PINKちゃんねる-エロパロ&文章創作板「依存スレッド」まとめページです since2009/05/10

作者:◆9DJPiEoFhE氏

 とある時代、とある国のとある草原。
 そこはとてもとても辺鄙なところにありました。
 辺りいったいに広がる草の絨毯。人っ子一人見当たりません。
 そんな緑野のど真ん中で、ただ一筋もくもくと煙が立っています。
 おや、その煙が出ている建物から何か声が聞こえます。
 少し耳を傾けてみることにしましょう。

「茶」
「……」
「茶だ!」
「……」
「茶を煎れろと言うのが聞こえんのか!」
「……畏まりました」
 そう言ったのはエプロンドレスを着込んだ女性です。物腰柔らかに立ち上がり、しずしずとキッチンへと向かいます。背筋を伸ばし、品のある姿勢の歩き方から、育ちの良さが窺えます。
 一方、大声を上げて茶を請うたのは白衣を着込んだ男性です。白衣の下に身に着けているこれもまた白いフードを頭から被り、表情は窺えません。
「……どうぞ」
 コトリと男性の前に置かれたコーヒーカップ。ふわふわと湯気が漂っています。
「やればできるじゃないか」
 白衣の男性は、ふんと仰々しく嘆息します。なんだか偉そうですね。
「……ありがとうございます」
 ぺこりと一礼。エプロンドレスを着た女性は姿勢を傾けたまま、なぜかぷるぷると震えています。
「しかし、いくら作法がなっていても味がなっていなくてはどうしようもないからな。
 作法は基本というよりむしろ、前提条件でしかない。本質的に重要なのは、味だ。
 茶葉の風味をいかに生かし、最適の温度を身体で覚え、どのようにマグに煎れるか、それに限る」
 男は長々と語り始めてしまいました。女性は未だに頭を下げた姿勢のままです。心なしかひくひくと痙攣しているかのように見えます。
「そしてこれらのことを踏まえた上で、最も重要な点がある。わかるか? ……って何いつまでもお辞儀してるんだ」
 自分の語りに陶酔していた男は、そこで頭を下げ続けていた女性に気づきました。
「はっはっは、馬跳びでもして欲しいのか。文字通り馬鹿みたいだぞ」
「……っ!」
 ぶち、と何かが切れるような音がしました。
「人が下手に出てればあんたはぁぁぁぁ!!」
 ごす、と何かがひしゃげるような音がしました。
 見ると、床には真っ白な物体が転がっていました。
「だいたいなんでわたしがメイド服を着なきゃならないのよ! それもあんたなんかのために!
 いつまでお辞儀してるかですって? あんたが許すまで動くんじゃないって言ったんじゃない!
 それに、このわたしが、丁寧に、丹念に、手間隙かけて、文句も言わず、持ってきてあげたっていうのに、あんたってばぐちぐちぐちぐちぐちぐちと!
 お茶、もう冷めちゃってるじゃない! あんた、人を何だと思ってるのよ!」
 メイド服の女性はマシンガンのように捲し立てます。
 白い絨毯と化していた男性はむくりと起き上がりまして、こう呟きました。
「うるさい、幼女のくせに」
 屋敷にまた、爆音が響きました。

「ったく、加減を知れ、加減を。これ、直さにゃならんだろが」
「……それだけのことをさせるのはどなたでしたか。もう一発差し上げましょうか?」
「あー、わかったわかった。まったく仕方のない奴だな、君は」
「勝手に私が悪いみたいな流れにしないでください」
「ワガママなんだから。でもそういうトコロも好きだぜ?」
「語尾を上げる言葉遣いはお止めください。吐き気がします」
「そこまで言わなくてもいいじゃないか。俺は好きだ。よくなくなくない?」
「唐突に殺意が沸きました。お殺害してもよろしいですか?」
「しかし寒いな」
 壁にぽっかりと開いた穴を見つめながら、男。
「……それは、あん……あなたの」
 口ごもる女性──少女。落ち着いてきたのか、自分でもやりすぎだと薄々反省してきているようです。
「まぁ、僕のせいなんだけど。でも、思ったんだが」
「……何でしょう」
「ご主人様に歯向かうメイドってのも珍しいと思わないか。普通はなんでもハイハイ従っちゃうものだと思うのだが。従者って言うくらいだからな」
「だから私はあなたのメイドなんかじゃないのよ! 
 目が覚めたら、メイド服を着せられてベッドに寝かされていた上に、見知らぬ男から『毎日、僕の味噌汁を作ってくれ』って言われて、わたし、もう、わけわかんない!」
 混乱しているのか、いくぶん言葉遣いが乱暴になっている少女。
 そんな少女に、白衣の男性は言い聞かせます。

「やれやれ、だからさっきも言っただろう」

「君は、僕の創った人造人間だ」

「呼称は、アンドロイド、サイボーグ、クローン、ホムンクルス、なんでもいい」

「ただ、これだけは言える」

「君の命は、僕という人間によって創られた、モノだ」

 男は淡々と告げます。まるでそれが事実であるかのように。

「そ、そんなこと……あるわけ……ない……」
「君は、ない、ということを証明できるのか?」
「だって、だって! そんなもの作り話の世界でしか聞いたことない!」
「存在するということは簡単に証明できる。ただ、その存在を見せ付ければいいからな。
 でも、存在しないということを証明するには、全ての存在・可能性に関して、『ないこと』を示さなければならない。
 わかるか?
 つまり、君が世界中に存在する技術全てを僕に提示して、『そんなものない』と示してでもくれない限り、それが『ない』とは言い切れないんだよ」
「…………」
 少女は力が抜けたのか、その場にへたり込んでしまいました。
 長く重苦しい静寂が場を満たしました。
 男は黙って、すっかり冷め切ってしまったお茶を啜ります。
 しばらく沈黙が続いていましたが、ふと少女がハッとなり男にこう言いました。
「わたし、いや、私が作られたものだとしたら、キオクなんてものがあるはずがないじゃないですか。
 私にはありますよ。お茶の煎れ方も知っていますし、クローンが行進する映画も観ました。
 味噌汁だって飲んだことありますし、メイド服も以前に見たことがあります。
 あはは、冗談きついんだから。私がツクラレタソンザイナンテ」
「ふむ、そろそろ限界か」
 男は自分の右腕を見やりながら言いまス。
「アレ……? ナンダカ、カラダガ……?」
 少女の体ガ痙攣しだし、壊れタ機械のような動きをし始めましタ。
「君は創られたばかりで、代謝だとか生理的熱量だとかの調整がうまくいかないんだ。だから、定期的に僕から検診を受けなければならない」
「ネムク……ナッテ……」
 少女はもハや、何も聞こえテいないようでス。
「ひとまず、おやすみ。いい夢を」
 ソウシテ、少女ノ、目ノ前ハ、真ッ暗ニ、ナリマシタ。


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