PINKちゃんねる-エロパロ&文章創作板「依存スレッド」まとめページです since2009/05/10

作者:◆ou.3Y1vhqc氏


「……ん…ッ…あ…れ?」
痛む頭を押さえて、身体を起こす。
何が起きたのだろうか?
ホーキンズがメノウ姫を連れて…それからライトってヤツに会って…それでライトに後ろから抱きつかれて…

「あ………思い出した…」
たしかライトに落とされたんだった…。

「あのクソ野郎ッ」
石畳を拳で叩き、ヨロヨロと立ち上がり目眩が治まるまで壁に寄りかかり周りを見渡す。

マリア像が動いている……逃げたのか。

「はぁ、ちゃんと逃げれたかな…アイツら…」
ポツリと呟いた自分の言葉に自然と笑みがこぼれた。
俺が人の心配をするなんて…絶対にあり得ないと思っていたのだが…。
人間、変われば変わるものだ。
今は少しだけ後悔している…ホーキンズと親しくなった事を。
あのパンが恋しいが、もう食べる事は無いだろう。
メノウ姫が拐われた今、俺達騎士団の未来はもう決まったも同然。

騎士団の下の人間は助かるかも知れないが、俺は間違いなく処刑されるだろう…。

「レムナグは…アイツは一人でも逃げれるか…エルフだし…」





「逃げる?エルフだろうと、神だろうと私の目からは絶対に逃げられん」
突然ドアが開き、兵がなだれ込んで来た。

中心には我が国の王であるゾグニ帝王……その目は怒りに満ちている。

「メノウ姫を賊ごときに拐われおって…我が軍に役立たずは不要」
ゾグニ帝王が兵を引き連れマリア像の前へと歩いていく。
抜け道を数秒眺めた後、此方へ目を向けてきた。

「……お前もこうなりたいか?」
そう呟くと、ゾグニ帝王は右手で何かを此方に投げてきた。
地面を転がり俺の指先にコツッと当たる。


「レ、レムナグ…」
ゾグニ帝王が投げたモノ…それはレムナグの頭だった。

「弱っていたからな…簡単に首を切り落とす事ができた」
ゾグニ帝王が歪んだ笑みを浮かべレムナグの頭を踏みつけた。
レムナグが人間の兵士ごときに負けるとは思えない……だとするとあの銀髪の女か…。
先ほどゾグニ帝王はレムナグの事を弱っていたと言っていたが、あの銀髪女との戦いでボロボロになったレムナグの首を切り落としたらしい。

「レムナグ…」
踏みつけられたレムナグの髪に触れてみる。細い糸のような銀髪が、今では血でべっとりだ。
気に入らないヤツだったがレムナグは俺の直々の上官になるエルフ…。
たまにどこからか飛んでくる梟に独り言の様に話しかけていた…。

気に入らなかったけど…。

「足をどけてください…ゾグニ帝王」

「なんだ?今、私に指図したのか?」
レムナグの頭を蹴飛ばし、此方へ近寄ってくると俺の顔に足を押し付けてきた。

「ッ…ぐ…ぅ」
それを払い除ける事もせず、されるがまま地面に這いつくばる。
この国ではゾグニ帝王が絶対の存在。
ゾグニ帝王がすることには素直に受け入れ、どんな無謀な任務でもやって退けなければならない。
失敗すれば当人は勿論のこと、家族や親類すべて死刑…この国はゾグニ帝王自身が法律なのだ。

「お前はたしか、地下出の人間だったな…」
地下…ゾグニ帝王からでた地下と言う言葉に心臓がはね上がる。


「ま、待ってください!あそこだけはっ、あそこだけには戻りたく無い!」
ゾグニ帝王の足にしがみつき、慈悲を乞う様に地面に頭を擦り付けた。
冷や汗が身体中から吹き出し、身体の芯が大きく震える。
あの地獄だけには絶対に戻りたく無い…あの化け物達が居る場所には絶対に…。

「ふん…変態貴族どもには人間と“アレ”の交尾は好評だからな……可愛がってもらえ」
俺の言葉に聞く耳を持たずしがみつく俺の手を振り払うと、数名の兵を残し礼拝堂から出ていった。

「おい、口に布を噛ませろ」

「やめぅッ!?」
残った兵士が俺を押さえつけ口に布を押し込んでくる。
これで舌を噛みきれなくなってしまった…。手足を縛られ二人の兵に担がれると、そのまま礼拝堂から出て地下へと連れていかれた。

――ジメジメとした空気に、地鳴りのような唸り声…“地獄”が脳裏に蘇る。

「ぐむっ、うぅぅぅッうッ!!」
なんとか逃れようと暴れてみるが、手足が封じられているので逃げる事は愚かまともに動く事すら儘ならない。

「安心しろ。メノウ様の捜索が終わるまでは地下牢で人間として生活できるさ。まぁ、地下牢でも時々兵達の精奴隷として頑張ってもらうかもしれんがな…」
地下牢に到着すると、手足が動けないように木製の拘束具を付けられ放り込まれた。

「ん…っうぅ…ッ!!
(またあの地獄に?…嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だッ!!絶対に嫌だ!誰か助けて!誰かッ…ホーキンズ助けてくれ!!!)」
逃げたホーキンズの名前を頭の中で何度も唱える。
無論ホーキンズに届くはずが無いのだが、頭に浮かんだのが何故かホーキンズの顔だった。
拘束具が腕を締め上げ、それを強引に動かすとミシミシッと骨が音をたてた。

「暴れても逃げられねーよ、もと奴隷の騎士団幹部さん」

見張り兵の嘲笑う声が耳に入り込んでくる…普段は顔色ばかり伺っている癖に…。

「ぅう…(なんとかあそこに連れていかれる前に死なないと…)」
何かないかと周りを見渡してみる。
隅に小さなトイレがあるだけで、石の壁で囲まれているだけ…。
仕方ない…兵が居なくなる時を見計らって壁に頭を叩きつけるしか……。




「おい!姫様を連れ去った賊を捕らえたぞ!」
――扉から勢いよく飛び込んできた兵の声に耳を疑った。

「むぅッ!!(捕まった?!嘘だろ!?なにやってんだよホーキンズ!)」
芋虫のように地面を這い鉄格子にもたれ掛かると、額を鉄格子に叩きつけた。
何度も何度も。

「おいっ!なにやってんだ!」

「グッふっむぅ!(ふざけんな!なんのために抜け道教えて逃げ出す手助けしてやったと思ってんだ!!!)」
牢屋に入ってきた兵に鉄格子から引き剥がされ地面に押さえつけられた。

「ふぅ…お前が死んだら俺らの首が飛ぶんだよ。大人しくしてろ……それでメノウ様は?」

「それが…メノウ様と一緒について来た男居るだろ?アイツ一人だけ城に戻ってきたんだよ」

戻ってきた?アイツ一人で…?
捕まったんじゃないのか。
でもなんで…。

「……(そっか…アンナか…)」
そう言えばあの場にアンナの姿が無かった…。
おかしいとは思っていたのだが、確かアンナは別の部屋に軟禁されていたんだった。
ホーキンズはアンナを助ける為に戻ってきたのか…。
いや…助けるためじゃなく一緒に…。

「今からそいつを拷問にかけるらしい。早くメノウ様が何処に居るか吐かせないとな」

「ふぅ…ふぅ…ッ(わざわざ戻ってきたんだ…そんな事で吐くかよアホども)」
心の中で悪態をつき、静かに目を閉じた。
ホーキンズは始めからこれが目的だったのか…始めからアンナと打ち合わせしてメノウ姫を連れ出すのが…。

「ぅう…」

「へぇ…お前も泣くことあるんだな?」
上から聞こえてきた兵の言葉に、再度目を開けた。
泣いてる?俺が?人の心なんてとうの昔に忘れたはず…なのになんで涙なんて…。
なんとか止めようと目に力を入れてみるが、溢れだす涙を止める事など自分自身で制御できるものではなかった。




◆◇◆†◆◇◆

「遅い…ホーキンズのヤツちょっと遅すぎないか?」
立ち上がりホムステルの町の方角へと目を向ける。
今俺達は、ユニと言われる小さな港町まで足を運んでいた。
正確にはその港町近くの森…。
ティエルの故郷である忘る森まで足を運んでいた。
見たこと無いような木々や植物が鬱蒼と茂り、生命を一切感じさせない不思議な森だ。
死の森と言われるだけあって、神秘的を通り越して少し怖い。

それにこの森に入ってから、クーに貰ったペンダントが弱々しくだが不気味に光っているのだ。
元々青い石の中に霊魂のような光があったのだが徐々にその光が強くなっている…。
クー本人も光るところを初めて見たらしく、キラキラした目を見開き「―それクーの――かえして―」と強引に俺の首からネックレスを引きちぎろうとしたので強く怒ってやった。
それが気に食わなかったのか、一睨みした後おもむろに草むらに飛び込むと、周りにはえている植物を次から次へと引き抜き子供のようにジタバタと駄々をこねだした。

呆れて「返してほしければ返してやるよ」とクーにペンダントを手渡すと、何故かクーの手に戻ると光りが消えていくのだ。

「ッ!?――ッ―ッ!!」

「クー暴れるなって…仕方ないだろ?俺もどうなってるか分からないんだよ」
地面に倒れ込みう〜う〜唸るクーの手を掴み抱き起こしてやる。
光らないペンダントには興味が無いのかペンダントをいらないとでもいうようにぽいっと俺に投げた。
確かクーの宝物だと言っていた気がするが…。

「はぁ…害が無ければいいんだけどな…」
ティエルにもこれが何かと聞いてみたが「ん〜…光る玉…なんか大昔に聞いたことあるような…ないような…確か何かの目だったような…ん〜、分かんない!」と曖昧な事しか言わなかった。
流石にハロルドもこれに関しては見たことが無いらしい。
ペンダントを上にあげて、太陽光にあててみる。
吸い込まれるような光…メノウが言うようになにかの瞳に見えてきた。

「ん?メノウどうしたんだ?」
隣に座るメノウが空におずおず手を伸ばしている。
メノウが手を伸ばす先…には空を飛ぶティエルの姿。
そう言えばメノウはティエルを一度見てるだっけか…あの時は弱ったティエルを強引に見せられたようなもんだったから元気に空を飛んでるティエルが気になって仕方ないのだろう。


「ティエル、ちょっと降りてきてくれないか」

飛び回るティエルに声をかける。

「んっ?なによ?」
俺の声に反応したティエルは素直に飛ぶのを辞めて、俺の肩に降りてきた。

「ティエル…この子メノウって言うんだけど…良かったら友達になってくれないか?」
メノウの手を掴みティエルに近づけてやる。
するとティエルがメノウの手の平の上にピョンっと飛び乗ってくれた。

「ふふっ…私の奴隷になりたいですってねぇ?いいわメノウ!貴女を私の別荘第三号に任命します!」
メノウの手の平で偉そうに胸を張ると、手の平からメノウの頭に飛び移った。
始めはオドオドしていたメノウもティエルの気さくな性格に打ち解けたようで、二人で仲良く会話をしている。

「――むぅ〜―」
それが気に入らないヤツも…まぁ、居るわけで…。
ティエルの第一別荘であるクーの威厳に関わるのか、わざわざ俺の隣に座り腕の隙間からメノウを睨んでいる。
ちなみに本家が俺のカバンの中で、第二別荘がハロルドの胸ポケットの中となっている。

「クーもメノウと仲良くしてやってくれよ」
クーの頭にポンポンっと手の平を優しく乗せると、クーも会話に加わるようメノウの前に移動させた。

メノウは友達と言える人物が数少ない…親しく話せるのはアンナさんと俺ぐらいのもんだ。
これを機に友好関係を広める勉強になればいいのだが…。

それから一時間ほど会話の勉強をしていると、ユニの方角から誰かが此方へ歩いて来るのが見えた。
クーの肩を叩き、歩いてくる人物を指差す。
クーは数百メートル離れた場所に居る人物の匂いをかぎ分けられるらしい…エルフは皆そうなのか?と思ったがクーが特別なんだそうだ。

「――ハロド―かえって―きた―」
鼻をくんくんさせたクーが、歩いてくる人物に手を振る。
小さくだが向こうも手を振っているのが分かった。
確かにハロルドのようだ。

「どうだった?」

「いえ、まだでしたね…それに港にもバレン兵が数多くいましたよ…流石にキツイです。それにしても…どうしたんでしょうかホーキンズ」
ハロルドが心配そうに呟き来た道を振り返った。
ハロルドにはホーキンズが来た時の為にユニの町にある港で待機してもらっているのだ。
団体で行くとバレる可能性が高いので、白衣を脱がせて俺の服を着てもらっているのだが……ホーキンズは一日経った今でも姿を現す事は無かった。

ホーキンズを待っている間に港にある使われていない船を一隻盗んで小さな入り江に隠しておいた。
だから後はホーキンズとアンナさん待ちなのだが…。

森から顔を出して海に視線を向けてみた。
ここから見ても海にやたら船が浮いているのが目についた…恐らくバレン船に間違い無いだろう…。
多分この大陸の港町はすべて押さえられている…もう港に行くのは身体が小さく尚且つ空を飛べるティエルにしか頼めなくなってしまった…。

「とにかく…もう少し様子を見て港町にホーキンズとアンナさんが姿を現さなかったら…もう一度俺一人でバレンに戻って二人を探してみるよ」
やっとの思いで逃げ出して来たので戻るのはかなり危険な行為だと把握しているのだが、もしホーキンズの身に何かあったのなら…。

「ライト?胸のペンダント…なんか凄く光ってますけど…」
ハロルドに言われて胸元に目を向けた。
明らかに先ほどより光が増していた。

「いや…俺も分からないだ…この森に来てからずっと光ってんだよ」
ペンダントを首から外してハロルドに手渡す…すると微かに光が弱まった。
クーの時は完全に消えたのに…ハロルドの時は微かに光が揺れている。

「――かしてっ―」
クーがハロルドの手から強引にペンダントを奪い捕ると、再度ペンダントが光るように両手でペンダントを握りしめた――。






「―――ッ?!―う〜ッ!―ッ―ッ!」
ペンダントを放り投げ、またジタバタと暴れだす。
結果、先ほどと同じようにクーが握ると光が消えてしまったのだ。

「なんか不思議な石ですね…これはやはりライトが持っていた方がいいのかもしれません」
そう言うと、クーが投げたペンダントを手に取り俺の首に掛けてきた。
確かに…この石は俺に反応している気がする。

「まぁ、いいか……それよりティエル…頼んでいいか?」
メノウの頭でくつろぐティエルにホーキンズの待ち人をお願いする。

「オッケ〜、ホーキンズ見つけたらすぐに連れてくるから!あっ、後絶対に奥に入っていっちゃダメだからね?帰れなくなっちゃうから」
森の奥へと指差し忠告すると、メノウの頭から飛び降り、ユニの町へと羽ばたいていった。
心配しなくても樹海の奥へ入るなんて自殺行為は天地がひっくり返ってもしないだろう。クーですらこの森の奥へと入りたがらないのだから…。


「メノウどうだった?ティエルやクーは面白いだろ?」

ティエルを見送った後、先ほどまで楽しそうに話していたメノウに声をかけた。

「うん!普通の人と違ってティエルちゃんやクーちゃんは話せたよ、メノウ偉い?」
丸い大きな目で俺の顔を覗き込み、ニコッと微笑んだ。
その顔を見て、三年前と全然変わらないなぁと心で感じた。
見た目は年相応に変わっているのだが、内面は俺が知ってるメノウ…。
嬉しいのだがその反面、この先大丈夫なのだろうかと少し不安になる。
ホーキンズやアンナさんと合流した後、俺達は皆でユードへと帰るのだが、俺は騎士団の仕事があるのでノクタールへと行かなければならない。

それに俺はティーナと約束したのだ。





――俺が戻ってきたら結婚してくれと。

子供もあと数ヶ月すれば産まれる。そうなると俺はティーナと子供を守る為にノクタールに永住することになるだろう…。

しかしメノウをノクタールへ連れていく事は出来ないのだ。勿論ユードにもメノウを置いておけない。
だからメノウにはノクタールの城下町であるコンスタンで生活してもらう事になるだろう。コンスタンの平民に混じり生活すれば、もうバレンの人間に見つかる事は無いはず…。

そうなればメノウは文字通り自由…ティーナにも事情を話してかくまってもらう事もできるし、金銭面での問題も解消するだろう。

しかしずっとメノウと一緒に居れる訳では無い…。
メノウには少しずつでも“自立”を目指してほしいのだ。
俺やアンナさんが居なくても生活できるだけの力が…。

「メノウ…」

「ん?なぁに?」
無邪気な笑顔で俺の膝に頭を乗せると、甘えるように頬を擦り寄せてきた。

「おまえ…ちゃんと一人で寝れるようになったか?」
その言葉を聞いた瞬間、メノウの猫耳がピクッと反応した。


「…なんでそんなこと聞くの…?」
頭を持ち上げ俺の顔を見上げている…。
その目は不安色で濁ったように淀んでいた。

「いや…ほら、メノウも大きくなっただろ?大きくなったら一人で寝るもんだからさ…今日から一人で寝れるよな?」
メノウの肩を掴み、座らせると子供に教える様に伝えた。
それが間違いだったのかも知れない…いや、先走ったと言ったほうが正しい。
メノウだってまだ不安定な精神状態…それを察する事ができなかった。



「分からない…分からないけどね?メノウね?勉強いっぱいできるようになったの」

突然立ち上がると、地面に落ちている木の枝手をかき集めだした。
かき集めた木の枝を一本一本丸太の上に並べていく。

「これはね…8本。それからこっちが…じゅっ、17本かな…?そ、それをたすと…えっと…いち…にぃ…さん…」
丸太の上にある枝を両手使って数えている。
このやりかたは、俺がメノウに勉強を教えていた時に使った勉強法だ。

本来ならテーブルの上に食器を乗せて、そこから足し算や引き算を教えてやったのだが。
それを木の枝に変えて今俺に見せているのだろう。


「えっと……にじゅう……さん…?」
恐る恐る答え合わせを求める…。

「――にじゅう――ご―?」
すかさずメノウの後ろで一緒に見ていたクーが答えた。

「……クーが正解…」

自信満々に頭を差し出すクーの頭を軽く撫でてメノウに目を向けた。
慌てたように丸太の上に並んでいる枝を再度数えだした。しかし数秒後、こんがらがった頭で計算できる事ができなくなったのか、数えるのを辞めて助けを求めるような目で此方を見つめてきた。
助けを求められても、状況が今一分からないのでどうすればいいか分からない。
メノウはいったい何をしたいのだろうか?

「メ、メノウ本当にちゃんと勉強してたんだよ!?クーちゃん今メノウが勉強してるの!」
クーを一度睨むと、また枝を集めて丸太に乗せた。枝の数を増やしてクーよりできる事を証明したいのだろう。

「えっと…こっちが12本で…こっちが28本でy「――よんじゅう―」
メノウが数えるまでもなくクーが答えた。

自慢気にメノウを一度見下ろすと、俺が正解と言う前にクーが再度頭を差し出した。
ため息を吐きクーの頭を撫でてやる。
頭を撫でてもらう事が気に入ったのか、何かする度に頭を撫でろと差し出してくるのだ。
クーは古典的な誉めて伸びるタイプらしい…。
しかしクーはいつの間に勉強したのだろうか?俺が教えている時はここまでできなかったのに…。

「ライトはモテモテですね〜、軽く殺気がわきますよ」
ハロルドが微笑ましいものでも見るように笑顔で話しかけてきた。

「お前みたいた人間がそんなこと言うと逆に怖いからやめろ…」
それを軽く流し再度メノウに目を向ける。

「ラ、ライトッ…お願いだから…」
ふらふらと立ち上がり俺の膝の上に腰を落とすと、力強く首に手を回して抱きついてきた。
長い髪が頬を撫でくすぐったい…メノウの髪を掻き分けてやる。

「ちゃんとお料理も…お勉強も頑張るから…だからライトとずっと一緒に居たい…。
なんでも…ライトが願うことなんでもするから…。お願い…メノウを置いていかないで」
俺の耳元に口を近づけ震える声で呟くと、小さな声で泣き出してしまった。

「あぁ…分かったよ…(まいったな…アンナさんに相談するか)」

「ライトと一緒に…ライトが居てくれたら…それで…」
数十分泣いていると、泣きつかれたのか俺の胸にしがみつき小さく寝息をたてはじめた。

メノウも疲れていたのだろう…ずっと気を張っていたのだ。

「まぁ、これからのことはユードに戻ってから考えれば……あれ?」
ふと森の外に目を向けてみると、ユニの方角から此方へ飛んでくる小さな光が視界に飛び込んできた。

ティエルだ。

「なんだアイツ…やたら早いな」
ホーキンズが来たのだろうか?

「どうしました、そんなに慌てて。ホーキンズ来ましたか?」
慌てたように飛んできたティエルにハロルドが問いかけた。
息が整わないのか、ハロルドの手の上で息を吐き続け苦しそうに胸を押さえている。





「ホ、ホーキンズがっ、ホーキンズが!」
ハロルドの手の上で涙をポロポロと流すティエル。

その姿を見た瞬間、頭の中を嫌な靄が覆った。
――あの透けたホーキンズの背中…なぜ俺はあの時、無理矢理にでも止めなかったのだろうか?
あの時のホーキンズには違和感しか感じなかったのに…。
理由が分からないホーキンズの強気な発言…。
本当は助けを求めていたんじゃ…。


「……ぁ…ッ…そう…だよ…なんで…なんで気がつかなかったんだ…」
他の人には絶対に分からない…幼馴染みの俺だからこそ分かる、アイツの本当の気持ちが全面に溢れていたのに。


あの泣き虫のホーキンズが強気に見せている時は決まって――。





「ホーキンズが捕まってッ、公開処刑って!!」


誰よりも“弱気”になっている時なんだ――。



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