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涼宮晴彦の悲愴〜ストレイト・ストーリー〜第五話

目が覚めた時、辺りは真っ白ろで…まるで登山の途中吹雪に合い遭難した登山家のように、ただ呆然と立ち尽くしていた。

「ここ…どこ?」
あたしはだぁれ?などと宣う暇はない、周辺には本当になにも無く、ただ眩しいくらいの白が世界を覆い尽くしていた。
あたしの海馬中枢にこんな場所は記憶されていない、つまり初めて来る場所であり、そしてこんな空間が世界に存在するかも疑わしい。

やれやれ、また晴彦の仕業かね?
今まで情報制御空間やら過去やら閉鎖空間やら飛ばされて来たあたしは、想像以上に経験値をアップさせていたみたいで
こんな非常識な場所に居ても大して動揺しないんだもんなぁ…いやいや、もしかしたら夢って言う可能性も捨てきれん。

「よし、目覚めろあたし!」
両手を天に掲げて一喝。

「…………」
はい、あたしが馬鹿でした。こんな事で現実に帰れるくらいなら、以前に遭遇した似たような状況の時にやってるっての。
ん〜…でも本当にここどこだろ?
なんであたしはこんな所に1人で居るの?
誰か分かる奴が居たらここに来い、そして分かりやすくA4ノート3ページ以内で説明しろ!

と、頭の中でギャーギャーと喚いていたら肩をトントンとつつかれる。ん?誰?

「…………」
「………あ」
振り返ればそこに、長門有紀の姿。まるで最初からそこに居たかのような風貌であたしをまじまじと眺めていた。

「長門…?」
「無事?」
「へ?あ…うん、特に怪我とかは無いけどさ…ここなに?」
開口一番に無事?って…まさかここは実は相当に危険な場所なんだろうか。

「ここは君の精神内部空間、言うなれば君の心の中」
「……………は?」
OK、ちょっと待て。幾つか質問するがいいか?
コクリとミリ単位で肯定を示す長門を見てから一拍置いてからあたしは口を開いた。

「なんであたしが自分の心の中にいるのさ」
「ここが君の心の中だから」
長門にしてみたら実に単純明解な答えだ。だがあたしが聞きたいのはそんな事じゃなくてだな…
眉間に皺を寄せるあたしを、長門はまるで電車の窓から景色を眺めているかのように興味深気に見ている。

「なんでこんな状況になってる?」
「情報統合思念体の一部による犯行、君は意識と肉体を乗っ取られここに幽閉を余儀無くされた」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔とはどんな顔か知りたい奴は今すぐここに来い、多分今のあたしがそんな顔をしてるだろうからな。
なんでまたそんな事に…。
あたしは夕張炭鉱の深さ程のため息をついた。

「敵性対象は君を乗っ取る事で自律進化の可能性を探求しようとした。そして涼宮晴彦を過剰に刺激し、その情報フレアの観測を試みようと画策していた」
また晴彦絡みですか…いや、皆まで言うまい。いい加減慣れてくるよ…ってなんでそこであたしを乗っ取るだなんて考えつくの?

「敵性対象は有機生命体と同期することで自身に枷を嵌め、有機生命体の限界を突破し自律進化への道を模索しようとしていたから」

「………」
はぁ…。
色々納得も理解も出来んが、なんとなく事情は飲み込めたよ。それで?あんたがここに来たって事はもうそれは片付いてあたしを迎えに来たって事?

「違う、まだ終わってはいない」
「へ……?」
「古泉一姫が敵を足止めし、朝比奈みつるがここまでの道程を拓いた」
なぜかあたしの危険警戒レーダーがMAXに作用して、頭の中でビービーと空襲を報せる警鐘のようにけたたましく鳴り響いている。
じゃああんたは何しに…?あたしを助けに来たの?

「情報の伝達に齟齬が発生、僕は君を手助けする為にここに来た」
なんのこったい。

「ここにその敵性対象が居る」
はっ!?ちょ…それって不味いんじゃない?

「不味くない。僕が来たのはその為」
あ〜なんか会話が進まんな、詰まる所あんたは何をしに来て、あたしはどうしたら元の場所に帰れるの?
そんなあたしの質問に長門はまるで、待ち合わせ時間に遅れて来たよう恋人のような心底申し訳なさそうな顔をして――一見いつも通りの無表情だがなんとかそれぐらいは読み取れた――こう返答した。

「君がここから元の空間へ回帰するにはその敵性対象を排除しなければならない」
うん、それで?
「僕はその手助けに来た」
………。
手助けって事は直接長門が手を下すって訳じゃないって事?

「そう」
つまり?
「君がやる」
アホか!?
「………」
あ、いやすまん…きっと長門も大変な思いでここまで来てくれたのに、今のは確かに空気読めて無かった。謝る、だからそんな母親に叱られたうちの弟みたいな顔をしないで欲しい。

「僕だけじゃない」
「なにが?」
「古泉一姫も朝比奈みつるも、君の言う大変な思いをした」
「え…ちょ…、二人は無事なんだろうね?」
「………」
長門は答えない
「教えて長門、皆は無事なの?」
「………」
長門は答えない。
「答えろ!」
胸ぐらを掴んで凄む。
先程鳴り響いた警報はきっとこれを暗示していたのだ、自分はなにも知らない。どれだけ彼らが傷ついたか、どれだけ彼らがあたし達を想っていたのか。

「古泉一姫は左腕を損失、体組織の76%が死滅、既に死に体。朝比奈みつるは左眼球の欠落、涼宮晴彦の力を限界まで行使した為ショック死の恐れがある」
「な………?」
正直なところ言葉が出なかった、一体彼らは何をしたのか。何をしたかったのか…。あたしには何一つとして理解が出来ない。

「彼らは戦った、自分の為に、君達の為に」
「……そんな」
「涼宮晴彦は君に拒絶された事により、ショックで床に伏せている」
もう訳が分からない。じゃあ皆はあたし達の為に戦ったってこと?

「そう」
「――――バカ」
力無く長門の胸を叩く、皆は死ぬ思いで戦ったの?あたしと晴彦の為に、なんで?なんであんた達がそんな思いをしなきゃならないの!?

「大切な人だから」
「―――――」
あたしの問いに、一言そう返す。
どいつもこいつもみんな馬鹿だ!そんな死ぬ思いで戦わなくたっていいでしょ!?もっと皆自分を――
そんなあたしの言葉を遮るように、長門はあたしの肩を力強く抱き――

「好きだから」
「え」
「僕も、朝比奈みつるも、古泉一姫も、君と涼宮晴彦が好きだから戦った」
「長門…」
「皆大切だと思っている。だから、そんな事言わないで欲しい」
「―――ほんと、馬鹿だね」
あぁ、そうだね。こんな事言われちゃ責める気なんてなくしてしまう。だからあたしはありったけの心を込めて――

「ありがとう」
そう、彼らに届けようと思った。
長門は一つ頷いて、右手を差し出す。その手には一挺の拳銃。

「これは?」
「ベレッタM92カスタム"ブライヤチャット・ソード・カトラス"」
「………」
あんた最近漫画読んだろ?それもアウトローの、いやいい。あんたが強い姉さんが好きだろうがなんだろうが構わない。これが何を意味するか教えてくれないか?
「地球人類が、唯一情報統合思念体を打倒し得る武器」
そしていつかの日、自分が宇宙人だと明かした時のよう饒舌に語った長門は、朝倉のように砂となり。あたしは1人『あたし』を求めてただ白の空間を歩いた。

どれだけ歩いたのか、たった5分か、それとも10秒に満たない時間か。カップラーメンの出来上がりを待つようなあたしの前に『あたし』が地面にへたりこむむように息を荒げていた。

「やぁ」
「……この肉体の所有者か」
まるで親の仇を見るような視線、あたしの警戒レーダーはオーバーフローを起こす寸前だ。だがしかし――

「………」
「は!語る舌は持たないとでも言う気か!?」

『あたし』はだらしなく地面に膝をつきながらそう叫ぶ、手負いの狼――あたしの頭の中でそんなイメージが浮かんだ。
しかしなんにせよ、こうやって自分で自分を見下ろすなんて経験、それこそあたしがゴールデングラブ賞を取るくらい貴重なんじゃないだろうか

「どうやら今回もあたし達の負けだ、朝倉涼に続いてまさかね…」
「………」
「だが1つ言っておく、今回あたしがあんたの中に入れたのは、少なからずあんたが涼宮晴彦に不信感を募らせていたからさ」
「………」
「人は人を疑う、それは真理だ。どれだけ表面上好意的に装っても、誰しもが誰しもを疑ってかかってる。それはあんたも同じさ」
「………」
「はは、お笑い種だよ。そんなものの為に一姫と朝比奈先輩は死ぬんだから!」
「…やれやれ」

えらく饒舌に語る『あたし』
同じなのは外っ面だけのようだ、あたしはこんなべらべらと人間の本質的な事を語ったり、もしくは憂いだりはしない。
そんなの考えるだけ無駄にカロリーを消費するだけだからだ、ただでさえ我らが団長様は獅子奮迅の如く迷惑事を律儀にあたし達に運んでくるんだから…そんな哲学を勉強する学者染みた行為に及ぶ余裕なんてない。

「でっていう」
「なに?」
「あんたは何が言いたいのさ?あたしが晴彦に不満を抱いてるって?そんなの当たり前だ、あいつへの不満を紙に書いたらそれこそエコ団体に抗議される量の森林を伐採しなきゃならん」
「………」
「一姫にも朝比奈先輩もそう、二人は結局の所自分達の目的の核心的な事は話さないからね…長門は別だけど」
「だから――」
「だからそれがなに?」

あたしは『あたし』の言葉を遮り、攻め立てるように口を開いた。
もうとっくに血液は沸騰している、絶対零度だってお湯に変わるどころか気化しちゃうくらいさ。

「あたしは頭悪いから一姫や長門のように難しい事は考えれないし、語れない…でもね、一つ言える事がある」
「………」

『あたし』は苦虫を噛み潰したような顔をしてあたしを睨んでいる。
そうさ――
誰かを心から100%信頼するなんて人間には出来ない。親が子を殺し、子が親を[ピーーー]ような時代だし…そんなの誰だって理解している。
1人で生きるのは楽なんだろうけど、それだけじゃ辛いんだって。だから寄り添うんだって。
だから『仲間』とか『絆』とかっていう言葉があるんじゃないの?
そして、そんな全部の感情を引っ括めて――

―生きるって言うんじゃないの―

「………ちっ、有機生命体ごときが偉そうに」
「あんた何様?あんまり人間ナメんな」
睨みあげる『あたし』を無視して長門から預かった銃を構える。
無骨なシルバーメタリックは、これまでの戦いを象徴するかのように鈍く耀いている。
銃身は敵の眉間へ、あたしは意識を自己の内界へ数瞬だけ埋没させた。

これまで幾度の面倒事に巻き込まれてきた。
一姫が閉鎖空間で暴れる神人をわざわざあたしに見せたり、長門が朝倉と超絶ガチンコバトルを展開したり、朝比奈先輩が未来の規定事項遂行の為にあたしを連れ回したり。
あげくの果てには中学の同級生である、佐々木を中心にしたゴタゴタがあったり。
その傍らにいつも晴彦の影があった。
晴彦は知らない。無垢な赤ん坊のように世界の有り様を知らずに、己の願望を叶えようと日常を、獲物に飛び掛かるライオンのようにただ日々にうつろう不思議を追い掛けている。
あたしはただ傍観し、たまに中心になってそれを解決する。
いつしかそれに、『絆』が繋がり『仲間』と至りて『日常』と化す。

古泉一姫、長門有紀、朝比奈みつる、三人は一体なにを望んでいるのだろう?
命を賭けてまで取り返そうとしたの一体なに?
あたしには分からない…。分からないが、その中にあたしや晴彦が含まれているっていう事は分かる。分かるが――
皆が望むものがなんなのか明確な答えに、あたしと晴彦の名前そのままが含まれているかどうかは分からない
堂々巡りだ。
じゃああたしが取り戻したいものはなに?『日常』『仲間』『絆』……?

晴彦?

あいつが『あたし』に、その存在が拒絶された事で床に伏しているという。なぜ?
なぜそこまであいつはショックを受けている?あいつにとってあたしはただの雑用その1であり、クラスメイトであり、SOS団員でしかない筈だ。
チクりと一般的女子高生より貧相な胸が傷んだ。あいつにとってあたしは――

ライク・ア・ローリング・ストーン(路傍に転がる石のよう)ではないのか?

カタカタと震える銃口、あたしはそこで意識を――『あたし』以外――他に何もない世界へ帰属させた。

「あたしは――」
答えなどない、最初から無いのだ。生きる上で人生に答えなど無い。
例え人智領外の事件に巻き込まれていたとしても、その人生に答えなど出る筈がない。
分かっていた。故にあたしがいるという事。

あたしはただ日々を過ごす中で精神を摩耗させながらも、こんな日常がずっと続けばいいと思っていた。
なにも知らなくても、答えなど分からなくても、それが見つからなくても、ただ今を生きる一瞬の中で閃光の煌めきのように仲間と過ごしたい。その中で絆を確かめ合えればそれはきっと幸福だ。
難しい事など分かりはしない、ただあたしは――

―みんなと一緒に生きたい―

「ふん、そんなものであたしが消せるって?」
「―――」
『あたし』が勝ち誇ったような笑みであたしを見上げる。敗北を受け入れないその歪な笑顔、あたしはただその眉間に構える。

「アポトーシス」
「………なに?」
長門が言った。
地球人類が唯一情報統合思念体を打ち倒せるものだと、その名も『自殺因子』

「人類科学が生んだ最強最悪の毒、だけどそれはあたし達自身にはなんの意味も成さないらしい」
「………」
「なぜならあたし達は有機生命体だから、無機生命体であるあんたは?情報因子の羅列でしかないあんたはどう?」
生きとし生けるもの全てに備わっている『因子』
それは数多くあれど、自己を死滅させるものなどあってはならない。
繁栄、進化、存続
生命体の本能はそれに集約される――しかし例外は必ず存在する。凡才の中に天才がいるように、戦争と言う愚行の中に平和と言う概念があるように。

「知ってる?一説によれば進化の先は『死』なんだってさ」
「貴様……」
憤怒の気色をその顔に露する。
「肉体を持つあたしにとっては情報はただの情報。でも情報で構築されてるあんたはどうなるかな?『自殺因子』っていう情報を埋め込まれたあんたは――」
「きさまぁぁぁぁ!!―――」
飛び掛かる『あたし』に、あたしはこれ以上誰かが傷つかないようにと億千の願いを込めてその眉間に向かって引き金を引いた。

「SOS団に手を出したのが間違いだったね」

スドン
響く乾いた重低音、その音の中で『あたし』は音を立てずに分解していった――

――目を覚ませばそこは何もかもが空白の世界。
まだあたしは自己の精神世界にいるのだろうか?そんなあたしの疑問に宇宙人に作られた人造人間が顔を覗かせる。

「………」
「うん、終わったよ」
その沈黙が何を意味するか汲み取ったあたしはさも赤点ギリギリのテストの答案用紙を受けとるが如く、当然のように微笑んでみせた。「無事で良かった」
相変わらずその表情に色を見せない長門に視線から外す。
そこにはピョンピョンとウサギのように飛び上がり、全身で喜びを表現する朝比奈先輩と……なぜかブレザーを羽織って如才のない笑顔を惜し気もなく見せている一姫がいた。
あれ……?
そういえば長門が言うにはもう死ぬ一歩手前だって…もう1人のあたしもそう言ってたが…うん、これは夢かな?

「キョンちゃん…キョンちゃあああん!!」
大きく可憐で麗しいその瞳から大きな涙粒を流しながら朝比奈先輩はあたしの胸に飛び込んできた。すみません、一姫だったら貴方も満足出来るでしょうに……

「良かった…本当に良かった…」
一姫はいつもの笑顔であたしに笑みを惜しみ無く見せている、しかしその線目からは燈白の涙が溢れていた。

しかしなぜ?長門が言うには二人供死ぬ一歩手前的な絶望感漂うようなことを…

「体組織情報を操作連結し、足りない所は補った」
無表情、つらっとしれっとまるで当たり前とでも言うような顔で長門はそう溢した。ごめん、一回だけ殴らせて。

「だめ」
いつかのように、あたしをからかうよう微笑んでみせた――端から見れば無表情なんだけどさ――

「なにはともあれ、これで終わりと言う事です」
嬉しそうにあたしの背中を抱き締めて頬擦りする一姫がそんな言葉を洩らす。
朝比奈先輩はもじもじ芳しい仕草で頬を染めながら良かったですと呟き、長門はあたしの前にどっかの誰かさんと同じように親指を突き上げた拳をあたしに向けている。

やれやれ、そう呟いてからあたしは長門に一つ頷いて見せ、この息が詰まりそうな純白の世界からの脱出を促した。
それに理解の色を示した長門が口を開く、人智を結集しても解読不能の言葉を早口で呟く長門。

気付けばそこは見慣れた部室だった。
長机にソファー、幾つかのパイプ椅子。日に日に収納スペースが狭まる本棚、そして…団長が座るであろう机。
あたし達は帰還した。自分としてはそんな実感はないのだが…

―ドクン―

ホッと胸を撫で下ろそうとしたその時、何処かで何かが脈動した。突如あたしの心臓が警戒レーダーと早変わりし、その危険レベルが収縮運動のそれと代わり身体中の血液が音速の域で駆け巡る。
吹き出す汗、荒れる呼吸、締め付ける胸、マグニチュード8.0の地震が巻き起こした津波の如く迫り来るプレッシャーにも似た焦燥感が堪らなくあたしを不安にさせる。

これはなに――?

ドサリと誰かが音を立てる。視線をやるとそこには床にへたりこみ、顔面をコバルトブルーの宝石のように曇らせた一姫だった。
カタカタと見掛けよりずっと小さな両肩を震わせ、一言――

「閉鎖空間…間に合わなかった…」
絶望色した彼女はそう呟いた。
一姫の声で窓から外を眺める、灰色よりずっとずっと暗い灰色が世界の空と変貌していた。

「――なっ」
言葉を飲む。
驚愕、焦燥、困惑。それら全てを超越した絶望が部室を包み込む。

「長門…これは?」
漸く自意識を取り戻したあたしは、掠れた声で長門に今の状況の回答を求めた。

「超規模の閉鎖空間が発生。既に世界の8割が作り変わっている」
「ふ…ふあぁ…」
長門の言葉で全てを理解したのか、朝比奈先輩は口からエクトプラズム的なものを出しながら両手を自分の顔へ運んだ。

「晴彦…?」
「そう。恐らく彼は全てを無かった事にしたいと考えている。0への集束、その世界は何もない、あるのは世界だけ」
「人も物もない…ただ在るだけの世界です…。二人を除いて」
二人?それはどういう事――と、聞こうと身を乗り出したが、一姫達の姿がノイズ混じりでその存在が危うくなっていた。

「どうやら…今回も私達はお呼ばれされないようですね」
「キョンちゃん…」
「………」
ちょっと待ってよ…ちょっと待ってって!どういう事!?

「涼宮晴彦が世界に存在するのを許したのは君だけ」
なにそれ…じゃあ去年と同じ状況って事?
「はい…でもどうすれば元に戻れるかボクには…」
砂嵐で身を隠されていく朝比奈先輩は力強く拳を握り震わせていた。

「君に賭ける」
「長門…?」
「僕らの目的は達成された、君を取り戻すこと。あとは君の目的を果たせばいい」
あたしの目的…?
「君が本当に望んでいるものなに?」
「――――」
心臓を鷲掴みされたような感覚。あたしの望みは――と一緒に…。
「待ってますよ、ここで」
一姫があたしをその豊かな胸で抱いた、いつもならば忌々しい事この上無いが、今は少し安心する。

「涼宮君は保健室にいます…あの、その…お茶!用意してますから…」
ふるふると体を震わせながらその瞳に涙を浮かべる朝比奈先輩。泣かないで朝比奈先輩、貴方に泣かれるとあたしは凄く不安になってしまいます。

「また、皆で――」
その先の言葉は無いようだ。それだけ言うと長門はあたしから一姫と朝比奈先輩を引き剥がし…

「――――!」
三人があたしに向けてグーサインを見せた。皆はどこまでも笑顔で、あたしの不安を払拭させて行く。
一つ頷いてみせると、三人はプツリと電源を切ったTVの画面のように消えて行った。

あたしは1人、晴彦の元へ歩を進める。

去年出せなかった答えを見つける為に――


次話
2008年03月27日(木) 19:27:27 Modified by huuka16181225




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