過去に書いた小説のまとめと新しく書ければ書いてみたいなと。

次の日から俺は朝早起きしてダウンロードすることにした。
今月分の電話代の事はオヤヂもエロネットサーフしているのだ
問われることはあるまい。
それにもうすぐテレホーダイが引かれるのだ。
俺のダウンロードは順調に進んだ。
だがアネキに落としたファイルを見つけられないかと
ヒヤヒヤしていた。まだ全て揃っていないのだから
見つけられてもなんだか分からないだろうが
消されてしまっては一大事だ。見つかりにくい場所に
フォルダを作って保管していたが頭を悩ませていた。

ある日母に隣の伊佐坂さんの家に
回覧板を渡して欲しいと頼まれた。
良くある事なのでいつもの様に隣に行き
呼び鈴を押してみたが返事がない。
だが玄関は開いているし庭に行けば誰か居るかも知れないと思い
勝手しったる他人の家、庭に回ってみた。
俺はこの家のウキエさんに憧れていた。
何度か風呂を覗いたこともある。
今回も着替えを覗けるかもと思い回覧板を盾に侵入したのだった。
見つかったところで小学五年。咎められはしない。
しかし期待ははずれて庭には甚六さんがいた。

甚六さんはテラスに腰掛けノートパソコンにヘッドフォンを繋いで
目を瞑り何かを聞いていた。
モニタをのぞき込むと何やら音楽を聴いているようだ。
CDでも聞いているのだろうか?わざわざノートパソコンで?
俺が肩を叩くと甚六さんはヘッドフォンをはずして笑った。
「ごめんごめん全然気が付かなかったよ。」
「何してるんですか?」
MP3を聞いていたんだ」
それから俺は甚六さんにMP3について教わった。
インターネットでも落とせる?CDと変わらない?
スゲェ!スゲェぜ甚六さん!そしてインターネット!

「カツオ君ちもパソコン導入か〜
世の中進歩してるよね〜。」
それで俺は甚六さんにエロゲ持っていないか聞いてみた。
「ゴメンネ〜俺ゲームには興味ないから。
そうそうこんなの知ってる?」
甚六さんはノートパソコンをいじると何かソフトを起動した。
すると耳慣れた音楽が・・・ポ、ポケモン!?
パソコン版なんて出ていたのか?驚いた俺を見て甚六さんは
可笑しそうに言った。
「これはネ、エミュレータって言うんだよ。」
スゲェッスゲェよ。俺一生あんたに付いていくよ!

その後色々な事を甚六さんに教わった。
windowsの基本的なことから裏技まで。
甚六さんは持っていないけどエロゲを持っている友人が居るので
今度焼いて来てくれるとのことだ。焼いてくる
時代は進歩した。CDまで自分で録音できるようになったらしい。
その機械があれば俺が落としたエロゲもこそこそ隠さなくて良いんだ。
ファイルの隠し方はね〜。甚六さんはそれも教えてくれた。
こんなに近くに素晴らしい人が居たとは。汝の隣人を愛せよだ。
「アプリだったらいっぱいあるから欲しい物があったら言ってよ。
その代わりと言っちゃ何なんだけど・・・。」
甚六さんは俺にデジカメを手渡した。
「ワカメちゃんの写真撮ってきてくれ!」

俺は甚六さんが何を言っているのか良く分からなかったが
とりあえず写真を撮れば良いのだから簡単なことだと
快く承諾した。甚六さんはなんだか拍子抜けしたような顔で
「本当かい?それじゃあ頼むよ。」と言った。
俺は家に帰り早速PCを起動して落としたファイルをしまった
フォルダを隠し属性にした。本当だ綺麗さっぱり見えない。
ワカメが帰宅したので写真を4〜5枚撮った。
何に使うのか知りたがったがチロルチョコを一つやったら
納得したようだ。女は物で釣るに限る。
カメラは明日渡せばいいだろう。
その後母にこっぴどく叱られた。
回覧板を渡すのをすっかり忘れていたのだ。

次の日甚六さんにカメラを渡すとひどく喜んでいた。
おかしな人だなと思ったが口には出さなかった。
5,6枚ですよと言ったらそれで十分だそうだ。
カメラを手渡した時、甚六さんの手が震えていた。
「あ、エロゲーはもうちょっとまってね。」
「ああ、いつでも良いですよ。」
この時は本当にそう思った。だってもうテレホが始まる。
もうダウンロードし放題なのだ。
その夜甚六さんから電話がかかってきた。

「カツオ君アレはどう言うこと?」
「イヤ写真撮りましたけど?」
近所の公園で待ち合わせをして会いに行ったら
甚六さんが怖い顔をして待っていた。
「チッやっぱりガキだな。エロゲーなんて百年早いよ。」
「どう言うことですか?」
「あんな写真なら俺だって撮れるよ。
もう良いよ。ただしこの事は誰にも言うなよ!」
「あの・・・エロゲーの件は?」
「役立たずにやる物はねぇよ!
この事喋ったらエロゲー欲しがってた事と、
warezに手を出してる事サザエさんにチクるからな!」
俺はだんだん腹が立ってきた。要はこいつワカメの
裸写真を要求していたのだ。

「甚六さんねぇ、そんな事だから二十歳にもなって
浪人のドキュソなんですよ?」
俺はニヤニヤしながら言った。甚六さんは最初は吃驚した
顔をしていたがだんだん顔が赤くなり
そして鬼の形相になった。
「ンダトグルァ?小僧!」
「ほらほら、そんな言葉遣いがドキュソなんですよ。」
「てめぇ俺の事甘く見てんとヤッチマウゾ?!」
「だって俺はまだ未成年ですよ?
今の事が公になってもせいぜい叱られる程度でしょう?
warezだって一本落とし終わって無いんだし。
まだ未遂ですよ。でも甚作さんはどうでしょうねぇ?
有名作家の息子が隣家の男子に
小学三年の妹の写真を撮れと脅迫!なんてワイドショーが
好きそうなネタですね〜」

甚六さんは何も言えなくなってしまった。
「甚六さん。俺は何も責めてるんじゃないんですよ?
ただせっかく隣同士仲良くできると良いなと思ってるんです。
だから短気を起こさないで聞いて下さい。
俺はワカメのアレな写真を撮ってくるのは
全然構わないんですよ?
ただ交換条件があります。エロゲーとアプリだけじゃちょっと。
だってお金だせば買える物でしょ?ワカメの写真は
買えませんからねぇ。」
「何が欲しいんだ?」
甚六さんは身を乗り出してきた。逃げ道を与えれば
人間はそこにすがりつこうとする物だ。
「新しいPCが欲しいけど・・・」
「それはちょっと高いなぁ。」
「いくらぐらいまでなら出せるの?」
「5万ぐらいかな?」
「じゃあこの間言っていたCD焼ける機械。
あれって幾らぐらいするの?」
「CD-R?スカジー込みだと7,8万ぐらいかな?」
「う〜んちょっと高いね。」
「それにカツオ君ちのブレッツァのCPUじゃ
ちゃんと焼けるかどうか・・・」
「う〜ん無理なのかー。何とかならないかなぁ?」
「MOなら保存は出来ると思うけど。」
「出来ればCD-Rが良いんだよね。」
俺にはちょっとした計画があったのだ。

「CPUに下駄を履かせてクロックアップすれば
何とか焼けるようにはなると思うけど。」
甚六さんはCD-Rのメカニズムと焼くためには
最低これぐらいのスペックが必要だと教えてくれた。
「でも全部やると10万ぐらいかかっちゃうよ?
でもなんでCD-Rにこだわるの?」
俺は計画を甚六さんに告げた。
「CDを焼いて学校の友達にさばくんだよ。
一枚1000円から2000円ならみんな買うと思うんだよね。」
「なるほど〜」
「だから甚六さん残りの5万円貸しといてくれないかな?」
「分かった。その代わりパンツは2枚頼むよ。」
「OK!」
これで金をためればそのうち自分専用のPCが買えるかも知れない。
そうしたら朝早起きしてインターネットしなくても
堂々と自分の部屋でダウンロードしたりエロ画像見たり出来るぞ!

ようやくテレホーダイが始まった。
それでも俺はオヤヂとかち合うとまずいので朝早くネットしていた。
夜11時にきっちり接続して朝学校へ行く前にチェックして切断。
最初に落とし始めたエロゲーがようやく落とし切れた。
俺はワクワクしながら解凍を始めようとした。
だが拡張子を見てみるとjpgになっている。
あれれ?r01とかrarじゃないのかな?
あれからゲームラボを必死に読んで予習して置いたのだ。
とりあえずダブルクリックしてみるとペイントが開いてしまい
解凍出来ない。winRARはインストールしてあるのに。
とりあえず落としたページに行って何か書いてないか
調べてみる事にした。すると
『拡張子をjpgからRARの連番に変えてから解凍して』
と書いてある。なーんだ。
でも107個全部リネームするの?学校行く前に出来るかな?
warezも楽じゃないよ。トホホ。

俺の生活のサイクルはすっかり朝型になっていた。
アネキや母は常習だった遅刻を全然しなくなったので
喜んでいると同時に怪しんでいた。
特にアネキは「何か悪い事してるんじゃないの?」と
探りを入れてきたりもした。大きなお世話だよ。

一つ一つjpgからr00,r01・・・
気が遠くなりそうだった。途中何度も番号を間違えた。
こんな単純作業こそコンピューターの仕事じゃないのか?
何とかならないのかな?俺は飽きてしまい
甚六さんに貰ったCDを入れた。中には
『院内感染』『鬼畜王ランス』『悪夢95』『遺作』など
雑誌で見たことのあるタイトルが並んでいる。
俺は下半身がうずいてきたので時間はないが
ちょっとだけやってみようかと思った。
しかしフォルダを開いてみるとそこには
kitiku.fcdとかisaku.fcdとか良く分からない物が
あるだけだ。ダブルクリックしても
『このファイルを開くためのアプリケーションが』と
出てしまい何もできない。クソ!甚六の野郎だましやがったな!
俺は諦めてまたリネームに精を出すことにした。
作業が終わったのは夜が明ける頃だった。
疲れながらも喜んでrarをダブルクリック!
解凍が始まった。これで、これでやっと念願のエロゲーが!
しかし解凍されて出てきたファイルはkankin.fcdだった。

俺は学校で授業を聞きながらfcdの事ばかり考えていた。
アレを解決しないとエロゲーが出来ない。
ボーっと考えていたら先生に指された。
「磯野!a,b,c,d,e,fの図形で面積の大きいのを上から三つ言え!」
「は、ハイ!fcdです!」
先生は呆気にとられていたようだが正解したようだ。やれやれ。

休み時間にハナザワさんとカオリちゃんが俺のそばにやってきた。
「カツオ君最近パソコン使ってるんだって?」
「う、うん」
「カッコイー。何か最近渋くなったって話してたんだ。」
「ホ、ホントに?」
「今度あたしにも教えてね。」カオリちゃんが言う。
「家も今度父ちゃんが店で買ったんだ。教えに来てよ。
父ちゃん買ったは良いけど全然使えないんだ」とハナザワさん。
「う、うん。まかしておいてよ!」
元気良く答えた物の、俺は未だにエロゲーさえ出来ていないのだ。
するとナカジマが「おいおいカツオ大丈夫なのか?」
とニヤニヤしながら言ってきた。このメガネヲタ黙ってろ!

家に帰ってゲームラボを読んでみた。
だがfcdの事は載っていなかった。
「ちぇっ。使えねぇ雑誌。」
俺は居ても立っても居られなくなって例のサイトをもう一度
調べてみる事にした。すると
『リネームには酢昆布を使ってね。toolに置いてあるよ』
と書いてあった。酢昆布?
toolページに行って説明を読んでみると昨日の俺の苦労は
一体何だったのだろう?って気になった。
そりゃそうか。アップする人だってリネームするのは
大変な作業だろうし。
ちゃんと探せば良かったのだ。
しかし肝心なfcdの事はどこにも書いていない。
掲示板にも行ってみたがfcdについてはどこにも書いてなかった。
困ったなぁ。でもみんなこの掲示板で質問とかしているようだ。
落とさせて貰った事だしお礼もかねて質問してみよう。
俺は少し怖くもあったがひょっとしたら
友達が出来ちゃうかもしれないなどと考えながら
掲示板に書き込みをした。

まずハンドルネームを考えよう。
この世界ではwarezの事を割れ物とか言うらしい。
割れるってのは違法ファイルを取り扱う時の隠語である様だ。
よし!じゃあ割男(カツオ)にしよう。
我ながらなかなか洒落たH/Nが出来たと思った。


--------------------- はじめまして!皆さんこんにちは!!
ゲームラボ見てきました!割男と言います。
今後ともよろしくお願いします(^_^)
アップしてある『監禁』頂きました。
ありがとうございます。
ところでfcdって何ですか?

---------------------
良し。これで朝繋いでみれば誰かが質問に答えてくれるだろう。
これで念願のエロゲーが出来る。
思えば長い道のりだった。
リネームの事も覚えたことだし今夜落とすファイルをチェックして
ブラウザを閉じた。

明け方になりワクワクしながら
例のページの掲示板を開いてみた。
すると返事どころか掲示板は荒れに荒れていた。



--------------------- こんなヤツが来る様じゃここももうダメだね

--------------------- 割男の母ですこの度は息子がとんでもない書き込みを

--------------------- オイ割男!今すぐ自分のティムポかみ切って氏ね

--------------------- ↓ネタ?

--------------------- はじめまして!皆さんこんにちは!!
ゲームラボ見てきました!割男と言います。
今後ともよろしくお願いします(^_^)
アップしてある『監禁』頂きました。
ありがとうございます。
ところでfcdって何ですか?

---------------------
俺は本当に死にたくなった。
名前欄に『マヂレス』と書いてあるレスには
検索しろよ!と唯一まともなことが書いてあった。


俺は頭に来て何か罵倒の言葉を書いてやろうと思ったが
怖いし、何より自分が悪いのだから仕方がないと反省した。
そしてFCDで検索するとお目当ての項目はすぐに現れた。
CD革命』これを手に入れなければいけないらしい。
そしてこれはすぐに見つかった。
ファイルサイズも小さいし今日中に落とせそうだ。
CD革命を探しているウチに他のwarezサイトも見つけたので
URLをメモにコピペしておいた。
これからは分からないことは検索して調べることにしようと
心に誓う小学五年の初夏であった。

次の日いつもより早めに起きて念願のエロゲーでオナニをした。
今から考えれば絵もショボイし音もないクソゲーだったが
自分で落として苦労してようやくプレイできた事に
何より俺は感動した。
いつか俺もファイルをアップ出来るぐらいのスキルを持って
この感動をみんなに分かち合って貰いたいと思った。

そのためには自分用のPCも欲しいし甚六さんに
もっと色々教わらなくてはいけない。
webで学べることも多いだろう。
ここにワレザー割男が誕生し、その伝説は始まったのである。

割男-3-黄金編へ続く

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