PINKちゃんねる-エロパロ&文章創作板「依存スレッド」まとめページです since2009/05/10

作者:3-731氏



 朝起きて目を開けると女の子の寝顔がある。というのは長い間、一人暮らしをしてきた俺にはあまりない経験である。
 全くないことはないとは力強く主張しておく。

 昨日はあれから蕾が俺を離さず、結局宿も一部屋だけ取ることになった。懐かれるのは嫌ではないが
どうせなら色っぽい女性に懐かれたいものである。

 決して、腕に押し付けられる小さな胸や瑞々しく張りのある綺麗な肌や柔らかい身体に色気を感じてはいない。
 時たま漏れる吐息や寝言で俺を呼ぶ声にも何も感じていないのだ。

 ……本当だぞ?

 昨日と同じように二人でテーブルを囲んで朝食を取り、街に出る。今日の目的は日用品の買出しだ。
 今までゲームでは服が汚れたりといったことがなかったため、何着も服が必要になるといったことは
なかったのだが、異変後は汗をかけば匂いが出てしまうようになってしまっていた。
 男の俺はともかく、女の蕾には代えの服がないというのは少し辛いだろう。

 必要になるのは服だけではない。細々とした日用品も必要になる。風呂なんてないので清潔さを保つために
小まめに身体を拭かなければならないし、冒険をする場合にはテントなどの野営道具なども必要になる。

 生きていくために必要なものが増えてしまっていた。まぁ、現実世界では当たり前のことなんだが。
 他のは後回しでもいい。とりあえずは服だ。

 宿屋で街に点在する服屋の場所を聞き、俺達は町中を歩いていた。何時もどおり蕾は半歩後ろに控えて
服を掴んで歩いている。無表情だが尻尾がゆっくりとリズムよく振っていることから機嫌はいいのかもしれない。

「俺はセンスないから、ファッションとか詳しいハルでも誘うか?」
という俺の提案は、

「匠お兄さんは、私の服選ぶの……いや……ですか……そうですよね……。」
 反対はしないが耳が垂れてしょぼんとして泣きそうになったので自ら取り下げた。



 自分で着る服ならユニ○ロでもなんでも気にしないが、人の服を選ぶのは非常に気を使う。出来れば遠慮したいのだが、

「好きなの買って良いぞ。」
といっても、

「匠お兄さんが選んでください。」
と、縋るような上目でお願いされるのだからどうしようもない。
 諦めて店内に並ぶ服を一つ一つ真剣に検討していく。

 普段着る服は鎧の装備の有無で大きく異なる。鎧を身につける場合は下の服はデザインよりとにかく
動きやすい服でなければならない。
 逆に考えれば動きやすければ、色だけを考えておけばいいのだから楽だ。彼女にあげた鎧は濃い茶色なので白い上着と黒のズボンで色のバランスを取る。冒険用なので同じものを三着購入しておいた。

 問題は街での散策用の私服だ。
 難しい顔で蕾を見つめる。茶色の髪。淡い茶色のかわいらしいくりっとした瞳。庇護欲を誘う小柄で
よわよわしい身体。いかにも小動物なびくびくした仕草。
 一瞬、リードのついた犬用首輪を思い浮かべてしまい、首を振って妄想を追い出した。

 自慢じゃないが女の子に服なんてプレゼントしたことない俺には少々難易度が高いクエストだ。ゲームでならともかく。

 ゲーム?
 服飾系のスキルはどうなっているんだろうか。作れるのは判っているがデザインは想像通りに物を
作れるのだろうか。今度試してみよう。

 そんなことを考えながらも服を必死で探していたが、5件目でようやく似合いそうな服を見つけていた。

「こんな感じでどうだ?」
「匠お兄さん……ありがとうっ!」
 購入したのはボーダーの模様の入った濃い茶色のスカートに胸元に赤い小さなリボンのついた白いブラウス。
 一張羅の初心者用の服を脱いで蕾はその服を着る。本当に嬉しいのか耳をぱたぱた動かし、
尻尾をぶんぶん振っていた。

「よく似合ってる。」
「えっ…えええ!本当ですか?」
 服を変えただけで印象が大きく変わった。まるで毛虫が蝶になったような気分だ。野暮ったい捨て犬
から小奇麗な飼い犬に変身している。
 可愛い服を着て嬉しそうな彼女を見ていると俺まで嬉しくなる。時間は掛かったが頑張った甲斐が
あったと素直に思えた。

「櫛やアクセサリーも買わないとな。」
「う……でも、匠お兄さん……お金……。」
「子供が金のことは心配するな。出世払いでいい。」
 ぽふぽふと頭を軽く叩くと、蕾は気持ち良さそうに目を細めていた。

「匠お兄さん。後下着……選んで下さい。」
 さらになにかを期待するような瞳で見つめる彼女だったが、

「お願いだからそれは自分で選んでくれ。」
と断ると、少し不満そうな顔をしながらこくんと一つ頷き彼女はとてとて下着の置き場へと歩いていった。



 買物を終えて、宿に荷物を置きもう一度出かける。次の行き先は公演場だ。
 城を中心に盤の目のように道が走っているこの都市の東部にその建物はあった。公演場とは俺たち
プレイヤーが勝手に名づけた名前だ。主にプレイヤーの開催する音楽イベントのための施設になっているそこは、
多くのギルドの溜まり場でもある。

 β時代から特によくつるんでいた知り合いと組むときの待ち合わせ場所でもあった。しかし……

「いないか。」
「誰がですか?」
 何かのイベントがあるのか大勢の人が集まり、公演場はがやがやと活気に満ちていたがお目当ての
人物は残念ながらいなかった。

「一番長い付き合いの知り合いだ。相棒といってもいいな。そいつが俺達のように閉じ込められているかと思って。」
 いないことに内心ほっとする。この世界に閉じ込められてないということだから。

「そうなんですか。……女の人?」
 聞きにくそうに聞いてくる蕾に苦笑して首を横に振る。

「男だよ。蕾ちゃんと同じ犬人族の刀使いだ。ぶっきらぼうで愛想は良くないが気があってたまに一緒に狩りをしてたんだ。」
「匠お兄さんと一緒に戦える人なの?」
 ちょっと驚いた様子で蕾は俺を見る。PKとの闘い以降、彼女の俺を見る目がちょっと変だ。どこがとはいえないが。

「俺より強い。生産は出来ないけどな。」
「……。」
 表情を見ると俺の答えはちょっと気に入らなかったらしい。その知り合いは求道者といった感じで
近接戦闘に魂を賭けていた。
 スキルは高ければ高いほど上がりにくくなるが上限はないので、βから三年間近接戦闘に注ぎ込んでいた
彼に近接で勝てるものは下手するといないかもしれない。

「いないならしょうがないんだけどな。」
 ふぅ……と溜息をつく。ゲームだけの知り合いだったが三年も付き合いがあった友人だ。二度と会えないと
考えると寂しいものである。

「わ、私はずっといますから!」
 落ち込む俺に必死な顔で慰めようとしてくれているらしい蕾だったが俺は無表情で、

「お前さんはさっさと自立して独立しろ。」
「い、痛い。痛いよお兄さん!」
と、こめかみを両手でぐりぐりしていた。



 もう暫く探したが、見つからなかったので公演場を覗いていくことにした俺達は、直ぐに興味本位で
覗いたことを後悔することになった。

「6000!」
「えええい、7500だ!」
「8000!」
「なにを!こっちは10000だ!!」
 俺は眉を顰めて目の前の光景を見つめる。

「た、匠お兄さんこれ……。」
 蕾は顔を青ざめて俺の腕にしがみ付く。

 公演場と呼ばれ、多くの音楽系ギルドが参加者たちを熱狂させてきたその壇上では、蕾と同年代くらいにしか見えない犬人族の少女が、下着一枚で首輪を付けられて立たされていた。少女は全てを
諦めたように死んだ瞳をして俯いている。
 恐らく、男たちが叫んでいる数字は『値段』。

 俺は近くにいた城の警備兵に近づく。

「すまない。俺達はこの町に初めて着たんだがこれは何をやってるんだ?」
 胡散臭げに話しかけるなというような顔を相手はしたが、黙ってお金を掴ませると説明をしてくれた。

「ここは公演場だ。演劇等が普段は行なわれるが、今日は月一の奴隷のセリだ。こんなもの、どの国にもあるだろう。」
「それもそうだな。この国ではどんなことをしたら奴隷になるんだ?」
「犯罪と借金だな。冒険者が身を持ち崩して自分を売るしか手がなくなることもある。後は奴隷商人に捕まって
違法に売られる場合もあるらしいが。あのガキみたいに親に売られる場合もある。哀れなもんさ。」
 あまり喜んで警備しているわけではないのか、その兵士は肩をすくめて言い捨てた。

「……帰るか。」
 悪趣味な見世物をこれ以上見るつもりはなかった。俺は帰宅を促すと、蕾はぶんぶんと縦に首を振って頷いた。


 帰り道、蕾は一言も口を利かなかった。口数は普段から少ないが、深刻に考え込んだような顔で
黙り込んで歩いているのは初めてである。
 壇上に上がっていた少女は年頃といい、種族といい、毛色といい……蕾によく似通っていた。
 案外子供っぽい正義感で助けようなんていうかと思ったが、それはなかった。ただただ、自分の思考に
沈み込むように考え込んでいた。

 蕾は多感な年頃だ。あんな光景を見せ付けられて何も考えるなというほうが無理なのかもしれない。

 時折泣きそうになったり、俯いたり、俺の服を思いっきりひっぱったり、怯えたりと挙動不審なことを
しながらも無言で歩く。

 宿に着きかけたとき、考えがまとまったのか真剣な顔で蕾は俺の眼を見つめた。

「……。」
 そして、口を開こうとして閉じる。目には何かを決意したような色。何か追い詰められたような余裕の無い表情。

 彼女は結局何も口には出さず。俺も何も言うことはなかった。



 宿に入ると一人の男が待っていた。
 黒い毛並みの耳と尻尾、流れるような長い黒髪に長身。絵にかいたような美形の青年だ。装備も殆どが
黒で統一されている。蕾を小型犬といった印象だが、落ち着いた雰囲気のあるこいつは差し詰め
大型犬といったところだろう。

「久しぶり。」
 にこりともせず、青年は俺に向かって手を上げる。蕾は男に見られると情けない声を上げて俺の後ろへと隠れる。相変わらず人見知りをするやつだ。
 目の前の男──β時代からの知り合い──九朗は気を悪くした風でもなく、黙っている。しかし、彼女には目も合わせない。

「今日は公演場にいったんだが、入れ違いだったか。お前もやはりいたんだな。」
「すまない。」
 愛想がないので敬遠する者も多いが、俺はこの男が嫌いではなかった。お互い廃人だったし戦闘中は
何も言わなくても最高の連携を取ることもできる。
 男同士だから変な気を使うこともない。生産系アイテムは安く譲ってくれる。俺が作ったアイテムは大事に使ってくれる。
 会話はあまり続かないが下ネタ以外には反応はしてくれる。
とまあ、一緒に長時間いても疲れない相手なのだ。

「ハルから大体の事情は聞いている。」
「そうか。」
「私もハルの意見に賛成。」
 何のことかわからないといった感じで蕾は俺たちを見つめている。おそらくは金を渡して放りだせということだろう。
 彼は無表情に淡々と続ける。

「物価から考えれば100万もあれば一生遊んで生きていける。私が出してもいい。」
「おいおい。クロまでそんなこというのかよ。」
「出来ないのは長い付き合いだから判っている。幻滅されるかもしれない。でも言わずにはいれない。恩人だから。」
 何を言われているのか判ったのか蕾は不安げにこちらを見つめている。



「どちらにしろ私は彼女のことはどうでもいい。」
 九朗は女には厳しいことで知り合い連中の中では有名だった。例外はハルだがやつは中身が男である。
 女性キャラは話しかけても殆ど放置するほど普段から女嫌いは徹底していたので俺はなんとも
思わなかったが、きつい言葉に蕾は泣いていた。

「恩人って、俺達はもちつもたれつ。借りなんてなかったと思うんだが。」
 生産素材を安く譲ってもらい、装備を安く提供する。そこに関係の優劣は無い。

「ある。」
 九朗はこくんと一つ頷く。懐から取り出したのは壊れた指輪だった。

「見覚えがあるな。」
「匠の魔法道具の一作目。」
 魔法の道具作成が実装された後、熟練度目的以外で初めて作ったもの。
 思い出した。『帰還』の魔法を付与した指輪だ。

「ヘカトンケイルと戦闘中に頭痛。咄嗟にこれを使って脱出。壊してごめん。それからありがとう。」
 無表情に九朗は淡々と呟く。……というか、まだ持ってたのか。二年位前の作品を。

「ありがとう。クロ。作成者冥利に尽きる。」
 俺は九朗の肩を叩き、心の底から笑った。自分の作ったものが大事にされているというのは、生産者にとって
最も嬉しいことだと思う。九朗も大きな尻尾をゆっくりと振っていた。

「……?」
 ぎゅっと蕾の服を掴む手に力が込められる。不思議に思ったがあまり気にしなかった。 
 なんだか涙目で九朗を睨み付けていたが相手はスルーしている。

「私は恩を絶対に返す。」
「気にするな。お前が助かって本当に良かった。」
「匠とは対等の関係でいたい。だけど、私はもう一つ匠に借りを作ることになる。」
 いつもゲームとはいえどんな苦境でも平然としていた九朗が、少し迷っているように見えた。
 そんなに言いにくいことなのだろうか。

「何でも言えよ。俺とお前の仲だろ。」
「ありがとう。性転換の薬を一つ譲って欲しい。」
 俺の頭は真っ白になった。

「……は?」
「すまない。騙すつもりはなかった。高いものだということも理解している。だが、どうしても生きる上でそれが私には必要だ。」
 九朗は珍しく早口で長々と話し、頭を下げる。
 俺は三年越しで知るはじめての真実に、頭が正常に働かなかった。というか俺の頭は悪すぎるのではなかろうか。

 蕾はますます、俺の服を掴む力を強めていた。





←前話に戻る
 
次話に進む→

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

Wiki内検索

累計依存者数

人!

現在名が閲覧中