PINKちゃんねる-エロパロ&文章創作板「依存スレッド」まとめページです since2009/05/10

作者:◆ou.3Y1vhqc氏

大きな森に小さい小屋
夏は涼しい風が木々の隙間を潤し、冬は冷たい海風を防いでくれる

緑が生い茂り、様々な植物や動物が暮らしている森
耳を澄ませば聞こえてくる、親子鹿や小鳥の鳴き声
夜になると肉食動物の雄叫びが子守唄
この森に言葉を使う生き物は今はもう存在しない……なのに森の名前は“小人の森”
何万という生き物が存在する森の中で、なぜ小人と言う言葉を選ぶのか不思議でならないかもしれないけど、理由は分かっている

それはたった一人の小人の存在…
唯一森の中ではまったく無意味な“言葉”を使う生き物が森に住んでいるから
人間同士なら言葉は大切なもの
だけどこの森に人間なんて存在しない…居るのは四方八方に生い茂る草木と豊富な野生動物

――そして、一人の小人だけ…

ひとりぼっちの小人だけ…


△▼△▼△▼△


「今日はこれで終わりなの」
片手斧を両手で掴み薪を割る
自分の身体では両手斧は持つ事は愚か掴む事さえできない
「ありがとうございます、ありがとうございます」
切った木に頭を下げて感謝する
森の返事は…返ってこない
返事は返ってこないけど、暖かい風が私を包みこんでくれた
これが森の返事

薪を手にとり小屋の中へ戻り薪を蓙の上に乗せてひと休みすると、水が保管されている樽の栓を抜き、流れてくる水をコップで受け止める
「ごく…ごく…っ…ぷはぁ!一仕事の後の水は格別なの!」
コップを雨水で貯めたもう一つの樽から水を流して洗うと、木製の棚にコップを入れる
この小屋の中にあるモノは全て拾って来たモノ
人間が住む町に夜行くと、たまに壊れた家具を道端に放置していり事があるのだけど、それをその場で解体して持ち帰り、小屋で組み立てる
楽しみといったらこれぐらいしかないかもしれない…
だけど私はこの森で生きている
この森以外にいく場所が無いから…

「ふぅい〜…休憩終わりなの!」
自分専用に作った切株の椅子から飛んで降りると、カゴの中から木の実や花で作った首飾りや腕輪をカバンの中に入れ、草で作った靴を履いて外に飛び出した

「行ってきま〜す!」
誰も居ない小屋に手を振り走り出す
慣れた森の中を踏み外す事なく進んでいくと、小川の音が耳に入り込んできた
小川に到着すると、川沿いに降っていく
二時間ほど走っていくと、遠くに小さく灯かりの固まりが見えてきた
人間が住んでいる“町”と言われる場所だ

「よいしょ…んしょ…」
カバンから布でできた帽子を深く被り歩き出す
帽子を被らないとすぐにバレてしまうから仕方ない…
一度だけ帽子を被らずに昼間町に行った事がある

網を持った人間に追いかけ回されて、大変だった…。
生憎、足の速さなら自信があったので走って森に逃げてきた
そんな酷い目にあっても町に出掛けるのは、やっぱり森とは違う温もりがあるからだと思う…
そしてその温もりに一度触れてしまったから…

「……今日は会えるといいの」
ある人間の顔を頭に浮かべて小さく呟くと、自分の声が優しく耳を撫でた
むずむずする…
くすぐったい耳を隠すように帽子をより一層深く被り、急いで町へ向かった――


◇◆―◆―◆◇


喧騒喧しく飛び交う人々の声――誰に向けて放たれた声なのかは知らないが、無関係な私の心に靄を落とす雑音は耳障り以外のなにものでも無い
昨日も今日も明日も町の中は賑やかな色を薄めない
毎日が祭の如く、静けさそのものが敵のように騒ぎ続ける
人間、無音になると耳鳴りがするのは様々な音に囲まれて暮らしているからだ
だからこの騒がしい雑音が人間の心に安らぎをもたらせる
人間が作り出す音だから安らぎを覚えるのだ

自然の音は人間には優しすぎる…
体に流れる水、体の中に入り込む空気
町で摂取した全ての汚れを落としたい
この町で暮らして二十年が過ぎ、今年で三十五
私は人間であり続ける事に疲れていた…

高原を駆ける馬になりたい

大地を這う蛇になりたい

流れに逆らう魚になりたい

大空を飛ぶ鷹になりたい

森で暮らすオオカミになりたい

人間を…やめたい…

毎日毎日同じことを考えながら暮らしてきたある日、一人の少女と小さな橋の上で出会った

橋の石畳の上に布を引いて、一人で物を売っていたのだ
少女の身なりを見て、まず上町の人間では無い事が分かった
下層にある貧民街の子だと思ったのだ
何処かで拾ったのか、ボロボロになったワンピースに足には草が巻き付けられていた

一人で生きているのか…親の酒を買うために稼いでいるのか…はたまた親が病気なのか…
盗賊にならないだけまだマシなのだろうけど、上層に住む人間の目には良く写らないだろう

「なんだこれ?おまえこんなモノ売ってるのか」
案の定、小綺麗な格好をした子供達が数人集まってきた
「そうなの!どれか欲しいものある?」
帽子を深く被った少女の声は綺麗に透き通っている
下の川を流れる水の音と重なるほどに透き通った声だ

「こんなもん買うヤツいねーよ!」
一人の子供が布の上から首飾りを手に取ると、力いっぱい引っ張った
「あっ!おてて怪我するの!」
立ち上がり少年から首飾りを取り上げようとする
「離せよ!汚いな!」
首飾りごと彼女を突き飛ばすと、布の上に置いていたモノを蹴り飛ばし出した

「やめてなの!」
少女は慌てて布の上の商品を庇った
それでも少年達の粗暴は止まない

少女は袋の中に慌てて商品を詰め込むが、その袋さえも取り上げられ少年達で投げ合っている
小さくても人間…これが無邪気に見えるのだろか?橋を渡る大人達は見ても無視して…中には微笑みながら通りすぎて行く婦人もいる
「か、返してなの!」
少女の手の届かないよう袋を高く上げて、取れないように挑発している少年
「さわるなって言ってるだろ!この浮浪者め!」
「きゃっ!」
まとわりつく少女を少年が再度力いっぱい突き飛ばした
派手に後ろへ転がりゴンッと頭をぶつける少女

あれは痛い…

「はぁ…(そろそろ止めに入るか)」
ため息を吐き、少女に歩み寄ると、脱げた帽子を掴み少女の背後に立つ

「キミ、帽子落ッ!?」
彼女の肩を掴み話しかけようとした時、彼女の耳に異変を感じた

尖っている…耳が動物のように尖っているのだ。


「う、うわぁあ!!!なんだおまえの耳!悪魔だ悪魔!」
袋を掴んでいた少年が大きく後ずさると、彼女の耳を指差し悲鳴をあげた
「ッ!?」
帽子が脱げた事に今更気付いたのか、両手で頭を押さえ目を見開いている

「あ、あの…」
キョロキョロと周りを見渡し帽子を探す少女に再度肩を叩き話しかける

「ッ……ぁ」
肩をビクつかせ恐る恐る此方へ振り返る少女
その目は完全に恐怖の色に染まっていた

「あぁ!悪魔が逃げたぞ!」
帽子を受け取ることもせず俺の手を振り払い走って橋を渡ると、此方へ振り返る事なく町の外へと逃げていった

なぜ町の外へ?
貧民街に住んでるいるんじゃないのか?
少年達も走って少女を追いかけるが、少女の方が足が達者だ
あれは追い付けない…それに町の外までは追いかけられないだろう
子供だけで町の外に出る事は親に固く禁じられているはずだ

「……」
地面に広げられた布の上に視線を落としてみる
木の実で作ったのだろうか?
踏まれてメチャクチャになってしまっているが、無事な物も数個残っている

「しかし、これを売りに来たのか…」
木の実で作られた首飾りを手に取り眺めてみる…
上手く作られてはいるが、金を出してまで買おうとは思わないだろう


仕方ない……商品を…一応、壊れたモノも布で包み立ち上がると、彼女が姿を消した町の外へと歩き出した

「悪魔は町に来るなー!」
町の外に向かって叫ぶ少年の手には先ほど少女から奪った袋が握られている

「ぐッ、いって!なにするんだよ!」

少年の後ろ頭を平手で叩くと、手から強引に袋を取り上げた
バシンッという心地よい音と手の平に残るヒリヒリとした感覚

少しすかっとした

「家に帰ってママの胸でも吸ってろ糞ガキども」
少年達を睨みつけ言い放つと、少年達は悪態をついて走って逃げていった
他人の子供の頭を叩く俺が人の事は言えたものではないが、ろくな人間にならないだろう

「さて…と、追いかけるかな」
走って追いつくだろうか?
三十五歳を迎えたこの身体であの子に追い付けるとは思えないけど…あの耳が気になる

この町に来た当初…まだ子供だった時に一度だけ自宅の窓から見た女の子も耳が尖っていた
顔は思い出せない……キラキラと輝く髪綺麗に反るように尖った耳…それしか思い出せない
父が外灯下に捨てた食器棚を、一生懸命真夜中に解体する少女の姿をずーっと眺めていた
外灯の光に照らされた姿に見惚れていたのかもしれない…次の日、その子を探す為に公園や町中を走り回ったけど見つからなかった
結局その子はその夜にしか姿を現さなかったけど、あれは妖精だと私は思っている
だからあの少女の耳を見た瞬間、あの時の光景が走馬灯のように頭に写し出された

「はぁ…はぁっ…はぁ…ッ」
――だから俺は子供だったあの時のように、走っている
荒い砂利道を躓きながらも少女を追いかけているのだ


一時間ほど走り続けると、小川が視界に飛び込んできた
「はぁっはぁっ…痛たたたッ」
脇腹がズキズキと痛む…やはり歳だろうか?息を整え小川の上流側に目を向ける

「お?……居た」
少女を見つけた
川沿いを歩きながら、川に石を投げて遊んでいる
此処までくれば子供が追いかけて来ない事を理解しているのだろう…頭丸出しなので、此処からでも耳が丸見えだ

「お〜いっ!」
話しかけようか少し迷ったが、此処まで来て帰るのもアホらしい…
息を吸い込み、少女に聞こえるよう声をあげた
此方の声に大きく肩をビクつかせ、持っていた石をその場に落とすと、勢いよく此方へ振り向いた

「あ、待て待て!俺はこれを返しに来ただけだ!」
走って逃げようとする少女の後ろ姿に慌てて声をかけ、少女に見えるように置き去りにされた荷物を高く掲げて見せた
十メートルほど走った少女は、疲れた様子を見せる事なく立ち止まり此方へ振り返った

「これ返したいんだけどー?取りに来てくれるか〜?(警戒…されてるな)」

荷物をフリフリ振って此方へ歩いてくるように伝えるが、立ち止まったままジーっと此方を見つめている

「……お?」
数分間此方を見つめていたが、突然周りをキョロキョロ見渡すと、おどおどと此方へゆっくり歩み寄ってきた
私以外に誰か人がいないか確認したのだろう

一歩一歩ゆっくり歩いてくる女の子に何も危害を与えない事を知ってもらうために、荷物を持った右手と何も持っていない左手も一応上げておく

「これ…壊れたモノも入ってるけど、一応全部拾ってきたよ」
六メートルほど距離を保った位置で足を止めて、様子を伺っている
これ以上歩み寄ってくる気配を見せないので仕方なく、手を下にさげる

「ッ!?」
それを見た少女は、後ろへまた走って私から距離をとってしまった…
「荷物を此処に置くからな?」
ゆっくりと荷物を地面に置いて後ろへ下がる
彼女との距離が十メートルほど空いた場所で腰を石の上に落とした
じりじりと地雷でも避けてるようにいつでも逃げられる体制でカバンに近づいていく
それを鼻で笑い、眺める
小動物を相手にしているみたいで面白い
そう言えば子供を持った時もこんな感じで楽しかったかも知れない…

今では家に居てもただ息苦しい…あれだけ愛していた娘とも会話をしなくなっている
妻なんて所詮他人だ…一緒の家に居るだけのただの他人…

「なんで人間なんてのに産まれたんだ……ん?」

「どっか痛い痛いなの?」

「おわぁ!」
突然現れた覗き込む大きな瞳に身体を大きく仰け反らせると同時に足を滑らせ後ろへ倒れ込む
「だ、大丈夫なの?」
少女が慌てたように俺の手を掴むと、困惑した顔を浮かべたまま優しく引っ張った

「ありがとう」
彼女の手を掴み石に座り直すと、彼女は少しだけ距離をとって小さな石の上にお尻をポスンと落とした
足元には俺が持ってきた布と袋と帽子が置かれている

「あ、ありがとうございますなの…」
「え?あ、あぁ、別にいいよ」
お互いに頭をペコッと下げて見つめあう…。

なんだろう…相手はまだ子供なのだけど、何故か此方も童心に返ったように胸がモヤモヤする
会話が続かないと判断したのか、足元にある布を広げて商品を広げた
やはり殆どが壊れてしまっている…
少女は壊れているものとまだ無事なものを選り分けると、無事なものをカバンの中に入れだした

「ちょっとだけ聞いていいかな?」
「……?」

ある程度荷物が整理されるのを見計らって少女に話しかけた
此方へ向ける少女の瞳には既に警戒よりも好奇心に満ちている気がした

「キミは何処に住んでいるのかな?」
「森の中なの」
森の中…森の中に家があるのか…

「お父さんとかお母さんも一緒に住んでるの?」
「ピピは一人なの」
「ピピ?」
「ピピはピピなの」
自分を指差す少女
少女の名前がピピらしい
「じゃあ…ピピでいいかい?」
「うん!ピピはなんて呼べばいいの?」
「私の名前はマルス」
「マルス…マルス…マルス!」
今度は私の顔を指差し満面の笑みを浮かべた
そんなに私の名前がおかしかったのだろうか?
ぴょんぴょん飛び回り私の名前を連呼している

「マルスは何処に住んでるの?」
「私は町だよ。ピピが居た所の…ピピはいつも橋の上で物を売っているのかい?」
「売ってる?ピピ売ってないの。人間にあげようと思って持っていくの」
「人間にあげる?」
「うん…ピピ一生懸命作ったから人間にあげるの」
不思議な事を言う子だと思った
あそこの人間は基本物売り目的で路上に座るのだけど…それに人間にって…まるで自分が人間じゃないみたいに……

「……ピピ…君は妖精か何かかい?」

唐突に発せられた私の言葉にピピがピタッと止まった
頭がおかしいと思われたのだろうか?
確かにおかしいと思われても仕方ないような発言だ
しかし、少女は少しだけ首を傾げた後、あっけらかんとした表情で妖精では無いと言い放った…そして

――ピピは小人なの!と付け足した

「そっか…小人か」
「驚かないの?」
不安そうに眉を歪ませ問いかけてくるピピに微笑み返す
驚いた…とは少しだけ違うかも知れない
確かに内心驚いてはいるが、それ以上に自分自身ピピが小人だという事実に納得していた
いや、事実かどうかさえ分からない
だけどピピは人間では無い…それは何となく分かった

「小人ってなに食べるんだ?」
「食べもの?落ちてる木の実とか、川の魚とかなの。あっ、木の蜜を溜めてそれを煮詰めると凄く美味しいの!溜まるまで時間がかかるけど、マルスも食べてみればいいの!」
「はは、森に入らないから食べられないんだ。今度よかったらご馳走してくれるかな?」
「ぇ…た、食べてくれるの?」
「作ってくれるなら食べるさ」
「分かったの!じゃあ今から作るの!」
料理が好きなのか、人と食事を取るのが好きなのか
ピピは身体いっぱいで喜びを表現してみせた

「それじゃあ今からピピのお家に来るの!」
あれほど警戒していたのに今は私の手を掴み森の中へと連れていこうとしている
グイグイ私の腕を引っ張るピピの後頭部を眺めながら苦笑いを浮かべた
「ピピ、残念ながら今日はダメなんだ」
優しくピピの手を掴み放す

「なんでなの?すぐにピピが作るの」
「ありがとう、今日はほら…もうすぐ暗くなってしまうだろ?家に帰らないとね」
「……」
私の発言が気に入らないのか、どこか拗ねたような表情をしている

「今度会ったら作ってくれるかい?その時は私も何か食べものを持っていくから」
「……分かったの…」
渋々納得してくれたようで、足元に置いてある荷物を纏めると肩に担いでトボトボと歩き出した

「約束だからなー!絶対に甘い蜜食べさせてくれよー!」
遠くなるピピの背中を見送り大きく手を振る

「分かったのー!絶対ぜったい約束なのーーーー!」
ピピも負けず劣らず大きく手を振ると、終始私の事を気にしながら森の中へと消えていった

「……帰るかな」
ピピが居なくなった途端、現状に引き戻されたように身体がだるくなった

また会えるのだろうか?
会えるなら会いたい…そして先ほどみたいに一時でもいいから現実を遠退けてもらいたい…ピピと居た時間、私は現実の速い時間から抜け出せていた気がする
ただ少女と会話しただけなのに…俺の心は満たされていた
それはピピが現世では考えられない“小人”という夢の生き物だからだと私は思う
ただの人間の少女なら此処まで関わろうとは思わなかっただろう…
荷物もわざわざ届けに来なかったはずだ
ピピが私の理想を持っているから強く興味を引かれたのだ

そして何処と無く脳裏に昔見た少女がピピに入れ替わり、一生懸命に食器棚を解体してる姿に自然と笑いが込み上げてきた――

次会うときが楽しみだ



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