PINKちゃんねる-エロパロ&文章創作板「依存スレッド」まとめページです since2009/05/10

作者:wkz◆5bXzwvtu.E氏

 視線を伏せたわたし。
 杜守(ともり)さんがどんな表情をしているのかは判らない
けれど、いつものとおり、余裕のある微笑みを浮かべているの
だろう。
 恥ずかしくて、視線は合わせるのはとても出来ないけれど、
杜守さんの唇は見える。

 ごくり、なんて。
 自分が唾液を呑み込む音がやけに大きく聞こえる。
 神様。神様なんて居ないのは判っているんですけれど、わた
しの脳内会議の一員として、この暴挙の成功を祈っててくださ
い。
 あと、懺悔が必要そうなので、今のうちにいっておきます。
 ごめんなさい。でも、この暴走ばかりは見逃してください。

 わたしは杜守さんの唇に、舌を這わせる。

 キスではなくて、甘えるために。
 杜守さんの下唇を舌先でなぞり、ちょっと荒れたその感触に
異性を感じてぞくりとする。杜守さんの膝の上のわたしの身体
には、いとも簡単にスイッチが入る。
 ただでさえ10日も杜守さんに触れないで居たのだ。その間も、
あの恥ずかしいオナニーを続けていたわたしの身体は、可燃性
の油をたっぷりぶちまけたわらの束のように燃え上がりそうに
なる。

 でも、ダメだ。
 わたしはわたしの身体に快楽を貪ることを禁じる。
 今は、杜守さんに甘えなければならない。
 宣言通りに、魂のそこから、杜守さんのために甘える。わた
しは自分自身を杜守さんへの捧げ物のように、大きなしっかり
した身体に寄せる。杜守さんの腕の中にしなだれかかって、わ
たしが少しでも美味しいごちそうに見えますようにと願う。

 ちょんちょんとノックをした舌先、わずかに緩んだ杜守さん
 の唇をくまなくおしゃぶりをして、ゆっくりと離れる。

「杜守さん……」
 あの、そのぅ、と言葉が空回りする。
 身体の中では押し殺された欲求が、聞き分けのない駄々っ子
のように不満の声を上げているけれど、わたしはその誘惑を受
け入れながらも、受け流す。
 そりゃぁ、自分でも判ってはいる。わたしの下半身は甘く痺
れて、下着には潤みが広がっているのだ。

 でも、それを我慢することにわたしは慣れていた。

 ヒリつくような、むず痒いような、じわじわと満ちてはそそ
のかすこの誘惑を我慢すればするほど気持ちよくなれるのを、
わたしの身体はもう覚え込んでしまっている。
 それに今は、わたしが気持ちよくなることなんかよりも、ず
っとずっと大事なことがある。杜守さんに少しでも気持ちを許
して欲しいから。そのための方法を一つしか思いつかないわた
しは、茹だり上がってパニックになりかけた自分に叱咤激励し
て、続く言葉を探す。

「甘え、ちゃいます」
「えっと、発情しちゃった?」
 杜守さんの腕が腰に回される。たったそれだけの動きにわた
しの肌は敏感に反応して、ひゃうんなどと云う声が漏れる。わ
たしはだらしなく開きかける唇から熱い吐息をこぼして、それ
でも踏みとどまる。

「はい……もう、あそこも……くちゅくちゅになって……ます
……」
 上目遣いに杜守さんを見上げる。
 うううう。

 視線があった、杜守さんが見てる。わたしの顔を見てる。
 でも、もう逃げない。逃げる場所なんて無い。
 温度をぐんぐん上昇させる自分の頬を意識しながら、恥ずか
しさに脳を灼かれたわたしは続ける。

「でも、発情してるだけじゃなくて……。今日は、わたしが、
杜守さんに……甘えて、ご奉仕する、日」
 胸が苦しくて、それだけを告げるのに何度も息継ぎを必要と
する。わたしはとんでもないことをしちゃってる自覚をもちな
がら、シャツのボタンを外す。

 杜守さんが見てる。
 杜守さんの視線がわたしの指先を追っている。
 変態だぁ。とは思う。じ、自分から見せつけるなんて。そん
なのおかしい、変態だぁなんて思う自分も入るけれど、これが
密かな妄想だったと判っているわたしも居るのだ。杜守さんに
膝に上にまたがって、自分からドレスシャツのボタンを外して
誘いかけるなんて、そんな妄想で1人えっちをしてしまったこ
とも、二回や三回でもない。
 自分でも、ちょっと引くくらいえっちな女子だと思う。

 でも、止めることなんて出来ない。
 わたしは杜守さんと瞳をしっかり見つめながら、時間を掛け
て白いシャツのボタンを外してゆく。もう肌が見えてるかな、
とか、胸が見えちゃってるかな、なんて云う理性的な思考は、
あっという間に蒸発してゆく。
 杜守さんの視線の熱で暖められた肌の感覚は、痛いくらいに
敏感で、ブラの裏地にこすれるだけで視界が霞むような快感を
伝えてくる。
 ボタンをすべて外したわたしは、シャツを脱がずに、そのま
まブラをすりあげる。フロントホックだったら良かったんだろ
うけれど、わたしの胸はそれほど大きくないのだ。オマケに白
一色で、デザインなんかも割と普通っぽくて、居候だから当た
り前なのだけど、色っぽくもなくて。
 それが申し訳なくて、杜守さんにせめて謝罪しようかと思っ
 た瞬間、杜守さんののど仏がこくりと動くのが見えた。

 それじゃ、そんなに不合格というわけでもないんだ。

 わたしはほっとするよりも、酔ったように発情した気持ちに
なってそう思う。杜守さん、杜守さん。こんな貧相なわたしで
も、ちょっとは良いかもと思ってくれたりしますか?
 もしわたしを抱きたいと思ってくれるのならば、出来る限り
甘く食べて欲しい。そのためにだったら、どんな恥ずかしくて
えっちなことだって出来ちゃうのです

「……胸、もう、とがってます」
 わたしは大事な宝物のように杜守さんの手を取る。長くて器
用そう指を持つ杜守さんの右手。それをわたしは両手で捧げる
ように支えて、わたしのシャツの隙間から忍び込ませる。
 ブラ潜り込ませるように誘導して、コントロールするよ
うにその指に自分の指を絡ませて、しっとりとした肌に押しつ
ける。
 杜守さんの掌は熱くて、わたしび口から動物的な声が漏れて
します。わざと杜守さんの右手にわたしのそれを重ねて、自分
の胸の柔らかさを確認するようにこねてみる。

 とがりきった乳首が杜守さんの指先をかすめ、やがて捕らえ
られる。揉むと云うよりも揺するような刺激を加えられて、甘
い嬌声が漏れる。自分のものとは思えないほど艶っぽい声に、
頭のどこかで羞恥心が湧くけれど、それもこれも気持ちの良さ
を煮え立たせる燃料になってしまう。

「えっと、眞埜(まの)さ……ん?」
「はぁ……。はい……」
 杜守さんの声に少し戸惑いが含まれてるのが判る。でも、杜
守さん。ごめんなさい。甘く蕩け掛けた頭の中で、わたしはも
う決断してしまっている。一生に一回しか出来ない決断を、身
体の欲求でしちゃってる。

「ん……」
 杜守さんは結局何も言わず、わたしの腰を引き寄せて、抱き
しめようとする。でもわたしは、その杜守さんの手の指にしっ
かりと指先をからめて、胸に抱えるように離さない。
 抱き寄せようとする自分に抵抗するわたしを杜守さんはいぶ
かしげに見る。その視線を、出来る限り頑張って受け止めて答
える。
「だめ、です。……今日はわたしが甘えて……ご奉仕する日な
ので、杜守さんは、動いちゃ、ダメ」

 普段合わせない視線を絡めているから、恥ずかしくて、切な
くて心臓の音が耳の中でうるさいほど。
 ううう。こんな状況で表情を見られるのがこんなに恥ずかし
いなんて。わたしはきっとリンゴみたいに真っ赤に染まってい
る。えっちなおねだりをする、欲情した表情をしちゃってるん
だ。泣きそうに潤んだ瞳を、それでも杜守さんにじっと合わせ
る。

 杜守さんの表情に困惑以外の欲求もゆれてるのに、少しだけ
救われる。恥ずかしくて、胸がどきどきして、ポンコツのダメ
女子としては壊れそうだけれど、杜守さんの事を気持ちよくし
たいという気持ちだけで、わたしはつっかえながらも、かすれ
た声で再度「ダメです……」と告げる。

 胸に擦りつけた杜守さんの右手。それをそのまま捧げ持って、
キスをする。杜守さんの指先は一瞬逃げるみたいに動くけれど、
唾液をたっぷりと絡めた舌先でペロッてしたら、金縛りにあっ
たみたいに緊張してる。
 わたしは少しだけ楽しくなって、心の中でいただきますをし
てから、口の中に迎え入れる。

 唇で甘くかみしめるように咥えて、ぺろぺろと犬みたいにな
める。わたしは杜守さんの指先だと思うとそれだけで嬉しくて
幸せになってしまう。もちろん味が有るわけではないけれど、
幸福と欲情にたっぷりと侵されたわたしの脳は、その指先の情
報をあっさり「美味しいもの」と判定してしまう。

 杜守さんの指は美味しい。
 そう言うことだと脳が認識してしまえば、あとは一直線だっ
た。舐めてるだけで、腰が痺れて、ゆるゆるとした動きを止め
ることが出来まない。ううう、わたしえっち女子だぁ。
 おしゃぶり気持ちいい。
 指でこんなに気持ちいいなんて、その先のことを考える時が
遠くなりそうだ。

 わたしはぺろぺろしたまま、泣きそうな瞳で杜守さんを見る。
……あ、杜守さんも照れてる。それに、杜守さんだって発情し
ている。わたしの視線に気がついて、不意にそらした杜守さん
のその表情。わたしはそれだけですごく嬉しくなってしまう。
 そうかぁ。こんなダメ女子の廉価版ボディでも、杜守さんは
欲情してくれるんだ。嬉しい。嬉しすぎる。もっともっと甘え
たい。もっともっと杜守さんを気持ちよくしたい。

 杜守さんの指も手も唾液でべとべとにしながら、そっと離脱
した右手の指先で、今度は杜守さんのシャツのボタンを外す。
杜守さんはちょっと抵抗したそうだったけれど、自分でもえっ
ちくさいと思うくらいあふれた唾液で、指先をあむあむとした
ら、観念したみたいだった。

 はだけた杜守さんの胸板。あれも美味しそう、なんていささ
か物騒な考えが頭をよぎりながら、わたしは杜守さんの膝の上
を十五センチほど接近する。

 杜守さんの裸の胸に手を触れて、ちょうど良い位置を探して
腰を下ろすと、太ももの間に熱くてボリュームのある感触。そ
れが何なのか想像がついた途端、わたしはまるでお漏らしをし
てしまったような恥ずかしい快楽にさらわれる。
 固く張り詰めた杜守さんのもの。小さなため息みたいな声が
杜守さんの唇から漏れて、わたしの脳は羞恥心と、もっと湿度
の高いねっとりとした感情で一杯になる。

「杜守……さ……ん」
「……んぅ」
 きっとそれは、少しだけ杜守さんにお返しをしたいわたしの
欲情。杜守さんの腰を太ももでぎゅぅっと締め付ける。
 杜守さんからはスカートに遮られててまだ見えないと思うけ
れど、下着の中のあそこは杜守さんの固い下腹部にしっかりと
あてがわれて、どろどろと蕩け始めている。

「杜……守さ……ん」
「なに……?」
 わたしは無理矢理視線を上げる。杜守さんの瞳を覗き込む。
わたしがお漏らしみたいに濡らしているはしたない娘だって、
きっとばれちゃってる。

「眞埜は……」
 でも、いい。
 自分のことを名前で呼ぶなんて、とても恥ずかしい。でも、
恥ずかしいのが気持ち良いのだ。こんな甘ったるい声で媚びた
おねだりをするだけで、身も心もどろどろになってゆく。そう
杜守さんに癖を付けられちゃっている。
 恥ずかしいのに、えっちなのに、それが嬉しくてたまらない
中毒患者にされてしまっている。

「眞埜は、発情した……甘えん坊です……よ?」
「……」
 杜守さんの視線が強くなる。身体が緊張して、筋肉が震えて
いるのが判る。わたしも必死に我慢をしているから、杜守さん
の我慢が自分自身のことのように判ってしまう。

「眞埜の……からだ、えっちで……どろどろ……ですよ?」
 わたしは腰を浅く浮かせると、じれったいほどゆっくりと、
確認するように杜守さんの熱いこわばりの上に降ろしてゆく。
わたしに太ももの間の身体中で最も軟らかい肉が、杜守さんの
性器にねっとり絡みつくように。体重を掛けるその刺激で、脳
の細胞がどんどん光になって壊れるのが判る。
「うんっ」
 杜守さんの腰がもどかしそうにうねる。それを咎めるように、
強い力で太ももを締め付ける。

「甘えんぼでも……良い……ですか?」
 腰を揺する。重心をずらして、杜守さんの上でゆらゆらと腰
を舞わせる。それだけで、口がだらしなく緩んで、甘え声が止
まらない快感が背筋を走り抜ける。それでも、わたしは、必死
で視線を杜守さんに搦めて、自分のすべてを杜守さんに捧げ続
ける。

「うんっ……。うんっ」
「杜守さん……が」
 もう限界が近かった。
 締め付けた腰の下着とズボン越しではあったけれど、杜守さ
んの熱いこわばりが欲しくてわたしのあそこは、甘痒い切なさ
をどんどんとため込んでいる。何かにしがみついて必死にぎゅ
ぅっとしたくて気が狂いそうだった。

 でも、それでも。どうしても杜守さんに言わなきゃならい事
があるのだ。
「……杜守さんが、甘えて……欲しぃ……ときに、甘え……る
ので。杜守さんが……いないと、ダメなの……で。……杜守さ
んのものに。……杜守さんのものに、なりたいっで……す」
 杜守さんの動きが止まる。何かを必死に考えるように。何か
を追いかけて、突き止めようとするように。

「杜守……さん、が。……寂しい……時に……ぁ、あんっ。…
…甘え……ます。良い子に……してますっ」

 もどかしかった。
 わたしの脳は、やっぱりお粗末で、思ったことの何十分の一
も上手く云えない。こんな色仕掛けみたいな方法で、杜守さん
が意志を変えるはずなんて無いと判っている。けれど他の方法
なんて思いつかなくて。

 ……杜守さんは、たぶんわたしには想像もつかないほどセキュ
リティが固い人なのだ。杜守さんの「内側」に入るためには、
限りなく難易度の高い試験に合格する必要があって。一緒に暮
らしているだけでは、到底「内側」に入れてもらった事にはな
らなくて、わたしはいつまでも「居候だけどお客様で」。
 そう思った時の切なさと苦しさを思い出して、涙ぐみそうに
なる。
 もし杜守さんの「内側」に入れるのだとすれば、それは完全
に杜守さんの味方しかいないんじゃないか。杜守さんを絶対に
裏切らない。杜守さんが居なければ生きていけないような人じゃ
ないと、杜守さんの「内側」にはなれないんじゃないか?
 ――そう思いついたら、わたしは杜守さんに「おねだり」を
するという欲求に耐えきることが出来なかった。

 だって、杜守さんを絶対に裏切らないなんて。
 そんなことはわたしには当たり前すぎて。
 それを証明するのは目もくらむほどの誘惑で。

「杜守さん、杜守さんっ……」
「眞埜さん……」
 抱きしめようと腕を伸ばす杜守さんを必死に拒絶する。今抱
きしめられたら、ちゃんと告白出来ない。杜守さんは優しいか
ら、わたしがこんな風に自分を売り渡すことを自分からは望ま
ないと思う。でも、それは違う。全然違うのだ。
 ……わたしは、杜守さんが居ないとダメで、それは杜守さん
の側の事情とは関係なく、ただ単純にわたしが杜守さん無しで
は狂ってしまうと云うだけなのだ。
 もしかしたら、わたしと杜守さんは、こんな言葉を交わさな
くても、長い間上手くやっていけるかも知れない。
 でも、それは卑劣な行為だ。わたしはダメ女子で変態で堕落
もしているけれど、それでもちゃんと言葉にしたい。たとえ相
手から何ももらえなかったとしても、自分の「本当のこと」だ
けは言葉にしておきたい。

「杜守さんが居ないと、ダメ……です。もう、杜守さんで……
すっかり、癖になっちゃったの……です。……毎日、杜守さん
で……オナニーしてます。……いかないように、してます。杜
守さんに抱かれないと……イケないように……癖を付けて……」
 杜守さんに見られてる。
 えっちな告白をしてる、泣きそうな、でも快感にゆるんだ顔
を見られてる。杜守さんが居なくなったら行くところのない、
だめな娘の顔を見られてるっ。

「杜守さん、杜守さんっ。……杜守さんのこと、絶対絶対、裏
切らないです。……杜守さんの言いつけは、なんでも……云う
こと、きき……聞きます……」

 荒い呼吸と弛緩のせいで、口を閉じておくことも出来ない。
 油断するとわなわな震える唇から舌がこぼれて、透明な唾液
と共に、胸の谷間へと落ちてゆきそうになる。

「ぎゅっとして……欲しい……。撫で撫で、して……欲しぃ。
……かまって、キスをして……抱きしめて……突き刺して……。
頭の中がぁ……うぅ。真っ白になって……杜守さんの……熱ぅ
い……あぅ。その、うううぅっ。…………精液で……お腹の中
を一杯にして欲しい……ですけど」

 自分のえっちな妄想を、恥ずかしい言葉で告白する。
 もうわたしの脳はどこもかしこもスパークしていて。
 シャツが肌を擦る度に、ゆるゆると杜守さんに擦りつけてい
る下着の中でクリトリスがひしゃげる度に、まるで自白剤を打
たれたみたいにいやらしい懇願の言葉が紡がれる。

「眞埜は、良い子……なので……ちゃんと、あおずけっ……ん
くぅ……できますっ」

 杜守さんっ。杜守さんぅっ!!
 頭の中は、その名前だけで一杯になる。
 キスしたい。杜守さんの身体のどこでも良い。唇を付けて、
ぺろぺろして、全身で抱きついて、何もかも判らなくなるくら
いほおずりしたい。でも、その狂おしい欲望を押さえつけて
「良い子」であることを証明しなければならない。

「お預け……も……我慢も……、良い子……にするぅ。……し
ます、から……甘えて、ください……」

「眞埜さん……」
「甘えて……杜守……さ……」
 甘えて欲しい。油断して欲しい。
 入れて欲しい。
 杜守さんの「内側」へ。
 そうしてくれるなら、わたしなんてどうなってもかまわない。
杜守さんの居ないこの部屋で一ヶ月放っておかれても、杜守さ
んが甘えてくれるなら、かまわない。

「うぅ。うー。……か、か、飼い主様ぁ」
 自分の死刑執行書類にサインをするような気持ちで、心の中
で呼びかけていた秘密の呼び名を杜守さんに告げる。

 不意に強い力で引かれる。
 杜守さんの腕の中というよりは胸の中に。息苦しいほどに抱
きしめられて、頭がくらくらする。杜守さんだ! すごいっ。
杜守さんなのだ! 頭の中は、幼児退行しちゃったようにそん
なバカみたいな言葉がリフレインしていて、わたしはもがくの
も忘れて、自分からもしがみついてしまう。

「埜間さん、可愛いすぎ」
 ぼそりとした声と共に、わたしはがばっと抱き上げられる。
いつの間にか体勢はお姫様だっこだった。女子憧れのこの姿勢
だけど、杜守さんの方にはいっこうにそんな情緒はなくて、怪
獣のような足音を立てて居間を横切る。

「ひゃんっ!?」
 杜守さんは、自室のドアも半ば蹴飛ばすように開けて布団の
上にわたしを放り出す。厚い羽毛布団の中に埋もれるように沈
んでしまうわたし。
 杜守さんはそんなわたしに覆い被さって、「脱がしちゃうか
らね」と告げる。わたしはこくこくと頷く。ちょっぴり杜守さ
んが怖かったのは本当だけれど(何しろ杜守さんはえっちの時
になると、相当いじめっ子になるのは前回身にしみている)、
良い子になると宣言してしまった直後のタイミングでNOなん
て云えるわけがない。

「甘えても良いんだよね?」
 杜守さんの言葉に、わたしははっきりと頷く。杜守さんは…
…えっちの最中は、意地悪なドSなので、甘えさせてあげたら
どんな要求をされてしまうか判らない。でも、わたしはわたし
の全部を杜守さんにあげるって決めてしまった。
 身体も心も捧げて、そして、ちょっとだけでも杜守さんの何
かを購うと決めたから、恥ずかしいけれど、ちょっぴり怖いけ
れど、躊躇いはない。

「……うん」
 杜守さんはちょっと視線をそらして、照れたような表情で、
わたしのドレスシャツを脱がせる。もうずれきってしまったブ
ラジャーからも肩を抜き、マーメイドラインのデニムスカート
を脱げば、わたしに残されたのは、シンプルなショーツ一枚だ。

「隠しちゃ、ダメ」
 うううう。杜守さんはいじめっ子だ。
 わたしの自慢できるほどのサイズはない、かといって貧乳で
もないという、なんだか一番どうでも良い「標準から云えば、
ちょっと小さめ?」くらいの胸を杜守さんは蛍光灯の明かりの
中にさらけ出す。
 冷房のきいた空気の中で、乳首がかちかちに期待しちゃって
熱を持ち、とくとくと鼓動しているのが自分でも判る。暑くて
暑くて目眩がしそうだけれど、これはわたしの身体の温度。

 杜守さんは小さく微笑うと「両手は耳の横、小さな万歳で、
シーツも握っちゃダメ。……掌はゆるーく開いてね」なんて云
う。わたしは何でそんなことを云うのか判らないまま、仰向け
に横たわり杜守さんにすべてを晒してしまう。

 始めに感じたのは呼吸。怖くて目をぎゅっとつぶっていたわ
たしは、杜守さんの頭部がすぐそばにあったのも判らないくら
い錯乱していた。
 肩にキス。くすぐったい感触が、ぞくぞくした強いスリルに
変わる。首筋に熱い息がかかると、まるで痙攣するみたいにわ
たしの下肢に力が入ってしまうけれど、その直後のキスで魂ご
と緊張が吸い出されれてゆく。
 鎖骨を舐められるのは、自分でも訳がわからないほど扇情的
な感覚で、さして経験も深くないわたしはそれだけでも妄想が
止まらないほどえっちな気分になる。

 杜守さんの唇が続いて降りてゆくのは、わたしの胸。
 来たるべき衝撃に備えてわたしはぎゅっと目をつぶる。荒い
呼吸。とどろく鼓動。わたしの身体はいつからこんなにけたた
ましくなってしまったんだろう。100m走をしたかのような呼
気。わたしがこんなにはぁはぁしていて、杜守さんに嫌割れた
りしたらどうしようとか、そんなネガティブな思考だけがぐる
ぐるしてしまう。

 ……数瞬。刺激が来ないことをいぶかしく思ったわたしが、
そぉっと目を開くと、意地の悪い微笑でわたしを覗き込む杜守
さんと視線が合う。杜守さんがにこっとした瞬間、その指先が、
完全に無防備なわたしの脇腹をさぁっと撫でた。
 くすぐったいのと気持ち良いのの混ぜこぜになった感覚! 
「ひゃうっ」なんて声を我慢できずにもらすわたしを顔を、杜
守さんはじっくりと眺めながらおもむろにわたしの胸に唇を付
ける。

 ごめんなさい、ごめんなさい。
 えっちな胸でごめんなさい。
 何でわたしはこんなになるまで胸を放置しちゃってたんだろ
う。頭の中が後悔で一杯になるほど、わたしの胸は我が儘で。
もはや持ち主であるわたしよりも、ずっと杜守さんに懐いてし
まっている。
 だって、杜守さんがキスをするたびに、膨らみの奥がじくじ
くするほど疼いて、柔らかい舌先が乳首を捕らえると、花火が
上がったような気持ちよさが爆ぜるのだ。
 ううう。むねが、杜守さんのモノに作り替えられちゃう。
 身体が杜守さんのモノになっちゃう。

「だーめ」
「ひゃぅ?」
 もはやまともな志向も出来ないようなわたしに、杜守さんが
言い聞かせるように言葉を続ける。
「手のひらをぎゅぅって握っちゃ、ダメ。さっきお願いしたで
しょ?」
 ――そういえば、言われた気がする。わたしは羊毛がぎっし
り詰まったような脳内でそう考えて、腕の力を抜く。……あれ、
手のひらをゆるめると、身体の力も抜けちゃうんだ。
 杜守さんは褒めてくれるように頷くと、わたしを見つめなが
ら充血して熱を持ったわたしの胸に、ふるんと揺れを送り込ん
でくる。その甘い爆発で、わたしはの身体にはぎゅぅっと力が
入り、再び手のひらも握ってしまう。

「だーめ」
 ううう。そんなこと云われたって……。

「これは『おねだり』。眞埜さんが、ゆるゆるになって我慢で
きなくなっちゃうところ、見せて?」
 悪魔だ。地獄の変態ドSだ。わたしは、おずおずと身体の力
を抜く。杜守さんはにこにこすると、軽いキスをわたしの胸に
まんべんなく振らせる。

 気持ちいい。とろけちゃう。
 杜守さんに食べられちゃう。おかしくなっちゃう。
 胸の先っぽがじんじんする、腰の奥から止めどないほどあふ
れて来ちゃう。

 身体中の気持ちよい場所を、杜守さんに発見される。発見さ
れただけじゃなくて、撫でられて、つままれて、キスされて、
唾液でぬるぬるにされて……。ううう、想像しただけで頭が煮
えちゃうようなえっちな方法で、ほじくられて、かき回されて、
どろどろの中毒患者にされてしまう。

 新しい刺激を受けるたびにわたしの身体は防御しようとする
ように緊張にこわばる。杜守さんはそのたびに愛撫を中断して、
わたしが身体の力を抜いて杜守さんに従順になるまで、待って
てくれる。――うわ、わたしはいま「待っててくれる」なんて
考えた!! 嘘、嘘だぁ! 待っててくれるんじゃなくて、絶
対絶対調教されてるだけなのですよ。
 それを「待っててくれる」なんて、わたしはもう杜守さんに
完全にめろめろなんだ。頭の中まで、しつけられちゃっている。

「だいじょぶ? 眞埜さん?」
 杜守さんが、何か言ってる。
 わたしは杜守さんの言葉に集中して、何とか頷く。

「まだブレーキ踏めるけど、この辺にしておく?」
 ああ、そうなんだよなぁ。わたしは不意に突き上げてくる愛
おしさで、はっきりと首を振る。違和感の正体は、これだった
のだ。
 杜守さんは、セキュリティが厳しい。優しいけれど、どこか
に一線を引いた距離感を保てる人。ちゃんとした、大人の人。

 でも、だから臆病でないなんて誰が決めたんだろう。
 大人は臆病じゃないなんて、いつから信じ込んでしまってい
たんだろう。

「……ダメで……す」
 杜守さんがあまりにも何でも出来るから、わたしに優しくし
てくれるから、杜守さんには弱点なんて一個もないとわたしは
思い込んでいたけれど、そんなことはありえなくて。

 何でも出来る杜守さんは。優しくて大人の杜守さんは。
 甘えることが、とても下手なのだ。

「わたしは……杜守さんのモノなの、で……。杜守さんの、ど
んな『おねだり』……も……良い子に……できま、す」
 杜守さんの身体の中で、ざわりと動く気配がわたしにも判っ
た。大丈夫、わたしは、杜守さんだけのもの。そうなれる。
 杜守さんが居ないと惨めなダメ女子のわたしは、杜守さんが
居なくなったら消えてしまう。

「くふぅ……ひゃぅ」
「ううう、恥ずかしいです……そ、そこは……」
「はぅん。……いじめっこ、いじめっこ。……うー。ごめんな
さい」

 身体をゆるめるのって、すごいのです。
 もう、完全に無防備。気持ちよいことをされても、何の抵抗
も出来ない。触られる場所がどこであっても、杜守さんに食べ
てもらうためだけに存在する性感帯になってしまっているのだ。

 そのくせどんな場所を触られても決定的な刺激にならず、思
考がどろどろ発酵していくようないやらしい気持ちよさと、赤
ちゃん扱いされて幸福感と羞恥心とで癖を付けられてしまうよ
うな甘ぁい甘ぁい恐怖感が、交互に、時には混じり合って襲っ
てくる。

 波打ち際に放置されたみたいに、その快楽の波は定期的には
高まって、わたしをさらっていって、その度に理性はどんどん
蒸発して、わたしは杜守さんの事しか考えられなくなってゆく。

 いつの間にかショーツも脱がされていて、杜守さんは太もも
までぬらしてしまったあそこを、くりくりと可愛がってくれて
る。そのぱちぱちと弾けるような快楽は、いつものわたしだっ
たら全身をぎゅっと丸めて麻痺しているところだけれど、身体
中の筋力が抜けきってしまったわたしはもはやそんなことも出
来ない。ただひたすらに気持ちよくて、身も心も甘やかされきっ
て弛緩している。

 かき回して欲しいというヒリつくような欲情とは別の、……
そのぅ、恥ずかしい……おしっこを我慢してるような感覚が湧
きあがって来る。でも、それは不快な事だとも思えない。
 居ても立っても居られないような、どこかにしがみついて思
いっきり擦りつけたいような狂おしさが定期的に、じわーっと
せり上がってくる。その波が来るたびに、力が抜けきった下肢
はけだるく弛緩して、いやらしくうねっておねだりの姿を見せ
てしまう。

 多分、わたしはさっきから何度もイっちゃっている。
 でもそれは経験したことがある絶頂とは似ても似つかなくて、
甘やかにゆるゆると登っていって、とろりとしたミルクのお漏
らしをしてしまうような気持ちよさ。脳内がどろりと濁って思
考が出来なくなる。

 杜守さんの永遠の味方。
 杜守さんがどんなに甘えても、格好悪くても、失敗をしても、
きっとわたしよりずーっとすごい。杜守さんが居なければ情緒
を保てないくらい、杜守さんにメロメロなわたしは、絶対に杜
守さんを裏切らない。

 好きだな。
 わたし、杜守さんの事、大好き。

「良い子、します……だからぁ……」
 わたしはもぞもぞと動くと姿勢を直して、仰向けに寝転んだ
まま、二つの手を両耳の脇に上げる。それは喉もお腹も見せて
しまう、絶対従順の降伏の姿勢。
 軽く握って力を抜いた赤ちゃんのような手のひらをふにふに
させながら、太ももさえもじわじわ開いて、女の子の弱点とい
う弱点を全部杜守さんにゆだねる。

「して? ……杜守さん以外……じゃ……ダメになるように…
…して?」
 ううう。恥ずかしさと甘ったるい快楽で、言葉がもつれる。
 今のわたしはどうしようもない恥ずかしい女の子だ。
 唇からも太ももの間からもだらしない蜜をこぼして、全面降
伏の姿で、杜守さんの発情を誘っている。杜守さんに甘えて欲
しくて、とても他人には見せられない、媚びた姿を晒している。

「ちゃっと、力を抜いて……」
 杜守さんののど仏が動く。
「言いつけに……した……がいますから……いいこいいこって
……シテ……ください……」

 杜守さんが降りてきて、ぎゅぅっと抱きしめてくれて。可愛
いよ、って云ってくれた。ううう、それだけでお腹の底が、ひ
くひくしてる。あそこの内側からきゅぅっと蜜を絞り出すよう
な、じれったくて待ちわびるような疼きの恥ずかしさって、男
の人には絶対判らないんだろうな、なんて思うのだけれど。
 杜守さんの言葉がいつもみたいに余裕たっぷりのいじめっ子
と言うよりは、少し照れくさそうだったので、わたしは全てを
許したくなってしまった。

「あぁ〜。うぅぅ……ぎゅぅ、したい」
 だから杜守さんがのしかかり、入ってきた時もきついとか痛
いということが全くなかった。あまりにも滑らかにぬるんと入っ
てきてしまったので、わたしは恥ずかしくてまた感度が1オク
ターブ上がってしまう。
 全身の筋肉を断ち切られたかのように全く力が入らないのだ。

 わたしの身体はだらしなく開ききって、無防備に杜守さんを
迎え入れてしまっている。杜守さんを気持ちよくしてあげたい
けれど、わたしの口からは甘いうめき声しか漏れてこない。
 杜守さんに入れてもらってるあそこだけじゃなくて、全身が
気持ちよかった。こすれている胸先も、揺する腰も、はしたな
く広げてしまった脚の関節さえもが気持ちよい。きっと脳が幸
せでやられてしまって、わたしは杜守さんのすることをただた
だ嬉しく感じることしか出来ないのだろう。

「いいよ。ぎゅってして」
 それは激しい交わりと云うよりも、身体を深く重ねて抱き合っ
ているだけの行為で。杜守さんを一番深くまで受け入れたわた
しはただじっとしているだけだったけれど、それでも波にもま
れる小舟のように甘い疼きに翻弄されてしまう。
 長いじれったい愛撫と度重なる弛緩と緊張で、幸福に蕩けきっ
た身体は杜守さんの脈動だけで天国の欠片を全身に浴びてしま
う。抱きしめたいけれど、ぎゅぅってしがみつきたいのだけれ
ど、腰にも腕にも力が入らない。まるで全身のゴムが伸びきっ
て役立たずになってしまったように力が入らない。
 わたしは、杜守さんの背中に回した手を、子供のような力で
這わせる。

「もう、だめ? ……つらい?」
 杜守さんの笑いを含んだ声。わたしがどんなに蕩け切っちゃ
って、クセになってしまっているか判っているのにそんなこと
を訊ねてくるのだ。

 ……いいのだ。
 杜守さんがそのつもりなら、わたしにだって考えがある。

「飼い主様ぁ」
 わたしはほてった顔で出来る限り無邪気そうに微笑みながら、
自分でもやり過ぎだと思うほどの甘い声で杜守さんに呼びかけ
る。
 ぎくり、と杜守さんの身体に力が入るのが判る。わたしの中
に埋め込まれた杜守さんがびくんと跳ねるのだって、わたしに
は判ってしまう。
 内心では照れくさくて恥ずかしくてパニックになりかけてい
るわたしだけど、そんなことは押さえつける。ううん、押さえ
つけるまでもなく、いまのわたしは「えっちな娘」になってし
まっているのだ。普段のわたしなら出来ないけれど、こんなに
ピンク色にのぼせ上がった状態なら、こんなことだって出来て
しまう。

「飼い主様ぁ」
 甘えるように、懐くように微笑みながら、頬のすぐ横にある
杜守さんの腕にうっとりと頬を擦りつける。杜守さんのものが
、またひくりと大きくなる。
 さっき居間の時も、この呼びかけで杜守さんが動揺しちゃっ
たのは忘れたりしないのだ。杜守さんが意地悪するなら、わた
しだって少しくらいお返しをする権利があるはずだ。
 それは……多分自分自身の変態を認めちゃう、自爆テロに近
い攻撃だけど。杜守さんに甘えるのが気持ち良いって癖を付け
られちゃってるんだから、こんな呼びかけしてわたしの方だっ
て無事に済むはずがない。甘えるような声を立てれば立てるほ
ど、わたしのあそこはくちゅくちゅと噛みしめて、どんどんわ
たしも登っていくのが判る。
 それでも杜守さんが動揺して、動揺以上にわたしの甘い声に
反応しているのは、わたしのなかにざわざわした優越感とうっ
とりするほどの幸福感を呼び覚ます。

「飼い主様ぁ……して?」
 腰を揺する。わたしは飽和しそうな心地よさだけでどんどん
とえっちになってゆく。腰を揺する度に深く埋め込まれたもの
が粘膜の中で微妙に動いて、甘痒い刺激で脳が蕩けそうになる。
発情して、杜守さんしか考えられなくなって、わたしは微笑む。

 ずるい。
 ずるい。
 飼い主様にこんなに幸せにされたら、甘い声も、えっちな微
笑みも止められるはずがない。わたしはくぅんくぅんと仔犬の
ような鼻声をだしながら、潤んだ必死の視線でおねだりをする。

 ぎゅむん、ねじりこまれるような、奥まった内蔵をすりつぶ
されるような衝撃。わたしはお腹の底から呼吸をしぼりだされ
る。音も熱もない乳は苦笑のまぶしさだけが脳裏を占める。後
頭部が痺れるほどの快美感。

「眞埜さん、そうゆーのは、反則っ」
 もう一つ。
 さらに一つ。
 杜守さんが奥まで突き刺して、ぐちゅぐちゅにかき回して、
ほおばりきったわたしの甘痒い所も、ヒリついたところも満遍
なく擦り立ててくれる。わたしの口からは、断続的な啼き声と、
飼い主様、飼い主様というかすれた呼びかけが途切れることな
く続く。

「うー。判った。……するから。眞埜さんが欲しいから。うう
ぅっ。ずるいなぁっ」
 何度も何度も疲れて、その度に沸騰しそうな背骨を、甘美な
電流が走り抜ける。だらしなく舌をこぼした唇がわなわな震え
て、飼い主様に気持ちよくなってもらって褒めてもらうことし
か考えられなくなる。

「飼い主様。飼い主様ぁっ……。ぎゅ、して……甘えて……好
き、大好きっ……いいこするからぁ……。もっと、熱いっ……
あんっ。くださ……奥ぅ……シて、んぅっ!……欲し……」
 飼い主様はわたしを痛いほどの力で抱きしめてくれた。一分
の隙間もないほどみっちりと詰まったわたしの内側を、飼い主
様の熱い固まりが充たしている。奥に擦りつけられるような動
き。
 それだけで何度も何度も登り詰めて、わたしは幸福感で真っ
白に塗りつぶされてしまう。

 抱きしめられる。
 繋がって、弾けて、甘く充たされる。
 さざ波のように繰り返す痙攣の中で、蕩けきった心は杜守さ
んと同じ桃源郷に行って戻ってこれなくなってしまう。

「ぅぁ……」
 わたしは布団の中で身もだえする。目下タオルケットを巻き
付けた体勢で、茹だりきっているのだ。
 もちろんわたしを背中から抱きしめているのは杜守さん。
 あれからもう一度抱かれてしまって、多分真夜中をすでに回っ
てしまっている。

 ううう。いくら何でも今回のはやりすぎだ。前回の発情えっ
ちも変態でえろえろんでやりすぎではあったけれど、それにし
たって今回ほどじゃなかったように思う。
 ううう。自分が杜守さんに言ってしまったこと、やってしまっ
たことを思い出して身もだえする。変態というか、これは世間
で言うところの……ち、痴女に当たるのではないだろうか。そ
りゃ、多少は自覚があるけど。わたしは妄想癖もあるしきっと
えっちくさいダメ女子なのだ。

「ぅぅー」
 さらにそのうえ度し難いのは、こんなに身もだえするほど恥
ずかしいのに、実はあんまり困った気分になれていないのだ。
理性の方は、大きな問題を感じている。いくらなんでもこんな
えっち娘では愛想を尽かされてしまうと思ってる。でも。心の
方は勝手に幸福感をかんじとっていて、わたしがこんなに困っ
ているというのに、頬が緩んで笑みが浮かぶのを止められない。
 心さん、もうちょっと協力的になってください。同じわたし
なんですから。これじゃ泣きそうです。もうわたしは再起不能
かも知れません。

 それにやっぱり、杜守さんは意地悪のドSいじめっ子だ。あ
んなゆるゆるえっちを教えられたら、抵抗出来ない。身体も心
も際限なく甘えん坊になって、杜守さんと一緒のベッドに入る
だけで、どんな「おねだり」にも無条件降伏したい気分になっ
てしまう。強制的に懐かされているというか、こうして抱きし
められていても、指先が勝手に杜守さんの身体を探検しそうに
なったり、脚を絡めたくなったりして大変なのだ。

 一緒に眠る安心感と浄福の幸せを知ってしまったわたしは、
これからロフトで1人で寝るのが寂しくなりそうな気もする。
でも、それもしかたない。1人でいなければならない時は「良
い子でお留守番」すると約束したのだ。おそらく仕事場でも頼
られている杜守さんへの、それは出来る限りの協力。

――1人で何でも出来ちゃうと、頼るのも甘えるのも忘れてし
まうから。
――どんどん無駄をそぎ落として、シンプルになっていける。
けれど、余計な部品を取り外していくと、動機も優しくしたい
気持ちも取り外してしまうんだよ。幸せかどうか考える部品も、
外しちゃうんだ。

 身体を重ねたあと、杜守さんは小さい声でそんなことを教え
てくれた。その言葉の意味はわたしにはちょっと難しかった。
完全に理解しきれないし、わたしは杜守さんにはなれないから、
実感は永遠に出来ないのかも知れない。
 けれど、良く判らないなりに、杜守さんも、つまり「何でも
要領よく出来てしまう人」というのも、それなりの苦しみや辛
さがあるんだろうなって思えたのだ。
 杜守さんの言葉は、だから杜守さんなりの意味合いで「眞埜
が欲しい」と言われたような……。ううん、そんなことを考え
ただけで恐れ多いという気分になってしまうのだけれど。
 こんなダメ女子が何の役に立つのか判らないけど。もし、わ
たしが杜守さんに甘えることによって、杜守さんが何かを失わ
ずにすむのなら、優しくなれるのなら……。あまりにも傲慢で
思い上がった考えかも知れないけれど、わたしは杜守さんにとっ
ての「良い子」になりたい。

 杜守さんが、ううん、飼い主様が「そうだ」と言ってくれる
なら。料理の上手な娘になりたい。か、か、かわいい娘にもっ、
頑張って、なってみたい。本当はなりたかったのだから。それ
から、そのぅ胸の大きい娘にだって……なりたい。
 なれると、良いな。ううん、なる。ダメ女子でも、「欲しい」
って云ってくれるなら、わたしは恩返しをする。
 どうせ杜守さんが居なければ、ダメダメ女子なのだし。

 そういえば、杜守さんは時期をずらしたお盆休みなのだった。
 今度こそ料理を作ってあげなければ。ほんのちょっぴりだけ
ど、作れるレシピだって増えたのだ。杜守さん、杜守さんで飼
い主様。どんな食べ物ならば美味しいって云ってくれますか?
 わたしは、わたしを閉じ込める杜守さんの腕の中でもがいて、
水面へ顔を出すイルカのように布団から浮上する。

「杜守さ……」
 タオルケットから鼻の上を覗かせたわたし。抱きしめてくれ
る飼い主様の腕は温かくて、泣きたくなるほど安心感を与えて
くれて、ここが憧れていたあの場所だという確信を与えてくれ
て。
 そしてわたしは――。
 杜守さんの寝顔初めて目撃したのだった。





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このページへのコメント

これはすごいな。
感動した。

0
Posted by 名無し 2014年05月05日(月) 12:09:49 返信

素晴らしい

0
Posted by 名無し 2013年05月09日(木) 00:22:09 返信

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