PINKちゃんねる-エロパロ&文章創作板「依存スレッド」まとめページです since2009/05/10

作者:3-731氏


 ただ唇を合わせただけなのに俺は年甲斐も無く気恥ずかしくなり、顔を離すと目の前に広がる
光景を二人並んで黙ってみていた。
 小一時間も眺めていただろうか。完全に日が暮れたところで、俺達は帰宅することに決めた。

 九朗と手を繋ぎ帰還の魔法の構成を行なう。ここに来る前のように事務的に繋いでいるだけと
いった感じではなく、繋ぎたいから繋いでいるといった感がある。
 帰還の魔法で街に戻り、そのまま蕾が待つハル達のギルドへの建物へと足を向ける。その間
二人とも口数は少ないが気まずさはなく、寧ろ九朗が近くにいることへの安堵の方が強い。
 向こうもそう思ってくれていたら良いんだが。
 そんな心地よい時間を過ごしているとあっという間に建物に着いてしまった。

 中に入ると、見知らぬ赤毛の小柄な少女と蕾が闘っていた。いや、闘っているというのは正確じゃないな。
 蕾が一方的に攻撃し、少女のほうは指導しながら簡単に受け流している。
 俺はそれをにやにや見物しているハルに声をかけた。

「ハル。何やってんだ?」
「ああ。もう帰ってきたのかい。ぬとぬとのどろどろになっての朝帰りになるかと思っていたけど。」
「あほか。で、これは?」
 薄紫の長い髪を持つ美女は中身が女になっても変わらず発想が下品だ。俺はいつものことなので
気にせず続きを促す。

「君の役にたちたいそうだよ。健気だね。愛されてるね。」
「面白そうにいうな。あの赤毛は……新入りか?」
 見慣れぬ少女が真剣に蕾に闘い方を教えている。蕾もこちらに気づかず真剣な顔で頷いていた。
 新入りにしては腕が良過ぎる。知らない相手にあれだけ親身に教えるような人間がギルドに
今まで入っていないとも考えにくい。赤い髪にショート。いかにも元気ですといったような明るそうな雰囲気。あんなPLは俺は知らないが。

「あれはショウだよ。」
「……は?」
 俺は聞き間違いだと脳が言葉を拒否した。何故ならショウという人間は暑苦しくいかつい
筋肉マッチョな男……いや漢だったからだ。

「薬をくれたから少しでも君に恩返しをしたいそうだよ。朝は魔法を教えていた。」
「……そうか。」
 俺は複雑な顔で頷いた。

「匠お兄さんお帰りなさい。」
 一段落付くとようやくこちらに気づいたらしい。蕾は尻尾を振りながら走ってきて俺の腰に
しがみついた。こう密着されると今までは少し焦ったものだが今は自然に頭を撫でることができた。
 蕾は気持ちよさげに目を細め、尻尾をぱたぱたふる。子犬みたいで可愛らしい。

「ふぅ……ん。」
 ハルは九朗と俺を見て少しだけ驚いたような顔をした後、いつものにやけ顔に戻る。

「何だ?」
「おめでとうといえばいいのかい?」
 びくっとしがみ付いていた蕾が反応した。

「鋭いな。」
「匠が蕾ちゃんが抱きついてるのに平気な顔してたからね。余裕があるっていうのかな。」
「俺と九朗は恋人として付き合うことになった。」
「そうかい。おめでとう。」
 隠すことでもないので正直に話す。九朗を見ると顔を真っ赤に染めて俯いていたが。そんな
彼女に見蕩れてしまう。いつもの凛とした姿もいいがこれもまた……なんだか、気恥ずかしくなり
赤毛の少女のほうに顔を向けた。

「ショウ。蕾の面倒見てくれて有難う。」
「たいしたことじゃないよ。匠は命の恩人だからね。」
 感慨深げに腕を組んでうんうん頷く。

「大げさな。」
「大げさじゃないよ!あのままだったら……私はあの身体で一生……いやほんと想像しただけで恐ろしいっ!」
 顔を青ざめさせ拳を握り締めて力説する少女に俺は苦笑するしかなかった。てか、女だったのか。こいつも。

「身体で返そうかと思ったんだけどね。いろいろとえろえろと。」
「いらん。」
「だよねー。」
 にししっと悪戯っぽく笑う。その笑い顔だけは、漢だったときの面影がある気がする。

「あんな可愛い子にご主人様とか呼ばせてるんだもんね。夜はお前は俺のおもちゃだとかいって
ロリなこの子にあんなことやこんなことを……」
「するかっ!」
「もしかして不能?」
「違うっ!」
 やれやれと赤髪の少女は首を横に振る。

「魔法は数種類簡単なのを教えておいた。スキル低くても役に立つ便利系だね。癒し、眠り、
毒消しとか。犬人族だから剣のほうがいいと思って攻撃魔法は省いたからね。剣スキルは数字だと
60ってとこかなぁ。」
「助かる。こいつには自立して欲しいからな。100くらいまでいけば余裕で生きていけるはずだ。」
 ショウは過保護だねーと笑って蕾の頭に手を置いて、

「でもさ、もったいなくない?可愛くて一生懸命でご主人様なんでしょ?」
「こいつの人生はこいつのもんだ。」
「うわ。まっじめー。いつの時代に人間?」
 ショウは呆れたようにいってるが、冗談でいってるんだろう。口調は軽い。

「いいなーいいなー。私も可愛い子にご主人様っていってもらいたいなー。」
「お前は女だろうが。」
「だって可愛いじゃない。可愛いは正義だよ。うん。犬可愛いよ犬。」
 本当に犬ならよかったんだがなぁ。と、ふいにショウが真剣な顔を蕾に向けた。

「可愛い蕾ちゃんにお姉さんが必勝の口説き文句を教えてあげよう。」
「ふぇ?」
「私の処女をぶちぬいてくだ……ちょ!九朗ちゃん部屋で刀抜くのは、反則反則!冗談だよ冗談っ!!」
 変なことを教えるのは本当に止めて欲しい。九朗もそう思ってるのかもしれない。


 俺はこのとき全く気づかなかった。
 絶望に染まっている蕾の顔に。





 それを聞いたとき、私の思考は一瞬停止しました。
 思考だけじゃなく、心臓も一瞬止まったかもしれません。

 九朗さんが匠お兄さんの恋人になった。それは私が生きる上で一番厳しい出来事です。
 こうなることを予測していなかったわけじゃありません。ですが、思いのほか早すぎました。

 私は甘かったのです。
 九朗さんが匠お兄さんの恋人になることは祝福するべきことです。あの人はいい人だし。
 しかし、そのときには身も心も私は匠お兄さんの所有物になっていなくちゃだめなんです。
でないと、私は無価値なものとして捨てられてしまう。

 そうなれば私は生きていけない。

 今の状況では身体をお兄さんに渡すことを九朗さんはよしとしないでしょう。匠お兄さんも真面目な人だし
九朗さんが恋人としている以上、私を犯してはくれないはず。
 九朗さんを排除しようにも実力ではまず勝つことは不可能ですし、心も長い付き合いのせいで
お互い結びつきが強い。そうなると……

(私じゃどうすることもできない?)

 暖かいお兄さんにしがみ付きながら、私は全身から血の気の引く音を聞きました。


 その日の夜──


 三人で食事を取り、身体を拭き寝る準備をすませると九朗さんは匠お兄さんに挨拶し、何故か
ご機嫌な様子で自分の部屋に戻っていきました。
 てっきり、私に一人で寝るようにいって二人で寝るかと思っていたのに。

 ふと、お兄さんのほうを見るとちょっと苦笑いしていました。あてがはずれたのかもしれません。
恋人の余裕?いや、もしかして……

(あの人は──もしかして知らない?)

 ありえないことじゃありません。あの人の話が本当なら学校にも行ってない筈だし、両親とも
殆ど関わっていない。一人で過ごしてきたはず。
 完全に見える彼女の不完全な部分。彼女以外だと私だけが知っているその弱点。

(えっちなことを知らないのかも。知ってはいるけど自分がするという実感はない?)

 だから、前に裸で寝てたときも怒りはしたけどそれだけだったんだ。
 私は九朗さんの入った部屋のドアを見ながら自然と薄い笑みがこぼれました。何故、彼女が
私を残していったのかは判りません。昨日のように同じ部屋で眠るという選択肢もあったのに。

「あ……部屋しまっちゃいました。匠お兄さん、今日は一緒でいいですよね?」
「しょうがないな。」
「やったー!」
 九朗さんが気づく前に。子供のように無邪気に喜びながら、内心で私は一つの決断を下していました。




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