番恋人にしたい人は誰!?(学年別)』

と、銘打たれたアンケート用紙に目眩を覚えつつ、あたしの弁当のおかずを摘まむ朝倉の肩に手をかけ

「なに?これは」
「なにって…書いてあるだろ?校内ランキング!一番恋人に――」
「日本語くらい読める、どういうつもりでこんなものを発案したのかを聞いてるの」
「どうもこうも、皆知りたいんじゃないかな?って思ったからだけど…」
「誰よ、こんな馬鹿げたアンケート考えたのは…」
「僕」
「………」

まるでよちよちと氷の上を歩くペンギンを見て自然と顔が綻んだような笑顔で朝倉は右手を挙げた。
馬鹿かあんたは…。

「失礼だな、これは生徒会会議でも通ったちゃんとした生徒会活動だぞ?」
ウソツケ、どうせお得意の情報操作でもして無理矢理通したんでしょ?何が目的だ、全く。

「ふ〜ん、学年別で更に男女別に分かれてるんだ?しかもコメントも書くようになってるし、なんか面白そうだね」
あたしみたいな平凡且つ凡庸な人間にとっちゃなんにも面白くないがな

「ま、いいじゃないのキョン。ちょっとした暇潰しみたいなもんよ」
「はぁ…恋人にしたい人ね〜…」
「安心して、これは匿名だから誰が誰をって事はバレないから」

やれやれ、こんなのを許可する学校も学校だな…
とか思いつつも面白がって書いてしまった。
まぁ、あたしが誰を恋人にしたいかなんてバレないなら…うむ、やはり匿名性っていうのは大事ね。
3年生の欄にはもちろん愛くるしくてたまらない先輩で執事でもある朝比奈先輩、鶴屋さんも捨てがたいけど…やはりここは頼りになると言うより、守ってあげたくなると言う要素が勝つね、コメント欄にもその様に記入する。

残念ながら1年生に知り合いも居ないし、特に気になる男子も居ないので谷口と同じ男子の名前を書く。
しかし谷口、コメント欄に『私の婿』とか『私の弟』とか書くのはよせ。
そして問題は2年生である。
朝倉に阪中、長門や晴彦がいるが…さて、どうしたもんかね。
半ば投げ槍になりながら2年生の欄を埋め朝倉に渡す、谷口も国木田も同じタイミング。
ありがとう、と微笑みながら朝倉は踊るように教室を出ていった…それにすれ違うように我等が団長様が学食から帰って来た。

「や、あんたもアンケート書いたの?」
「まぁな、面倒臭い上に馬鹿馬鹿しいけど朝倉には世話になったりもしてるし一応」

ぶすっとした表情のまま席につき、なにやら意味深なため息をつく晴彦であった。
なんでこいつのステータスはメランコリー状態になっているんだ?何かが起きる前触れか?今日は七夕ではないんだけど――。
そんな事を考えつつも、またいつものようによくわからない団体はよくわからない活動をし、よくわからない内に1日を終えて行くのだった。
そしてアンケートの事をいつの間にか忘れ、1週間が経ち…その時がやってきた!
ほんと…来なくて良かったのに…。
昼休み、弁当をまたいつもの三人で食べている。そんなあたしの耳に放送を告げるチャイムの音が届いた
ビンポンパンポーン

『皆さん今日は、生徒会会計担当2年5組の朝倉涼です。お昼時に失礼します、先日行ったアンケートの集計結果を報告したいと思います』

あぁ、そういえばそんな事もあったなぁ等と特に感慨深いものも無く、朝倉の透き通るようなテノールボイスを徒然なるままに聞いていた

「お?とうとう来たわね…ま、誰がベスト3に入るか予想は着くけど」
「これって上位3人までしか発表されないの?」
「うん、あんまり多くやり過ぎると時間が足りなくなるとかなんとか言ってた」

なぜあんたがそんなことまで知っているのかと言うツッコミはこの際置いておく。

「ま、安心しなよキョン。私はともかくあんたがベスト3に入る事はまずないんだから、テキトウに聞き流せ」
一部除き全く持って同感だけど、何故だろう?今無性にこの子のテンプルを思い切り殴りたい衝動に駆られてしまった、何故だろう?
最初は1年生からと言う事で興味のないあたしは弁当に箸を伸ばす事に終始する――と、そこへ朝比奈先輩と鶴屋先輩、そして一姫と長門がやってきた。

「どうも、何か面白そうなので皆さんで聞こうと思って来ました」
それはいいけど、なぜそんなに密着するようにあたしの隣に座るの?
「楽しみ」
長門でもこんなものに興味を示すんだね、甚だしく意外だわ。
「やぁキョンちゃん!こういう事は皆で楽しむべきだよね〜?って事で俺達もお昼混ぜて貰っていいにょろ?」
えぇ、勿論構いませんよ。
「な、なんだかこういうのってドキドキしますね…」
貴方のその恥じらう姿を見ているこっちの方がドキドキしますよ。

一姫、長門、朝比奈先輩、鶴屋先輩、国木田、谷口、そしてあたし、総勢7人でお昼を食べ校内放送へ耳を傾ける事にする。
一姫はいつも学食で済ますらしいが今日は購買でパンを買って来たみたいだ、それだけしか食べないくせにどうしてそんなに胸が大きくなるんだろう…以前晴彦にも言われたし今度聞いてみようかな。
等と宣いながらも大勢で食べる弁当はいつもより美味しく感じられた、仲好き事は美しきかな

お昼を済ます頃には1年生のベスト3が発表され、次は3年生の番らしい…普通次は2年生じゃないの?
と、そこへ晴彦が学食から帰って来た。
朝比奈先輩に誘われるまま席につく晴彦はどこか大人しく、それでいてソワソワと落ち着きがない。もしかしてランキングが気になるのか?

『では3年生男子の部第二位の発表です』

お、そろそろ気になる順位ね。まぁ谷口では無いが一位と二位は予想がつく

『第二位は鶴屋さん、主に下級生からの投票が多く、「お兄さんみたい」「一緒にいて飽きなさそう」「リードして欲しい」と言うコメントが寄せられています』

やはり鶴屋先輩はランクインしたか、明朗活発で自己主張した八重歯がトレードマークの鶴屋先輩はあたしから見ても間違いなく美男子に分類される。うむ、文句なし。

『まさに元気印の鶴屋さんはどこへ行っても人気者のようですね』

「いやー流石に照れるっさ!」

と、頬をほんのり紅色に染めながら朝比奈先輩の背中をバシバシ叩く鶴屋先輩だが満更でも無さそうだ。

『では注目の第一位の発表です。ドゥルルルルルル…ジャジャン!』

と、口でSEをする朝倉の表情を思い浮かべて朝比奈先輩から頂いたお茶を吹きそうになる。

あんたは戸惑のゲームでも作ってるのか

『第一位は朝比奈みつるさんです!二位以下を大きく突き放す単独優勝!ファンクラブの組織票が効いたんでしょうか』

「流石はみつるだ!SOS団専属執事マスコットの面目躍如だぜ!」

朝比奈先輩の優勝を我が事のように喜ぶ晴彦は勢いそのままに小さい体――一部成長しまくりな体――に飛び付き朝比奈先輩の頭をもみくちゃにしている
SOS団の面々にはいつもの光景なのだが、谷口には刺激が強すぎたようで…飢えたハイエナのようにだらしなく開けられた口から涎がみっともなく垂れている…女の子としてそれはどうかと思うが

『「庇護欲がそそられる」「苛めてみたい」「ご奉仕して欲しい」等々、女性陣の欲望そのままコメントに反映されてますね。一番目を惹いたコメントが「ア…ピーーーーー」』

ふむ、どうやら放送禁止用語に引っ掛かったらしい。

「す…涼宮きゅうん…そろそろはなひてくらさぁい!」
「駄目だ、だってみつる可愛い過ぎんだもんな!おりゃっ!」
「ふにゃあぁぁぁ…」
「WAWAWAー!!?」

理解し難い理由で朝比奈先輩の要望を無下にも却下し、お得意の耳カプで朝比奈先輩昇天。だから男同士でそれをやるなと言うに…

その光景を鼻血を吹き出しながらなにやら発狂乱する谷口、鶴屋先輩は机をバシバシ叩きながら大声をあげて笑っている
なんとシュールな光景だろう…。

『続きまして2年男子の部の発表に行こうと思います。では、第三位…長門有紀さん!』

なんと、確かに隠れファンが多いとは聞いていたがまさかベスト3に名を連ねる程とは…

「やっぱり有紀は凄いな!俺の目には狂いは無かったぜ!」
「全くその通りかと、流石は涼宮君ですね」
「………」


昇天した朝比奈先輩を鶴屋先輩に手渡した晴彦は長門に襲い掛かり彼の頬を両手で引っ張り遊びだした、その横では何やらスマイル女がヨイショしているが晴彦の耳には入っていないだろう

自分の名が呼ばれるとは露とも思っていなかっただろう長門は少し戸惑うような表情を瞬間的に作り、今ははしゃぎまわる晴彦の顔をじっと眺めている
その顔は何処か嬉しそうに見えなくもないが、多分それは自分が選ばれたからではなく、自分が選ばれた事により晴彦が喜んでいるからだろうと…何故かそんな考えが頭を過る

『「読者好きの文化系少年かと思えばスポーツ万能、そのギャップが萌える」「無口な彼をリードしたい」「無表情の彼の笑顔を見たい」とこれまた多種多様なコメントが寄せられています』
『あ、質問するコメントが幾つかあったのでこれも紹介しておきます…えっと、「なぜ眼鏡を外したの?」だそうです。長門さん、良ければ今度教えて下さい』

と、その質問を聞くや否や皆が長門に注目し…「そういえばなんでだ?」と晴彦が代表して聞いている

「………」

液体ヘリウムみたいな闇色の瞳があたしを見詰めている、去年行った孤島でもそうだったけど、頼むからそこであたしを見ないでよ…。

『第2位は坂井悠二さんです。彼にも個性的なコメントが――』

第2位は谷口的美的ランク、AAランクの強者らしい、あたしは名前しか知らんからなんとも言えんが谷口がこんなにも騒ぐのだから気のきく美少年なのだろう

『では第1位…あっと…すみません、僕です。本当にいいのかな?僕で…なんかちょっと気まずいなぁ』

スピーカーの向こうからは恥じらいと戸惑いがゲリマンダー的な反応を起こし、朝倉もまた満更でもないようだ

「やっぱり朝倉君が1位か、下馬評が覆ることは無かったね」
「彼完璧だからねぇ」

谷口と国木田がそれぞれ感想を陳べている間、あたしは少し思案に更けていた。
まぁ朝倉が1位なのは当たり前と言えるだろうな、なにせ人気者になれるよう造られているんだから
さて、SOS団関係者男子で唯一名前が挙げられなかった晴彦だが
これは少し考えれば分かることだろう。確かにこいつはイケメンだ、黙っていればアイドル顔負けの美貌とスタイルを兼ね備え
尚且つ運動神経も抜群で、豪快さに隠れちゃいるが繊細な指使いでピアノやバイオリン、ギターをも弾いてこなせてしまい…更には成績だって優秀だ
しかしそれも普段の奇狂な振る舞いのせいでプラマイ0、むしろマイナスに至ると言ってもけして大袈裟とは言わないでしょうよ。
ちらり、とご飯をもこもこと頬張りながら晴彦の横顔を盗み見るが、本人は自分の名が呼ばれていないことに特に関心を抱いていないのか、何故か長門とハイタッチをしていた。
『では最後に2年生女子の発表です。第3位は――』

刹那、寒い冬の日に降りた霜のようにあたし達を取り巻く空気が温度を変えたのを、あたしは肌で感じ取った。
原因は……探らなくても解る、先程までやいのやいのと騒いでいた晴彦がコインが裏返ったかのように静かになっていたからだ。
どしたんだ、ほんとにこの男は…

「恐らく貴女の名前が呼ばれるのではないかと心配しているんじゃないかと…」
一姫がそっとあたしの耳元に妖艶な吐息を吹き掛けながらひそひそと語りかけてきた。
だから近いって!そんなに肩を密着させなくても聞こえる、太ももに手を置かない!こら!さりげなくスカートの中に手を入れようとするな!
部屋の中を飛び回る蠅を打ち落とすが如くあたしはおいたをする一姫の手を鷲掴みする、が…
そっちは囮であり、本命である耳を敵の口に含まれ、彼女の舌はあたしの耳たぶを飴玉を口の中で転がすようにチロチロと弄ばれる。
慣れないその感覚に、あたしは身を縮こませてしまう。それに気を良くしたのか一姫は口にあたしの耳たぶを含ませたまま一笑に伏し、ちゅるりとそれを吸った。
絡まる彼女の唾液と口唇の温度があたしの耳たぶを支配し、ゾクリと背筋に氷の柱を入れられたかのようにピンっと仰け反らされてしまった。
「あ、や……んっ!――ちょ…っ一姫!!」
「ふふふ…ジョークです♪」
「意味が解らないし笑えない!!」
自分でも解るくらいに頬を熱くさせ、涙目になりながら未だに残る一姫の舌の感触を耳から払拭させようと手のひらで包む。
「本当に貴女は弄りがいがありますよ」
「……怒るぞ」
「怖い怖い、――話が逸れましたね」
「逸らしたのはあんただ!」
解ってて言うなんて卑怯だ!いつか大学ノート50Pに渡るぐらいの反省文を書かせるからな!
「良いですよ?大学ノート全てのページを貴女の名前で埋め尽くしてあげます」

「………」
どこの十七歳だ、あんたは。アンチ愛と平和なのか?
「本題に戻ります。涼宮君は貴女がランクインして欲しくないと考えています」
いつもの人畜無害の笑みを消してマジ面モードの一姫……うぅ、耳が変な感じするよぉ…。
「ぶっちゃけると貴女を一人占めしたいのです。貴女の魅力全てを、貴女自身と共に…しかしそれと同時に貴女のその魅力をもっと世の中の人達に知って欲しいとも思っている。独占欲と優越感がそれぞれ拡張反応を起こしている…それが彼のあの表情の答えです」
それはそれは…偉いぶっちゃけようだ。
言ってて悲しくなるが、あたしは人様からそんな風に見られる程の価値がある訳がない。顔だって特に綺麗とも可愛いとも取れる要素など皆無だし、そもそもそんな要素は全てダルダルの表情でマイナス傾向にあるくらいだ。
スタイルだって…その…去年の海ではつるぺたつるぺたって散々晴彦にからかわれるくらい貧相だし、あたしは至って平々凡々の一高校生に過ぎない…って、やっぱり自分で言ってて悲しくなってきた。
「自分では自分の魅力に気付けないものです。私個人から言わせて頂ければ、私が男であるなら絶対貴女を放置するなんて考えられません」
よく言うよ、全く。
まぁあたしの事は別にいいとして
「おやおや」
五月蝿いな、怒るよ?――睨めつけると一姫はやれやれと言うように肩をわざとらしくすくませて見せた。
「結局、晴彦はなにを望んでいるんだ?」
「さぁ?しかしそれはもう少しだけ様子を見てれば解ると思いますよ」
ね?っと、女のあたしですらコロッといきそうなくらい可愛い笑みを浮かべてから視線を教室にあるスピーカーに向ける。

そういや放送聞くの忘れてた…既に3位の発表は終わってしまったようだ。
『次いで第2位の発表に行きます。第2位、古泉一姫さん!』

なんとぉーっ!!?
一姫が2位?じゃあ1位は一体どこの美少女だ?まさか藤原とか言わないよね…。
『「笑顔が眩しい」「純粋に可愛い」「まっがぁれ☆」「この子のスタイルの良さは異常」等々、古泉さんの象徴ともとれる笑顔に纏わるコメントが寄せられています』
「いや〜、私なんかが選ばれてしまっていいんでしょうか?」
「なぁに言ってるんだい!一姫ちゃんの可愛さは俺が判子を押して証明したいくらいっさ!」
鶴屋先輩が一姫の頭をがしがしと豪快に撫でて…撫で…撫でるって言うのか?あれは。とりあえず一姫はそれに身を任せ瞼を下ろして、それを堪能するかのような笑みを浮かべていた。
皆一姫を囲んで騒いでいるのだが…約一名、なにやら不安げな顔であたしを見つめる奴がいる、晴彦だ。
そんな、大切にしていた自分だけの思い出を他人に無下にも踏みにじられたような切ない顔をするな、頭ごと抱き締めたくn…ゴホンゴホン!
とりあえず!あたしの名前がコールされる事なんて地面と空が逆転するくらいあり得な――
『では注目の第1位の発表です!第1位、みんなこういう時くらい本名で呼んであげろよ!キョンちゃんです!!』

「「「「「「「………」」」」」」」
全員があたしを見る、朝倉のDJ顔負けのハイテンションも空回り、スピーカーからはなにも聞こえない。隣の教室からは何やら雄叫びが聞こえた気がした。

「…ぁんだってぇーーっ!!?」
と、晴彦が机をひっくり返しながら勢いよく立ち上がる
『コメントも凄いです。「ダルデレ最高」「ポニーテールがいい」「結局お前の本名なんだ」「らっぷ○とと名刺交換…あ、しない?」「カーディガン属性の俺にはたまらん」「申し訳ない程度の胸の膨らみが俺の欲望を駆り立てる」
「長門に嫉妬」「ハルキョン?なにそれ美味しいの?」「キョン子は俺の嫁」「いや、皆の娘」等々、もうフリーダム過ぎて…うはwwwGJwww…としか言い様がありませんね』
いや、一部除いて今挙げられたコメントした奴即刻死ねよ。
どれもこれもあたしのコンプレックスに触れるものばかりじゃないか!
悪かったな、やる気を微塵も感じさせない雰囲気で!っていうかデレた覚えはない!悪かったな、もう夏なのにカーディガン着てて!冷え性なの!悪かったな!!つるぺたで!!(←泣)

「やはり1位は貴女ですか」
「キョンちゃんすごーい!」
「あはははは!さすが俺が目を着けた女だけはあるな!」
「…萌え」
「え…私の名前呼ばれてないんだけど…」
「キョンは昔から変な男から好かれるからねぇ」
各々が各々に好き勝手な事を言っている…これなんて羞恥プレイ?
「ふざけんなっ!!」
ダンッと晴彦が机に思い切り拳を叩き付け、あたしの周りから騒音を消失させた。
「お前どうやってそんなに男をたぶらかしたんだ?っつぅかSOS団は恋愛禁止なんだぞ!?」
言い掛かりも甚だしいが、相変わらずの上からの目線、そして威圧的な言動にあたしもつい言葉を荒くして返す。
「なんであんたにそんなこと言われなきゃなんないのさ、っていうかあたしは何もしてない!」
「うっせ!俺は団長だ!団長は団員の生活素行を見守る義務があるんだよ!」
「なにが義務よ!むしろあんたが生活素行を見直しなっての!」
「んだとぉ…?このつるぺたが!」
「つ…つるぺたって言うなぁぁぁ!!」
そんなあたし達の喧騒に割って入るかのように、朝倉の声がスピーカーから教室に木霊する。

『いやいや、まるで某掲示板や動画サイトにされるようなコメントばかりですね。そんなものばかりじゃキョンちゃんも可哀想なのでまともなのを紹介します。どうやらSOS団関係者全員が彼女に投票したらしいからね』
「「「「え?」」」」
朝倉の一言でシンと空気が沈んだ、朝比奈先輩と谷口が疑惑の声を吐き出す。長門は無表情、国木田は傍観スタイル、一姫は0円スマイル、鶴屋先輩は爆笑、晴彦とあたしは硬直。
『「いつもドジばかりのボクを優しくフォローしてくれる」「彼女の敏感肌は最高のご馳走です」「萌え」「彼女を一人占めしたいっさ!」などコメントがありますね…ちなみに僕も投票させて貰いましたよ』
あはは…はは…これは一体なんだ?なんの冗談だ?
誰がどんな批評をあたしに下したのか、今のコメントを聞けば解る。各々に目をやると皆視線をあたしから遠ざける…こら、目を逸らすんじゃありません…。
『あとこんなコメントもありました。「俺を見てくれたのはこいつだけだった」と、なんだか意味深ですね』
皆の視線が晴彦へ集まる。
晴彦はその視線から逃れるようそっぽを向き、あひる口のまま―仕方ないだろ、キョンに一票も入れられなかったらSOS団としての面目が…―などと、徐々に頬を薔薇も恥じらう赤色に染めながら溢していた。
その仕草に何故かあたしが動揺してしまい、頭についている尻尾の先をクルクルと回してしまう。

「…………」
何故か気まずい雰囲気があたし達の周囲を取り巻いて離さない。
晴彦はそっぽを向いたまま何も言わないし、他の団員達は皆傍観者と化している。
しかしこれでなんとか事態の収拾がついたと思えば安いものだろう…と、一瞬でも考えたあたしがバカであったことを0.何秒後に思い知る事になる。
『一応これでランキング発表は終わりです。選ばれた方も選んだ方もニコニコして頂けていたら光栄です…そうそう、これは私事で申し訳ないんですが…』
そう前置きを置く朝倉に、あたしはゴングがなる三秒前のボクサーのように身構え、いつでも事態に対応出来るように心を落ち着けた。
周りを見れば、皆固唾を飲んで朝倉の二の句を待っている。
『もはや有名を通り越してこの学校の常識にまでなっている涼宮晴彦。彼はまさにミスターパーフェクトとも呼べる存在なのに何故かランクインしなかった…何故でしょうか?僕は不思議でなりません』
いや、だから普段の振る舞いを見てればその答えは自ずと見えてくるってーの
『そんな彼の恋人になりたいと言うのはたったの一票しかありませんでした』
「………」
へぇ…一票かぁ…何故か嫌な予感がするなぁ。
よし、そろそろ予鈴も鳴るし次は移動教室だからさっさと向かうかな!学生の本分は学業にあるわけだし!
「どこへ行くんです?」
「――っにゃ!?」
そんな殊勝な思考を巡らすあたしの襟元を掴んで離さない一姫を睨みながら…
あたしは、自分が面白がってつい書いてしまったアンケートの回答を恨みつつ――自業自得だとは分かってはいるが――朝倉の言葉を聞いた。
『彼女のコメントを発表します!「晴彦の恋人になりたいかなんてあたしにはよくわからない事だと思う。でも1つ言えるのが、あの100Wの笑顔が見られるならばずっと隣でその顔を見ていたいと思う」』
皆があたしを一斉に注目する。晴彦も信じられないと言う顔で恐らく全身真っ赤にしているあたしをまじまじと見つめている。
でもでも!このコメントを書いたのがあたしじゃない可能性もあるわけで――

『いやいや、キョンちゃんも素直になればいいのにね。こういう事をしないと自分の気持ちを顕に出来ないなんて…やはり有機生命体の思考概念は理解出来ないよ』
よし、長門。
今すぐ朝倉の情報連結を解除して…して…し、ししししししし―――!!?
「お前…」
やだ、ずっと隣で〜だってぇっと嘲笑う谷口の後頭部を長門の分厚い本で殴打した後、晴彦があたしの目を見てそう呟いた。
「――――」
晴彦は顔面を熟れたトマトのように真っ赤に染め、クスクスと微笑がひしめき合う教室から飛び出した。
「………」
あたしもまた同じような色を顔に浮かべているのだろうか?
羞恥心のあまり、思考回路と共に視界もボヤけていく世界であたしに見えたのは…
「計画通り」
と呟く長門が、朝比奈先輩、一姫の三人で手を取り合う場面だった。
2008年03月12日(水) 03:50:39 Modified by ID:8w8USNGQtA




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