PINKちゃんねる-エロパロ&文章創作板「依存スレッド」まとめページです since2009/05/10

作者:3-731氏



 気まずい沈黙。
 酷い失敗をやらかすと血が引くってのは本当だった。

「……。」
「……。」
 無言で見つめあう俺と九朗。
 言い訳をさせてもらうなら、蕾に服を着せていなかったのは手紙を読んでいてその内容に驚いていたからで、
積極的にそれを望んでいたわけではない。
 冷や汗が背中を流れるのが判る。

「とりあえず、これだけは言わせてくれ。」
「何?」
「俺は何もしていない。」
 先ほどから九朗は無表情だ。なんか瞳孔が開いている気がするのは気のせいだろうか。
 張り詰めた空気を気にした風も無く九朗に向けて蕾が話しかける。

「ええ。匠お兄さんは何もしていません。」
 頼む!なんとかフォローしてくれ!

「ただ私が勝手に匠お兄さんの雌犬にして頂いただけです。」
 そう笑顔で続ける蕾……余計立場が悪くなった気がする。って!!?

「蕾ちゃん。その首輪まさかっ!」
「はい。主従の首輪です。」
「この馬鹿!早まった事を!!」
 首輪の効果は主人に絶対に服従すること。例え一人で生きていけるようになったとしても、友人は
ともかく恋人を作ったり出来るだろうか。絶対に無理だろう。俺なら無理だ。
 俺には彼女と一生を付き合う勇気は今は無い。だが、彼女は俺から離れることは出来ないだろう。
 彼女の一時の気の迷いで彼女の一生をめちゃくちゃにするわけには行かない。

「九朗。この契約は破棄できないのか?」
 誤魔化したり言い訳している余裕が無くなり、思わず九朗に聞く。

「出来ないことはない。」
 ぽつりと九朗は呟く。

「死ねば消える。」
 感情の篭らない声。

「冗談に聞こえないんだが……。」
「本気。」
 俺としては死にたくないんだが。しかし、何故蕾の方を向いて言うんだ。蕾は狩られそうなことが
本能的に判ったのか俺の背中に隠れた。


「それは却下だ。」
「残念。」
 顔は無表情だが本当に残念そうだ。

「で、匠。何をしてたんだい?裸で。」
「防具を作っている最中に寝てしまって、起きたらこうなってた。」
 正直俺も何がなにやら。

「いかがわしいことはしてないね?」
「当たり前だ。」
 相手の弱みに付けこんでどうこうするなんてことは自分には出来ない。自信を持って答えると、
九朗は呆れたのか溜息をついた。

「……ならいい。」
「信じてくれるのか。ありがとう。」
 こんなどうしようもない状況でも信じてくれる親友に心から俺は感謝した。そして、ふと思い出す。

「犬人族の契約って一人しか出来ないんだよな。」
「……そう。」
「ということは、九朗とは出来ないな。」
 こくりと九朗は頷く。蕾が自分に首輪を渡した焦り以上に俺は安堵した。この気のいい親友を
奴隷扱いせずにすむことを。

「正直なところ助かった。蕾には命令しなければ済む話だしな。首輪もなんか道具で見えないように
すればなんとかなるかもしれない。それよりも、九朗と今までどおり対等で入れるほうがありがたい。
今回のことはこちらのミスだから条件のことは気にしなくてもいいからな。」
 だが、九朗のほうはそれ程嬉しそうでもなく、無表情のまま首を横に振り呟くように答える。

「なら、代わりのものを差し出させてもらう。」
「九朗!」
 かっと頭に血が上り、思わず叫ぶ。何故判ってくれないのだろうか。俺はお金や物でどうこうしたくないのに。
 今はバーチャルでなく現実なのだから余計に。

「だが、すぐには思いつかない。装備が完成した後で匠のミスによるペナルティも兼ねて一日私に
付き合って欲しい。それで考える。」
「出来れば、物かなんかにしてくれよ。頼むから。」
 何も言わずに振り返り、去っていく彼女をいながら本気でそう願う。
 だが頑固なこいつのこと、あまり期待できそうに無かった。





 朝起きた。
 頭痛や悪寒のしない、高い熱も出ない健康な身体を持つことは本当にそれだけで恵まれているのだと痛感する。
 獣のような耳や尻尾があることなど、それに比べれば些細なこと。

 ミルガリンの首都、レトの朝は肌寒い。
 シャツ一枚で寝るには季節柄、少し早かったかもしれない。上着を羽織、朝の支度をする。鏡に映るのは
病気のせいで貧弱だった元の世界の自分より遥かに女性らしい身体。
 違和感が全くないといえば嘘になる。けれどそれも問題ない。
 私は元の世界と同じ無表情な顔を鏡に映しつつ、やはり元の世界と同じな長い黒髪を念入りに手入れしていく。
 匠にみっともない姿は見せられないから。

 この世界での私は、九朗という名前の犬人族だ。元の世界の名前は忘れることにした。どうせ死んでいる。

 別に悲しくは無い。私は運がいいのだろう。
 現実であれば、実際に匠に会うことは出来なかった。だが、こちらが現実になればずっと一緒に
いることもできる。男と女だから、読んだ本のように恋愛だって出来るかもしれない。
 今までのように貰った指輪をこっそり左手の薬指につけるなんてことじゃなく、本当に。

 彼は本当にいい奴。無愛想な私にも根気よく付き合って、ゲームの楽しさを教えてくれた人。
 明るくて社交的。頼りがいがあって優しい人。

 私は今まで男としてかなりの時間を彼と過ごしてきた。殆どは私がフォローされるほうだったけど、
私が彼が落ち込んでいるときに励ましたこともある。
 いい友人関係だったと胸を張って言える。

 だけど、物足りない部分もあったのは確か。
 一緒に並んで戦える。だから、私は彼を頼ることが出来ない。
 彼は私を信頼してくれる。だから、彼は私を甘やかしてくれない。
 彼は私に敬意をもってくれる。だから、彼は私をほめてはくれない。


 こんなことに気づいたのも、あの蕾と名乗る少女を見たからだ。
 彼女はたった数日前、偶然本当に偶然一緒にいることになっただけなのに。
 彼女は匠にべったりだった。
 危ないことがあれば匠に守ってもらえる──私も守って欲しいのに。
 何かすれば頭を撫でてもらえる──私も頭を撫でて欲しいのに。
 疲れたら彼に寄りかかることが出来る──背負ったり腕を組むなんて私もしてもらったこと無いのに。
 彼に甘えることが出来る──我侭を言って彼と一緒にねむ……

 ふぃんっ!

 匠に作ってもらった脇差を一閃、いらつきを鎮めるために空気を切る。
 この身体は確かに素晴らしい。だけど、私は弱くても蕾のように彼にどうしても甘えてみたかった。

 その悩みも今日まで。今日、防具は完成し、私は強引に目的を達成するために契約を結ぶ。彼には
幻滅されるかもしれないが、それでも私は我慢できない。
 このままあの少女に嫉妬し続けるのはいやだから。

 心の中でよしと声を出して匠の部屋へと向かう。私にとっては勇気のいる行為。初日なんてドアの前で
いったりきたりして、中々入ることが出来なかった。

 ばたんとドアを開け、その瞬間目の前の光景に私は固まる。
「……。」
「……。」
 手紙を真剣な顔で読んでいる匠。ハルからの手紙でああいう顔をしているということは何か重大な
事件があったのだろうと思う。
 そんな細かいことは胴でもいい。問題は二人の格好だ。

 全裸。暫く見詰め合っていたが、匠が口を開いた。

「とりあえず、これだけは言わせてくれ。」
「何?」
 どうしよう。どうしよう……聞きたくない!もしこれで匠が……

「俺は何もしていない。」
 続けて告げられた言葉で気持ちが少しだけ軽くなる。こういうことで嘘をつく性格じゃない。

「ええ。匠お兄さんは何もしていません。」
 微笑む彼女の首元に光る首輪。


「ただ私が勝手に匠お兄さんの雌犬にして頂いただけです。」
 それを見たとき、私の心に沸いた気持ちは間違いなく生まれて初めて抱いた感情……殺意だった。
 匠の隣に座る蕾。そこは私が座る場所なのに!その役目は私の役目なのに!

 一つだけ慰められたことは匠自信がそれを望んでいなかったこと。

「ということは、九朗とは出来ないな。」
 本当にあの少女を殺したかった。だけど、それをやってしまえば匠から嫌われてしまう。それは、何よりの恐怖。
 あの契約が出来なくとも私にはあきらめることは出来ない。

 彼が私を友人だといってくれるのは嬉しい。頼りにしてくれているのも嬉しい。大事にしてくれている
のもわかるのも嬉しい。だけど、私が本当に望んでいるのはそんなことじゃない。
 背が高いのが疎ましい。強いのが疎ましい。感情が顔に出ないのが疎ましい……。

 ────お願いだから気づいてよ。

 だから、私は、

「なら、代わりのものを差し出させてもらう。」
 何かをするために、約束を持ち出す。考えて出た言葉じゃなかった。何か心が溢れてたまらなくなり、
追い詰められて出た言葉。

「だが、すぐには思いつかない。装備が完成した後で匠のミスによるペナルティも兼ねて一日私に
付き合って欲しい。それで考える。」
 そういい捨てて匠の部屋を出た。彼の顔を見ていられなかった。
 顔が真っ赤になってたと思うから。

 だって、これはデートの約束だもの。




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