剣・弓VS狂��
―――岩塊を境に両者が対峙する。
互いの必殺を凌ぎ切っても二人の緊張は途絶えない。
一瞬の油断。それが勝敗を分けると自覚しているのだ。
「ドラァァーーーー！！」
『クレイジー・ダイヤモンド』の手から放たれる岩塊。
投擲を盾で防ぐなどという後手に回るつもりはない。
そんな考えでは容易くアーチャーに付け入られる。
何の策も出せなくなる程に攻め続ける、ここは自分の射程内だ。
ここから一歩とて逃がすつもりはない。
アーチャーの視界を覆う岩壁。
その背後には追撃を加えようとする『Ｃ・Ｄ』。
この岩塊を破壊するパワーが無い事は先程の行動で証明されている。
下手に防御しようとすれば動きが止まったアーチャーを容赦なくつるべ打ちにする。
ならば避けるべきか。―――だが、それは読まれている。
飛び出してきた瞬間、圧倒的な瞬発力で迎撃の拳が繰り出されるだろう。
（右か、それとも左か………！？）
しかし、読みが外されれば避けられる可能性とてある。
そうなれば逆に自分が圧倒的に不利となるのだ。
薄氷の上を渡るかのような攻防、それが今の自分がしている戦い。
拳を固め、迎撃の態勢を整えるバーサーカー。
その視界の端に動く何かが目に入った。
―――だが、彼はそれを追ったりなどしない。
見え見えのフェイク。
遮蔽物の向こうから姿を見せたのはアーチャーのブーツだけ。
相手の気を引き付けて、自分は反対方向へ………と見せて、本当の狙いは―――！！
「上だ！！」
ようやく夜空に姿を見せた月が幸いした。
雲間から差す月光を何かが遮り、足元に黒い影が落ちる。
先程までなら気付かなかっただろうが天候が味方した。
『クレイジー・ダイヤモンド』が上へと拳を構える。
次の瞬間、バーサーカーの耳にはアーチャーの断末魔が響き渡る筈だった。
だが、彼の耳に入ったのは眼前の障壁が砕け散る破砕音……！
「っ……………！」
バーサーカーの脳裏を駆け巡る焦りと驚愕。
自身のスタンドにも匹敵する破壊力、これだけのパワーをアーチャーは隠していたのか。
視界を遮る岩塊、その向こう側から現れたのはアーチャーではなくセイバー。
―――居るべきアーチャーの姿はどこにも無い。
（やはり、上か……！）
バーサーカーが空を見上げる。
だが、そこにあったのはセイバーが放り投げた剣。
剣では切る事は出来てもコンクリートの盾は砕けない。
それは両の拳を使う為の止むを得ない行為であり―――それを逆に利用したフェイク。
――――『戦いの思考』。
相手の心理を読み、次の相手の行動を予測するセイバーの戦術的推測。
その効果は敵に対してだけではない。
共に戦う仲間の行動さえも予測し、何の打ち合わせが無くとも連携を可能とするのだ―――！
「バーサーカー！ 足元よ！」
イリヤの声に咄嗟に反応した視線。
本来なら逃げ場など無い地面。
だが、今はバーサーカーによって綺麗に抉られて孔になっている。
邪魔な残骸も全てバーサーカーの手元。
自ら作り出した死角とも呼べるスペース。
探し続けたアーチャーの姿はそこにあった。
「テメェ………！」
まるで人をおちょくるかのようなアーチャーの行動。
しかし、それに構っている余裕など無い。
変則的だが上下からの挟み撃ち。
これを真っ向から防ぐのは至難の業。
スタンドの両腕でガードが固め、後ろに跳躍する。
―――だが気付くべきだった。
相手の機動力を奪うチャンスを前にして、アーチャーが何もしていない筈が無いと。
着地しようとした瞬間、バーサーカーの足が滑る。
見れば足首にはクラッカーの紐。
それが連結しアーチャーの手元まで伸びている。
「そらっ！！」
セイバーに劣るといってもアーチャーの腕力とて並大抵のものではない。
引き付けられた紐によってバーサーカーが転倒する。
だが綱引きになれば『Ｃ・Ｄ』を持つバーサーカー相手に勝ち目は無い。
目的は足を封じる事ではなく、この一瞬の隙を作る事……！
狙いを理解した彼の目に飛び込んでくる脅威。
拳を振り上げ迫るセイバー。
それに対抗する為に構えた両腕。
そこには拳が通り抜ける隙間など無い。
――――完全なる防御。
「うおおおおおっーーーー！！」
だがセイバーの一手がそこに風穴を開ける。
空中でセイバーが自らの剣を掴む。
拳では無理でも剣の突きならば僅かな隙間でも通る。
瞬間、剣に集約していく魔力。
―――――恐らくは宝具。
「くっ…………！」
防御の態勢を変えようとするバーサーカー。
刹那、彼の脳裏に不安が奔った。
この好機をあの抜け目無い男がセイバーだけに任すだろうか……？
否。そんな事は有り得ない。
引き付けられた紐の先、アーチャーの姿を凝視する。
見れば紐を抑えているのは片腕のみ。
もう一方は紐に添えられている。
そこに魔力が集約されていく……！
「っ―――――！」
………こっちも宝具を使う気か。
避けられないようにしての宝具。
それもセイバーとアーチャーの同時攻撃。
両者を防ぐ事も避ける事も叶わない。
どちらか一方を防いだとしても片方だけで勝負は付く。
「させるかよ！！」
ガードを解いて紐を引き寄せる。
だが、その程度でアーチャーは狙いを外したりはしない。
バーサーカーへと振り下ろされる剣。
その軌跡に交差するように引き付けられた紐。
だが、それで止められる代物ではない。
蜘蛛の糸のように一瞬にして紐が切断される。
―――しかし、それこそがバーサーカーの狙い。
『自らを縛める枷を破壊し脱出を図る』
引きちぎる事も時間があれば可能だった。
だが、一瞬でそれを行なうにはセイバーの剣でなければならなかった。
止まる事なく振り下ろされるセイバーの剣。
転倒したバーサーカーに逃げる術はない。
目前にまで迫る剣先。
しかし、その寸前でバーサーカーの身体が後方へと飛んでいく……！
その速度はとても転倒した人間に出せるものではない。
バーサーカーの手の中には別のコンクリートの破片。
それを修復する事で自分を瞬間移動させたのだ。
「ちっ…………あそこまで追い詰めたってのに！」
舌打ちする一方で、バーサーカーには感心せざるを得ない。
二対一という不利な状況下にありながら五分以上の戦いを繰り広げる。
イリヤスフィールという強力なマスターによる所もあるだろう。
―――だけど窮地で見せる強さは彼本来のもの。
それはまるでセイバーやアーチャーが見せるものと同じ。
英雄と呼ばれるものは全てそうなのか、それとも偶然なのか。
どちらにせよ強敵である事には変わりない。
―――私には打つ手がない。
宝石魔術による攻撃もイリヤスフィールがいる以上、最小の効果しか及ばない。
それどころか、その隙を狙われてバーサーカーに倒される可能性だってある。
マスターへの直接攻撃も不可能。
あまりやりたくはないけれどマスター狙いも戦術の一部。
しかし、バーサーカーの能力がある限り何度マスターを倒しても無駄になってしまう。
この状況を打開する事は出来ない。
ここはセイバーとアーチャーの二人に任せるより他にない。
半ばギャラリーと化しながらポツリと凛が呟く。
「――――それにしても凄い髪型してるわね、アイツ」
その言葉がどれほどの危険を招くかも知らぬままに―――。
...To be contenued
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2009年04月19日(日) 01:23:56 Modified by ID:P58hRsZsNg