PINKちゃんねる-エロパロ&文章創作板「依存スレッド」まとめページです since2009/05/10

作者:◆ou.3Y1vhqc氏


「はぁ…」
午前6時…ため息から始まる1日…多分ため息で終わる1日になるだろう。

「朝食は……もういいか…」
食べる気力が無い。
いつもなら台所で守夜さんが料理を作ってる時間帯。
長い時間守夜さんと居たからだろうか…朝起きて寝惚け眼で守夜さんを探してしまった。
昨日の出来事を思い出してみる…。
守夜さんの家につくなり守夜さんが僕を責め立て頻りに「あの女とは会話をするな!」とわめいていた。
あの女とは浜深さんの事だろう…なぜ守夜さんは浜深さんを敵視するのだろうか…

「う〜ん…分からん…」
頭を抱えて唸ってみる。
しかしこうしていても時間だけが過ぎてしまう……守夜さんと顔を会わせるのは気まずいが…仕方ない。

重い身体を動かしゆっくりとスーツに着替えると、鍵を閉める事なく家を出た。
不思議な事に家を開けっ放しにすると、周りの住民が家に上がり冷蔵庫に料理を入れてくれるのだ。
畑で取れた新鮮野菜や海で取れた新鮮魚介類。
始めは何故勝手に人の家に上がり込むんだ?と思ったが今は感謝している。
周りの人間に恵まれているのだろう……僕も実家から贈られてくる食べ物は周りに分けるようにしてる。

持ちつ持たれつ…それが良い近所付き合いの方法だ。

「……守夜さんと会うかな…」
家を出て坂道を見下ろしてみる。
今学校に向かえば途中の道で高い確率で守夜さんと出会ってしまうだろう…。

「……此方から行くか」
いつも歩く道とは違い、遠回りして学校へ向かう事にした。
どんな顔して話せばいいか分からない…。
少しの間お互い頭を冷やす時間が必要だろう…冷却期間だ。

――石垣の階段を登り見慣れない道を歩いていく。
一度、気分転換で此方から学校へ行った事があるのだが、少しの差で下の道から行く方が早かったのだ。
それに守夜さんと付き合いだしてから完全に自宅より上の道には行くことが無かった…ちょうど良い機会なので、此方の道もちゃんと覚えとこう。

「しかし……本当に階段が多い島だな…」
後ろを見ても前を見ても階段…風情があっていいと思うのは早朝だからだろうか?
昼になると石垣が熱を持って熱くなるので、太陽が登っていない今の時間帯だから景色を見る余裕があるのかもしれない。


「須賀先生〜!」
声につられて後ろへ振り返ると、階段を駆け上がってくる女性が視界に入ってきた。

「おぉ、浜深先生じゃないですか」

昨日研修生として入ってきた浜深先生だ。

「はぁ、はぁっ、何故こんな所に居るんですか?」
僕の場所まで登ってくると、胸を押さえながら息を整え問いかけてきた。

「この下に僕の家があるんだよ。赤い屋根だから分かりやすいんじゃないかな」

「あっ、確か一軒だけ真っ赤な屋根の民家がありましたね!あれ先生の家だったんですね〜それじゃ私が借りてる家からも近いですね。私の家はアレです」
後ろを振り向き指をさす。
まだ新築だろうか?
綺麗な家が一軒民家に混じって不自然に建っていた。
あれを借りれたのか…かなり運がいい。

「この辺坂道や階段が多いから大変でしょ?」
「いえ、大学まで運動部に入ってましたから。全然問題無いです」
「何の運動部に入ってたの?」
「ラクロスです。分かりますか?スティックの先に網がついていて小さなボールをそれで受けたり投げたりするスポーツです」
「あぁ、見たことあるよ。かなり激しいスポーツだよね?」
「慣れたらそうでも無いですけどね。でも楽しかったですよ」
「僕も学生の時はサッカーしてたんだ」
「へぇ〜、かっこいいですね〜!」
「万年補欠だったけどね〜」

――こうやって守夜さん以外の異性と二人で話すのは何ヶ月ぶりだろうか?
人との会話がこれ程新鮮に感じるとは思ってもみなかった。
やはり今までの生活に問題があったのだろうか…。

――二人で雑談をしながら歩いていると、あっという間に学校へと到着した。
その足でまっすぐ職員室へと向かう。


「おはようございまーす」
「おはようございます」

「おぉ、おはよう…あれ?今日は藤咲先生と一緒じゃないんだね」
「はい、朝は会わなかったですね」
会わなかったでは無く会わないようにした…が正しい。
職員達に頭を下げながら自分のデスクへと向かう。

「……(まだ、守夜さんは来てないのか)」
職員室の中を見渡してみるが、守夜さんの姿を見つける事はできなかった。
普段この時間帯なら守夜さんは学校へと来ているはずなのだが……もしかしたら守夜さんも顔を合わせるのが気まずくて、図書室に居るのかも…まぁ、今はその方が自分的にも気が楽だ。

デスクに鞄を置いて、授業の準備をする事にした。



「それじゃ朝会を始めますよ〜」
40分後、校長が姿を現した。
それと同時に時計に目を向ける。

もう7時だ…。

未だに守夜さんの姿を見ていない。

「あれ…藤咲先生はどうしたの?」
校長も気がついたようで守夜さんのデスクに目を向けた後、此方へ視線を投げ掛けてきた。
いつも一緒に来ているので、僕だけ来ているのが不思議なのだろうか……。

「いや…僕は分かりませy「はぁはぁッ、す、すいません…遅れました」
荒い息を吐きながら、守夜さんが職員室に飛び込んで来た。

「藤咲先生遅刻ですか?珍しいですね」
「はぁ…はぁ…ッすいません…」
本当に珍しい事もあるもんだ…寝坊でもしたのだろうか?
僕がこの学校に来て初めて遅刻した守夜さんを見た気がする。

僕の方を一瞬ちら見した後、守夜さんもデスクへと向かった。

「それじゃ皆が揃ってので朝会始めますよ」
守夜さんがデスクへ着くのを確認すると、校長の声と共に職員会議が始まった。

――校舎裏にある花壇が―ッ―

「……」

――屋上の鍵が壊れ――

「……」

――生徒達のロッカーが――

「……」
見てる……守夜さんが校長の話を無視して僕を見ている。

「……(どうしよ…やっぱり話し合ったほうがいいかな)」
校長の話が耳に入らないほど、僕も守夜さんに意識を持っていかれていた。




――てる―の―

「……」

――てるのか―」

「……」

「須賀先生ッ!」

「は、はい!!」
身体をビクつかせ前に視線を向ける。
校長が此方を睨んでいた。

「ゴホンッ…昨日言ったが君には浜深先生の指導役をしてもらうから。分かったね?」
「は、はい!分かりました!」
「うむ…それじゃこれで朝会を終了します」
朝会が終了し、教師各々の教室へと向かう。
僕の教室は二階。今日から浜深さんは僕が担任を任されている組の副担として勉強する事になったのだ。

「それじゃ、行こうか?」
「はい!」
浜深さんと職員室を後にしようと扉に指を掛けた。


「ちょっと待ってくれないか、冬夜」
聞き慣れた声に思わず声がする方へと振り向いた。

「ど、どうされました藤咲先生」
いつの間にかすぐ傍まで守夜さんが迫っていた。

「冬夜…二人で話があるんだ」
「ちょっ、ちょっと藤咲先生ッ」
ヤバい…浜深さんが僕と守夜さんを交互に見ている。
学校では名前で呼ばない約束なのに…。
軽く周りを見渡す…よかった……他の教師は全て職員室から出ていったようだ。

「ま、また後でいいですか?早く向かわないと間に合わないんで…それじゃ」

「と、冬夜、その女と…」
守夜さんが呼び止めるのを無視して横を通り抜けると、職員室を急いで飛び出した。
今、守夜さんは何を言おうとしたのだろうか?
何故か危機感に襲われた。

「須賀先生。もしかして藤咲先生と…」
「いやぁ…はは……周りには言わないでね?」
「は、はい。分かりました」
気まずい空気の中、僕と浜深さんは足早に教室へと向かった――。


■■■■■■

おかしい…冬夜がずっとあの女と一緒に居る。
校長から頼まれたにしろ、あれじゃあ他の教師の目にも間違った写りかたをするんじゃないだろうか?


今朝もそうだ……私は昨日の事を謝ろうと、冬夜の家の下で待っていたのに…二時間待っても冬夜が階段から降りてくる事は無かった。
それでも謝る為に階段下で待っていると、階段から降りてきた老人に「須賀先生ならもう学校へ向かったよ?珍しく上の道通ってたけど…そう言えば新しく来た先生と一緒だったなぁ」
と教えられ、すぐに学校へと向かったのだ。

朝は仕方ない…あれはあの女が居たから、私と話す機会が無かっただけ…。

「冬夜、昼は図書室に来るんだろ?」
小さなバスケットを両手で抱えて、冬夜に問いかけた。

「きょ、今日はサンドイッチにしたんだ。ほら、冬夜も好きだろ?」
「……学校では名前で呼ばない約束だったでしょッ」
キッと睨まれ、デスクから離れていってしまった…。
慌てて後を追いかける。
そうだ…私は冬夜と約束していたのだ

「ごめんなさい……破るつもりは無かったんだ…だから怒らないでくれ。この通り謝るから…だから一緒に図書室に行こう。
冬…須賀先生に話さないといけない事もあるから」
そう…私は冬夜の頬を叩いた事をちゃんと謝っていないのだ。
あの時、大人げなく冬夜に嫉妬して頬を叩いてしまった…だから冬夜は私を避けるんだ…。
職員室を出てスタスタ歩いていく冬夜を必死に追いかける。


「ッ…と、冬夜待って!」
私が見えないかの如く冬夜は中庭へと歩いていってしまった。
追いかけたい…追いかけたいのに…ほんの小さな段差が私を拒んでいる…。

私はこの段差を越えられない…足が無い私は…。

忌々しい…。

「お願いだから、待って!昨日の事は本当に謝る!だから、手をかしてくれ!」
涙声に近い声で冬夜に悲願した。
その声が届いたのか、冬夜は頭を掻くと、足を止め此方へ振り返った。

「と、冬夜…」
冬夜のその行動に私は安堵し、冬夜に甘えるように両手を広げて助けを求めた。


「…校長先生から浜深先生に学校を案内しろと言われてるので今日は無理です。それでは」
一度此方へ一礼すると、何事も無かったように歩いていってしまった。

私は両手を広げたまま固まる…。
いつもなら、私が助けを求めると冬夜は助けてくれた……この小さな段差だって、私一人では無理かも知れないが、冬夜と一緒なら問題無いのに…。

冬夜に壁を作られた?

「無い…ある訳無い…」
冬夜が私に壁を作る訳が無い。
だって冬夜とはこれからもずっと一緒に居るんだ。
結婚の約束はしてもらえなかったが、いずれ結婚もする。
そうなればずっとこの島で一緒に暮らしていける…。

「やっぱり…叩いた事を…」
それしか考えられない…他にあるとしたら……あの女…。

まさか…あの女と浮気?

「ダメだッ…私の醜い嫉妬が冬夜を怒らせた可能性もある…」
じゃあ、あの女に冬夜を盗られてもいいのか?
そんなの絶対に嫌だ。

でももし既に身体の関係を持っていたら…。
だから、私を置いて一緒に学校へ…


「いや…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、いやぁぁぁぁぁ!!」

頭を抱えて悲痛な叫び声をあげる。
その瞬間、私の膝に置いてあるバスケットが勢いよく地面に落ち、段差を転がっていった。
咄嗟に手で庇おうとしたが、間に合わなかったのだ…。

「あぁ…」
バスケットの蓋が開き、中身のサンドイッチが外に飛び出してしまっている。
これじゃあもう食べれない…。

「どうしたんですか?藤咲先生」
廊下の方から同僚の教師が歩いてきた。
この人も昔からお世話になってる一人。

「ん?…あぁ、落としちゃったのね」
そう言いながら、同僚は段差を降りてバスケットを掴もうとした。

「やめろッ!触るな!」
バスケットに触れようとする同僚を後ろから怒鳴る。
肩をビクつかせ此方を振り返ると、首を傾げて「何が?」と問いかけてきた。

そのバスケットは私と冬夜のモノだ。

「冬夜が来てくれるので、大丈夫です」
「そ、そう…それじゃ気を付けてね」
気が触れたと思われただろうか?
別に問題ない…誰に何を思われようと冬夜が居れば。


「冬夜!」
冬夜が消えていった中庭奥の方角へと呼び掛ける。

「バスケットを落としてしまったんだ!だから拾ってくれないか!」
冬夜なら絶対に来てくれる。

「居るんだろ!?私を降ろしてくれたら私が片付けるからッ、だから早く戻ってきてくれ!」
冬夜からの返答は無く、姿も見えない。

「あ、謝ったら許してくれるのか!?意地悪してるならもうやめてくれ!私が悪かったから!私が…悪かったから…」
私の叫び声はすべて空に吸い込まれていく。足が動けば、今からでも冬夜を追いかけるのに。

「うぅぅぅぅッ!」
自分の足を力一杯殴る。
足に痛みは感じない…だけど胸の痛みは増す一方だ。


「このっ、このっ、こッ痛!」
手を振り上げて足を叩くはずが、車椅子に手をぶつけてしまった…。
小指から血が出てる…

「冬夜…冬夜…冬夜!指から血が…出たから…治療を…」
指を必死に段差の向こうへと差し出す。
しかし冬夜はいない…。

だけど…段差の向こう側に居る冬夜に私の痛みが伝われば……そう脳裏に少し浮かんで消えていった。
私は何をしているのだろうか?
冬夜を傷つけ…冬夜に愛想を尽かされ…。

他の女に盗られて…。

「うぅ…ぐッ…ひっ…く…うぁ…」
ポロポロと目から流れ落ちる涙が動かなくなった足を濡らす。

この日嫌というほど再確認させられた…。



――私は冬夜に生かされているのだと。



■■■■■■


「はぁ…ただいま…」
誰もいない自宅に一人虚しく帰ると、鞄をテーブルの上に投げて畳の上に寝転んだ。

学校に来て一年と数ヶ月…まさか僕が指導役に選ばれるなんて…。
校長からの頼みだから仕方なく受けたけど、やはり疲れる…別に浜深さんに問題がある訳じゃ無い。
浜深さんは熱心に仕事を覚えようとしているし、生徒とも仲良くしようと頑張っている。

……問題があるのは僕だ。

「早く守夜さんと仲直りしなきゃなぁ…」
朝からずっと守夜さんの事を考えっぱなしだ。
喧嘩の原因が原因なので此方から謝るのはシャクだと思っていたが、そうも言ってられなくなってきた。

守夜さんがあの状態ならいつかバレてしまう。


「今から謝るかな…」
受話器を取り、番号に人差し指を持って行く。

「……電話はダメだな」
守夜さんと電話で話して上手く話せた例しが無い。
受話器を置いて、再度畳に寝転がる。

「流石にフラれたかな…」
実は今日の放課後に謝ろうと思っていたのだが、守夜さんは僕を待つこと無くすぐに帰ってしまったのだ。
やはりあの昼休みの出来事が溝を広げてしまったようだ…。

学校内でお互いの名前で呼ぶのは辞めようと提案したのは僕だが、初めから守夜さんは気に食わなかったのだろうか…。

「とにかく…明日謝らなきゃ」
明日の朝、学校に行く前に守夜さんの自宅に行って謝ろう…。

それが一番良い。
許してもらわなければ…。

「……はぁ〜…」
大きくため息を吐き捨てると、カップラーメンに手を伸ばした。


「守夜さんの手料理が恋しい…」
人の手料理に慣れると、インスタントは本当に味気なく感じる。

お湯を入れて三分で出来る料理より、一時間待って僕の為に作ってくれる料理の偉大さにこんな時に痛感するなんて……本当に早く謝って関係を修復したほうがよさそうだ。


――翌朝。
朝早く起きた僕は早速守夜さんの家に向かった。

「守夜さんいますか?守夜さん?」
しかし、先ほどから何度となくノックをしているのだが、出てくる気配を見せない。
仕方なく合鍵で扉を開けて中を覗き込んでみた。

「あれ…もう学校に行ったのかな」
既に守夜さんの靴は玄関から消えていた。
何か授業の準備でもあるのだろうか?
腕時計に目を落とす…まだ6時になったばかりだ。

「僕も学校に向かうか…」
学校に居るなら学校で謝ればいい。

どうせ生徒達はグラウンドと体育館で遊んでるはずだ。
この時間帯に学校に向かったなら、職員も少ないだろう。

謝る場所が少し違っただけだ…問題無い。

守夜さんの家の扉を閉め鍵を掛けると、足早に学校へと向かった。

――学校へ到着すると、まず校門から見える図書室に目を向けた。

カーテンが閉まってる…となると別の教室。

「まだ来てないって事は無いだろうし…」
「須賀先生!」
表玄関から職員が慌てた様子で走り寄ってきた。
どうしたのだろうか?

「早く、校長室へ行きなさい!」
「ぇ…校長室ですか…?でも鞄は…」
「そんなもん私が預かってあげるから早く!」
職員に背中を押されて学校へと入った。
なんだろうか?
何か問題でも起きたのだろうか…もしかして昨日の浜深さんの指導が悪かったとか…。

「はぁ…胃がキリキリする」
次から次へと問題が出てくる…守夜さんにも謝らなきゃいけないのに。
重い足取りで校長室へと向かうと、校長室の扉を軽く二回ノックした。

「はい」
中から聞こえた声は校長の声だ。

「あの〜、須賀ですけど…」
「入っていいよ」
「はい、失礼します」
扉を開けて中へと入った。

――まず目に飛び込んで来たのは、車椅子…そして守夜さんの後ろ姿だった。

周りには数人の職員達が此方を見ている。

「……藤咲先生の横に立ちなさい」
校長の指示に従い、守夜さんの隣に立つ。

意味が分からず、理由を求めるように守夜さんを見下ろした。





「ぇ…しゅ、守夜さん!?どうしたんですかその頬!!」
守夜さんの頬には赤く滲んだ大きな絆創膏が貼られていた。

おまわずしゃがみこんで守夜さんの頬に目を近づけた。
昨日の夕方までこんな傷なかった…だとすると昨日の学校の帰りか昨日の夜…そして今日学校に行く時…。


「昨日の夜に包丁を滑らせて怪我をしたそうだ……後数センチずれていたら命に関わったそうだよ」


「ッ……(僕は何をしているんだ!)」
心の中で自分に激怒した。
守夜さんは車椅子…こういう事故はいつ起きてもおかしく無かったはず。
もし僕が守夜さんについていたら、こんな事故は……。


「冬夜…ごめんなさい……これで…許して…」

「ぇ…何を許y「それでだが…君に聞きたいことがあって呼び出したんだ」
校長の声に我に返った僕は守夜さんから手を放して立ち上がった。

――しかし、守夜さんが放した手をギュッと握って来た。
再度守夜さんを見下ろして手を放そうとした……が、守夜さんは僕の手を放さなかった。
震える汗ばんだ手で僕の手を一生懸命握っていた…。


「はぁ……付き合ってるんだね?」
校長がため息を吐き片手で頭を押さえると、椅子に腰かけた。
他の職員も何とも言えない顔を浮かべて立っている。


「……はい」
これはもう誤魔化しようがない…。
いつの間にか守夜さんの事も普通に呼んでしまっている。

「分かった…これは教師としてでは無く、一人の人間として聞くが…守夜と結婚する気はあるのか?」
「…ありますけど……今の僕でy「冬夜とはもう結婚も決まっている。ただ、ちょっと様子を見ていただけなんだ」
「そうか…なら皆に報告しなきゃな」

報告?なんの報告だ?
しかも結婚が決まってるって…。

「ちょ、ちょっとまっy「守夜も結婚かぁ…島の皆が喜ぶな」
「喜ぶどころじゃないだろ。早く子供見せてくれよ!」
「式は早いほうがいいだろ。いつするんだ?」
「まだ詳しく決まっていないが、今年中にはしたいな…」
おいてけぼりのまま話が進んでいく。

別に守夜さんと結婚するのが嫌な訳じゃ無い…嫌な訳じゃ無いけど、結婚はちゃんと二人で話し合って――


「それじゃ、結婚式は10月ぐらいはどうだろうか?ねぇ。冬夜…」
守夜さんが僕を見上げる。
その眼は僕の全てにすがり付くように弱い眼をしていた。

「…そうですね」
コクッと頷き守夜さんから目を反らした。
結婚は切っ掛けだとよく言われているが、これが結婚する切っ掛けだったのだろうか?




――分からない…分からないけど、皆が話す内容に僕は他人事の様に無言で頷く事しかできなかった。



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