過去に書いた小説のまとめと新しく書ければ書いてみたいなと。

LANは拍子抜けがするほど簡単に構築できた。
カード刺してHUB繋げるだけだ。
しかし気を付けないと俺のマシンのファイルがばれるので
鯖機を別に構築。そこからクライアントとして何台か
マシンを繋いだ。鯖缶は俺なので権限の割り振りなんかは
自由に設定できる。
鯖機にFTPdを入れて24時間制の会員制鯖を立てた。
これでいちいちwebを探し回らなくても良い。
元々豊富だった俺の割れ物は鬼のような勢いで
増え始めた。それと同時にエロ動画も増えていった。
それを売って又儲けた。
しかし気になることがあった。
鯖ログを見ているとアネキが毎日欠かさず
メールのやりとりをしている。
一体誰と?そりゃ奥様方の井戸端会議もあるだろう。
でも毎日定期的に、しかもアニキの目を盗むような時間に。
俺はノリスケさんの一件を思い出し
不倫の臭いを感じた。まさか。アネキが?ケケケ
あの髪型で不倫かよ。
でも興味があったので覗いて見ることにした。

LAN経由でアネキが使っているメーラーをいじくることもできたし
アネキがメール受信する前に
メールをこっちで受けちゃう事もできたが
小細工は労さず直接ブレッツァをいじることにした。
俺のPCが出来てからと言う物こいつには殆ど触っていない。
家族用のPCになっているけどLAN関係でいじっていると言えば
みんな納得するだろうし誰もとがめはしまい。
しかも今はアネキ買い物に行っているし
他の家族も出かけていて家には俺しかいない。
なるべくなら面倒なことは避けたいので俺はこの時を選んだ。

アネキのメーラーはアニキが使っているアウトルックとは別に
インストールしてあるらしい。
しかしHDDの何処を探してもそれらしい物は見つからない。
あれれ?たしかp_mailerとか言うソフトで・・・。
しかしそんなソフトは見あたらなかった。
諦めようかとも思ったが、
そのファイル名でNETを検索してみようと思い付いた。
たぶんフリーかシェアのオンラインソフトだろう。
隠せるタイプの秘密ソフトかも知れないし。
検索すると何軒かの検索結果が出た。
あった。ポケットメーラー。フロッピーで持ち運べる?
そうか!そんなソフトを聞いたことがある。
しかし、ますますぁゃιぃ!

俺はアネキの部屋を漁ってみることにした。
一体何処に隠してあるのだろう?
皆が帰ってこないうちにと焦りながら探索をしたが
全然見つからない。フロッピーディスク自体が
何処にも見あたらない。
アネキはへそくりを隠す名人だ。
俺は何度か目撃したことがある。
しかし今回は一筋縄ではいかないらしい。
そのうちにタラちゃんが帰ってきてしまったので
諦めることにした。

いいさ。
アネキがアクセスする時間は分かっている。
その時にアネキの行動を監視していれば良いんだ。

アネキが帰ってきた。
早速メールチェックをするのだろうPCのある部屋に行った。
俺は自分の部屋でそれを確認し、
アネキの元に急いだ。
襖の影から覗いてみると、アネキはちょうど
フロッピーを取り出すところであった。シメタ

しかしアネキはそれを財布の中にしまった。
ああ!あれじゃ見れない。
さすがに財布を漁るのはまずいだろう。
と言うかそれほど大事な物なのだ。
俺はますます疑いを強くした。
フロッピーをコピーする方法は
直接財布を漁らなくてもある。
LAN経由でアネキがフロッピーを刺した瞬間に
俺のPCに内容をコピーしてしまえばいいのだ。
しかしこれには結構危険が伴う。
でも俺は好奇心には勝てなかった。

次の日いつもの時間にアネキがメールチェックするのを
自室で待っていた俺はフロッピーが認識された瞬間に
コピーを開始した。
いつもよりアクセス時間が長いと感じるかも知れないが
これが一番ばれにくいタイミングだろう。
フロッピーの内容をすっかり俺のHDDコピーすると
俺は急いで部屋を出た。ばれたときの保険のためだ。
しかしアネキはいつまでも部屋から出てこなかった。
ばれなかったようだ。ホッと胸をなで下ろした。

夕食の時もさりげなくアネキの様子をうかがってみたが
何も変化は見られなかった。
どうやら全然気が付いていないようだ。
しかし・・・
いつもは猫を裸足で追いかけたり、財布を忘れる
陽気で愉快なアネキがあのフロッピーに対する
警戒心は一体どうゆうことなのだろうか?
かなりの秘密が隠されているに違いない。
夜になってみんなが寝静まったら
あのフロッピーに入っているメーラーを起動して
中身を読んでみよう。
家族のプライバシーを暴くことにちょっとした罪悪感を感じる。
オヤヂの事を覗いて脅してしまったあのときの感覚が甦る。
しかし家族に隠し事をしているのはアネキの方なのだ。
迷うことはない。
以前成績が悪かった頃、隠してあったテストや
学校での不始末を暴き立てて家族の前で糾弾したのは
他ならぬこのアネキではないか。
あのときの恨みを思い出すのだ。
いつか復讐してやると誓ったではないか〜。
コ・ノ・ウ・ラ・ミ・ハ・ラ・サ・デ・オ・ク・ベ・キ・カ!
俺は復讐のためなら迷うことなくバラのシャツを着るぜィ!

夜になり、ワカメが寝ていつもなら家族中が寝たであろう
時間を見計らい、机の上の勉強道具を閉じた。
いつも夜NETするときは勉強している振りをして
家族が起きてこない時間に始めたのである。
いや、勉強する振りではなく実際に勉強をしていた。
いつもは。
今日は勉強が手に付かず教科書の同じ部分を何度も何度も
読み返していることに気がついていた。
一体どんなメールが隠されているのだろう?

PCの電源は常につけてある。
モニタの電源を入れ、問題のコピーしたファイルを開く。
フォルダの中身はいくつかのdatファイルとtxt、
dllで構成されていたがどのファイルを開けば
秘密を暴くことが出来るかはすぐにわかった。
俺はふるえる手でexeファイルをダブルクリックした。
ウィンドウ上には小さな窓が開き
メーラーであることの証明のように『宛先』『件名』
『CC』『BCC』・・・
左側にはメールボックスが一つだけある。
この中に問題のメールがある。
クリックすると大量の件名一覧が表示された。
しかしすべてノンタイトルである。こんなにたくさん
やりとりを。一体誰とどんなメールを?
一つ目の件名をクリックしみると
「こ!これは?」

メーラー上には意味不明な文字の羅列。
文字化けしているのか?いや、こんな感じのものを
以前どこかで見たことがある。
そう、warezの掲示板やOFF交換でのメールでだ。
これはもしかしたら、PGP暗号!?

普通は受信したときに暗号化を解除して保存するものだ
一体なぜこんな手の込んだ保存を?
いや、アネキがなんでPGP暗号など知っているのか?
暗号化するほどの秘密のメールなのか?

俺はちょっとしたパニックに陥りながら
しばらく考えた。そうか!メールの相手だ!
そいつがアネキにPGPの事を吹き込んで
使わせているに違いない。
しかしその相手も慎重なやつだ。
一体どんなやつだ?

俺はメーラーのアドレス帳を見てみることにした。
とりあえずやりとりの相手だけでも確認したい。
そうすればアネキとの関係、メールの内容が推察できる。
ひょっとしたら暗号鍵をはずすことが出来るかもしれない。

アドレス帳には一件のメールアドレスしか存在していなかった。
保存されているメール群も
すべてそのメアドの主とやりとりされている。
こいつか。ana5@oonami.go.jp
ん?oonami?これアニキのメアドのドメインじゃん。
アニキの会社のドメインだ。
しかしIDがアニキとは違う。アニキのはisono@oonami.go.jpだ。
じゃあ、アニキの会社の?一体誰と、何を?
俺はアニキのメーラーを調べてみることにした。
幸いオヤヂがエロサーフでもしているのだろう
俺の部屋から家族のPCにアクセスすることが出来た。
アニキのメーラーを調べてみると・・・
あった。ana5@oonami.go.jp
え〜と、名前は・・・『アナゴ君』
アナゴさん!?

えええ!?なんでアネキがアナゴさんとメールのやりとりを?
しかも秘密で?ナンデナンデ?
そしてPGP、これもアナゴさんが指示したの?ナンデナンデ?
事実は俺の予想を遙かに超えていた。
メールの内容を推察するどころではない。
俺はすっかり混乱してしまった。

考えられることは
アネキがアニキに内緒でアナゴさんと何かしている。
つまりアネキがアナゴさんと浮気しているって事?
ええ〜?マジで〜?考えられないな〜。
アニキのメールボックスも覗いてみたけどアニキとアナゴさんの関係は
本当に友人ってだけのようだ。
会社で毎日顔を合わせるのだろうから
メールの内容は「じゃあ明日また会社で」が多かったけど
家に帰ってきても仕事以外のことでメールするぐらいなのだから
よほど仲がいいと考えていいだろう。
問題はアネキとアナゴさんだ。
アネキがアナゴさんに会社でのアニキのことを聞いているとか?
イヤイヤ、そんなことはないだろう。
しかしこの二人がアニキを裏切って、
と言うか憚って繋がっているのは事実だ。
あ〜メールの内容読みてぇ!

いろいろ試してみたがPGPの暗号鍵はわからない。
二人の名前や、関係ありそうなものを試してみたのだが
もともとこの二人、と言うかアナゴさんの情報が
かなり少ないために暗号鍵の解除は望み薄だろうと思った。
う〜ん。どうすればいいんだろう?
アネキが暗号解除する瞬間を監視していて・・・
きついなぁ。LANの制御でそんな事までは。
ならトロイを。イヤイヤ、危険だしウィンドウを監視していても
どうせアスタリスクが表示されてしまうだろう。
PASSを残す設定にしてあればそんなものは
そこいら中に見るためのソフトが落ちているけど
残念ながらPASSを残す設定にはしていないようだ。
・・・まてよ。
確か何処かのTOOLサイトにKEY操作を監視して
それをLOGに残してくれるソフトがあったはず。
あれを家族のマシンに仕込めば行けるんじゃないか?
良し!そうと決まれば今夜中に仕込んでしまおう。
さすがにそれはLAN経由では出来ないから
オヤヂの操作を監視して落ちたら仕込みに行こう。

しかし、オヤヂの巡回先俺のブックマークとかぶってるな。
これも遺伝か。

KEY操作LOG/TOOLは無事にインストールできた。
明日一日のKEY操作を記録しておこう。
どうせ昼間はアネキしかさわらない。
昼間の操作を見てみれば暗号鍵もわかるはずだ。

学校から帰ると、俺は自分の部屋からLOGを盗み読んでみた。
どうやらメールのやりとりしかしていないらしく
数行の記述しかなかった。
ローマ字入力なのだからこれを読めばアネキの書いたメールも
読めるはず・・・あれぇ?
なんだか意味不明なローマ字だな?
確かにIMEの変換もあるからスペースも入っているけど
とてもじゃないけどこれ日本語に変換できないぞ。
メール書いたんじゃないのかな?
まぁ良いや。暗号鍵さえわかればこっちのものさ。
暗号鍵の部分はすぐにわかった。
やはり無意味な文字列であった。こんなのわかる訳ねぇって。
それをコピペして見るとメール本文の暗号は解除できるようだ。
しかし、この大量のメールを今読むのは危険だ。
ワカメもいるし、誰が何時やってくるかわからない。
焦ることはない。夜になったらゆっくり読もう。
アネキの秘密をね。ウヒヒヒ

夜になって家族の物音が聞こえなくなると
俺は昨日のようにメーラを起動した。
今日こそはアネキの秘密を暴ける!
こんなに大事に隠すぐらいだからよっぽどな秘密だろう。
俺はその後の事なんて考えていなかった。
二人が不倫をしていようが俺には関係のないことだ。
むしろそんな事がわかればアネキのことを脅す材料が出来る。
もうアネキにびくびくしなくても良いのだ。
俺はドキドキしながらPASSを打った。
こんなに興奮するのは初めてエロゲーをやった時以来だ。
Enter!すると・・・

今度はまた意味のない文字列に変わってしまった。
あ、あれ〜?解除できていないの?
PASS間違えたかな?良し、もう一度。
結果は変わらなかった。
その文字列をよく見てみるとこれにも見覚えがあった。
こ、これは!

文字化けてんじゃん。
この化け方は、たぶん外国語の時の化け方だなぁ。
メールが壊れている訳じゃなさそうだ。
あーもう!一体何時まで俺を翻弄すれば気が済むんだ?
こうなったら意地でも読んでやる!
ワレザーなめんなよ!
今ほど偽装形式が多様だったわけではないが
この頃にもすでにJDAなどの偽装はあって
PASSがけなんかもしてあるファイルがあったから
この手の探索はお手の物だった。
とりあえず外字だ外字。
俺はマイクロソフトのページへ行って外字の表示を
片っ端から落としてインストールした。
何語だかわからないし。
その頃にはもう、アネキがアナゴさんとなぜ「外国語で」
秘密のメールのやりとりをしているのかなんて事は
どうでも良くなってきていた。
ワレザーの面子にかけてこのメールだけは、読む!

外字をインストールしてみると
そのメールはハングル文字。つまり韓国語で書かれていた。
よっしゃ〜!でもなんて書いてあるかわからねぇ〜
しかしそこはワレザー。
俺のATOKに不可能って文字はねぇ!
俺に落とせねぇファイルはねぇ!!
俺に解凍できないファイルもねぇ!!!

た、確か日韓翻訳ソフトが何処かに・・・
俺は保持ファイルリストを調べてそれがあることを確認した。
問題はどこにあるかだ。これだけモノが増えると
しまってあるCD-Rを探すだけでも大変だ。
そんな時のためにしまってあるディスクの番号を
ファイルリストに書いてある。
ええと、APPZ159-21か。
机の中を漁ったがその番号のCDはなかった。
ここにないとすると・・・あ〜あそこか!
俺は面倒くささに悲鳴を上げたくなった。

FTPでのファイルのやりとりは楽な反面
HDDの容量が要求された。
リクエストを聞いてクライアントが求めているファイルを
いちいち置いていたのでは俺も面倒だし
クライアントも面倒がって嫌がる。
なので需要があるファイルは殆どHDDに置いていた。
バックアップは机の中にしまってある。
だが、需要がほとんどないファイルや
古いバージョンのAPPZなんかは置ききれないので
ダンボールに入れて庭の物置にしまったのだ。
明日にしようか?
いや、俺は今すぐ読みたい!
PCを自作した時に陰になっている部分を見るのに使っていた
小さなマグライトを持って、家族を起こさないように
勝手口から庭にでた。時刻は丑三つ時。
勝手口の所でマグライトをつけると
何からが上から落ちてきた。
う、うわ〜
俺は声を出さずに悲鳴を上げた。

落ちてきたのはタマだった。
びっくりさせんなこの野郎!
ボウガンで打って目玉えぐり出して写真とって
webにアップしてバスジャックの犯行声明すんぞ!

物置は勝手口のすぐそばにある。
音が響かないように開きづらい扉を開くのに
かなり苦労した。
扉を開けると取り出しやすいように一番手前に置いてある
段ボールをあける。中にはCDファイルがぎっしり詰まっている。
早くDVD-RAM一般化しないかな?今に全部を把握できなくなるよ。
お目当てのCDは一番下のファイルの中に入っているはずだった。
音を立てないように慎重にファイルを脇に積み重ねて
下のファイルを取り出す。マグライトで確認する。
あった〜。これで翻訳できる。
完全とは言わないまでも内容ぐらい把握できるだろう。
積み上げたCDファイルを元に戻しダンボールのふたを閉め
物置の扉を閉めて顔を上げるとそこに誰かが立っている。

「翻訳ソフトは見つかった?」

アネキだった。

俺はもう頭が真っ白になってしまっていた。
バレてる?い、いやそれよりもなぜ翻訳ソフトのことまで?
言い訳した方がいいのか?アネキは隠し事を・・・
しかし強気なようだし。
どうしたら良い?どんな行動が一番良い?

俺のパニクった頭の中で出た最良の行動は
「沈黙」だった。
行動を起こそうにも情報が少なすぎる。
このまま黙ってしばらく様子を見るしかあるまい。
アネキは俺のそんな考えを見抜いたのか
ニヤニヤしながら近寄ってきた。
「心配することないわよ。もう全部ばれてるんだから。」
全部!?全部ってどこまでが全部?
割れ物集めたりしている事?
隠れてエロゲーとかエロ動画とか画像とかでオナニしてる事?
それを学校で売りさばいてる事?
みんなのPCハクってのぞき見してる事?
ウキエさんの写真?ワカメの写真?
そこまで考えて気がついた。
これはアネキの誘導尋問だ。
昔はよくこれに引っかかった。
もう騙されないぞ!

「あら。ダンマリ?まぁいいわ。」
ソフトの事だって物置を漁っていて気がついたに違いない。
いや、自分のメールが盗み読まれそうな事は
気がついているのかもしれない。
それに気がついて俺を監視していて
今、かまをかけているところだ。きっと。

「まさかあんたがこんなに諜報能力を秘めていたとはね。」
諜報能力?何の事だ?
「違法コピーソフトを集め出すまでは
 何となく予想はついていたわ。
 アダルトサイト巡りもね。
 PCがうちに導入されるって決まった時に
 遅かれ早かれそうなるとは思っていた。
 警察沙汰にならないうちに父さんに警告しておこうとは
 思っていたんだけど、
 思わぬ方向にエスカレートしたわよね。」
「!?」
故意に黙秘を決め込んでいる状態ではなくなってしまった。
そう。何もいえなくなってしまったのだ。
「あなたのハッキングはずいぶん利用させてもらったわ。
 特にノリスケさんのルートはね。
 もちろんさらに潜り込んで新聞社にバックドア
 作らせてもらったけど。」
な、何言ってんだよアネキ!?

「おかげで表面に出てこないニュースとか
 動きを知る事が出来たわ。
 それ以外にも役に立つ情報もあったわ。
 あなたの同級生に防衛庁官僚の娘さんがいるのね。
 あのデータ。あたしにはとても読み解けないけど
 国に送ったらずいぶん喜ばれたわよ。」
国?何?ナンデスカ?
「あんまり役に立つ物だから
 よほどの事がない限り放置しておこうって事で
 あたしと同志アナゴの意見は決まったの。
 でもまさかあたしと同志のメールを盗み読もうとするとはね。
 この事はまだ報告していないわ。
 ひょっとしたらあたしあなたを殺さなければいけないかも。」
アネキは闇の中でうつむいて言った。
俺はそれまで気がつかなかったのだが
アネキは右手に何かを握っていた。
懐中電灯かと思っていたのだが、闇に慣れた目で見ると
それは黒光りする拳銃だった。
女の手で握られているとずいぶんと大きく見える。
ただ俺が見慣れていないだけかもしれない。
その視線に気がついたのかアネキは悲しそうに言った。
「半分しか血が繋がっていないとは言え兄弟だものね。」
へ?半分?

「あんたは不思議に思った事ないの?
 兄弟なのにこんなに年が離れているのよ?
 おかしいと思わないの?」
そう言われてみればそうだが。
しかしアネキは俺が生まれた時にはすでに居た。
「あんたのおしめはあたしが替えた。」
アネキの口癖だ。
赤ん坊の俺を抱くアネキの写真もある。
「あたしはねお母さんの連れ子なの。
 その後、母さんと父さんの間にあんたと
 ワカメが生まれたのよ。」
ええ?
「あたしは朝鮮半島で生まれたの。
 38度線以北でね。
 そして朝鮮戦争後に日本にやってきた。
 母さんは身元を隠すために父さんと結婚をした。
 そう、あたしと母さんは北鮮の諜報員なの。」
えええ!?

「母さんはもう引退しているわ。
 と言うより本部の命令についていけないみたい。
 飛行機の爆破事件以来諜報活動はしてないわ。
 でもあたしはその後を引き継いだ。
 あたしがやらなくてはいけないの。
 やめるわけにはいかないのよ。
 ついこの間、同じ区で一家が殺されたじゃない。
 あんな目にみんなをあわせたくないの。」
「じゃ、じゃああの事件は・・・」
「あたしは関わっていないわ。
 あの家族の事は知っていたけどね。」
「でも僕の事は殺すの?」
「あなた次第よ。
 血が繋がっていなくてもね
 あたしは父さんが好き。
 この家族が好きよ。
 怪しまれないためにね、
 きわめて日本人的な生活を要求されたの。
 正月には羽根突き。春には花見。
 夏にはスイカ割り。秋には月見。
 最初は義務感でやっていたわ。
 でもあたしはこの平和な生活が好きなの!」

「・・・マスオ兄さんはどこまで知っているの?」
俺は殺されたくなかった。
死ぬなんて考えた事もなかった。
でも知れる事は知っておきたい。
たとえ死ぬ事になっても後で後悔しないように。
「あの人は何も知らないわ。
 あたしは平凡な主婦だと思ってる。
 そしてあたしの事を愛してくれているわ。」
「アナゴさんは・・・?」
「同志アナゴはマスオさんと知りあう前から
 あたしの上司よ。
 彼がマスオさんを紹介してくれたの。
 偶然を装ってね。その事をマスオさんは
 知らないけど。
『疑う事を知らぬ諜報活動の邪魔にならない男だ』
 そう言って紹介したわ。」
「父さんも何も知らないの?」
「父さんと母さんの間で何か契約はあったらしいの。
 それは私も知らないわ。
 でも父さんは慈悲深い人だから
 身よりのないあたしたちをかわいそうに思って
 引き取ってくれたのだと思うの。」

「その諜報活動はいつからしているの?」
「日本にきた時から。
 子供の頃から日本の事を勉強して
 訓練されてきたわ。
 さあ、答えられるのはこの辺までよ。」
「僕を殺すの?」
「・・・様子を見るわ。
 この事をアナゴ同志に報告しなければ良いんだけど
 見つかってしまえばそれまで。
 それにあなたが黙っていられるか。
 今まで通りに生活できるか。」
「僕、誰にもしゃべらないよ!
 今までと同じように家族だよ。」
 もちろん邪魔もしないよ。」
「それが良いわ。
 半分血が繋がっているとしても
 容赦しないからね・・・
 ううん。容赦できないからね。」
「・・・・・」

「半分じゃないぞ!」
突然勝手口から声がした。オヤヂだった。

「父さん!?」
俺たちは声をそろえてびっくりした。
「いつから聞いていたの?」
アネキは声を押し殺して聞いた。
「ついさっきからな。」
オヤヂは浴衣の懐から煙草を出し、火をつけて
深々と吸い込んだ。
「半分じゃない。おまえたちは本当の兄弟だ。」
「どういう事かしら?
 まさか、『心の中では』とか下らない事言ったら
 今この場でぶっ放すわよ!」
「まぁ聞け。そうだカツオも聞け・・・」

親父は勝手口の框に腰掛けると煙草を吸いながら
話し始めた。時々煙草の明かりで見える顔は
ひどく老け込んだ気がした。
「ワシと母さんが出会ったのは戦後間もなく
 まだ東京中が焼け野原でみんなが食い物に困っていて
 家を失った人や家族をも失った人たちが
 その辺を徘徊している。そんな時だった。
 ワシはとある部隊に所属していた軍人で
 復員して帰ってきてももはや家もない。
 知り合いのつてを頼ってヤミ屋を開いて
 何とか暮らしていた。

ワシがやっていたのは煙草屋だ。
GHQのごみ箱を漁ってな。
シケモクを拾ってきてほぐして新聞紙で巻いて
それを捌いていた。煙草が足りなくなると
出がらしのお茶葉を分けてもらって
それを天日で乾燥してな。混ぜて売ったよ。
そんな物でも飛ぶように売れた。
隣近所のヤミ屋には上物を回していたから
食う物には困らなかった。
そんなある日、体を売って食い物をもらっている
母さんに出会ったんだよ。
俺は器量よしの母さんが気に入った。
ありったけの食い物を分けてやり
俺と一緒になるように説得した。
返事は聞くまでもない。
それから俺たちは一緒に暮らした。
母さんは煙草の仕入れも手伝ってくれたし
無口だが申し分のない女だった。
だがある時変な噂を聞いた。
母さんが朝鮮人だというのだ。

あの女は朝鮮人だ。
ヤミ屋の仲間が言った。
その頃はみんな朝鮮人に敏感になっていてな。
戦争中ひどい扱いをしたものだから
いつか仕返しをされるのではとビクビクしていたのさ。
だが俺はかまう物かと思った。
俺もすねに傷はある。
俺たちはそんな噂を気にもせずに働いたよ。
だがある時母さんが言った。借金があるのだという。
金額を聞くとその当時では大金だった。
その借金がある限りあたしは結婚は出来ないと言う。
俺たちは必死で働いたがそんな金は無理だった。
ある時韓国語をしゃべる男が訪ねてきた。
この男に借りているのだと母さんは説明した。
俺はそいつになんとか待ってくれないか
頼んでみたがだめだった。
母さんを連れて行ってしまうと言う。
俺は何とか金を作るからもう少し待ってくれと言った。
男は納得したようだが、俺には金を作る当てなどなかった。
だが、一つだけ方法があった。
軍にいた頃に自決用に渡されていた薬があった。
これを使って何とか出来ないだろうか?

そして俺はそれを実行した。
予行練習を2度行い、実行に移した。
軍で何度もやった作業と同じだったので
計画はすんなりと行った。
俺は必要な分だけの現金と小切手を奪い
それを母さんに渡した。
母さんの喜ぶ顔が見たかったのだ。
だが母さんは涙を流しただけだった。
その夜。母さんは姿を消した。
その後2.3年で朝鮮戦争が始まった。

それから十数年後。
母さんは再び姿を現した。
女の子を連れていた。俺の子だという。
俺は嬉しかった。帰ってきてくれたのだ。
その子は俺の顔を見てもニコリともしなかったが
俺の子だと確信した。
俺は母さんを説得して一緒に住もうと言った。
結婚してくれと頼んだ。
母さんはそれはこちらからお願いする事ですと言って
泣いた。そして俺たちはまた一緒に暮らし始めた。

ある夜。母さんは俺に金を返した。
あのときのお金ですと。
あの時は嘘をついてごめんなさい。
あのお金は故郷に帰るのに使いました。
そして帰ってから家族に渡しました。
あたしは朝鮮戦争後諜報員になりました。
でも、もうやめようと思っています。
国よりも大切な物があります。
サザエとおなかの中の子。そしてあなたです。
サザエは諜報員を続けると言っています。
あたしはそれを止める事が出来ません。
でもあなたにだけは迷惑をかけませんから。
そう言って俺に金を返した。
俺は知らぬ振りをする事にした。

だけどな。母さんがまだ俺に告げていない事があるのを
俺は知っている。おまえ達が俺に近づいたのは
731部隊のデータがほしかったのだろう?
それさえ渡せば、おまえはもう諜報部員を
やめる事が出来るのかい?」

アネキは泣いていた。
「父さんに対して非情になれるように
 母さんはあたしに本当の父さんだと
 言わなかったのね。」
「データならくれてやる。
 だからもう危ない事はやめなさい。
 もうおまえ一人の体じゃないのだよ。
 片親が居ない苦しみはおまえも知っているはずだろう?」
アネキは崩れ落ちてから、下を向いてうなずいた。
嗚咽が聞こえる。そう言えばアネキの泣き顔を見た事はない。
「さあ。カツオはもう寝なさい。
 何も心配はいらないんだよ。」
「うん。」
俺は部屋に帰ってメールのデータを消し床についた。
寝られないかと思ったがすんなり寝る事が出来た。

次の日。何事もなかったように一日が始まった。
いつもと何も変わらない。
あれは夢だったのではないだろうか?
だが机の上には昨日の翻訳ソフト入りCD-Rが置いてある。
夢ではない。でも俺も何事もなかったように
学校へ出かけた。

あれから俺たち家族はその事について一度もはなした事はない。
だが一度だけアネキが俺の部屋に来て言った。
「この串使いなさい。」
北朝鮮の串だった。
FTP串とアノニ串らしい。
アネキはそれだけ言うと行ってしまった。
以来UPするのも落とすのもその串をかましている。
俺が捕まって家族を悲しませないようにくれたのだろうか?
その串は早かった。アノニレベルもA++だ。串ともわからない。
俺はその串を使って今でもUP/DOWNをしている。
あゆ板があると適当に見繕って
アップして、VIP会員にしてもらいまた他の会員制にも
入れてもらって、warezライフを続けている。
俺がアップする物は偽装なんてそんなにしないから
評判が良い。みんな喜んで落とす。

だがそんな事を繰り返して考える事がある。
ひょっとするとこれも諜報活動、
妨害活動の一部なんじゃないだろうか?
だって俺がアップすればみんなソフトを買わない。
長い目で見れば国力をそいでいる事にも繋がるんじゃないか?
しかしもっと恐ろしい事も想像してしまう。
北朝鮮発の恐ろしい潜伏力と破壊力を持ったウィルスを
俺にばらまかせているのではないか?
みんな喜んでそれらを落としてインストールしている。
でもそんな事は俺の妄想に違いない。
俺は今夜も物をアップしている。
あゆ板で俺のH/Nを見かけたら是非声をかけてくれ。
要書き込みにはしていないけど
お礼にはたいてい目を通してるから。

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