PINKちゃんねる-エロパロ&文章創作板「依存スレッド」まとめページです since2009/05/10

作者:◆ou.3Y1vhqc氏


せっぱ詰まってる時に限って、スムーズに事が進まないのは何故だろう…。

信号に引っかかる度にイライラする…何故、私はこの日に限って車で来てしまったのか…いつもは電車で通勤しているのに。

「早くしてよ…」
信号機を睨みつけるが赤のままだ。
イライラが溜まっていくにつれてつま先は自然と小刻みに上下してしまう。

「春、大丈夫かしら…」
携帯を開き時間を確認する…。
5時10分…夏美からメールが送られてきて20分が経過している。

「…」

仕事が終わり休憩していると夏美からメールが来たのだ。

『春兄がお母さんと会っちゃった…なんか一緒に夕飯食べることになったから秋姉さんも早く帰ってきて…私一人じゃ、どうして良いか分からない。』
夏美のメールを見てすぐ車に乗ったのだが…私の行動を阻むように一つ一つの信号で止められるのだ。

それに、イライラの原因は一つではない。
もう一つは、私と春が唯一二人で共有できる時間が潰れたこと…毎日、私が母の作った料理を春の家まで届けているのだ。

私が春の家で料理を作れば手っとり早いのだが、私は料理の腕は壊滅的…母のような家庭料理は一度も作ったことがない。


「はぁ…長女なのに情けない。」



──お姉ちゃんなんだから──

昔から私はこの言葉に締め付けられていた。
どこにいくにも、なにをするにも私はみんなのお姉ちゃんだった…。

──お姉ちゃんなんだから、我慢しなさい。

──お姉ちゃんなんだから、頑張りなさい。

──お姉ちゃんなんだから守りなさい。

うんざりするほど聞かされた言葉…だけど私は反論しなかった。

遊ぶのを我慢した…

勉強を頑張った…

愛しい妹達を必死に守った…。

優秀な彼氏も作った…。

それでも私をほめてくれる人はいなかった。
なにかを終える度に次も頑張りなさい…あなたなら、まだ先に進めるはず…なにが楽しくて生きてるのか本当に分からなかった。

しかし、そんな私にも唯一落ち着ける居場所があった。

それが春…。

始めはほんの些細なことだった。
春が小学生の時、私が春の家で勉強を教えていると「ありがとう、秋音さんってえらいんだね。」と言われたのだ。

たったこの一言…私が一番聞きたかった言葉が、まさかこんな子供の口から聞けるとは思っていなかった。

私はこの日、初めて本当の喜びを知ったのだ。


それからというもの私は春にほめられたくて今以上に頑張った。

勉強も恋もスポーツも春の自慢になれるように…。

しかし、中学に入るとあんなに私やお母さんにべったりだったのに甘えてこなくなった…思春期だからしかたがない…自分に言い聞かせて寂しい気持ちを紛らわせていた。

ある日、町を彼と一緒に歩いていると春と春香が手を繋いで歩いているところを偶然見てしまった…
それを見た瞬間、彼を置いて二人の間に割り込みたかった…。

その時、初めて嫉妬という感情が芽生えた。

その彼とは結婚の約束をしていたのだがその光景を見た次の日に私から別れを切り出して破局。

その後すぐ春香の事件があり、今でも強く春に愛されている春香がとても羨ましい。

そんな私の嫉妬心が未だに消えることなくいつまでも燃え続けているのだ。

ただ、最近その嫉妬心が春の一言により無くなりつつある…。

「学校の先生って気が張るでしょ?誰かに頼りたくなったり甘えたくなることとかないの?たまには全部忘れて休んでみたら?」

母の手料理を食べながら何気なく言った彼の言葉だが聞き逃さなかった。





「…それじゃ、春が甘えさせてよ…」


どんな反応をするか怖かったが、少し驚いたように私の顔を見ると、すぐに笑顔に戻り、ご飯食べたらね〜と冗談混じりの返事が返ってきた。

春は私の冗談につきあったと思っているのだろう…ただ私は春と違い大マジメなのだ…。
春が食べ終えるまでどう甘えようかいろいろ考えたのだが…幼稚なもので、人に甘えたことがない私は、抱っこ以外思いつかなかったのだ。

──「ごちそうさま。」
食事を食べ終えると春が食べた食器を流し台に置く。

「それじゃ、私もソファーに移動してっと…」
わざとらしく呟きソファーにもたれ掛かってる春に近づく。
この時、初めて拒絶されたらどうしよう…と考えてしまった。

春は意味が分からず「なにが?」と返してきたが、ここまで来たら私も精神的な問題で引き返せない。
「甘えさせてくれるんでしょ?おじゃましま〜す。」
自分でも声が震えてることに気がついた。

恐る恐る春の膝に腰を下ろす…。

絶対に怒らないで…

私を拒絶しないで…
何度も頭で呪文のように唱えていた。


「なに?秋音さん、本当に甘えたかったんだ。」
そう言うと子供をあやすように私の頭を二回撫でた。

この瞬間、体の隅々まで満たされたような感覚になり、五歳年下にも関わらず、一時間近く春の膝に居座り続けたのだ。

それに最近は春を前にすると、どうしても甘えたい衝動に背中を押され、醜いとわかっていても駄々をこねたくなる…分かっているから、家の中以外では必要以上に接するのも避けている。

今日入ってきた新入生…あの子は多分春のことが好きなのだろう…
夏美も春に対してあんな態度をとっているが少なからず好意を寄せているはず。
二人には悪いが生まれた時から春のことを見守ってるのは母でも春香でもない…この私なのだ。

ましてや一日、二日顔を会わせただけで私の居場所を潰されては、たまったものではない。

春があの新入生になびくとは思えないが雰囲気が少し春香に似ていたのが気になる…。

「まぁ、いい。…あの新入生のことは後で考えよう…早く、家に帰らなきゃ。」
今はまず家に帰って状況を把握しなければ。

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「これもテーブルに運んで…あとサラダも。」
恵さんと冬子が台所に立ち40分──シェフ顔負けの料理が次から次へと運ばれてくる。
俺と夏美は邪魔になるのでイスに座り待機する。

「凄いな…少し秋姉さんが可哀想な気がするけど…」

秋音さんがいつ帰ってくるか分からないので先に食べようってことになったのだが…。
恵さんが張り切り、和食、中華、洋食とテーブルの上で喧嘩がおこりそうなぐらいごった返している。

「夏美…普段からこんなに食べてるのか…?」

「な、なんで私に言うんだよっ!?普段はこの半分の料理もテーブルに並んでねーよっ!」

流石にあり得ないか…

「はい、これで最後…それじゃ、少し早いけど食べよっか。」
最後の料理が運ばれてくると、冬子も恵さんも台所からでてきた。
自然と昔から座っているイスに腰を下ろす。

俺を挟んで夏美、春香。
反対側には恵さんを挟んで冬子と秋音さん。
やはり右側…春香の席に目がいってしまう…。
誰もいない春香のイスに手をおく…温もりなんて感じるわけもないのに。


──久しぶりにみんなで食べる食後は予想以上に楽しかった。

ここ二年まともに話していなかった恵さんに最近あった出来事や学校のことを話した。
恵さんもそれを嬉しそうに聞いてくれていたと思う。
冬子だって笑顔で受け答えしていた…だけど俺の手は春香のイスから離れることはなかった…。

話を聞いていてもどこか春香の気配を探してしまう。

夏美、恵さん、冬子がいるにも関わらず俺には春香の気配があまりにも濃く感じてしまうのだ。




──「ハル?どうしたの?」
キョロキョロしている俺を変に思ったのか恵さんが正面のイスから春香のイスに移動してきた…恵さんに踏まれないように春香のイスから手を引っ込める。

「いや、今何時かなっと思って…時計無いから。」
さすがに春香を探していたなんて言えない…言ったら病院に連れて行かれるだろう。




「……なんで?」

なんでって聞かれれば時間が気になるから…としか答えようがないのだが…恵さんの雰囲気がどこかおかしい。
先ほどの楽しそうな表情は一切なく、まったくの無表情。
真っ黒な瞳に心まで見透かされているような感覚に陥り、嫌悪感を感じてしまった。



「いや、外暗いですからそろそy「まだ七時よ?今時の小学生ならまだ外で遊んでるわよ…」

今時の小学生のことは分からないがそろそろ帰らないと、精神的に本当に家に帰れなくなってしまう。
家に帰れば一人になる──最近一人にやっと慣れてきたのに、また深く関係を持てば、それだけ長い時間孤独に襲われることになる。

家に帰ってなにをすればいいんだろう?寝るぐらいしか思いつかない…。

「お母さん…春兄も疲れてるから…」

「…」
夏美の声が耳に入っていないのか無視してるのか恵さんは俺の手首を握ったまま離そうとしない。
それどころかより強くなっていく。

「春くん久しぶりに泊まっていったら?勉強教えてよ。」
冬子が洗い物を終え、こちらに近づいてくる。

泊まる?絶対に無理だ…明日からまた一人になるのだから、泊まる意味が分からない。
それに明日春香に会うのだ…下手して泊まれば、みんなで行くことになりかねない。

「そ、そうよっ!今日は泊まりなさい、後で夏美に着替えをハルの家に取りに行かせるから。」

「泊まるのは…それに勉強なら秋音さんを頼れよ。」
教師をしてる姉がいるのだから赤点ギリギリの俺に勉強を教えてもらう必要はない。



「…聞こえにくいのね…冬子……耳掻き持ってきなさい。」

………耳掻き?


状況がまったく把握できない。
さすがに冬子も意味が分からずキョトンとしている。

「聞こえなかったの?耳掻き持ってきなさい。」
先ほどより強い口調で冬子を急かすと、慌てて冬子はリビングを飛び出した。

「あの…」
恵さんはなにも言わずイスから立ち上がり、隣の和室に向かって歩き出す。
無論、恵さんは俺の手首を掴んでいるので俺も強制的に連れて行かれる。

夏美も後をついてくる…が、猫のように小さくなっている為、あてに出来そうにない。



──「はぁ、…はぁ、…お母さん…これ…」
冬子が二階から耳掻きを持ってきた。
二階まで走っていったのだろう少し息切れしている。

恵さんは冬子の頭を一撫ですると耳掻きを受け取り、畳の上に正座で座る。
腕を掴まれているので俺も自然と横に座らなければならない。

「ほら、座ってちゃ耳掻き出来ないわよ?何のために正座してると思ってるの?」
自分の膝をポンッポンっと軽く叩く。

頭を乗せろって意味何だろうけど、今は高校生……子供の時ならまだしも、はい、そうですかと女性の膝に頭を乗せれるほど女慣していないのだ。




──どうしたらいいのか戸惑っていると、駐車場のほうから車のエンジン音が聞こえてきた。


「あっ、……秋姉さん帰ってきたんじゃない?」
夏美の声に反応し、みんなが静かになる。
確かに赤部家の駐車場に車が停まった。
赤部家で車を乗るのが恵さんと秋音さんだけ…恵さんは今ここで俺の耳掻きをしようとしているので恵さんではない…だとすると秋音さんしかいないのだ。

「まぁ、帰ってきたとしても勝手にご飯食べるでしょ、子供じゃないんだから。」
興味をなくしたのか、そう言うとまた自分の膝の上をポンっポンっと叩く。
これは耳掻きをしてもらわないと帰れそうにない。



──車のエンジン音が消え、バンッと車のドアの閉まる音が聞こえると、すぐにヒールを履いた人の足音が家に近づいてきた。

「本当に秋ちゃんだ…今日は早いね?…なんで?」
冬子が夏美を見る…が夏美は目を合わせない。
あの時、携帯をいじってたのは秋音さんにメールしてたのか…。

「さぁ?始業式だからでしょ?」
何食わぬ顔で話す夏美に問い詰めても仕方ないと判断したのか、冬子は夏美の横を通り過ぎ、玄関まで秋音さんを出迎えに行ってしまった。



玄関先でなにか話し声が聞こえるここからでは少し聞きづらい…。

「ハル…足が痺れてきたから、早くして。」
急かすように手を引っ張られる…。

「分かりましたよ…それじゃお願いします。」

観念したと分かったのか俺の手首を離し笑顔で耳掻きを俺に見せてきた。

体を少し後ろにずらして恐る恐る頭を恵さんの膝の上に乗せる…

「ちゃんと、寝なさい。」
首に力を入れて体重をかけないようにしていたのだが、頭を掴まれ膝に押しつけられてしまった…。
スカート越しに、恵さんの肌の温もりが頬に伝わってくる…香水ではない固形石鹸の匂い。
細い指が髪をかきあげ、こめかみに手を添えられる。
恵さんの手は少し冷たくて火照った体には気持ちがよかった。

「懐かしいわね…」

懐かしい…本当に懐かしい。
よく俺と春香で恵さんの膝の上にどっちが座るか喧嘩したっけ…。
喧嘩する度に負けて秋音さんに泣きついて…。
泣き疲れて、寝て……。
起きたらいつも恵さんの膝の上だった。
そして、仲直りする時は決まって春香から…





──ずっといっしょだからね──


「え…春…兄…?」


「あれ?な…んだ…」
ダメだ…感情が抑えられない…。
悲しいのか懐かしいのか自分でも分からない…ただ、複雑に入り組んだ感情が涙となって流れ出す。
やっぱり深く関わりすぎたんだ…。

「ははっ、悪…い…夏美…ちょ…っと部…屋から出てッ…」

「ッ!?」
見られた…
こんな姿誰にも見られたくない。

「春っ!?」

「春くん…」
なんで次々とこんな時に限って集まってくるんだ?肝心な時には………違うッ!!
こんなことが言いたいんじゃない。


「夏美、冬子、秋音…この部屋から出なさい。」

そう言う意味じゃないんだ…恵さん──

「なんで、お母さんが春に膝枕なんかしてるのよ!?春が泣いてるじゃないっ!!」

違うんだ…違うんだ、秋音さん──

「お母さんが悪い訳じゃないよ!!秋ちゃん今帰って来たばっかりでなにも知らないでしょっ!?」

やめろ、冬子──

「無理矢理、春兄を引き留めたのは冬子だろっ!!」

そうじゃないだろ、夏美 ──。

みんなが喧嘩したら春香が悲しむから…だから俺は極力みんなに近づかなかったのに。
何でうまくいかないのか……理由は分かっている。






──俺が不幸の根元だからだ。




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