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涼宮晴彦の悲愴〜ストレイト・ストーリー〜第三話

古泉一姫が意識を消去させる数分前、彼女の戦いを瞳を潤ませながら眺めている少年がいた。
未来からやって来たエージェント、朝比奈みつる
彼は如何に自分が無力極まる存在かを認識している、そしてそれ以上にそんな自分が許せないでいた。

「古泉さん…」
彼女の信念は一度音を立てて崩れてしまいました…その筈なのに、今は清々しい程の笑顔でボクと長門君にグーサインを向けている。
彼女は覚悟している。死ぬ事ではなく、皆で『日常』に帰還する事を。そしてそれは他でもなく、自分自身も強く強く願っていた。
彼女の姿は100年間暴風雨に曝された廃墟染みた格好である。額は割れ、肩から白い骨が血と一緒に見え隠れしている。腹部には致命傷としか思えないくらいの大きさの穴がぽっかりと空いている。その脚はもうボロボロに草臥れていた。

「なんで…」
問わずとも理解はしている。なぜそこまでしてもなお『それ』を望むかを――
今一度彼は自分を激しく罵る、未来人のくせになにも出来ない自分。誰かを頼る事しか出来ない不甲斐ない自分。

「………」
力が欲しい…。
ただ皆の力になれる少しだけの力、今全てを失ったとしてもそれが何よりも欲しい。
古泉さんは女の子なのに、煉獄の苦しみに耐えながら戦っている。
長門君はいつもなら信じられないくらい苦悶の表情で、なお彼女の支援を拒まず、最後の鍵を用意しています。

自分は?自分はただ見ているだけなんですか?それでいいんですか?それしか出来ないんですか?

「やああぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
「―――!?」
古泉さんの咆哮が木霊する。彼女の体は敵の牙により次々と喰い散らかされて行く、ふと宙を舞う何かが目についた。

「あ……」
ドチャリ、水っぽさを醸しながら地面に落下したのは彼女の左腕でした。突如とし顔を覗かせる嘔吐感…それでも彼女は前へ進む事を諦めはしなかった。

「そうですよね…」
彼女が見せた笑顔とそのサイン、それを見た時に決して諦めてはいないと言う事を教えられ、そしてそれにボクも笑顔で返した。
目は逸らさない、彼女が"次へ"繋いでくれる筈だから、恐れてはいけない。彼女は怯んではいないじゃないですか、恥ずかしいとは思わないんですか?ボクは――!!
瞳にうっすらと涙を溜めるボクの肩を優しく長門君が叩く

「大丈夫」
「長門君…」
「君はやれる、信じている」
「長門君――!」
彼は言った、皆の力が必要だと。
それはボクなんかでも出来る事があるという証、ボクが皆の力になれるという証。ずっとずっと望んでいた力です!

「はい」
1つ返事をして、ボクはゆっくりと瞼を降ろす。古泉さんは全てを投げ出して、全てを取り戻そうとしている。長門君も余裕など皆無なのに今最後の助力を古泉さんにした。

ボクはどうだろう?
女の子の古泉さんだけにそんな重荷を背負わせていいのだろうか?長門君だけに責任を持たせていいのだろうか?
それは許される?許せる?他でもない、自分が自分を許せる!?

答えは否――
ボクはなぜここにいる。
―取り戻したいものがあるからです―
ボクはなぜここにいる。
―少しでも弱い自分を変えたいからです―
ならやるべき事は分かっている筈です。
そうですよね、女の子だけに任せてはいけませんよね…
だって、だって…
こんなボクでも、男の子なんだから…

「ボクにもあるんです…」
どんなに矮小で弱小でも、それでもボクは男の子なんです!

彼女が跳ぶ、幕は上がった。
すくむな脚、震えるな腕、挫けるな心、目を開けて前を向くんです!あとはただ…
ひたすら光射す方へ――

「意地があるんです!男の子にはぁぁっ!!」
「朝比奈先輩!!」
彼女が叫ぶ、敵を見据えてボクは呼応する。

左目に着けたカラーコンタクト、スカイブルーがその色そのままに輝き始め、ボクの言葉と共に敵を貫く一筋の流星と化す。
自分はなぜここにいる、自分はなにが出来る、自分が望むその全てを賭けて――
鳴らせ、存在証明

―ボクは、ここに在る―

「ミツルビィィィィィムッッ!!!」
叫んだその瞬間、左目前方にこり固まっていた青白い球体が一本の閃光と成り、敵へと暴進した。

「朝比奈先輩――!?なぜ、あんたなんかに!」
敵の罵倒等に聞く耳は持ちません。今はただ自分が出来る事をただするだけです。
瞳から滑降したその閃光は、ジュウジュウと空気中の分子等を溶かす音とともに直進していく。ただ一人の敵を目指して

「くぅっ!」
古泉さんを振りほどいた彼女は右手を前方へ掲げ、高速詠唱を試み防御フィールドを展開した。

バズンッ!漏電した電線がショートしたような音を立てて、ボクが発生させた物と敵のフィールドが接触し、互いの存在を否定し合うかのようにせめぎ合う。
激突する流星に似た閃光と、全てを遮断する筈であろう盾。
それが今、光が暴風と高熱を残骸として周囲の空間に撒き散らしながらその盾を喰い破っていく。
あと一押し、それがあれば少年の牙は敵へと突き刺さる。

「わああぁぁぁぁぁぁああっっ!!!」
裂帛の気合いを以って、朝比奈みつるは体中にある全ての力を左目に注ぎ込む。
恐怖に押し潰されそうになるその心を守るかのように声を荒げる、左目が熱い、まるでマグマの中に放り投げられたかのようだ。
――でもやるんです!
長門君がやれると言った、古泉さんが繋げてくれた勝利への、奪還へと続く小さな小さな糸を手繰り寄せる為に!

――『これは、映画の撮影の時に使ったカラーコンタクト…』
『そう、涼宮晴彦によって創られた指向性不可視帯域コヒーレント光を属性変化、内部情報防域領界突破型フォトンレーザー…』
『…つまり彼女に掛けられているプロテクトを解除するものと?』
『そう』
『でもでも!それじゃキョンちゃんに怪我が…』
『心配は要らない、外傷性質は皆無。これは彼女の内部に居る敵までの道を切り開くだけ』
『………』
『それ以上に問題なのが、最大効果出力でしか発射出来ない為、恐らく一度しか使用出来ない。そしてそれが使用者に多大な負担をかかることになる。チャンスは一度』
『………ボクなんかがそんな重要な役目を負ったら皆に迷惑がかかるんじゃ』
『朝比奈先輩…』
『これは君にしか出来ない、涼宮晴彦が与えた力を使うのはこのコンタクトレンズを使用した君だけ』
『長門君…』
『朝比奈先輩、長門君も言いましたが、皆の力が必要なんですよ』
『………はい!』――

「うあぁぁぁぁああぁぁっっ!!!」
「く――」
もう少し、あともう少しで届くんです。左目は既に『熱い』としか感じられなくなっています、限界を越えた極限が目前。ボクの体が持たなくなるまで時間がありません――届いて下さい!
瞳から溢れる血と涙、青のカラーコンタクトをしている筈なのにその目は鮮血に染められている。
パキパキとひび割れていく音、負荷に耐えられずコンタクトが崩壊を始めた。
痛い!痛い!痛い!
でもまだやれます、やらなきゃいけないんです。もう泣くだけの自分は嫌だ、皆に助けられるだけの自分は嫌なんです!彼女を助けたい、彼を助けたい
その為だけに、ボクはここにいるんです!やらなきゃいけない事をやるだけだ!!

「だあああぁぁぁぁああ――っっ!!」
自身を喰らおうとする恐怖と言う名の化け物を振り切る為に、ただただ咆哮を続ける。逃げるのではなく、撃ち破る、自分の弱さを知る彼の心の強さが今ここに現界する――

パウ…と、彼女が発生させていたフィールドが熱に溶けたわたあめのように孔を空ける。
「な――!?」
戦慄、彼女は身を震わせた。朝比奈みつるが放つ謎の閃光、これが涼宮晴彦によって持たされたものだと知っている。
それ故の恐怖――
彼が持つ情報錬成連結及び解除能力、その力の一端が鎌首をもたげて自分を狙っている。それを喰らわば敗北はより濃厚となる、漸く見つけた進化の可能性…ここで放棄する訳にはいかない
――が、
その思考の3分の1に至る前に、朝比奈みつるの『想い』が彼女を捉えた。

「ああああああああああ!!!?」
その閃光が体に直撃すると同時に走る激震、その全ては劇痛となって彼女の脳に一点している。
『彼女』と『彼女』を繋ぐ一本の道、それを塞ぐ十重二十重のプロテクト。それら全てを一筋の光が爆散させていく。
バキン!バキン!と撃鉄が下ろされ発射される薬莢、その度に自身が構築した防域プログラムが破壊されていく。
――少年は勝利した。
己が弱さを恥じ、己が無力さを憂い、己の存在が何れ程無価値か嘆いた、その先にある絶対的な境地にある強さを手に入れたのである。
それは誰しもが持ちうる葛藤、しかしそれを乗り越える事が出来る者は一握りの存在。彼は本来その握られた拳から溢れ落ちる存在であった。
だが彼は残った。
仲間が居た、護りたい人が居た、譲れないものをその小さな体に宿している。
それは必然、あらゆる弱さを体現し得る弱小者が辿り着いた世界。

――勇気と銘打たれた強さを、今少年は確かにその小さな掌で掴んだ。

―パンッ!―
瞬間、彼の左目に着けていたカラーコンタクトが破裂した。
人外の力を最大まで行使した為に、それに耐えきれなかったのだ。
もう彼の左目には光は無い。眼球はコンタクトの破片でズタズタに引き裂かれ、涼宮晴彦によってもたらされたその力を極限までに行使した為に神経は焼き切れていた。
潰れた左目から止めどもなく溢れる鮮血、しかし彼は事を成し遂げたと言う思いで胸を踊らせていた。

「―――――あぁ」
最後に潰れた左目が映した画は、頭を両手にもがく彼女に向かって猛る焔のように爆進する長門有紀の背中であった。

「―――――あぁ」
繰り返す感嘆のため息。
どうやらボクは上手く"次へ"繋げれたようですね、あとは長門君がやってくれる。ボクの出番はここで終わりです。
くたりと、両膝が地面につく。もう立つ気力も体力も残っていません…情けないですね、ボクは男の子なのに…これじゃあキョンちゃんと古泉さんに笑われてしまうかもしれません…。
だけど…もしかしたら…
凄いね、良くやったね、と褒められるかもしれません。もしそうなら何れ程嬉しい事か…
ふと、隣に在る人物に目が行く。そこには傷だらけの少女が微笑みながら『眠って』いた。
恐らく長門君の力でしょうか、空間転移はそれほど難しいものではない――と彼ならつらっと言いそうです
左の目蓋が開かない、ぴくりと動かせばそれだけで失神するほどの激痛が体を蝕む、しかし例え開けたとしてもそれは無意味、もうそこには何もないのだから。
あぁ…疲れました、少し眠いです。古泉さんも寝ていますし、ボクも少しばかり休んでしまいましょうか…
長門君には申し訳ないんですけど、もう体を起こしているだけで辛いんです。
ドサリ、と電池が切れた自動人形のように横合いに倒れる。少年の目蓋の隙間から溢れる血と涙、それは何を意味するかは少年意外誰にも分からない。
そして、己の存在証明を確率させた1人の勇気ある少年は、微笑を浮かべながらゆっくりと眠りについた。

―古泉一姫の意識消失から58秒後、朝比奈みつるの意識は闇へ埋没された―


次話
2008年03月27日(木) 04:48:18 Modified by huuka16181225




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