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【Fate/EXTRA Wind】第1話



【Fate/EXTRA Wind】
 
 
 
『総ての始まり』
 
 
 
 
「目的のない旅。」   「海図を忘れた航海。」
 
 
「君の漂流の果てにあるのは、」   「迷った末の無残な餓死だ。」
 
 
 
「……だが。」
 
 
 
「生に執着し、魚を口にし、」   「星の巡りを覚え、」
 
 
「名も知らぬ陸地を目指すのならば、あるいは。」
 
 
「誰しもは初めは未熟な航海者に過ぎない。」
 
 
「骨子のない思想では、聖杯には届かない。」

 
─────────欠けた夢を見ている。
 
 
空が焼けている。  家が溶けている。
 
人は溶けている。  路は絶え、その先は無い。
 
これが戦いの源泉。  これが再起の原風景。
 
私は一人  此処にいる。
 
 
 
 
 
ふと、目が覚めた。
欠けた夢を、見ていたようだ。
 
 
「ここ、は────────」
 
 
目が覚めると、保健室にいた。
ベッドに倒れていた重い体を引きずって、ゆっくりと起きあがり、周りを見ると………
 
 
「────む。 目覚めたか、マスターよ。」
 
 
………………半裸の男がいた。
いや、服は着ているのだが、露出の多い民族衣装のせいでほぼ半裸に見える。
ガタイがよく、筋骨隆々だからかその腹筋がまぶしい。
 
看病をしていてくれていたのか、ベッドの隣には水の入ったタライ、手には額にのせていてくれたであろう
絞っているタオルがあった。
 
………えーっと………貴方は?
 
 
「む。 自己紹介をしていなかったな。俺はお前のサーヴァント。名は、ワムウだ。」
 
 
よろしく頼む、と頭を下げるワムウに、こちらも頭を下げる。

 
よろしく、と挨拶するが、この男をどう呼べばいいのか躊躇し、考える。
 
 
「ワムウ、と呼び捨てにしてくれて構わない。この身はお前に仕える従者なのだから。」
 
 
そう言うと、ワムウはゆっくりと白野に向かって一礼する。
……何故だろうか、こういう男から丁寧な態度をとられると、不思議な気分だ。
 
 
「さて、マスター。起きてすぐに何だが…記憶の方は十全か?」
 
 
記憶?
そう言われて、自分のことを思い出そうとするが……
 
…………………………………。
 
 
「………やはり、か。」
 
 
ワムウがため息をついてそう言うのも碌に耳に入らない。
どういうことだ……? 自分の名前はわかる。たいていの常識も分かる。
しかし………自分のこれまでの記憶が、一切思い出せない………!?
 
 
「マスターが記憶を失っている原因は分からん。…しかし、それでは聖杯戦争についても忘れているだろう。教えよう。この、聖杯戦争について────」

 
 
そうして、ワムウから聖杯戦争についてのすべてを知らされる。
万物の願いをかなえる「聖杯」を奪い合う争い。
聖杯「ムーンセル・オートマトン」を巡り争うのは、マスターたる128人の霊子ハッカー。
それぞれに与えられるのは、実在したか否かを問わず地球上の歴史に記された過去の英雄たるサーヴァント。
 
聖杯は己が担い手たる者を選ぶため、厳然たるルールを敷き、トーナメントによって勝者を選ぶ。
そして、七騎のサーヴァント、セイバー、ランサー、ライダー、アーチャー、キャスター、バーサーカー、アサシン。
ワムウが知る、聖杯戦争のすべてを。
 
 
……………………………。
 
 
「…理解したか、マスターよ?」
 
 
あぁ、大丈夫だ。とワムウに声を返す。
自分の記憶のことも気になるが、聖杯戦争の説明を聞いて記憶のことは一度後回しにするべきだと考えた。
なにしろ、自分の命がかかっているというのだ。 記憶と命…どちらが大切かなどと、天秤に載せるべきではないが、
ひとまずは命を優先しよう。 記憶は、そのうち思い出すこともあるかもしれない。
 
 
「うむ。混乱はしていないようだな。 ならよい。ちなみに、俺は【弓兵】…アーチャーのクラスだ。」
 
 
弓兵?
ワムウの鍛えられた肉体からして、そんな飛び道具は使わなさそうなのだが……?
クラスの中では、こう言っては何だがバーサーカーが似合いそうだ。
 
 
「俺がアーチャーなのが不思議か、マスターよ?」
 
 
疑問が顔に出ていただろうか、ワムウが苦笑しながらそう聞いてくる。
 
 
「実際、俺はセイバーとランサー以外のすべてのクラスに該当する。しかし…俺は、この身一つで戦いたかったのだ。」
 
 
ワムウは、自分の胸の前で拳を握り、自分に宣言するように言う。

 
「俺は、戦うことのみを望んでいる。無礼を承知で言わせてもらうが、俺はマスターの願いより自分が戦うことを望んでいる。」
 
 
「マスターの黄金の精神には敬意を払おう。だが、俺の願いが俺にとっては最優先されるべきことなのだ。」
 
 
「戦いが有利かどうか、など関係ない。俺はこの戦いをこの精神と、この肉体の実を持って戦いたかったのだ。」
 
 
そこまで言うと、こちらに頭を下げてくるワムウに、自然と笑みがこぼれる。
 
 
「む………どうした、マスター?」
 
 
少し不安げに聞いてくるワムウに、答える。
そんなことは気にする必要はない、と。
自分には記憶がない。 それなら記憶を持ち、願いを持っているワムウなら、優先されるのはワムウに決まっている。
自分のところに来てくれて、命を救ってくれただけでもありがたいのに、そこまで我儘を言うつもりはない。
 
 
「…………………感謝する、マスター。」
 
 
ワムウはそう言うと、もう一度深々と頭を下げる。
 
 
「約束しよう。 俺はお前の記憶が戻るまで、戦い、勝ち続ける。お前の、記憶を無くすとも変わらぬその黄金のような精神にかけて。」
 
 
To be Continued … … …
2013年04月23日(火) 23:01:58 Modified by ID:cZGB6wOXnA




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