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人外だらけの聖杯戦争8 滅ぶ者、新たな者

   人外だらけの聖杯戦争8 滅ぶ者、新たな者


「けど……どうしよう、この状況」

 士郎は汗を垂らして、現状を振り返る。
 いまだに気絶している大河。片耳を失って倒れている慎二。そして何より、セイバーによって切断され、崩れ落ちた校舎。
 頑丈なつくりを義務付けられる学校を、ここまで壊したセイバーの力は実際大したものだ。

『正当防衛の結果だろ? 気にすんなよ』

 鞘に納められたセイバーが軽く言う。

「そんなこと言っても……」

 そりゃあ士郎に何が可能なわけでもない。弁償なんて逆立ちしながら空中浮遊したところでできやしないし、元通り直すことも無理だ。保険屋に期待するしかない。だがだからといって気にせずにいられるほど、士郎の神経は太くなかった。

「けど、こんな大事故が起きたのに、人が来ないな」
「そりゃそうよ。私が全力で人払いの結界を張ったんだもの」

 教室側の窓の方から、美しくも力強い声がした。
 士郎がそちらを向くと同時に、ガラリと窓が開き、遠坂凛が飛び込んできた。

「と、遠坂!?」
「まったく、派手なことをしてくれたわね。この分じゃ、しばらくは休校でしょうね。私たちには都合がいいけど」

 彼女は腰に手を当てたポーズで、やれやれと首を振る。

「どうしてここに……」
「アサシンが、ね」

 凛が答えると、窓から白黒の犬が姿を現す。砂のスタンドを壁にへばりつかせ、器用にここまで登ってきたようだ。

『嫌な臭いがしたもんでな』

 そう言うと同時に、『ザ・フール(賢者を超えた愚者)』が、何かを床に投げ落とす。ビチャリという不愉快な液体音をたてて落ちたのは、潰れた蟲の死骸だった。
 それはさっきまで間桐臓硯と繋がっていた使い魔の蟲。一見、ただの緑色のコガネムシだが、その小さな体から流れる紫色の血は、体に比して多すぎた。魔術による改造を受けた副作用で、変質してしまったのだろう。



「間桐の使い魔よ。アサシンの鼻が嗅ぎつけたの。あんた達とアーチャーの戦いを覗いていたんでしょうね。それでアーチャーは?」
「ああ。何とか倒したよ」
「そう。無事でいるんだから、そうだとは思ってたけど。これで間桐は脱落か……」

 そう言いながらも、凛は不安を抱いていた。あの間桐の老人が、こんなにあっさりと敗北するだろうか。おれではサーヴァントの使い捨てのようなものだ。何かまだ企んでいるのではないか……。
 たとえサーヴァントが消えても、マスターに令呪が残っている限り、すでに召喚されている他のサーヴァントを、新たに持ち駒とすることも可能である。完全なる安心を得るためには、敵マスターに令呪を捨てさせなければいけない。

「衛宮くん。慎二はどこ?」
「どこって、そこに倒れて……」

 士郎は指差す。だがそこには少量の血だまりがあるのみで、あのコンプレックスに歪んだ少年の姿はなかった。

「あ、あれ? さっきまでそこに」

 凛は、すぐに何か異常な事態が起こったことを察知する。

「!! アサシン!?」
『臭いはあるぜ。けど……この臭いの跡が確かなら……』

 アサシンはかつてキロ単位の射程距離を持つスタンドや、幻惑を操るスタンドの本体を見つけ出し、今では保有スキルともなっている『嗅覚』を発揮する。

『その慎二とかいう奴、こっから飛び下りたらしいぜ?』
「……なんですって?」

 凛は崩れた校舎から見下ろす。魔術師なら飛び下りても問題のない高さだが、慎二は魔術を使えないはずだ。並みの人間が落ちたら、怪我ですめば幸運である。

「何時の間にどうやって逃げたかわからないけど……これはまた厄介なことになりそうね」

 凛はため息をつくが、恐れている様子はない。少なくとも外面上は。

「とにかく降りるわよ。アサシン」
『【ザ・フール(賢者を超えた愚者)】!』

 アサシンが砂のスタンドを変形させ、コウモリのような翼をつくる。

「こいつに乗って降りるわ。衛宮くん。藤村先生を」
「ああわかった」

 士郎は大河を背負い、『ザ・フール(賢者を超えた愚者)』の足に捕まる凛に習って、このスタンドに乗る。そして彼らは戦場を後にした。
 学校が、期限未定の休校を決定するのは、その夜のことである。

『……それはそうと、ちょいと話すことがあるんだけどよ』

 降りている最中、セイバーがそう切り出した。

   ―――――――――――――――――――――――


「戻ったか慎二よ」

 間桐臓硯が孫を出迎える。しかし慎二は何の反応も示さない。人形のように生命を感じさせず、立っているままだ。

「セイバーの情報は手に入った。遠坂の小娘に邪魔をされて、奴がアーチャーを倒した方法を見られなかったのは残念じゃが……まあいい」

 どうやら臓硯は、セイバーの物質透過の力は見られなかったようだ。しかし老人は落ち込みもせず、

「こちらにはまだ切り札がある」

 一つは桜。今は衛宮邸にいるはずの、義理の孫。聖杯の欠片を埋め込み、聖杯の器とするために存在する少女。

「そしてもう一つはおぬしじゃ……」

 老人は目の前の慎二に、否、慎二の姿をした者に話しかける。
 その存在は慎二にして慎二にあらず。彼こそは前回の聖杯戦争の遺産なのだ。

 第四次聖杯戦争。慎二の叔父にあたる間桐雁夜が参加したその戦争で、彼らが使ったのはバーサーカーのサーヴァント。
 真名はウォーケン。生前は、ネイティブ・アメリカンの今は滅びた一族、スクームク族の最後の生き残り。あらゆる物質を分子レベルにまで分解し破壊する、強力な超能力者。
 ただし、使ったサーヴァントはそいつであったが、本来召喚したのは別のサーヴァントであった。
 真名は霞の目博士。邪悪な精神を持つ、老科学者。生物兵器からレーザー砲まで作り出す、優れた能力を持っていた。
 しかしサーヴァント自身の戦闘能力はほとんど無かったため、もう一つの能力、生前の部下を召喚する力でウォーケンを召喚し、ウォーケンを操る宝具・『ウォーケン・ヘッドホン(狂気制御す科学の枷)』を雁夜に渡した。霞の目自身は臓硯の元で、一つの兵器を作成していた。
 霞の目とウォーケンは、雁夜が戦いの中で力尽きた結果消滅したが、霞の目が作った道具は残った。なぜなら、霞の目の作る道具は、魔術によるものでなく、魔力を必要としないものであったために。

 そして、その兵器は今ここにある。臓硯の切り札として。

「霞の目のつくった兵器を、儂が10年かけて術をかけ、サーヴァントにも通用する魔術兵器へと変質させた……。今回のサーヴァントとも遜色の無い力のはず。お前さえいれば、負けはないわ……」

   ―――――――――――――――――――――――


 その頃、衛宮の家で、間桐桜は料理を作っていた。あまり機嫌がいいとは言えない。恋する少年と、憧れの対象である少女が、一定の期間とはいえ、一つ屋根の下で暮らすことになったのだから。
 それでも彼らの二人きりの時間を少しでも減らすために、こうして少年の家に訪れている。そんな自分が嫌な人間だと思い、気を落ち込ませるが、料理に手は抜かない。そしてあとは皿に盛り付けるだけとなり、食器棚に目を向ける。

「あら?」

 その食器棚のすぐ下の床に、一本の刀が転がっていた。

「さっきまでこんなもの……?」

 無かったはずだと思いながらも、自然と彼女はその片刃の剣を拾い上げる。
 そして、思考が奪われた。

 桜はシュパッという、素早い音と共に刃を抜くと、自らの心臓にその切っ先を沈ませた。剣は彼女の胸を穿ち、背中から抜ける。
 しかし、そこから血は一滴たりとも流れはしなかった。

 そして彼女の体から刀身が抜かれ、何事も無かったかのように、桜は剣を鞘に納め戻した。

「……え? 今、私何をしていたのかしら?」

 桜は首をかしげながら、とりあえず剣を部屋の隅に置き、あとで士郎にどうするか訊ねることにして、料理の盛り付けを始めた。

『……………』

 桜が料理を完成させている間、セイバーは考えていた。自分がなぜこのようなことをしたのか。
 今、セイバーがその宝具『アヌビス(魂刈り取る冥府の神)』を使って、桜を傷つけずに心臓を貫いたのは、彼女の心臓に救う魔の蟲を殺すためであった。アーチャーを斬ったとき、一瞬ながら、アーチャーの記憶を見ることが出来た。
 そこから、桜が間桐の一員であり、その体に蟲を取り付かせられ、脅迫されていることを知ったのだ。そのことを士郎と凛に話し、こうして蟲を始末することにした。桜自身の手にもたせることで、彼女自身が知る蟲の位置を詳しく知ったうえで、完璧に蟲殺しは達成された。
 これで桜は自由だ。しかし……


『なんで俺は、こいつを助けたんだ?』

 理由はある。
 敵が持つ手駒を解放してしまうため。
 士郎たちに恩を売るため。

 それはある。だが、彼は自分から言ったのだ。

『俺の力なら、そいつを殺さずに蟲を取り除けられるぞ』

 なぜそう言ったのか。別に自分はこの娘が死のうと生きようとどうでもいい。自分から進んで、助けるようとする理由などない。それなのに……

『くそっ! 今まで斬ることしか考えないでよかったってのに! 何で斬らなくてもいい方法なんて教えちまうんだ!!』

 それもこれもあの藤村大河のせいだ。だからこんな余計なことを考えるようになってしまった。

『斬らない力……斬るために生まれた俺が、何でそんな力を持っている……?』

 今までは、斬る必要のないものを斬らず、斬るべきものを斬るための力だと思っていた。だが、それなら何者をも斬れる力があればいい。
 ありえない能力ではない。もともとスタンドは物理を無視した力。物理的頑丈さを無視して切り裂ける能力が、発現できない理由は無い。実際ヴァニラ・アイスという男の能力が、まさにそういう『万物を破壊できる力』であることも知っている。それなのに自分にある能力は、そうではない。

『かつての俺の使い手は、スタンド使いキャラバン・サライは、この俺、『アヌビス神』に斬ることではなく、斬らないことを求めたとでも言うのか……?』

   ―――――――――――――――――――――――

「――――――ッ!? ―――――――ッッ!! ―――――――………ッ」

 名状し難い絶叫が響く。途方も無い歳月を生きてきた老人の肉体が、凄まじい勢いで崩壊を始めていた。
 桜の心臓に救っていた蟲。セイバーによって殺された蟲こそが、臓硯の本体であったのだ。それが失われた彼には、死ぬ以外の道は残されなかった。
 あまりにもあっけない、大魔術師の最期であった。

 祖父の断末魔を聞きながら、慎二は微動だにしなかった。既に彼からは慎二としての精神は失われていたのだ。
 彼の支配者であった老人が息絶えるのを見届けたそいつは、その本能によって行動を開始する。マスターである臓硯の敵であったものたちを皆殺しにするという使命が、彼の最大の本能、闘争本能と結びつき、体を動かさせる。

『バル……バルバルバルバルバルバルバルバル!!!』

 硬質化した鎧のような肌。全身に満ちた力。額から生えた触角。様々な特殊能力。

 慎二の肉体は怪物のように変身していた。それは、彼の体内にいる、一匹の『寄生虫』によるものであった。
 その『寄生虫』こそが、バーサーカー・霞の目博士の最高傑作。寄生した宿主を、体から分泌する液の効果によって、強力な戦闘生物へと変化させる。

 生物兵器『バオー(無敵生み出す悪魔の蟲)』は、こうして夜の世界に躍り出た。





 
 
 ……To Be Continued

                       
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2009年04月12日(日) 01:23:51 Modified by ID:P58hRsZsNg




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