『異世界で吹く風は第七の司祭と出会う その四』
『異世界で吹く風は第七の司祭と出会う その四』
「ぐ…かはっ!」
突然の攻撃に理解するよりも先にシエルの口から血が吐かれる。
背後を見ればニヤニヤと嫌な笑みを浮かべた男が立っていた。
「いつの…まに…!」
「最初からだよ…っと!」
シエルを嘲笑いながら心臓を突き破った腕を抜きながら背中に蹴り叩き込む。なすすべなく地面に叩き伏せられるシエル。
「ぐっ…!」
シエルの口から苦しそうな声が洩れ、屈辱の表情が浮かぶが男は反対に笑みを深くする。
「いやー、ここに着いてからずっと隠れて後をつけてたけど埋葬機関相手に半端な攻撃出来ないからいつ仕掛ける迷ってたよ」
シエルの頭をぐりぐりと踏み付けながら楽しげに語る。
「最初から…!そんな馬鹿なこと!」
「出来るんだなこれが、総合的に優れている奴よりも何か一芸が秀でている奴の方が長生き出来るんだよ」
男は更に楽しそうに語る。
「オレはさ、人間だった頃から気配遮断の魔術だけは誰よりも上手く出来るんだよね、まあ他のは並程度なんだけどね、死徒になってからは更に磨きがかかってね、例え二十七祖でもオレの気配には気付かせない自信があるね」
不意にシエルを踏み付けていた足が止まる。
「有名人のあんたを殺せばオレの名には箔がつく、遊びのフィナーレには相応しいと思わないかい?」
右手を高々と上げる。
「さようなら、そして死ね宗教の犬が」
振り下ろす右手。
シエルの中で終わりという言葉が浮かぶ、永遠に思える一瞬、しかしいつまで経っても衝撃がこない、疑問が浮かぶシエルの耳にドサリという音が聞こえた。
目を向けた先には切断された右腕。
シエルと男は一瞬「誰のだ?」という言葉が浮かんだ。
「貴様の脳みそはクソで出来ているのか?」
深く怒りに満ちた声が両者の耳朶を叩く。
その言葉でシエルはその右腕は男のものだと気付き、男は絶叫を上げた。
少し時間を戻す。
ワムウは突然の介入者に驚きよりも先に、気付く事が出来なかった自分を恥じた。そして同時に自分の戦いを汚した相手に怒りで体中の血液が沸騰しそうな気分である。
主であるエシディシ程ではないがワムウ自身熱くなりやすいことを自覚している。それが戦いのことならばなおさらだ。
ワムウが最も嫌うことは自身の戦いを汚されること、そして最も嫌う戦い方は安全な場所に隠れ勝利のみを掠め取っていく戦い方、その二つを同時にやった相手に怒り覚えないわけがない。
男に目を向ければよほど興奮しているのかワムウなど眼中にないのかシエルに向かってベラベラと何か喋っている。
その光景に失笑してしまいそうになる、戦いで無駄口を叩く奴に邪魔されたと思うと更に怒りが増す。
見ていると右手を上げ、トドメの姿勢に入っている。
(邪魔たげでなく決着まで奪うつもりか…!)
思考と同時にワムウは動いていた、先程シエルに見せた様子見の動きではなく、ワムウが持つ本来のスピード、二人の五感が感じるよりも疾く、認識するより前に男の腕を切り飛ばした。
「貴様の脳みそはクソで出来ているのか?
「ぐあああー!」
男の絶叫をワムウは不愉快そうに聞く。
「喚くな、欝陶しい」
右腕を押さえながら殺意を込めて男は睨みつける。
「てめー!いきなり何しやがる!オレの腕が…!クソクソクソクソ!」
罵る男にワムウは冷めた視線を向ける。
「戦いの中で長々喋っている馬鹿が、どうやら本当に貴様の脳みそはクソで出来ているらしいな」
ワムウの言葉に先程までの余裕をかなぐり捨て、男は激怒する。
「殺す!殺してやる!じわじわなぶり殺してやる!」
男が何か言葉を呟くと男の姿が消える。
ワムウはそんな男を無視するかのようにシエルに目を向ける。
「心臓を破られてもまだ息があるか、今まで多くの人間を見てきたが、お前が一番タフだな」
「人より…死ににくい体…ですから…ね」
「誇りに思え、一万年以上生きてきた、このワムウがいうのだからな」
「い、一万年…!?」
あまりにありえない数字にシエルは絶句する。
「あんな小物と戦う気にもならんが、戦いを汚したケジメ、そしてあんな下衆を見過ごした自分への戒めと教訓の為に全力で潰す」
「どうやって…、悔しいですが…あの男の言葉は本当です…先程から一切気配を感じる事が…出来ませんよ」
「確かに人には無理だろう、どういう理屈か知らんがたいした隠れっぷりだ」
ワムウの言葉にシエルは
「だったら…どうやって…」
と少し心配そうな声を出すがワムウはニヤリと笑う。
「目でも耳でも鼻でも探すことが出来ないなら…」
ワムウが目を閉じると額の中心が開くと一角獣のような螺旋状に捻れた角が現れる。
「風で奴を探す」
『異世界で吹く風は第七の司祭と出会う その四』完
……To Be Continued
「ぐ…かはっ!」
突然の攻撃に理解するよりも先にシエルの口から血が吐かれる。
背後を見ればニヤニヤと嫌な笑みを浮かべた男が立っていた。
「いつの…まに…!」
「最初からだよ…っと!」
シエルを嘲笑いながら心臓を突き破った腕を抜きながら背中に蹴り叩き込む。なすすべなく地面に叩き伏せられるシエル。
「ぐっ…!」
シエルの口から苦しそうな声が洩れ、屈辱の表情が浮かぶが男は反対に笑みを深くする。
「いやー、ここに着いてからずっと隠れて後をつけてたけど埋葬機関相手に半端な攻撃出来ないからいつ仕掛ける迷ってたよ」
シエルの頭をぐりぐりと踏み付けながら楽しげに語る。
「最初から…!そんな馬鹿なこと!」
「出来るんだなこれが、総合的に優れている奴よりも何か一芸が秀でている奴の方が長生き出来るんだよ」
男は更に楽しそうに語る。
「オレはさ、人間だった頃から気配遮断の魔術だけは誰よりも上手く出来るんだよね、まあ他のは並程度なんだけどね、死徒になってからは更に磨きがかかってね、例え二十七祖でもオレの気配には気付かせない自信があるね」
不意にシエルを踏み付けていた足が止まる。
「有名人のあんたを殺せばオレの名には箔がつく、遊びのフィナーレには相応しいと思わないかい?」
右手を高々と上げる。
「さようなら、そして死ね宗教の犬が」
振り下ろす右手。
シエルの中で終わりという言葉が浮かぶ、永遠に思える一瞬、しかしいつまで経っても衝撃がこない、疑問が浮かぶシエルの耳にドサリという音が聞こえた。
目を向けた先には切断された右腕。
シエルと男は一瞬「誰のだ?」という言葉が浮かんだ。
「貴様の脳みそはクソで出来ているのか?」
深く怒りに満ちた声が両者の耳朶を叩く。
その言葉でシエルはその右腕は男のものだと気付き、男は絶叫を上げた。
少し時間を戻す。
ワムウは突然の介入者に驚きよりも先に、気付く事が出来なかった自分を恥じた。そして同時に自分の戦いを汚した相手に怒りで体中の血液が沸騰しそうな気分である。
主であるエシディシ程ではないがワムウ自身熱くなりやすいことを自覚している。それが戦いのことならばなおさらだ。
ワムウが最も嫌うことは自身の戦いを汚されること、そして最も嫌う戦い方は安全な場所に隠れ勝利のみを掠め取っていく戦い方、その二つを同時にやった相手に怒り覚えないわけがない。
男に目を向ければよほど興奮しているのかワムウなど眼中にないのかシエルに向かってベラベラと何か喋っている。
その光景に失笑してしまいそうになる、戦いで無駄口を叩く奴に邪魔されたと思うと更に怒りが増す。
見ていると右手を上げ、トドメの姿勢に入っている。
(邪魔たげでなく決着まで奪うつもりか…!)
思考と同時にワムウは動いていた、先程シエルに見せた様子見の動きではなく、ワムウが持つ本来のスピード、二人の五感が感じるよりも疾く、認識するより前に男の腕を切り飛ばした。
「貴様の脳みそはクソで出来ているのか?
「ぐあああー!」
男の絶叫をワムウは不愉快そうに聞く。
「喚くな、欝陶しい」
右腕を押さえながら殺意を込めて男は睨みつける。
「てめー!いきなり何しやがる!オレの腕が…!クソクソクソクソ!」
罵る男にワムウは冷めた視線を向ける。
「戦いの中で長々喋っている馬鹿が、どうやら本当に貴様の脳みそはクソで出来ているらしいな」
ワムウの言葉に先程までの余裕をかなぐり捨て、男は激怒する。
「殺す!殺してやる!じわじわなぶり殺してやる!」
男が何か言葉を呟くと男の姿が消える。
ワムウはそんな男を無視するかのようにシエルに目を向ける。
「心臓を破られてもまだ息があるか、今まで多くの人間を見てきたが、お前が一番タフだな」
「人より…死ににくい体…ですから…ね」
「誇りに思え、一万年以上生きてきた、このワムウがいうのだからな」
「い、一万年…!?」
あまりにありえない数字にシエルは絶句する。
「あんな小物と戦う気にもならんが、戦いを汚したケジメ、そしてあんな下衆を見過ごした自分への戒めと教訓の為に全力で潰す」
「どうやって…、悔しいですが…あの男の言葉は本当です…先程から一切気配を感じる事が…出来ませんよ」
「確かに人には無理だろう、どういう理屈か知らんがたいした隠れっぷりだ」
ワムウの言葉にシエルは
「だったら…どうやって…」
と少し心配そうな声を出すがワムウはニヤリと笑う。
「目でも耳でも鼻でも探すことが出来ないなら…」
ワムウが目を閉じると額の中心が開くと一角獣のような螺旋状に捻れた角が現れる。
「風で奴を探す」
『異世界で吹く風は第七の司祭と出会う その四』完
……To Be Continued
2010年04月11日(日) 12:10:03 Modified by ID:P58hRsZsNg