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『異才世界に吹く風は第七の司祭と出会う』その五

『異才世界に吹く風は第七の司祭と出会う』その五


 ワムウの角の出現にシエルは驚きを通り越して呆れてしまう。
「人ではないとは思っていましたが…あなた幻想種ですか?」
「幻想種が何かは知らんが胸に大穴開けて生きているお前も十分人じゃないがな」
 そう言うとスタスタてシエルから離れていく。
「え?あ…あの…」
「近くにいられると気が散るんでな、それにお前の呼吸のせいで少々探しにくい」
 シエルから数メートル離れた所でワムウの足が止まる「位置が…分かるんですか?」
「静かにしてろ」
 ワムウは角に意識を集中させる、その途端ワムウの角に風が囁き始める。
 五感では感じる事が出来なかった男の呼吸によって発生する空気のうねり、男が地面を踏み締めるたびに起きる風の流れ、その一つ一つがワムウに敵の位置を正確に教えてくれる。
「敵の位置を…」
 突然ワムウは徒競走のクラウチングスタートのように前傾にしゃがみ込む、その時ワムウの上方を何かが通過するが、ワムウには確認する必要はない。
「捉えた!」
 後方へ向けワムウの強烈な踵が見えない男にぶち当たり、ミチリという肉の潰れる音とボキリという骨の砕ける音と共に上空へと蹴り上げられる。
 そのまま四肢をバネのように使い上空へワムウも跳ね上がる。そして空中で何かを掴むと一気に。
「ヌウウウン!!」
 地面へと叩きつける。その衝撃に地面は大きく陥没し土埃が巻き上がる。土埃が消えるとクレーターの中心にはぴくぴくと痙攣を起こした男、よく見れば男の片足がちぎれている、その片足はワムウが持っている、あまりの衝撃に引きちぎられたようだ。
「フン」
 つまならそうに男の片足を放り捨てる。
「く…そ…何でだ…何で…オレの…位置が…!」
 ボロボロになりながりも必死になって立ち上がる。
「所詮お前の技は人の範疇に収まった者にしか通じん、このワムウとってお前の位置など手にとるようにわかる。」
 ワムウの言葉に大きくプライドを傷つけられたのか歯が砕ける音が聞こえる程噛み締め、鬼のような形相で男はワムウを睨みつける。
「こんな…こんなことが…畜生!畜生!畜生!チクショオオオオーーー!」
 自分の誇る絶対の技を完膚なきまでに破られ、自暴自棄になったのか無謀といえる特攻を仕掛けてきた。
 やはり目の前の男は戦闘者として三流だと判断する。かつて自分も自慢の技を破られ、茫然としたがワムウ自身それから立ち直る術を持っていた。しかし、この男は立ち直る所か自分を見失いあまつさえ、愚の骨頂ともいうべき攻撃を仕掛けて来た。
 そんな攻撃を喰らう程ワムウは甘くない突っ込んでくる男にワムウの容赦ない蹴りが腹部に決まる。
「ぷぎゃあ!」
 屠殺直前の豚のような悲鳴を上げながら建物の壁まで飛ばされ、叩きつけられる。
「貴様を喰らう事は簡単だ、しかし、貴様に戦いを汚された責任はおれにもある、ゆえに貴様を全力で葬ることでおれ自身にケジメをつける」
 その言葉と同時にワムウの全身から凄まじい闘気がほとばしり、筋肉一回り膨脹する、あまりの迫力にシエルは息を呑む、正面に立たれている男など顔を青くし、蛇に睨まれた蛙以上に震え声すら上げられない。
「貴様に与える死の前の名誉だ、我が必殺の風の流法をその身で味わえ!」
 腰を沈め両腕を前に突き出す。
「『神砂嵐!!』」
 左腕は間接ごと右回転、全てを飲み込む暴風を発生、右腕は肘の間接ごと左回転、全てを砕く凶風を発生、その二つの風の間に生じるのは、まさに神の如き圧倒的破壊の具現化。
 敵を飲み込み建物も飲み込み悲鳴をも飲み込む。
 その技は形を留めることを許さない、その技は生存を許さない。
 後に残るのは形なき残骸と命なき骸のみだった。

 シエルは目の前の光景にただただ驚く。
 一切の魔力を使わず、身体能力のみで建物一つを一撃で廃墟にしてしまうワムウに畏怖を感じるしかない、ふとシエルは男の死体が無いことに気付く。瓦礫の下に埋もれたのか、と思った時、ベチャリと何かが地面にへばり付くような音がした、音した方向に目を向ける。
「うぇ」
 思わず声が出る程に破壊された物体がそこにあった。四肢はほとんどちぎれ、胴体も360度以上捩られ半ば引き裂かれている、巨人に極限まで雑巾絞りでもされたかのような惨状だ。
「つまらん闘いだったな」
 既に興味が無いのかワムウは男の死体に目すら向けない。
「恐ろしい人ですね…、あれほどの事して、平然としているなんて」
 口調は軽いが内心シエルは次は自分ではないかと焦りを覚えていた。胸の傷は先程よりも回復しているが、まだ全快ではない。
「これから…どうします?」
 ワムウに尋ねながらもシエルの欠けた心臓は早鐘を打っている。もしここでワムウが「闘う」と言ったならば、シエルの命は確実に終わる。
「安心しろ、弱った相手に闘いを挑む事は、おれの誇りが許さん」
 図星をついたワムウの言葉にシエルは驚く。
「え!あの…いいんですか?一応敵ですが」
「最初に言ったがおれは闘う相手は敵であり尊敬すべき存在だと決めている、おれ自身お前の強さには敬意を持っている。せいぜい傷を早く傷を治す事だな」
 どこまでも戦闘者としてこだわりを持つワムウにシエルは微笑を浮かべる。
「つくづく、正々堂々としてますね」
「それにそろそろ時間なのでな」
 空を見上げるワムウ、空の黒が段々と薄くなっていく。
「いらん横槍で決着を付けられなかったのが少々心残りたが、仕方あるまい」
 ワムウはシエルに向けニヤリと笑う。
「小娘、今度逢う時はもっと強くなってから向かって来い…このワムウがお前の強さを尊敬して…打ち砕くためにな…」
 その言葉を言うと十メートル程の高さがある建物の頂上まで跳び上がり、そのまま去って行った。
「一体何者だったんでしょう…?」
 桁外れな身体能力を持ち一万年生きてきたといった男。
「まあ今は傷を治すことが先ですね…」
 そう呟くと傷を治す事に意識を集中させた。

 建物の上を駆けながら周りに視線を向ける。自分いた場所よりも遥かに発達している。
 自分に何が起こったかはわからない。しかし場所が変わろうと時代が変わろうと自分がすることは変わらない、ワムウ生きる目的は強者との心躍る戦闘のみ。
 ワムウの胸から管のような物が現れる。空気の音が鳴り徐々にワムウの体が透明になっていく、体内から水蒸気の渦を発生させ太陽の光を屈折させる風のプロテクターを身に纏う。
「再び、心躍らす戦士を探すとするか…」
 誇り高き戦士と出会い風になった男は異世界で再び戦士を求めさ迷う風となった。



『異世界で吹く風は第七の司祭と出会う 完』
2010年04月11日(日) 12:18:08 Modified by ID:P58hRsZsNg




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