『異才世界に吹く風は第七の司祭と出会う』その一
『異才世界に吹く風は第七の司祭と出会う』その一
月を隠す程霧深く沈む街にその男は何の前触れも無く現れた。
美術館に飾られている彫刻を彷彿させるかのような鍛えぬかれた肉体、それを覆う古代の戦闘装束を想わせる衣服、二十代〜三十代ぐらいの彫りの深い顔には年不相応の威厳と凄みがある「ここは…どこだ?」
口からこぼれた言葉には疑問と困惑が混じっている。「それよりも何故をおれは生きている」
男の頭に浮かぶのはいくつもの疑問
最後に思い出すのは友とも呼べる宿敵との死闘。
互いの全力を尽くし、その結果、自分は敗れ消滅したはず
「傷も全て治っている…これは一体どういうことだ」
いくら考えても答えは出ずやがて男はこのまま思考し続けることは無意味だと悟った。
「まずは詮索よりもするべきは行動か」
自分に起こったことも重要だが、それよりも自分が今どこにいるほうが最重要だと認識し男は行動を開始する。
幸いにして今は夜、男にとって最も活動しやすい時間である。
「行くか…!?」
行動しようとした矢先、何かが自分目掛けて複数飛んでくる。しかし、男は避けるのではなく素手で全て掴み取った。
「剣だと…?」
掴み取り初めてそれが剣だと理解した。長さが一メートルにも満たない投擲を目的とした直剣。
「驚きました、まさか避けずに取るなんて」
声のする方へ男が目を向ければ、そこには修道服を着た一人の少女。
「いきなり手荒いことをしてくれるな、女」
男の言葉にも悪びれた様子もなく少女はニコリと笑い
「こんな夜中にそんな恰好している人がいたら誰だって驚いて攻撃しちゃいますよ」
男は笑みを返すこともなく鋭い視線を向ける。
「お前は何者だ」
男は女に一切の油断を見せる気は無い、何故なら先程受け止めた剣には通常の投擲では考られない程の重みがあったからだ。
「答える前に一つ聞いていいですか?」
「何だ」
少女の顔から笑みが消え、見た目とは裏腹の重厚な殺気があらわれる。
「この街を死都にした吸血鬼は、あなたですか?」
「さて?さっきここにあらわれたばかりなんでな、お前が何を言っているか、さっぱり分からん」
挑発とも取れる男の言葉に女の顔に怒りの色が浮かぶ「私をからかっているんですか」
「そう思うなら、力づくで聞いてみたらどうだ」
「後悔しますよ?」
「させてみろ」
正直に言えば男は高ぶっていた、目の前の少女がかつて自分を追い込んだ男と倒した男と同等以上の力を秘めていることを戦士としての直勘が訴えている。
「女、お前の名は?」
「相手に名前を聞く時は自分から名乗るのが礼儀っていうものですよ」
少女の返答に男は微かな笑みを浮かべ
「ワムウ、それがおれの名だ」
戦闘体勢に入った。
『異才世界に吹く風は第七の司祭と出会う』
その一 完
……To Be Continued
2010年04月11日(日) 11:56:11 Modified by ID:P58hRsZsNg