PINKちゃんねる-エロパロ&文章創作板「依存スレッド」まとめページです since2009/05/10

作者:◆9Wywbi1EYAdN氏


〜安息の日々?〜


や〜まをこ〜え〜たにをこえ〜♪
ぼくらはまちへ〜やってきた〜♪
ルディとイリスがやってきた〜♪


えっと…皆さんこんにちは…というより久しぶり?ルディです。
もんのっそい寒い中皆さんはどうお過ごしでしょうか?
俺は…その、凄く暑いです…
いや、熱いです…主に顔が……

「つ、着きましたね。ルディさん」
「お、おうッ!やっとだな」
「それで…あの、どうします?」
「えっと…まずは入り口に向かって、えっと…それでだな…中に入って…それで…なんだっけ⁉」
「ル、ルディさん落ち着いて下さい!大丈夫ですか……?」
「大丈夫だ、問題ない!」

嘘です…問題ありまくりです。
大体想像出来てる奴もいるかもしれないけど念の為に解説。

イリスが俺にしてきたお願いの内容、それが全ての始まりだった。
できる限りは叶えてやると言った手前断れなかったし、何よりも簡単なことだったから断る道理がなかった。
精神的な疲労は半端ないけど…

「で、でも顔が真っ赤ですよ⁉」
「お前もな……」
「え⁉本当ですか⁉」
「うん」
見てもわかるし熱気も伝わってくるもん。
だがなイリスよ、その気持ちは痛いほどわかる。
恥ずかしいよな、こんなに顔が近いと…

うん、分かったよな?
今俺はイリスを仰向けの体制に抱きかかえていて、イリスは腕を俺の首に回している……

早い話がお姫様抱っこだ。

女の子はいつの時代も夢に憧れる生き物だろ?
絵本の王子様とお姫様の物語とかでこんなシーンがあると自分もやってみたくなるのは女の子の性だ。
だからイリスにこんな願望があっても全く可笑しくはない、むしろ可愛らしいじゃないか!

でもな、絵本で見るのと実際にやって見るので相違点がいくつかあるのもこの世の真理。

たとえば……

「あったぞ!街への入り口だ!」
こんな風に少しテンションが上がっちまって軽く走ろうとすると…
「きゃッ!!」「ッ!!」
こうやってしがみついてくるんだよね、揺れるから。
しかも、首に手を回された状態でしがみ付かれるって事はだな…
「ルディさんッ!ご、ごめんなさい!」
「い、いや全然気にしてないぞ⁉」
瞬間的に顔と顔が急接近するんだよ!
ウルウルした目をして、さらに真っ赤な顔がだッ!
この顔を見ちまうと…色々意識しちまってだな……その、イリスの事を……

体温を
華奢な身体を
柔らかい身体を
柔らかそうな唇を
少し汗ばんでる額を
髪から漂ういい匂いを
全身から漂う女の子の匂いを

……………………………………………




俺は変態かッッ!!!


あーもー!こんな邪な考えイリスに抱くなんてアホなのか俺は⁉

いやでも、男としてはごく当たり前な反応な訳で……別に悪いってわけじゃ……

悪いわアホッ!出会って一月も経ってないのに何考えてやがんだこのバカッ!!

ふっふっふ…男が変態で何が悪いッ!

格好悪いわッ!
しょうがない、脳内で歌を歌って気を紛らわせよう。

もっと自分に素直になれよ……


こんな脳内のやり取りが森を抜けるまでに幾度となく繰り返されてんだよ。
もう本当に疲れた………

「ーーーさん?ルディさんッ!」
「は、はいッ⁉」
やべっ!凄くぼーっとしてた!
「大丈夫ですか?なんか心ここにあらずって感じでしたけど……」
実際に無かったからな……
「ああ、大丈夫。少し考え事をしてただけだから
それよりも街だ!やっとゆっくりと休めるぞ。うおぉぉぉ!」
「ちょ、ちょっとルディさん⁉」
もうこうなったらヤケだ!門まで突っ走る!
「ちょっとぉ⁉怖い、怖いですって!」
「大丈夫だって、あの夜もこれくらいのスピードだったんだぞ?しかも森の中を」
「そんなの関係ないですって!きゃーっ!」

イリスは痛いくらいにガッシリと俺にしがみ付いてくる。
なんか信じられない位に柔らかいなコイツ……

病みつきになりそうだ…………

………だから変態か俺はッ!!


「ル、ルディさんッ!!前!前を見て下さいぃぃ!」
イリスは何やら慌てた様子で前を指差す。
ハッとして前を見ると、少し離れた数匹の魔物がいた。
「あちゃー、レッドジェリーかよ。門の前にウヨウヨと湧きやがって、本当に面倒くさい……」

レッドジェリーとはその名の通り赤いゲル状の魔物で、この世界では結構有名な魔物だ。
あんた達の世界で言えばスライムとは行かないまでもドラキーくらいかな?
ゲル状でありながら大福の様な固有の形を持ちアメーバの様に移動をする。
捕食の際は獲物を体内に取り入れ、三日三晩かけて溶かすという結構危険な奴だ。
大きさも万別千差で、小さい物は人間の握り拳、大きな物は高さが5mを超える個体もいる。
こう言えば恐ろしい奴だが、移動のスピードはかなり遅いので人間は滅多に被害に遭わない。
それどころか新人の魔術師や剣士などの練習相手になっているくらいだ。
さらにあの赤い身体は炎の魔力が含まれており、物を燃やす際の燃料としても重宝されている。
もっとも、加工せずに火をつけるととんでもない事になるけどな。
まぁ、加工前も結構高値で取引されてるし、冒険者の財産源と言っても過言では無いな。

「ーーーーーーーと、こんな奴だ」
群れから5mくらい離れた所で立ち止まり、レッドジェリーの説明をイリスにした。
「そ、そうですか……
でもなんか気持ち悪いです」
しかしイリスは青い顔をしてレッドジェリーから顔をそむけ、心なしか身体も少し震えている。
確かに見た目は気持ち悪いな……テールモンキーの方は危険だけど可愛いし。
「まぁ確かに気持ち悪いな。でも意外と触り心地は良いんだぜ?触って……みないよな」
イリスは首をブンブンと振って拒絶する。
ここまで嫌われればレッドジェリーも本望だろう……

さて、どうしようか………魔術で一気に吹っ飛ばすって手もあるけど、街の真ん前であまりそんな事はしたくないし……………
かと言ってコイツらが移動するのを待つならば、優に一日は待たなくてはいけないし…………
うん…やっぱり吹っ飛ばそう、しょうがないから。
それじゃあまずはイリスを降ろしてっと……

「ぁ………」
「今からあいつら吹っ飛ばすから少し待っててくれ」
残念そうにするイリスを横目で見ながら、レッドジェリーの群れに向けて手のひらをかざす。
何にしようかな……うーん…電撃にするか水流にするか………
それとも光……いや凍結?火炎はやっちゃマズイし………ん?


その時、街の大門の横にある小さな扉がギギギィ……と軋む音を立てて開き、中から数人の魔術師と剣士が出てきた。
「ルディさん!あれは……」
「多分討伐隊だ。門の真ん前に魔物がいれば邪魔以外の何ものでもないからな」
これで俺が魔術を使う必要もなくなった訳だ…と思ったのも束の間、安心するのはまだ早いかもしれない。
ざっと見る限りではこれは新人の演習の様な気がする。
もちろん実力者も見張りについていて危険は無いだろうが、これを全部討伐するのにはどれくらい時間がかかるのやら……
早く休みたいし、喉も渇いたし……あーメンドクセー!

「おーい!お前ら何者だー!」
遠くから声が聞こえる。
どうやら先頭にいた研修生が俺達に気付いたみたいだ。
「俺達は旅の者だ。街に入ろうと思ったらコイツらに阻まれちまっててな」
それを聞くと先頭の男は「待っていてくれ」と言い残し街中に入って行った。
恐らく責任者へ指示を仰ぎに行ったんだろう。
「大丈夫ですかね……?」
イリスは不安そうな表情で俺を見上げて来た。
「多分大丈夫だろ。いざとなったら俺が吹き飛ばせばいいんだし」


マ モ ノ ダ ロ ウ ト ニ ン ゲ ン ダ ロ ウ ト

しばらくして見るからに身分の高そうな50歳位の男が出て来た。
胸のバッジから察するに、魔術と剣技を両方極めた者みたいだ。
「お前たち無事かっ?」
男はハリのある大きな声で俺たちに呼びかけて来た。
「ああ、無事だ。だがツレはあまり身体が強くなくてな。出来るだけ早く休ませたい!」
「え⁉ルデ…ムグッ⁉」
「こう言った方がとっとと片付けてくれんだよ。これ、暮らしの知恵な」
頭を指差しイタズラっぽく笑いながらイリスの口を塞ぐ。
「分かった!すぐに片付ける。皆の者かかれぇ!」

まさに鷺の一声、男の合図と共に一斉にレッドジェリーの討伐が始まった。
レッドジェリー討伐のセオリーとしては、まず魔術でダメージを与えその後剣で切り刻むのが一般的だ。
斬って良し、凍結させてバラバラにするも良し、水流で流すもよし、光で消滅させるもよし、本当に弱点だらけな奴だ。

「凄いですね……皆どんどんやっつけてますよ」
「弱いからな。それに上司であるあの男がいるから士気も高まったんだろう」
先ほどあの男が出て来た時、全員が一斉に尊敬の眼差しを向けていたのを見逃さなかった。
かなりの人望があると見て間違いないだろうな。
「あの、ルディさん」
討伐の風景をしみじみしながら見ていると、不意にイリスに裾をクイクイ引っ張られた。
「その……もう一度私を抱えてくれませんか?」
「へっ⁉な、なんで⁉」
正直恥ずかしいんだけど…
「あの、なんかアレを見てたら怖くなっちゃって……だから…」
ああ、確かに普通の女の子には耐え難い光景かもな。
レッドジェリーの残骸がグチャグチャと音を立てて飛び散るあの光景は……
「分かったよ、でもさっきのじゃなくて普通の抱っこにするぞ」
腕を広げてイリスを抱っこする。
あぁ〜やっぱり軽いなぁ…それに柔らけ〜、良い香りもするし……


だから変態か俺はッ!!

ーーーーー

ーーー




「おらっ!おらぁ!」
「خضحفلنل!」
「とっとと死ねっ!」
「سضحكل!」
「خضحفلنل!」
「نضحهغشح!」

なんだがんだで10分くらい経過したが……レッドジェリーの討伐もそろそろ終わりそうだな。
見た限り全員優秀だし、よほどの事が無い限りこのまま押し切れる。
早い所イリスに街の見学もさせたいしな。
頼むからよほどの事よ…起こってくれるなよ!



ふむ、この短時間でここまでやれるとは今年の訓練生はなかなかに筋が良いようだな。
この調子で行けば来月には全員がこの街の自警団として働く事が出来そうだ。

それにしてもまさかこの時期に旅人が来るとは思わなかったな。
しかも子供がたった二人きりでとは驚いた。

特にあの黒髪で長髪の少年。
彼はかなりの実力を持っているに違いない。
私に対してあの、物怖じしない態度や不敵な雰囲気。
是非一度訓練生との手合わせを願いたいものだな。


この時点ではルディ、この男を含め全員が危険はないだろうと安心し切っていた。

……それがいけなかった。

「そらよっ!」
一人の剣士が豪快に斬り飛ばしたレッドジェリーの肉片が、ちょうど一人の女を目掛けて飛んで行っ
た。
「えっ⁉き、きゃーっ!!شضغب:
!!」
そして彼女はとっさに自分の得意な魔術を唱えてしまった。

火炎魔術を………


火炎が当たった肉片はパァンと派手な音を立てて爆ぜ、後には赤い煙とゴムが焼けたような臭いを残す。
そしてこの臭いが呼び寄せてしまうのだ、新たな魔物を………

ルディと男はこの異変に同時に気付いた。
瞬間、ルディは門に向かって全力で走り男は逆にルディ目掛けて走る。
「全員退却!!街中に避難しろっ!!」
男は大声で退却を呼びかける。
これから来る魔物は訓練生にはとても太刀打ちできるような物では無いのだ。
「レ、レゼダ様…」
「早く退却しろ!死にたいのかっ」
「は、はいッ!」
本来ならこの時点でこの男…レゼダも街に退却しなくてはならないのだが、不幸にもここには旅人が二人いる。
街を護る者として二人の救出は義務なのだ。

クッ…油断した。
まさか最後の最後にこのような事態になるとは……私の失態だ…
だがあの二人は自分の命に代えてでも守って見せる。

「おい、君たち大丈夫か⁉」
「俺は全然平気だ。しかしこいつが……」
少年の腕の中で一人の少女が泣きそうな表情で震えていた。
少年よりも一か二つくらい年下だろうか、綺麗な銀髪の少女だ。
「早く戻らなくては!二人とも、私について来てくれ!」
とにかくこのような場所で話している暇はない。時は一刻を争うのだ。
二人を街まで連れて行き安全を確保しなくてはならない。


「おい、あんた。レッドジェリーに火炎を使う事がどういう事なのか、あいつらには教えてなかったのか?」
走りながら少年が私に聞いてきた。
少年の表情は硬く明らかに怒っている。
「申し訳ない。危険性は十分に伝えたと思っていたのだが、まだ伝わっていなかったようだ。全ては私の責任だ」
「チッ…仕方ねぇ。街に着いたら火炎を使ったやつをとっちめて……おいッ!来るぞ!!」
少年の声と共に後ろを振り向くと恐れていた魔物が茂みを掻き分け森から出てきた。

グレーンスネーク……真っ白な身体と血のように真っ赤な目を持つ巨大な蛇だ。
性格は凶暴で、一度狙った獲物は決して逃がさないと言われている程に執着深い魔物。
普段は森の中で暮らしており、森からは滅多に出ないのだが、レッドジェリーの焼ける匂いには敏感に反応する習性がある。

全長7〜10mはあろうという巨体が、今まさに獲物を仕留めんと滑るようにこっちにやって来た。
「マズイぞ!このままじゃ追いつかれちまう」
少年は緊迫した様子で私に話しかけて来た。
確かにこのままでは追いつかれてしまうだろう……迎え撃つしかない!
「分かった!君たちはこのまま街に逃げろ。私がこいつの相手をする」
腰から剣を引き抜きグレーンスネークに対して構える。
正直、私一人ではこいつを倒す事は出来ないだろう………せいぜいこの二人が街へつくまでの足止めにしかならない。
「あんた一人でコイツに勝てんのか⁉」
「わからん、しかしやるしかない!君たちは早く避難しろ!」
嘘だ……分かっている。
私はここで死ぬ……

グレーンスネークは既に狩りの体勢にはいっている。
身体を起こして私たちを見据えおり、その高さは優に5mを超えている。

目が合った瞬間、私目掛けてその巨体からは考えられないほどの俊敏な動きで飛びかかってきた。
大きな口を裂けるくらいに広げ、獲物を丸呑みにせんとばかりに……
「グオッ!」
初撃はなんとか躱せた…が、グレーンスネークの攻撃によって地面が抉れた際に飛び散った石が運悪く頭部に当たってしまった。
私が倒れた隙を見逃すハズもなく、その巨体が大きな口を広げ、私目掛けて突進を………

「صضننحغنو٣٥」

死を覚悟したその時、私の周りを赤い靄のような物が覆った。
これは……障壁の魔術⁉

ドンッ!と大きな音がしてグレーンスネークの巨体が宙を舞い、数メートル離れた場所に土煙を巻き上げながら墜落した。
「おいっ!無事か⁉」
少年が慌てた様子で私の元へ走って来た。
今のはこの少年が⁉
「ああ…かたじけない」
差し伸べられた手を掴み起き上がる。
この巨体を簡単に弾き返すほどの魔術を使うとは…やはりこの少年只者では無い……
「あんたはコイツを連れて街に行け!この蛇は俺が始末する」
少年は抱えていた少女を私に押しやるとグレーンスネークに向き直った。
先ほど弾き返されたせいで、グレーンスネークはシューッシューッと怒りの声をあげている。
「そんな……危険だ!君がこの少女を抱えて街に逃げるんだ!」
「それはあんたをみすみす死なせる事になるんだ!俺なんかに構ってないでとっとと行け!」
「そんな事は出来ん!私には君たちをーーー」


「黙れよ」


少年の静かな一言。
しかしそのたった一言で、私は何も言い返せなくなってしまった。
その少年は明らかに威圧感や…溢れんばかりの殺気を纏っていたのだ。
私の身体を駆け抜けたこの久しぶりの感情は、紛れもなく恐怖だった………
「弱いくせに格好つけてんじゃねぇ!俺らを護りたいってんなら俺の言う事を黙って聞きやがれッ!」


たかが齢(よわい)16程度の少年の言葉に、私は一言も言い返せなかった。
本能が告げている…この少年には決して逆らってはいけないと……

だから私は………

「レゼタ様ッ、ご無事ですか⁉」
街に逃げた…少女を一人抱えて…
少年を一人……見捨てて………
「ああ、問題ない!お前たちは自警団を連れて来いッ!私は……」
ガタッ……ガチャッ…ガチャガチャッ!
「何だこれは⁉扉が開かん一体なぜッ⁉」
普段街を出入りする時は大門ではなく横の小さな扉を使っている。
大門は他の街や国の身分の高い者を迎える時にしか開かないのだ。

「ぐっ!うおぉおおッ!」
どんなに力をいれても開かない。
これは一体⁉
「あ、あのレゼダ様……実は先ほど上からの命令で、レゼタ様がこちらに来たら扉を封印せよとの命令が…」
「なんだとッ!」
そんな馬鹿な事を⁉
「早く開けろ!まだ外には少年が一人いるんだ!」
「そ、それが……この封印術は時間が過ぎない限り解けないようになっておりまして……大体1時間ほどお待ちを…」

な……に………⁉

「ふざけるなッ!なぜそんな勝手な真似をッ!!」
新人に怒鳴っても仕方が無いとは思いつつ止められなかった。
「う、上からの命令でして…」
「お前たちは上とは違って二人の旅人がいた事を知っていただろう!もっと応変臨機に行動しろッ!」
くそっ!こうなったら…
「この大門を開けろ!今すぐにだ!」
「は…しかし……」
「急いで門の管理所に連絡するんだッ!急げぇええッ!!」
「は、はいっ!」

くそっ!クソッ!!…チクショウ!!!
私はなんという事を……少女を置いてすぐに応援に行こうなどと楽観的に考えた結果が……この有様だ……
……そうだッ!少女は⁉一体どこに⁉

「き、君っ!何をやってるんだ⁉」
「やめなさい!爪が剥がれ落ちてしまいます!」

開かずの扉の前が何やら騒がしい……まさか⁉
急いで扉に向かうとそこには扉に爪を立てて必死に扉を開けようとしている少女と、それを止めようとしている新人の姿があった。
「だからやめなさい!本当に爪が剥がれて……」
「いやッ!離してっ!離してッ!!」
取り押さえている新人に対して必死に抵抗するも、力の弱い少女が訓練を積んだ者に敵うハズもない。
「死んじゃうッ!ルディさんがっ!ルディさんが死んじゃう!」
少女は綺麗な銀髪を振り乱しながら必死に叫んでいる。
「おい、離してやれ」
それを見た私は堪らずに命令する。
「しかし………」
「二度は言わんぞ」
新人は渋々といった様子だったがおとなしく少女を離した。
少女は自らを阻む者がいなくなったと知るやいなや一目散に扉へと走って行く。
しかし、私としても少女の行動を許すわけにもいかない。
「君、止めなさい」
少女に後ろから声をかける。
「止めませんッ!ルディさんッ!ルディさんッッ!!」
「君が何をしようともその扉は開かない。封印の魔術が施されているんだ。壊す事もできん」
辛い事だが事実を伝えなくてはならない。
「そんな……どうして…⁉どうしてルディさんがまだ外にいるのに封印の魔術なんかしたんですかッ!」
少女の視線が私に突き刺さる……私は何も言い返せず
「……すまない」
ただ謝る事しか出来ない。

「うぅ…ルディさん………どうして……う…うわぁあああんッ!!」
少女は扉を叩きながら泣き出してしまった。
その背中に…私は何も声をかける事が出来なかーーー



「おい…イリスッ!どうしたっ!なんで泣いてるんだ!!」
「えっ⁉」
「なっ⁉」
い、今の声は…⁉
「ルディ…さん……?」
「おいっ!まさか…そいつらになんか変な事でもされでもしたのか⁉」
「ルディさん⁉本当に…本当にルディさんなんですかッ⁉」
「むしろ俺以外の誰に聞こえるんだよ?まだ10日しか旅してないとはいえそれはあんまりだぜ……」
「よかった…本当に…本当によかったよぉ……」
「あぁもう泣かないでくれ!それとな、ちょっと扉の前からどいてくれよ、開けたいから」
「グスッ……わかりました。」
「サンキュ!ん……?あれ…⁉開かない?」

…………まさか…グレーンスネーク相手に一人で生還するとは……
「君ッ!無事なのか⁉」
「あ、あんたはさっきの⁉なんで扉が開かねぇんだよっ!ま、まさかこの隙にイリスに変な事をしようとしてんじゃねぇだろうな⁉」
「すまない、この扉には封印の魔術が施されているんだ。開くには1時間かかる」
「ハァ⁉ふざけんなッ!じゃあ俺は1時間外にいなきゃいけねぇのかよ!寂しいッ!」
「今街の大門を開けるように命令を出している!すまないがもう少し待っていてくれ!」
「チッ……仕方ねぇ。一体どの位かかるんだよ?」
「後五分以内には必ず開けさせる。怪我はないか?」
「んーん、全然。ピンピンしてるぜ?」
「グレーンスネークはどうなった?追い払ったのか?」
「可哀想だけど殺した」
「こ、殺したのか⁉あのグレーンスネークをか⁉」
「ああ、すぐそこに転がってるぜ?後で皮とか肉とかを買い取ってもらう場所を紹介してくれ」


そんなバカな…信じられない……たった一人の少年があのグレーンスネークを簡単に殺すなんて……

「レゼダ様!大門を開く準備が整いました。自警団も集合済みです」
「ん?ああ、ご苦労。それでは早速門を開けろ」
ギシギシと軋みながら、ゆっくりと大門が開いて行く。
少しずつ見えてくる外の風景の中に、ポツンと一人佇む少年の姿が確認出来た。
「ルディさんッ!」
少女が、いの一番に街の外に飛び出し、我々も慌ててその後に続いく。

「ルディさん!お怪我は…」
「ねぇよ、この通りピンピンしてるぜ!そんな事よりもほら、街に行くぞ」
少年は少女の手を引いて街の中に向かって歩いて行く。
「君、ちょっと待ってくれ!」
慌ててその後ろ姿に声をかけると少年は面倒臭そうに振り返った。
「なんだよ?そいつの処理は後ですっから今は宿に行かせてくれ」
「一つだけ……名前を聞かせてくれ」
少年は少し意外そうな顔をして私を真正面から見据えたが、フッと表情を緩めた。
「俺の名前はカルディナル、こいつはイリスだ。また、後でな」
今度こそ少年と少年は街の中へと入って行った………



グレーンスネークは、その巨体を門から10mほど離れた場所に横たわらせていた。
血のように真っ赤だった目は赤黒く濁り、すでにその生命を散らした事を語っている。
その傍らには自警団団長と自警団員が数十名が既に解析に入っていた。
「団長、これは一体どのような魔術を……」
「……わからん。グレーンスネークの硬い皮をこうも容易く貫くとは……」
「大体グレーンスネークを一人で始末する事など可能なのですか⁉」
「前例は無い。その少年に実際に聞くしか無いだろうな………」

そう、グレーンスネークの討伐は言葉通り命懸けで、一匹討伐するには自警団員の精鋭30名ほどの戦力が必要となるはず。
過去には自警団員50名で討伐に向かうも、全員が殉職した事すらあるのだ。
そのような魔物をたった一人で始末する事などまさに未聞前代である。

「レゼダ、お前はこの戦いを実際に見なかったのか?」
何時の間にか私の隣に移動していた団長が私にそう聞いて来た。
「はい、私は何も……」
「そうか……使った魔術が一体どのような物なのかも見ていない訳か?」
「はい」

グレーンスネークの屍体はそれは酷い有様だった。
胴の部分はほぼ無傷だが、頭部はもはや原型をとどめていないくらいにグシャグシャになっている。
例えるならばそう……まるで無数の杭を、一気に打ち込んだかのようだ。
「火炎、水撃、光、風、氷、電撃、大地、その他もろもろ、どれも当てはまらんな…」
「ええ、こんな事が出来る人間などこの世に………っ⁉」


人間にはデキナイ?
それなら誰だったらデキル?
こんな事がデキルのは…………
グレーンスネークを一人でコロセるのは……

まさかあの少年の正体は………

もし、もしそうだったならば……



私はとんでもない過ちを犯したのでは………?



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