PINKちゃんねる-エロパロ&文章創作板「依存スレッド」まとめページです since2009/05/10

作者:◆ou.3Y1vhqc氏


暗い――寒い――体が動かない。
薄暗い部屋の中に寝ているのは分かる。
それに見慣れた天井。多分ここは私の部屋なのだろう。

手の指先に力を入れてみる。

「…」
……ピクリとも動かない。



「……(夢の中?体が動かない……金縛りか…)」
私は産まれて初めて金縛りを体験しているようだ。
こういう時は確か指のどれかを動かせば体が動く様になると聞いた事がある。
しかし、先ほど指先を動かそうとしてもまったく動かなかった。

再度試してみる。

「……」
やはり動かない…。

金縛りは確か不規則な生活習慣やストレスからなりやすくなるとか……10日間も意識不明だったのだから不規則と言えば不規則なのだが…。




――ガチャッ


「……(ん?誰か入ってきた…)」
顔を動かせないので、扉がある方向に目を向けて確認する。


黒い影が3つ……私の方へゆっくりと近づいてくる。

「……(なんだコイツら?ライトはどこだ?)」
ライトは隣で寝ているはずなのだが、何故か隣からライトの気配が無い。

「……(なにか話してる?)」
ボソボソと3つの影が何かを話している。





――くく、いい体してるなコイツ




「ッ……(コイツら!)」
背中に冷たいモノが走る。
無理矢理身体を動かそうと手足に力を入れるがやはりピクリとも動かない。

――俺からいかせてもらうぜ

一つの影がゆっくりと私が寝ているベッドへ近づいてくる。

「ッ…ッ…(くそッ、ライトはなにしてるんだ!?)」
何とかライトに気づいてもらう様に、声をだそうとするが、喉に何か詰まったように声がでない。

――綺麗な身体だなぁ?さすが副団長様だ。

影の手がゆっくり、私の胸へと伸びる。

「ッ……(やめろ!汚い手で私に触れるな!)」
口にでない私の声は影に届く事は無い。


――おぉ、すんげー柔らかいな!吸い付くようだぜ

影の手がいやらしく私の胸を揉みしだく。

――それじゃ、俺は下の方を確認するか…

もうひとつの影がそう言うと、私のショーツへと手を掛ける

「ッ……(やめろ!触るな!)」


――へぇ〜、綺麗なもんだな?

ショーツをずらし、影がそう呟くと、私の顔をみてニヤリと笑った。

「…(これは夢だ、これは夢だ!)」
自分にそう言い聞かせ、目を閉じようするが瞼がおりてこない…。

――気持ちよくしてやるよ

影がそう呟くと、私の中へゆっくりと侵入してきた。

「ッ――(頼むやめてくれ!気持ち悪い!)」

――はぁ、気持ちいいなぁ…お前も気持ちいいだろ?

けがわらしい、影のモノが私の中へ無理矢理押し込んでくる。

「……(やめてくれ!ライト助けて!)」

――もうダメだだ……よし、中にだしてやる!


「……(いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!)」

影が力強く私の身体に何かを打ち付けると、身体中に広がるモノを感じた。
快楽など微塵にも感じない、嫌悪感だけ。


――次は俺だな

「……(頼むもう許してくれ!ライト!ライト!)」








「助けてライトッ!!!」
力強く願った心の声がやっと言葉になり、口から出てくれた。
それと同時に、影が一瞬で消え去った。
身体も自由に動く。


「はぁ、はぁ、はぁ」
やはり金縛り…。
身体中からイヤな汗が吹き出している。

身体が小刻みに震え、心臓は大きく震えている…。

「…よかった…」
小さく呟いた声だが、本心だった。
ライト以外に身体を触れられるなんて死んでもイヤだ。

「……はぁ」
それにしてもライトは……私が隣で悪夢を見ているのに呑気に寝ているのか…。

隣に寝ているであろうライトを睨み付けるため、目線を横にずらした。

「……ライト?」
おかしい……居るはずのライトがいない。
暗闇で見えにくいのかと思い、手を横にずらしライトを触ろうとするが、何度やってもベッドの感触しか手に伝わってこなかった。


「ッチ、何してるんだアイツ!」
先ほどの震えが怒りの震えと変わる。

ベッドの温もりからして、長い時間戻ってきていないのだろう。
だとすると、自宅へ帰った確率がかなり高い。


「私の許可無しに、あれほど離れるなと命令したのにッ…」
寝服の上に軽い上着を羽織、外へと飛び出した。
こんな格好、騎士団の連中に見られたら何を言われるか…。

そんな事はどうでもいい…まず、ライトに制裁をしなければ、私の気がすまない。

「ほんと…イライラさせてくれるヤツだなッ!」
良い意味でも、悪い意味でもライトは私に影響をもたらすようだ。


◆◇◆†◆◇◆


「はぁ〜、眠たい…」
大きな欠伸をして、両手を上にあげる。
部屋の中なら普通の光景なのだが、今俺は朝日も昇らない時間帯に一人、ノクタールの町中を歩いていた。
昨日の騒がしいさはどこへやら…町中は怖いほど静まり返っている。

道の隅に捨てられている数多くのゴミだけが、昨日何があったのか証明してくれているが、知らない人が見ればなんて汚い町なんだろうと誤解してしまうだろう。
普段はゴミなどまったく落ちていない綺麗な町なのだ。
その原因を作った張本人が言うことでは無いが、ゴミぐらい持ち帰れと言いたい。


「はぁ……ん?」
ゴミから目を背け、空を見上げると、小さい光が此方に向かって飛んでくるのが視界に入った。
多分、ティエルだろう…

「コラー!ワトソンなにしてんのー!」
案の定その光は空から急降下すると、俺の顔スレスレで止まり、怒鳴り散らしてきた。
透き通るほど細い綺麗な髪、小さな身体に羽……間違いなくティエルだ。


「ティエル…頼むから怒鳴らないでくれ。家に帰れない事情ができたんだよ…」

「へぇ〜、私の夕飯より大事な事情なんでしょうねぇ?」

「いや…窓は開けていたんだから家には入れただろ?冷蔵庫勝手に開けて漁ればよかったのに。」

「そんなはしたない事できるわけないでしょ!」
嘘つけ…と言いたかったが止めた。
ティエルの怒りに触れるとなにされるか分からない。
いや、もう触れているのだが…。

「おいおい…そんな怖い顔するなよ。可愛い顔が台無しだぞ?」

「なっ、かわッ、可愛いい!?わたっ、あたっ、あたりまえじゃない!私より可愛い妖精なんて存在しないわよ!」
ティエルがプイッと顔を背けるが、耳まで真っ赤に染めているので照れているのがバレバレだ。
一緒に住んで分かったことなのだが、ティエルは誉められる事にかなり弱いらしい。

すぐに顔を赤くするし、モジモジする。
さっきは冗談で言ったがミニチュア効果も相まって正直可愛いと思ってしまう。

「てゆうかどうせ、冷蔵庫漁って何か食べたんだろ?」
ティエルがこの時間まで何も食べずに我慢できる訳が無い。

「そんなことしないわよ。ちゃんと、作ってもらったわ」

「作ってもらった?誰に?」
俺の家には俺とティエル以外住んでいない。
誰に作ってもらったのだろうか?


「ふふ〜ん…ひ・み・つ・だよ!ワトソンくんの家にまだ居るから早く帰ったほうがいいわよ?」

「え…俺の家にいるのか?」
だとすると俺の知り合い……と言っても片手で数えるぐらいしかこの町に知り合いはいない…。

……まさか。

「……ホーキンズ達か?」

「秘密〜!」

楽しそうに空を舞うと、俺の家へと飛んでいってしまった。

「待てよ!」
すかさずティエルの後を追い、走り出す。
久しぶりに会える……此方に来て一度も会えなかった親友の顔を頭に浮かべると自然と顔がにやけてきた。
さすがににやけながら走るのは危ない人間だと間違われる恐れがあるので、表情を元に戻すが、自宅に近づくにつれ笑っている顔をもとに戻す事はできなくなっていた。

「早く〜!」
自宅の近くまで来ると、ティエルが扉の前で手を振っているのが視界に入ってきた。

「はは、待ってくれよティエル!」


「人間は遅いね〜…体力つけたほうがいいわよ?」

「ティエルは空飛んでるだろ……それより、まだ家にいるんだよな?」

「えぇ、ワトソンくんが帰ってくるまで起きてるってきかないから」
子供扱い…まぁ、ティエルからすれば俺やホーキンズは子供となんら変わりないのかも知れない。

年齢は聞いたことないのだが、ボルゾがまだ存在しない世界の話をしてくれたので、最低でも400年は生きてると言うことだ。

「それじゃ、入るぞ…」

――コンッ、コンッ。

「それジョーク?自分の家の扉普通ノックする?」

「うる、うるせーよ!」

確かに自宅の扉をノックするヤツなんて稀だろう…。
再度気を引き締め、ドアノブを掴み扉を開ける。



「やぁ、おかえり。久しぶりだねライト」
――俺が扉を開けるや否や、微かに汚れた白衣に身を包んだ男が椅子に座って此方に手をあげた。
頭に浮かんでいた親友とは違う男に困惑し、表情が固くなってしまうのが自分でも分かった。

「はは…ホーキンズじゃなくてガッカリかい?」
そう苦笑いを浮かべた男性は寂しそうに呟いた。
が、そんな言葉が俺の頭に留まる事はなかった。

「お……おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
白衣の男に近づき両肩を掴み詰め寄る。
白衣の男性は戸惑いの表情を浮かべティエルを見ている、そのティエルは此方から伺えないが、多分笑っているのだろう…。





「久しぶりじゃねーかハロルド!」
早朝だということも忘れ、ハロルドに抱きつき大声をあげた。

ホーキンズの事を思い浮かべていたので多少ビックリしたが、久しく会っていなかった友達が俺に会いに来てくれた事に心から喜べたのだ。

「ははっ、全然変わってねーな!いつもの白衣…懐かしいな、おい!」
端にある椅子を片手で掴み、ハロルドの前に持って来て座る。

ハロルドは始めキョトンした表情を浮かべていたが、次第に笑顔になり、何故か「よかった、僕が知ってるライトだ」と喜んでくれた。

「元気そうでよかったよ。ライトは英雄になっちゃったみたいだからね……僕が話しかけていいのかわからなくて…」

「おいおい…俺が英雄ってガラじゃないのはお前も知ってるだろ?第一英雄だろうが勇者だろうが、俺とハロルドが友達って関係が消える訳じゃねーだろ」
知り合いに……特にホーキンズやハロルドに気を使われるのだけは絶対に嫌だった。
馴れ親しんだ町で出会ったのだ…上下の関係なんてものは邪魔でしかないのだ。

「んで今日はどうしたんだよ?観光か?俺に会いに来てくれたなら普通に嬉しいんだけどよ」

「はは、もちろんライトに会いたくて来たのもあるけどね…ライトに伝えなきゃいけない事があるんだ」
ハロルドの表情から笑顔が消えた。

「なんだよ?てゆうかホーキンズは?アイツ来てないの?」
俺の予想ではホーキンズが来てるはずだったのだが…。
一応周りを見渡し、ホーキンズがいるか確認するが、ホーキンズが隠れそうな場所は無い。
だとすると、ホーキンズは仕事の都合かなにかで来れなかったのか……少しショックだ。

「……ホーキンズはもう、ユードにはいないよ」

「……え…」
空気がピシッと音をたてた気がした――。
…ホーキンズがユードに居ない?

「な、なんで?出稼ぎでも行ってんのか?」
呂律が回らない舌を無理矢理動かし、ハロルドに理由を聞く。
ハロルドの表情は見たこともないような堅苦しい表情へと変わっていた。


「ホーキンズ、メノウちゃん、アンナさん……この三人は行方不明だ」

「……行方…不明?」
ハロルドから唐突に告げられた死刑宣告の様な話――

ハロルドの話が頭に入ってこない――行方不明?
ハロルドは何を言っているんだ?
冗談か?だとしたらセンスが無い。

「は、はは……ははははっ!冗談がうまくなったなハロルド!」
ハロルドの肩をバシバシッと二回手のひらで叩くと、椅子から立ち上がり台所へと向かう。

「……三人が行方不明になったのはちょうど一週間前。僕がいつもの様にホーキンズの店行くと、店がメチャクチャに荒らされててね……その前の夜にホーキンズ、アンナさん、メノウちゃんの三人で夕食んとっていたらしいんだ。」
ハロルドが立ち上がり台所へと入ってくる。

「町の皆はボルゾの仕業だって…」

「ふざけんな!!!」

壁に掛けてある、鏡を力一杯殴りつける。
激しい音と共に、割れたガラスがあちこちに飛び散った。


「……」

「んじゃなにか!?ホーキンズやメノウ、アンナさんはボルゾに食われたってか!!」

「ぐっ!」
ハロルドに近づき胸ぐらを掴むと壁に押し付けた。

勢いよく壁に背中を打ち付けたせいか、ハロルドの口から息が漏れる。

「やめて、ライト!ハロルドは何も悪くないでしょ!!」
俺とハロルドの間に割って入ると、ティエルは俺の顔を睨み付けた。


「……クソッ!」
ハロルドの胸ぐらから手を放し、 再度椅子へと腰を掛ける。

「ライト…」

「少し…頭の整理をするから待ってくれ…」

心配そうに声をかけてくるハロルドに悪いがハロルドに気を使う事は少しできそうにない…。


「ライト…多分ホーキンズ達は生きてるよ」

「えっ!?」
反射的に振り返りハロルドの顔を見る。

ハロルドはポケットから小さな紙切れをだすと、俺の前へと差し出した。

「?なんだよこの紙切れ……」
ハロルドから紙切れを受け取り、確認する。
紙切れには、文字が書かれていた。

「……」
――気持ちいいぐらいの短文。

その短文から読み取れる、相手の気持ち…力強い気持ちが読み取れた。

ただ一行。




『守るから安心しろ』





「……ホーキンズだ」
そう…ホーキンズから俺に宛てた手紙だ。

「そうだよね、やっぱり…。」
ハロルドが安心したかの様にため息を吐いた。

俺と同じ様にハロルドも不安だったに違いない……ハロルドが信用できる人物…それはホーキンズだけだ。
そのホーキンズが突然居なくなったのだ…。
ハロルドもショックを受けているはず。

なのに俺は…

「すまん…」
ハロルドに向かって頭を下げる。

「僕は大丈夫だよ、むしろホーキンズの事で怒ってくれたライトを見て嬉しかったから…。それに手の手当もしなきゃ。」

「手当…?なんじゃこりゃ!」
右手が血だらけだ…。
そう言えば鏡を手で殴ったんだっけ。


「もう、仕方ないわねぇ…ほら、手をだしなさいライト」
ティエルはテーブルの上に立つと、俺に手をだすよう要求してきた。
治癒の力で治してくれるのだろう…。

「ありがとう……てゆうかティエル…俺の名前知ってたんだな?」

「当たり前でしょ!命の恩人の名前忘れる訳ないでしょ…」

何故か頬をピンク色に染めながら手の手当をしてくれている。
妖精は皆、こんな感じなのだろうか?
だとしたら妖精の世界の未来は明るい。

「それでねライト、手当中悪いんだけどもう一つライトに見てほしいものがあるんだ」
そう言うとポケットから二枚の写真を出してきた。

「なんだこれ………ホーク?」

一枚の写真を手に取り確認する。
壁には黒いペンで“hawk”と言う文字だけ書かれている。

最後のkの下部分が跳ねているので間違いなく、ホーキンズの字だ。
ホーキンズは変な癖字があり、最後の文字は何故かピンッと跳ねるのだ。

「hawkは鷹のことですね……」

「鷹……鷹ってもしかして!」

「えぇ…簡単なヒントをホーキンズは残してくれましたね…。そうです、鷹はバレンの象徴…紋章でもあります」

「それじゃ、三人はバレンに拐われたのか!?」

「分かりませんが、恐らく…」
バレン……人身売買も当たり前にする腐った国だと聞いた事がある――嫌な考えが脳裏を過る。

「でも、どうやって拐ったんだ?ユードは海門内だぞ?海門を抜けなきゃ外の海には出られない。」
そう…海門を抜けるには入ってきた以上に厳しい取り調べが行われるのだ。

「それなんですが……町裏にある外門が破壊されていたそうです」
破壊?…あんな鉄の扉を破壊?人間の力で破壊できるほどやわな扉では無いはずだ。

「じゃあ何か?森を抜けてユードに到着し、扉を壊して町に侵入したって言うのか?」
西側の森は誰も入る事はできない…何故なら獣道すらないからだ。

一面木々で覆われた完全なる森。

「えぇ、そうなりますね…扉の周りには馬か分からないですが何らかの樋爪跡が残されていたらしいです」
ハロルドが淡々と話すせいで頭が混乱してきた…。
西側の森は間違いなく、人間が立ち入る事のできない区域。
だから海門だけを作り、大陸には外壁など人の手を加えたモノは何も作らなかった。
そんなものを作らなくても自然の壁が全てを拒むのだから。

言わばユードやノクタールは自然の森に守られているようなモノなのだ。
外から侵入できない、だから海門を通らざるえない。
それを無視して森から侵入してきたのか…。
頭に浮かんだのは、ティエルを助けた時に襲われた、あの怪物ども…。あの類いならできるかも知れない。

「これは、なんだ?」
ハロルドから渡された二枚目の写真に目を向ける。
写真には綺麗な家が一軒建っている。

見て分かるが新築だろう。

「……これはキミの家だよ」

「俺の家?」
写真を再度見てみる。

……俺の家はこんなに綺麗じゃない。
それに俺の家は三年前、全焼したはずだ。

「キミがノクターンへ連れられてすぐ、建てられたんだ。キミが帰って来たらすぐに住めるように…」

「はっ?」
俺がノクターンへ行ってすぐに建てられた?

「キミはユードの皆を恨んでいるだろう…犯人扱いされたんだから。
でもねライトが連れていかれてすぐ、村長からライトが犯人じゃないことを教えられてね…。皆がライトに謝りたいって…少し考えればライトが神父様を殺す訳無いってわかることなのにって…皆後悔してたんだ」

「なっ、ちょっと待てよ!俺は町の皆に恨まれていたんじゃなかったのか!?だから俺はユードに帰れなかったんじゃ!」

「それは無いよ…だって町の皆でライトをノクタールまで迎えに行こうって……でもライトは僕達を許してないからもうユードへ戻ることは無いって騎士団の兵から言われて」

「なんだよそれ!俺はユードの皆に神父殺しで恨まれてると!」

「こんな言い方悪いかもしれないけど……貴方、騙されたんじゃ?」

――騙された?

俺が?騎士団が俺を騙してなんの得がある。
いや…騎士団じゃない……。


「ティーナ…」

ティーナが俺を騙したのか?
いや、だってティーナは俺を助けてくれた張本人のはずだ。
現に今、こうやって騎士団として頑張っていられるのもティーナのお陰…何かの間違いだ。
「貴方をノクタールへ連れていき、尚且つ貴方を騎士団へ誘った人。………ホーキンズが言ってました。ライトは何か嘘の理由をつけられて、ユードに帰ってこれないんだって……じゃなきゃ俺のパンを食べに帰って来ないはず無いって…」

「あ…ぁ…」

「知ってますか?ライトがユードの町にまだいた時……すでにライトが犯人じゃないって分かっていたらしいですよ?」

「どういう意味だよ?」

「これは、ライトの焼けた家の処理を手伝った町人から聞いた話しなんですけどね?
なんでもバレンの勲章を騎士団の兵が焼け跡から見つけて、女性に渡すのを見たらしいんです」

「女性…?」

「えぇ…あの、団長の隣に居た鎧を纏った女性です」

「…」
ティーナ…。

俺はこの三年間、ユードの皆に恨まれてるものだとばかり考えていた。

もう一度写真を手に取り、確認する。

立派な家だ…周りの風景からして間違いなく全焼した俺の家があった場所だろう…。

建てるのにどれほどかかったのだろうか?

「町の皆が建てたんですよ?子供も…女性も皆で…」

「……俺、今まで何をしてきたんだろ…」
当たり前の様にティーナを信用して…騎士団へ入って。

俺は三年間もティーナに騙されていたのか…?
行き場の無い俺を助けてくれてるとずっと思っていた――信頼できる幼馴染みだと――だけど違った。

ずっと…ずっと騙されて――







「そいつの話に耳を傾けるなッ!!!」

――扉が勢いよく開けられ、一人の女性が姿を現した。
その女性は先ほどまで宮廷で寝ていたはずの騎士団副長、ティーナだ。
ティーナは此方を強く睨み付け、家へ入ってくるなり大声を張り上げた。
髪や服は乱れ、息も切々…かなり急いで来たのだろう。
だが、俺にはそれを指摘する余裕がなかった。

「ティーナ…オマエ、俺を騙していたのか?」
入ってきたティーナに向かって問いただした。
状況の説明をする必要は無いだろう…間違いなくティーナはハロルドの話を聞いて部屋に踏み込んできたはずだ。

「違う!私がライトを騙す理由が無いだろ!私がライトの事でなにか不利になるような事をしたか!?あの町の人間はお前を恨み、憎んでいたはずだ!だから私があの町から助けたんだ!殺人者扱いを受けたお前が一番理解していることだろ!」
確かにティーナの言う通り、俺は殺人者扱いを受けた。
石を投げつけられ、軽蔑する眼差しで俺を見ていた。

だけど、問題はそこじゃない。

「もう一度聞くからな……俺を騙したのかティーナ?」

「ぐ…だ、騙してない!」
目に涙を溜めて、俺を見ている。
先ほどの睨んだ目とは違いすがり付く様な目で…。

「もういい……今日は帰れティーナ」
立ち上がり、ティーナの背中に手をおき外へと連れていこうとする。
今日は頭で考える事はできない…ホーキンズのことだってあるのだ。

「な、なんで!私はお前の味方だって何度も言ってるだろ!?」
俺の想いとは裏腹にティーナは部屋から出て行こうとしない…。

「その話しはまた後だ……今は大切な話中だ」

「なにが大切な話だ!そんな罠にはめようとするヤツとなんの大切な話しがあるんだ!」

「大切な話なんだよ……後からその理由も話すから、今日は帰れ」

ティーナは怪我をしている…それは分かっているのだが、自然とティーナの背中を押す力が強くなる。

「イヤッ!私も此処にいる!そいつが次私達を引き剥がそうとしたら首を切り落としてやる!」

「黙れ!帰れっていってるだろ!後々お前にも話があるんだよ!!」
ドンッと背中を強く押し、部屋の外へと押し出す。
押された勢いで転けそうになりながらも体制を整え、此方に目を向けてくるティーナ。
俺が知ってるティーナとはまったく違う表情を浮かべている。

子供が怖がっているような顔――。


「待って!私は本当にライトのことだけを考えッ――」
ティーナが話終えるまで待たずに扉を閉める。
何度か扉をドンドンと叩いていたが「帰れ!」と大声を張り上げると扉を叩く音が聞こえなくなった…。多分帰ったのだろう…罪悪感が心を締め付けたが、今の俺はティーナを目の前にすると言ってはいけない言葉を発してしまいそうで怖いのだ…。

本来ならティーナも含めて話を進めるべきなのだろうが、今はティーナの顔をまともに見る事はできない…ティーナのすべてを疑ってしまいそうだから…。

「ライト…良かったのかい?」
ハロルドが後ろから声をかけてくる。
ティエルも不安そうに、俺の肩に座り顔を覗き込んできた。

「大丈夫…それよりホーキンズ達だ…」

そう…今はホーキンズ達の安否が気になる。
それにホーキンズ達を拐った理由も…。

「ユードへ行こう…なにか手がかりがあるかもしれない」
まず、現場にいかないと何も始まらない。

「ライト……そうだね、まだ教会とかも調べてないからね…三人を拐った理由が見つかるかも知れない…」


「あぁ、そうと決まれば、一刻も早くユードへ向かおう…もうすぐ船も出るはずだ…」
一応部屋に手紙を残し軽く荷造りをすると、すぐさま部屋を飛び出し、港へと向かった――。



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