※続き物になってしまったので直接こっちに付け足させていただいています(bySS作者)

1.FF11冒険者宅訪問

452 :名無しさん@ビンキー:2010/02/17(水) 12:44:22 0
>>451
何というエロテロリスト!
薬でキてるときに限って暴力でなく舌と言葉で嬲りまくるとか分かってらっしゃるバルさん!
なんかバルバトスって絶対嘘は言わなそうな安心感があるな
あと、テロの効果ノリノリで利用したくせに後日元凶を探して殺しに行きそうな気がしてならない

スレの流れとか鍋後半とか嬉しすぎてジェバンニただ今自重できません>>402の続き投下させていただきます
パスは同じ、楓がFF宅お邪魔して限界突破

■注意
鍋動画後日談 楓と汚い忍者
楓が限界突破してやっちゃいます


「お、おじゃまします!」
「おー、いらっしゃい。今はうるさいの居ないからゆっくりしてってくれ」
ドアを開けて迎え入れた汚い忍者を見て、楓はひそかに狼狽した。
宴会場で一度会った際に身につけていた乱波装束ではなく、ラフな室内着。
ガチガチに防具で身を固めた姿とは一転、首筋も腕も顔もひどく無防備に見えた。
だいたい初対面に近いのに急に抱きついたり(反射的な事故)キスを迫ったり(覚醒時の事故)した楓を
こうして平然と家に招き入れている事実が一番無防備なのだが。
これだから忍者はガードが甘いとか紙だとか言われるのだ
「うるさいのって、いつもは誰がいるんですか?」
「ヴァナ・ディール仲間10人近くで共同で家借りてるんだよ。日中はほとんど皆どっか行っちまうけどな。
 あいつなんて何の前置きもなしに数日単位で帰ってこなかったりするし・・・」
汚い忍者が顔をしかめる。
鍋会場でも苦手だと言っていた、天子によく似ているというナイトのことだろう。
ナイトの話題になると汚い忍者の意識は完全に楓から外れる。
この場に居ないその人への不平と不満で忍者の頭はいっぱいになってしまうのだ。
それほどまでに嫌っている相手と一つ屋根の下で同居しているというのが楓にはよく分からない所なのだが。
忍者と寝食を共にし、側にいない間もこれほどまでに彼の心を支配できる相手がうらやましかった。
(って、違うだろ!忍者さんとナイトさんは仲悪いんだってば!)
相変わらず忍者を前にすると暴走してしまう自分の思考に辟易する。
初めて好きな子ができた小学生でもないんだから、もう少し冷静な対―――ちょっと待て、好き!?
「ん、どうかしたのか?」
「い、いいいいいえ、なななんでもないです!」
おちつけ心臓!
愛刀疾風丸を握り締めてなんとか平静を装う。
果てしなく今さらながら、楓は自分自身が忍者に抱く感情の正体を探る。
家事をこなす立ち姿に好感を持ち、話しかけられないと寂しさを覚え、笑顔に見惚れ、反射的に抱きついて、あげく・・・
・・・・・・どう考えてもフォーリンラブした以外の説明がつきません本当にありがとうございましたorz
宴会の日、まるで酒でも入ったかと錯覚するような自分の一連の行動を思い出し、楓は頭を抱えた。
しかも相手は年上の同性である。
―いや、異性だったら異性で別な問題が盛大に発生するからある意味男同士で良かったと言えなくも無いが―
目下現状で最大の問題は、相手の忍者がどう思っているのか。
結局あの日は宴会の仕切りや片付けなどにおおわらわで、2人で話す機会は無かった。
うっかり覚醒して迫ったことへの弁明など人前で話せるわけも無く。
幸か不幸か忍者も、あの廊下での出来事については全く追求して来ないまま宴はお開きとなった。
帰りがけになんとか声をかけ、改めて謝りたいと申し出たところ、日を改めて忍者の家を訪ねることになった。
あの場であっさり謝っておくべきだったか
家に上がりこんでしまったことで余計にややこしい事態になっている気がする
悩む楓の内心を露知らず、汚い忍者は台所で茶の準備をしている。
楓が手土産に持ってきた和菓子にあわせて、出されたのは日本茶だった。
「あんまり良いのじゃないけどよ、紅茶よりは合うだろ」
「すいません、お手伝いしなくて」
「今日はお前はお客さんだろ、気にすんなって」
菓子の箱を開けてさっそく一つつまみながら忍者が笑う。
あの宴会場で見惚れた笑顔と同じ、少し苦笑混じりだが嫌な感じのしない笑い方。
(なんでこの人が『汚い忍者』なんだろう・・・)
謙虚な天人にもさすが忍者きたないなどと罵られていたが、楓の見た範囲では彼は暴君チームきっての良識派だった。
まぁ戦い方は・・・だが、技の性能をのぞけば汚い所なんて見当たらない。
さらに今は忍者らしい装備も解いて完全に普通の気の良い兄ちゃんと化している。
「どうした楓、またぼーっとしてんぞ?」
「いえ・・・・・・『汚い忍者』って名前はちょっとどうかと思って」
「ははは、なんだよそれ。良いんだよ俺は『汚い忍者』で。
 ただし忍者全般見境無く『汚い』って言うのだけは勘弁しろよ。汚くないのもいるんだから、たまには」
「たまには、ですか」
「うん・・・MUGENだと俺以上にヤバいの結構いるから」
某ウロボロスを自重しない人だとか某経験値ドロボウのことだろう
その点に関しては楓も否定できない。
「で、今日は何か用事があって来たんじゃないのか?」
「そ・・・」
それを僕に言わせるんですか忍者さん
喉まで込みあがってきたセリフをぐっと飲み込む。
楓が覚醒して思いっきり口説いた事実を汚い忍者がどのように認識しているのか。
馬鹿正直に話すと思わぬ地雷を踏みそうで、うっかり切り出せない。
「まぁ、話しにくい事なら急かす気はねぇけどよ。
 愚痴ならいくらでも聞いてやるぜ。今日は邪魔物も問題児もいないからな」
「すみません」
「ところでお前、いきなり金髪になるあれって何なんだ?」
本当はこの人、全部分かった上でカマかけて来てるんじゃないのか
直球過ぎる質問に危うくお茶を噴出しかけた。
熱い日本茶を飲み込んで一息つき、冷静さを取り戻した上で話し出す。
「その・・・地獄門を守る四神・青龍の力を僕が受け継いでいて・・・
 青龍の力が発現するとあんな風に容姿がすこし変わるんです。
 ほかにもちょっと性格が好戦的になったり・・・」
「ああ、スーパーサイヤ人みたいなもんか?」
「えっと、たぶん元ネタ的にはそうです、はい」
忍者の反応は思いの他普通だった。
普通に受け入れられてしまい、逆に楓は内心あわてる。
「あん時雰囲気がお前らしくなかったもんなー、覚醒状態の時のことは覚えているのか?」
「え、ええ、一応。うろ覚えの事もありますがなんとなくは・・・
 僕はあの『もう1人の自分』苦手なんですけどね・・・乱暴だし、態度悪いし・・・
 忍者さんにも本当に失礼な口聞いてしまって、それを謝りたかったんです。すみません」
「裏人格の暴走なんてお前のせいじゃないだろ。
 わざわざ謝りに来るなんてほんと律儀な奴だな」
厳密には二重人格ではないのだが、楓は忍者の勘違いに甘えて口をつぐむ。
とりあえず忍者は覚醒するまでの楓の言動は問題視していないようだ。
覚醒する前も楓にしてはかなりタミフル気味の発言オンパレードだったのだが、
あれに関しては全く下心無しと思われているのか綺麗にスルーである。
喜んで良いのか男として悲しんで良いのか・・・
それでも
「あの宴会場とんでもない奴ばっかりだったからな、楓みたいにまともな奴がいてほんと良かったよ」
何の警戒心も無く自分に向けられる笑顔。
(この人も僕と同じ、苦労しているんだな)
似たような苦労人ポジションに追い込まれている常識人同士の共感、それゆえの信頼。
知り合ったばかりなのにこんなに心を許してもらえるのが嬉しい。
もし楓の正直な気持ちを伝えたら、もうこんな風に無条件に笑ってもらえないかもしれない。
そう思うと何も言えなかった。

天狗から貰った鍋会場の映像を見ながら、二人でだらだらとだべる。
改めて当日の会場を見た2人の感想は見事に一致。
「これはひどい」
乱れ飛ぶビーム、超必。自重しない腐れトークにトライアングラーにメタ発言。
宴会場自体が半ば乱闘状態だが試合はそれに輪をかけてひどい。
リザレク連発・ハメ・超火力その他もろもろ。世はまさに世紀末。
「何というか・・・『うわぁ・・・』だな」
「ですね・・・」
「楓も試合中は相当だな。なんだこの2人まとめてハメループは」
「いやもう相方の聖帝が先にやられちゃって無我夢中で」
「フェルナンデスは火力しゃれになんねぇし、あの地味もああ見えて相当強いからな。
 あの状態から逆転するなんてすげーよ」
忍者は感心したように画面に見入っている。
楓に見つめられている事に気づくと、見返してきてふっと笑った。
「かっこいいじゃん、1人でタッグ倒すなんて」
「え、でもあれちょっと卑怯じゃ・・・」
「卑怯でも何でも勝てばいいんだよ、どうせ無礼講の余興試合なんだから。
 マトモな大会でも汚い試合ばっかりやってる俺が言えた義理じゃないけどな」
(ほ、褒められ・・・た?)
湯飲みを握る手に思わず力がこもった。
水面に映った自分の顔を覗き込む。赤面していないだろうか。
そんな楓を何か勘違いしたのか忍者は日本茶を注ごうとするが、
もう茶が残り少ないのに気づいて急須を片手に台所へ引っ込んだ。
「わりーな、ちょっと待ってろ」
「い、いえ、おかまいなく!」
1人残された楓は、映像を撒き戻して気になる場面を見直す。
忍者の試合、自分の試合、合間の阿鼻叫喚鍋地獄。
楽しそうに暴れまわる面々の合間に時折、給仕に追われる自分や忍者の姿が映る。
忍者に至っては何も悪いことはしていないのに天狗などに何度かもろに絡まれている。
謙虚な天人の時といい、忍者は絡まれ属性でも持っているのか。
(そう言えば、忍者さんあんまり笑わないな・・・)
楓との会話では合間に微笑むことが多いのに、会場で立ち回る姿は余計な感情を示さず飄々と受け流している。
遠い目をしていたり引きつった顔ばかりの楓も笑ってないと言うなら同条件だが。
と言うか楓の方がひどい顔である。天草達に笑われている時などいったいどこを見ているのだ。
画面の中、うつろな瞳の自分を忍者が掴んで正気に返らせる場面に生の声が重なった。
「お前さー、鍋食ってる時より他人の世話に追われてるときの方が生き生きしてるよなー。
 表情にメリハリがあるって言うか」
「うわっ!?に、忍者さん気配消して歩かないでください!」
「わりー、ついクセで。ほら湯飲み出せ」
淹れたての熱いお茶が湯飲みに注がれる。
口を付けると、目の前が湯気で曇った。
白い霧の向こうで忍者が表情を緩めるのがぼんやり見える。
あの時の静かな廊下と同じ優しい空気。画面に映るのは鍋会場のカオス。
なんだか不思議な気分だった。
落ち着いた香りの日本茶が喉と手にほどよいぬくもりを与える。
この茶も忍者が入れてくれた物だ。
(ああ、今日も僕は何もしていないな。忍者さんにまかせっぱなしで・・・)
それでもあの時ほどそわそわしないのは問題児が側にいないせいか。
はたまた忍者がほぼ自分につきっきりだからか。
忍者が自分に構ってくれるのが純粋に嬉しかった。
「忍者さんもうお茶無いじゃないですか、注ぎますよ」
「お客さんにそんなことさせらんねーだろ、自分で注ぐから!」
急須を傾けようとすると、あわてて静止の手が伸びてくる。
その手を避けて急須を引っ込めたと同時に、こん、と軽い手ごたえがした。
「?・・・熱ちっ!」
「楓!?」
自分の湯飲みが倒れて熱いお茶が机の端から垂れていた。
つい今しがた急須で倒してしまったのか。
淹れたての日本茶が濃紺のズボンにさらに黒々と染みを作っている。
「す、すいません!台拭きを・・・」
「片付けなんか後だ、すぐズボン脱げ!さっさと拭いて冷やさねぇと火傷が酷くなるぞ!」
「え、ええ!?でも」
「氷取ってくるから脱いどけよ!」
手近な布で余分な熱湯を拭き取ると、忍者はさっさと走っていってしまった。
さすが効率至上主義・・・じゃなくて脱ぐ!?
しかも忍者の前で、上じゃなくて下を!!?
(死にたい・・・orz)
しかし熱湯を吸った衣服が肌を痛めているのも事実である。
楓は泣く泣くズボンを下ろして赤くなった太股を外気に晒した。
忍者がボールに入れた氷と清潔なタオルを片手に掛け戻ってくる。
なさけない格好の楓に特にコメントも無く、テキパキと火傷した箇所に布を当て氷で冷やす。
「ちっ、腫れるかなこりゃ」
「すみません忍者さん、僕が余計なことするから・・」
「いや、あれは俺のせいだ。急須持ってるのに俺が邪魔したから悪いんだ。
 ごめんな楓、せっかく遊びに来てくれたのに」
忍者の表情が曇る。
そんな顔をさせたいんじゃないのに
(問題児がいないのに、僕が面倒ごと起こしてどうするんだよ・・・)
穴があったら入りたいとはまさにこのことだ。
しかもさらに悪いことに、汚い忍者が至近距離で手当てをしてくれている事が・・・正直嬉しい。
下穿きが見える情けない格好で手当てされていると言う状況を差し引いても、
片思い相手の手が優しく自分の太股に添えられているとか
これで有頂天にならなきゃ男としてどこで暴走すべきだ
「・・・忍者さん、この格好ちょっと恥ずかしいんだけど」
「ズボン濡れちまったもんな、しょうがねぇよ。
 クリーニング出しておいてやるから俺の履いておくか? サイズ多分合うだろ」
「ああ、それも良いな。けど今まさになんとかしたいんだよ」
「!・・・お前、また金髪に・・・」
「俺だけ脱げだなんて不公平だよな、あんたも脱げよ」
「はぁ!?」
呆気に取られた忍者のすきをついて引きずり倒し、ソファに押付ける。
室内着のズボンに手を掛けると流石に抵抗があった。
「おまっ・・・おまえ、コラ裏楓!勝手に何言い出すんだ!」
「裏って言うな!俺は俺、楓だ!」
「うっせーな、表の楓困らせるような事すんじゃねーよ!」
「誰が困るって?」
抵抗する手首をガッチリ掴んで動きを封じ、正面から忍者の顔を見下ろした。
覚醒状態だと凶暴性だけでなく力も増す。
普段の楓と大差ない腕力の忍者を押さえ込むのは難しくない。
「さっきは詳しく説明しなかったけどな、別に覚醒前と後で別人ってわけじゃないんだよ。
 両方『楓』だ」
「・・・信じられないな、『楓』と『お前』とじゃ違いすぎる」
「信じなくても俺は一向に構わないぜ?ただ好きなようにやるだけだ。
 覚醒前も今も考えてる事は同じ、
 ・・・あんたが欲しい」
汚い忍者が息を飲むのが分かった。
今度こそ邪魔は入らない
逃げる体を押さえ込んで無理やり唇を重ねた。


「・・・っく、ひっく・・・・ん・・さい・・・」
死んだように静かな部屋に泣き声がぽろぽろとこぼれる。
「ごめ・・・なさい!ごめんなさい忍者さん・・・」
泣いているのは楓自身だ。
ベッドに気だるげに横たわったまま、忍者が楓の頭を撫でる。
「・・・お前が悪いんじゃねーよ、気にすんなって」
「でも・・・」

覚醒状態が解けた瞬間、頭の中が真っ白になった。
体の下には意識を失い、着衣の乱れも露な忍者。
さらに自分の一物は忍者の中に挿入されたまま、放出したばかりの快感の名残が生々しい。
それまでのことも、夢の中のように非現実的な感覚ながら全て思い出せた。
忍者を無理やり脱がせたこと
抵抗されたのでかなり手荒に扱ったこと
うつぶせに押さえ込んで後ろから犯したこと
ヤりやすいから、そして何より表情を見るのが怖かったから・・・
その一切の中で忍者が、楓を傷つけるような激しい抵抗は決してしなかったこと
恐る恐る体を離すと、力の抜けた秘部からズルリ抜ける感覚に鳥肌が立った。
血の混じった白い液が後を引く。
「っ・・・・・」
意識の無い忍者がかすかに呻いた。
その掠れた声ですら楓の本能を煽り、ともすればまたブツが持ち上がってしまいそうだ。
そんな自分を激しく嫌悪しながら忍者の体の上から退く。
「忍者さん!忍者さんすみません!しっかりしてください・・・っ!」
「う・・・・・・」
「忍者さん!?すみません、僕なんて事を・・・!」
「かえで・・・・・・元に、戻ったのか・・・」
「っ、ごめんなさい!ごめんなさい!」
憔悴しきった顔のまま、忍者が力なく笑う。
その表情が優しすぎて涙が出た。

酷い様相の忍者の体を拭き清め、着替えさせて寝室へ運んで寝かせた。
楓が乱暴に脱がせた服は、お茶をこぼしてしまった楓自身のズボンと一緒に洗濯機につっこんだ。
今は汚い忍者の服を借りて着ている。
居間の陵辱の痕跡も綺麗に片付け、まだ起き上がることの出来ない忍者の横に戻ってきた楓は、
それからずっと泣きながら謝るばかり。
暴行を受けた当の忍者がそれをなだめているあべこべの状態が続いている。
それがまた情けなくて、楓は泣くのをやめられない。
あんなに酷いことをしたのに
忍者の優しさが痛かった。
「覚醒中にあった事なんてお前が気に病む必要ねーよ」
「違うんです、あれは僕なんです!全部僕のせいなんです!」
「お前意外と頑固だな・・・俺が良いっつってんのに」
「そうじゃないんです、覚醒中の僕が言ったとおりなんです!
 忍者さんに近づきたかったのも、キスしたかったのも・・・・・・触れたかったのも、
 全部僕自身の意思なんです!
 で、でもそんなの、分かったら、忍者さん気を悪くす、するかなって・・・
 嫌われたら、こ、こんな風に接してくれなく・・・なるかと思ったら、い、言えなくて・・・ヒック・・・」
「楓・・・」
「で、でもそのせいで、忍者さんに・・・!」
「・・・・・・・・・あーもー分かった!分かったから泣くな!」
乱暴に引き寄せられたと思ったら、忍者の胸の上で抱きしめられていた。
背後から回された手が無遠慮に頭を撫ぜる。
「今回の事は痛み分けだ!
 俺は一度覚醒状態のお前に警告を受けてるのに聞き流した。
 お前はお前で我慢できなくなって強硬手段に出ちまった。
 お互い悪いからダブルノックダウンで引き分け!これでいいだろ!」
「で、でも・・・」
「デモもクソもあるか!だいたいお前、俺が嫌がるんじゃないかって遠慮してたんだろ?
 俺は全然お前の気持ちに気がつかなくて、たぶん凄い無神経な事も言ったってのに。
 ちゃんと人の事考えられる良い奴だよお前は。
 覚醒さえしなきゃ、だけど」
「忍者さん・・・」
無自覚であの言動だったのか
素って怖い
「前も言ったけど、俺も覚醒状態じゃないお前となら一緒にいるのは嫌いじゃない。
 それは今でも変ってない、嘘じゃないぞ。
 楓さえ良ければ・・・・・・また遊びに来て欲しいんだけどな」
「・・・良いんですか?だって僕は・・・こんな・・・」
「一応言っとくけどほいほい覚醒するなよ。金髪になったらたたき出すぞ!」
「し、しませんしません!全力で気をつけます!」
「よし!」
抱きしめられていた腕が離れる。
少し名残惜しく感じながら、楓は体を起こした。
何度も行為を強制して相当な無理をさせたのだ。我がままは言えない。
「そうだ」
「?」
「許したっつっても一応俺が被害受けたのは変んねーから罰ゲームだ。
 ・・・・・・今日の晩飯の支度やってくんねぇ?」
「・・・・・・忍者さんもしかして食事係りですか?」
「最初は当番制だったんだけど気がついたら俺固定になってた」
楓は思わず吹き出した。
確かに忍者も相当な苦労人属性だ。
笑いを堪えきれない楓を見て、忍者が満足そうに言う。
「やっと笑ったな」
「え?」
「お前の笑った顔好きなんだよ。辛気臭い泣きっ面は見たくねぇ」
そう言う忍者の顔こそ、楓が一番好きな表情だった。
無自覚なのか
無自覚なのか?
本当に無自覚なのかこの人は!?
分かってやっていたらそれはそれで怖いが、今までの経緯からするとおそらく素だろう。
天然って怖い
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぼ、僕も、忍者さんの笑った顔、好き、です」
精一杯の告白は、おそらく忍者に正しく伝わってはいない。
それでも楓の胸のうちは温かい何かで溢れた。


結局その後、晩飯の支度途中に帰ってきたヴァナ組に見つかった楓は晩飯まで一緒に食べるはめになり、
普段自分を囲む問題児達とはまた違った意味で濃すぎるメンバーに大いにカルチャーショックを受けた様子だった。


2.FF11冒険者宅お泊り(2010/2/22 上のSS作者による追記です)

■注意
上記の続き
5スレ目>>489、>>550の内容などを使わせてもらっています


「ちょwww楓発見wwwなんでいるのwww守矢元気?www」
「この日本刀レアじゃない?貰っていい?」
「良い匂いがするにゃー、食べて良い?」
晩飯の用意の最中に帰ってきた汚い忍者の同居人達はすさまじく濃かった。
勝手に人の家の台所を使っていた部外者に対する予想外の絡み方に楓は慌てふためく。
「すいません、汚い忍者さんに用事があって来たんですけど
 忍者さん具合が悪くなって・・・僕がかわりに晩御飯を・・・」
「楓料理スキル高wwwwwwママーwwwww」
「お腹減ったにゃー、晩御飯早くお願いするにゃ」
「汚忍以外が作る普通の食事・・・・・・レアかな?」
「手伝おうかー?砂糖と醤油の有る場所どこか分かるー?」
「さむらいが食事とうばんだー!」
「男子だいどころに立たずじゃないのかー!」
「なまはんかな味付けじゃ許さないぞー!」
全員いっぺんに好き勝手なことを言うので軽く嵐の様である。
とりあえず楓が食事の用意をすることに異論は無いようであるが、
ほとんど初対面に近いのにこの順応っぷりはいかがなものか。
「こらこら皆、楓君の邪魔をするんじゃない」
ひときわ背の高い竜騎士が口やかましいメンツを追い散らす。
「ありがとうございます。急いで支度済ましますね」
「すまないな家事なんてやらせてしまって。汚い忍者は?」
「・・・寝てます。上の部屋で・・・」
「へぇ、賞味期限の切れたちくわでも食べたかな?」
「リューサン嫌な誤解しないでください!」
ガラリとドアが開いて当の汚忍が顔を出した。
すれちがいざまに足元のエース達にすごいガンを飛ばしている。
「忍者さん!大丈夫なんですか!?」
「料理もできないほどまいってるのかと思ったけど意外と元気じゃないか」
「1回倒れたくらいで寝込んでたら3R戦なんてできませんよ」
「何だ、留守番中に試合やってたのか。しかし勝った方に家事をやらせるのはどうかと思うぞ」
「いやいや、こいつの反則負けですよ。な、楓?」
「!は、はい!」
汚い忍者が楓の肩に腕を回して顔を寄せる。
至近距離で確かめるように聞かれて、楓は反射的にうなずいてしまった。
肌が触れている、重みが肩に掛かる。
竜騎士が何か言っているが、それよりも汚忍の近さが気になってしょうがない。
楓が汚忍に触れる時には手をつなぐだけであんなに緊張するのに。
汚忍は肩を組んだり楓の髪をくしゃくしゃにかきまわして平然としている。
まだダメージが残っているのか顔色は良くないが、
ついさっき意識を失うほど酷く扱われた相手に対する緊張など微塵も見えない。
「じゃ、悪いけど引き続き晩飯の用意頼む。俺はちょっと洗濯物干してくるから」
「わぁ!忍者さん寝ててください!洗濯物も僕がやりますから!」
「余計な気ぃ使うなって、もう全然平気なんだから」
「・・・やたら心配されているようだがどんな酷い負け方をしたんだ君は?」
「しゃーねぇな、じゃあ内藤の生やした草刈でも―」
またしても唐突に扉が開いて、今度は竜騎士に比肩する背丈の人物が入ってきた。
エルヴァーン特有の長身、白銀に輝く鎧、黒い長剣。
隙の無い立ち姿からはピリッとした緊張感が漂う。
いつかの大会で謙虚な天人と一緒に乱入してきた騎士と同じ外見のヴァナ・ディール人だ。
「・・・何いきなりガンつけてるわけ?」
「! すみませんおじゃましてます!」
「けっ、お前は帰ってこなくて良いんだよブロントぉ!」
さっそく忍者が絡む。
これが忍者が苦手だと言っていた天子似のナイトなのか。
先ほどまで楓に見せていた穏やかな表情とはうってかわって、眉間にしわを寄せて騎士とにらみ合っている。
うっかり刺激したらたちまちラウンドワン・ファイッ!な展開になりかねない雰囲気だ。
だが忍者は武器も防具も装備していない普段着のまま、しかも体調も万全とは言えない。
楓は慌ててにらみ合う2人の間に割って入った。
「や、やめてくださいケンカは!料理中なんでホコリ立てないでください!」
「誰がいつここでリアルファイトすると言ったサル!」
「お?上等だ表出ろやコラァ!」
「わー!やめましょうよ忍者さん!なんでこの人相手だとそんなケンカ腰なんですか!?」
「忍者はナイトに粘着するしか脳が無いアワレなひきょうもの黄金の鉄の塊であるナイトは相手にしにぃ
 けあrう!」
「!?」
騎士が片手を上げて何事か唱えた瞬間、ふわりと忍者が光につつまれた。
楓はびっくりして光を凝視する。
悪い感じはしない優しい光だったが、忍者はとたんに苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「てめぇ・・・なに勝手なことしてんだ!しかも呪文かみやがったし!」
「体調が悪いからと言ってあkの他人に家事をやらせる汚いなさすが忍者きたない
 HP満タンにしてやったから自分でやるべきそうすべき」
「ゴミ出しが嫌でプチ家出するナイト様に言われたくないですしおすしー!」
言われてみれば、忍者の顔色が格段に良くなっている。
元気になってさらに勢い良く騎士にケンカを売っているので逆効果な感もあるが。
「君達、楓君が困っているからそれくらいにしておきたまえ」
「すいません」
「すいmあせん;」
「それじゃあブロント君、食事前に軽く一戦やらないか?」
「試合後のすきっぱらに晩飯が合わさって至上の晩餐になるのは確定的に明らか」
「リューサンその馬鹿しばらくお願いします。
 ・・・よし、こっちは今のうちにさっさとメシ作っちまうか」
竜騎士がうまく騎士の注意を他所へ向ける。
忍者は忍者で竜騎士の仲裁で落ち着いたらしく、楓に先立ってさっさと台所に向かった。
ふと出て行こうとする2人組みに目をやると、ドアから半歩踏み出しかけて白い騎士が楓を見ていた。
騎士は意味ありげな一瞥を残したが、何も言わずに竜騎士の後について外へ出て行った。

楓は食事の用意が済んだらそのまま帰るつもりだったのだが、
もともと大人数だから1人増えても問題無いと晩飯に誘われ、
さらに10人以上が盛大に食べた後を汚忍1人が片付けようとしているのを見ていられなくて
皿洗いを手伝っているうちに、気づけばかなり遅い時間になっていた。
「もう遅いし今日泊まっていくか?」
しれっと忍者に言われてあやうく洗っている皿を落としかけた。
信じられない気持ちでまじまじと忍者を見返すが、特に気負った様子は見られない。
自分を襲った人間をその当日に家に泊めようだなんて神経が太いにもほどがある。
「な、な、なん、え、いえ、あの外泊も大丈夫です・・・けど、ですが・・・」
「男全員大部屋で雑魚寝だけど」
「それは別に平気なんですが・・・」
楓には汚い忍者の考えが全く読めない。
覚醒した楓に暴行された事など全く無かったかのように振舞って、
あまりに態度が自然なので本当にあの事を忘れてしまったかのようだ。
本当に気にしていないのか、それとも無理に平然とした態度を装っているのか。
さらに楓に向かって優しい声で話したかと思えば、
騎士相手には剣呑な表情と言葉遣いでケンカを売るのに余念が無い。
人によって異なる態度を取る忍者の、どれが本来の性格なのかもよく分からない。
「あの・・・嫌じゃないんですか?僕と一緒の部屋で寝るなんて」
「別に?言っただろ、覚醒さえしなきゃ楓は嫌いじゃないって。
 万一お前が暴走したらリューサンが止めてくれるから安心しろ」
「なになにwwww楓泊まってくの?wwwwテラ修学旅行wwwww」
「いつでも修学旅行状態だろうが!草生やすな内藤!」
「まwくwwらwwwなwwwwげwwwwwTP100%wwwwwww」
「クソァ!またホーリー仕込み枕で室内戦争状態にする気か!」
居間から飛んでくる緑豊かな内藤の言葉に背筋が薄ら寒くなる気がした。
FF宅の夜は物凄くサバイバルな予感がするのは気のせいだろうか
ヴァナ・ディール人の同居人たちが集う居間の喧騒は一秒も欠かさずカオスの様相を呈している。
(朝から夜までこの調子なのかなぁ・・・)
居間の楽しそうな地獄絵図をカウンター越しに呆然と見ていると、
横から忍者がひょいと手を伸ばして洗いかけの皿を奪って片付けてしまった。
「見ての通り、夜もこの調子で平和は保障できない。帰るなら今のうちだぞ?」
「はぁ・・・」
とは言われても強烈な面々にかこまれて苦労するのは慣れている。
このまま残っても帰っても大差は無いだろう。
それよりも、忍者が許してくれるのならもうすこし側にいて話をしたい。
賑やかな同居人達がいるせいで立ち入った話をする機会がどれだけあるか分からないが、
このまま帰ってしまっては心残りがあるまま分かれた鍋の日の二の舞だ。
「もう帰るのはなんかもったいないから、泊めてもらってもいいですか?
 大勢で雑魚寝なんてひさしぶりですし」
「物好きだな。よし、明日の朝後悔したら慰めてやろう!」
「えぇ、なんですかそれ!?」
「かえでー泊まってくのー?男部屋狭いからこっち入るー?」
「ミスラ乙女3人の聖域に割り込もうとは良い度胸だ、歓迎するぞ」
「いやいやいやいや女性と同室なんて寝れませんってば!」
「おkkwwwww俺が楓の代わりに(ゴスッ)痛いwwwwwwwwwww」
「廃赤猫さん、そいつまじめなんであんまりからかわないでやってください。あと内藤草は自分で刈れ!」
「無理wwwwwwサポシwwwwwww」


8畳の和室にぎっちり布団をしきつめる様子は、冗談抜きで修学旅行状態だった。
ちなみにミスラ3人の女性部屋は洋室にベッドらしい。
なぜか飛び入りお泊りの楓の分も布団一式がきちんとそろっていた。
「いいんですかこれ使っても?」
「うん、ヴぁーんさんどうせ今日も帰ってこないだろうし」
「ヴぁーんさん?」
「俺らと一緒にハウスシェアしてる、すげーかっこいい踊り子さん
 夜にどっかで仕事やってるみたいで朝帰りが多いんだ」
気のせいだろうか、『ヴぁーん』の名前を口にする瞬間忍者は少し照れたような表情を浮かべた。
楓に向ける笑顔よりもさらに優しい、幸せそうな表情。
形容しがたい感情が楓を襲った。
その人の話をするだけで忍者にこんな表情をさせる『ヴぁーん』とはどんな人なのか。
焦りと寂しさをないまぜにしたような複雑な感情の招待を、楓は説明できなかった。
とまどう楓を他所に忍者はテキパキと全員分の布団を敷いてゆく。
楓以外に誰も忍者を手伝おうとするそぶりをみせないが、そこはつっこんだら多分負けである。
(忍者さんがいなかったらこの家立ち行かないんじゃ・・・?)
「かえでーwwww枕投げしよwwwwwwww
 あw猥談の方が良い?wwwwwwwww」
「どっちもすんな!息の根止めるぞ内藤!」
「俺の眠りが妨げらrる奴は殺すぞサル」
「Mikanがもうおねむだ、騒ぐのは明日にしてくれ内藤」
「おkkwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「もう寝るー!」
「内藤のあほー!」
「ブロントさんの横はもらったー!」
騒音の塊のような一群が寝室に入って来た。
入れ替わりに汚い忍者が音も無く階段を下りてゆく。
忍者らしく気配を感じさせない身のこなしで、楓も注意しなければ見落としそうだ。
あわてて後を追うと、忍者はさっさと台所へ入っていくところだった。
「忍者さん、寝ないんですか?」
「朝飯の仕込みがあんの。結局俺が作るんだよなー毎回」
「手伝います」
「いいよ、そんな手の込んだもん作らないから。どっか座って待っててくれ」
楓は促されてソファに腰を降ろす。
階上からはドスンズドンと何が起こっているのかちょっと想像したくない騒音が響いてくる。
手持ち無沙汰のままテレビをつけ、流れていた無限旗争奪戦の映像を眺める。
しばらくは忍者が台所で作業をしている気配を背中で感じていたが、
じきに湯飲みを手に楓のところへ忍者がやってきた。
「よー、一息いれっか」
やかんから湯気の立つほうじ茶が注がれる。
あたたかい湯飲みを受け取って一口飲むと、ほうっと自然とため息が漏れた。
忍者もまた向かいのソファに腰をおろして湯飲みに口をつける。
「うるさいだろあいつら」
「ええ、最初はちょっとびっくりしました」
クセが強すぎる仲間を相手に怒鳴り声を上げつつ家事をこなす汚い忍者。
いつもの自分も周囲から見たらあんな風に見えているのだろうか。
毎日これではいつか胃に穴が開くのではないかと心配になるほど濃い会話の押収が続く環境に、
楓は同情と共感を禁じえない。
居間この瞬間静かに2人だけで会話できているのが奇跡のようだ。
この機を逃してしまえば泊まりを選んだ意味が無い。
「あの・・・・・・・・・忍者さん」
忍者が目で先を促した。
はやる動機を抑えて注意深く言葉を選ぶ。
「昼間のこと・・・・・・本当にすみませんでした・・・
 僕が青龍の力をコントロールできないばっかりに・・・」
「待った!またその話か、気にすんなって言っただろ?」
「違います、僕の事じゃなくて、忍者さん自身のことです!
 あんな事されて――全く気にしてないわけじゃないでしょう!?
 辛いなら辛いって、我慢せずに言ってください
 無理して平気な顔してるんじゃないかって、怖くて・・・これ以上傷つけるのは嫌なんです・・・」
「・・・」
「僕には忍者さんがどう感じてるか分からない、
 もし僕が側にいるのが苦痛だったら、遠慮なんてしないで追い出してください、お願いします・・・」
青灰色の双眸をまっすぐに見て懇願する。
いつも目線で隠しているのがもったいないくらい綺麗な瞳だった。
忍者はしばし沈黙した。
視線をさまよわせて、躊躇いがちに口を開く。
「俺も、その・・・実はお前のことどう思っていいか分かんないんだよな。
 今のお前と覚醒したお前、同じ人間って言われてもピンと来ないし。
 お前の気持ちに応えてやれるかって言われたら・・・ちょっと違う気がするし・・・」
迷い迷い、一言づつ言葉が綴られる。
楓を傷つけないよう、薄氷を踏むように。
最初からそうだった。忍者は楓に対してはなぜか優しい
だからつい欲が出てしまうのだ。
「ただ・・・
 ・・・・・・・・多分俺は・・・楓を嫌いになりたくないんだ」
「え・・・?」
「なんか視界に入るたびに安心するって言うか・・・時間さえあればこうして茶飲んで雑談したいと言うか・・・
 だから一回あんな事されたくらいでお前が遠慮して遊びに来てくれなくなったら残念だし、
 いっそのこと何も無かったことにすれば・・・って
 ごめん何言ってるんだ俺」
忍者が頭をかかえる。
表情を崩した忍者に楓もまた呆気にとられた。
「いえ・・・あの・・・
 嬉しい、です・・・すいません・・・」
「あ、ああ・・・・・そっか」
部屋に沈黙が下りる。
重苦しくはない、だたなんだか気恥ずかしくて顔が上げられない。
それでも不思議と心はおだやかだった。
飄々と物事を受け流すだけのように見えた忍者が打ち明けてくれた内面。
忍者は忍者なりに楓と同じように迷った結果の態度だった。
嫌われていない
むしろ好意で楓の失礼を水に流してくれようとした。
その事実が純粋に嬉しかった。
忍者は照れ隠しなのか今度は逆に完全な無表情で湯飲みに茶を継ぎ足している。
2人がお互いにだまりこくっている最中、ふいに居間の扉が開いた。
「おもえらいつまで起きてるわけ?無駄に寝ないが睡眠不足が顔に出て不毛なリアル生活が後の祭りだz」
「お前が寝ろやこのクソナイトー!」
突然入ってきた騎士に向かって間髪入れずに忍者が食って掛かった。
先ほどの穏やかな空気はどこへやら完全に戦闘態勢である。
「ああクソ、いい気分だったのになんでこいつが出て来るんだよ!
 おい楓湯飲みよこせ!片付ける!」
「あ、は、はいすみません」
「さき上がっとけ、もう寝るぞ」
忍者が乱暴に水洗いをする音を聞きながら、騎士の後について居間を後にする。
階段を上りかけたところで、騎士が振り向いた。
数十センチ上から真紅の瞳が楓を見下ろす。
「かえdを忍者が気に入ってるが」
「え?」
「本来ならフレに手が出した者は九つ裂きがお陀仏なんだが謙虚にもにn者が許すなら俺も引きさぐる
 おもえ次から気をつけろよ?」
「ブロントさん・・・」
騎士は楓と忍者の間に何があったのか、ある程度感づいているのだろうか。
そう言えば、何も説明しなくとも忍者に回復魔法を掛けていた。
「すみません」
いくら忍者が許してくれたとは言え、覚醒して酷いことをしたのは事実だ。
騎士もそれを見抜いていたのに皆の前では何も言わなかった。
ヴァナ・ディールの冒険者達はみな相当無軌道に見えるのにこんなにも優しい。
楓はうなだれた。
エルヴァーン特有の大きな手がうつむく楓の頭をなでる。
「汚い忍者はにねくれものだが楓の前だとすなおになる。
 大人の心得でたまにはかまってやれ(お願い)」
「は、はい!」
騎士の表情は穏やかだった。
汚い忍者と相対したときはずっとしかめっつらだったのに、本人がいないとこうも優しく笑えるのか。
話を聞く限りでは忍者と騎士は相当仲が悪いとしか思えない。
だが騎士は他の仲間たちより忍者をよく見て理解しているようだ。
忍者は忍者で、他の人の前では無闇に本心を晒さず無難に対応していても
騎士の前だけでは心のおもむくまま悪態をつき、表情を豊かに崩す。
ある意味では、忍者も騎士にだけは心を開いているのかもしれない。
騎士に促されて楓は上階の寝室へ向かった。



「zzzzzwwwwwwzzzzzzwwwwww」
「おィイ・・・おィイ・・・・・」
「うーん、うーん、Mikanたん〜・・・」
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・眠れない)
男部屋は皆が寝静まった後もそれぞれの個性的な寝息で騒々しかった。
内藤の布団の周囲がモリモリと草に埋もれつつあるのだが、朝になったらやはり忍者が始末に追われるのだろうか。
布団の中でもそりと寝返りをうつ。
隣に横たわる忍者が目に入った。
体を小さく丸め、防具をつけていない素顔を腕で隠すように眠っている。
こっそりと腕を伸ばして、その手に触れてみた。
かすかなぬくもりと、ゆっくりとした鼓動を手のひらに感じる。
「・・・好きです、忍者さん」
小さくつぶやいただけで、あとは静かな寝顔を見つめ続けた。


気づけば窓の外がかすかに明るくなっていた。
あいかわらず面白いいびきであふれている寝室をこっそりと抜け出し、階下へ降りる。
と、丁度ガチャリと鍵が回る音がして長身痩躯の人影が朝日をバックに戸口に立つのが見えた。
神々しく輪郭を染め上げる陽光をバックにスラリと立つその人は息を飲むほどに完璧だった。
「う、美しい・・・・・・ハッ!?」
「暁を染める光が俺を祝福する!」
「お、おはようございます・・・!・・・?」
騎士以上に何を言っているかわからないが、ヴァナ・ディール人のようなのでとりあえず頭をさげる。
「ヴぁーんさん、お帰りなさい!」
背後から快活な声が響いた。
丁度汚い忍者が寝巻きのまま階段を下りてきたところだ。
子竜柄のパジャマが若干体格に合ってないように見えるのは気のせいだろうか。
楓が挨拶するより早く、入ってきた人物に酷く嬉しそうな顔で駆け寄る。
「迷い子が俺のテリトリーに紛れ込んだか?」
「こいつ俺の友達で楓って言うんです。
 楓、この人がヴぁーんさん。ステキな人だろ!?」
「うん、かっこいい・・・!」
忍者に手荷物を手渡し、階段を上っていく踊り子を2人で見送る。
後姿すら完璧でうっかりするとずっと見つめてしまいそうだ。
(あの人が、忍者さんが嬉しそうな顔で語っていた『ヴぁーんさん』か)
実際に目の当たりにして、忍者が憧れる気持ちがよく分かった。
あんなに強烈な人が身近にいれば心惹かれないわけがない。
楓だって朝日を浴びて輝く踊り子を見て我を忘れたのだ。
「よし、朝飯だ朝飯!支度手伝え楓!」
忍者の声がばかに上機嫌なのはさきほどの踊り子のせいか。
うきうきと上機嫌で朝飯の支度に勤しむ忍者を見て、楓はおずおずと尋ねた。
「忍者さん」
「ん?」
「変なこと聞いてすいません、ヴぁーんさんのこと好きなんですか?」
「んー、好きっつーか憧れだよな。やっぱ男ならああなりたいって思うだろ!」
少し頬をそめてはにかみながら語る忍者。
嬉しそうな様子に少し悔しくなるが、実際に踊り子がかっこいいのはよく分かるので何も言えない。
黙ってしまった楓をよそに、忍者はいそいそと味噌汁を作っている。
「わりーけど上行ってヴぁーんさん以外の連中起こしてきてくんね?」
「・・・」
「楓?」
皆を起こしてきたら一瞬であのカオスに逆戻りである。
ただでさえ出身ストーリーが異なるためお互い会う機会はそう多くないのだ、
2人きりで人目も無い、こんなチャンスはそうそう来ない。
「せっ・・・」
別れる前に一押し、覚醒したもう1人の自分ではなく”楓自身”を印象付けたい。
忍者にその気が全く無くても、楓は確かに忍者を好きなのだと。
「接吻・・・させてくれたら起こして来ます・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・って、言ったら、怒ります・・・か・・・?」
言う端から後悔で語尾が段々小さくなる。
穴を掘ってでも入りたい気分で最後まで言い切り、恐る恐る忍者の顔色を伺った。
さすがに調子に乗りすぎただろうか
怒るだろうか、笑って流してくれるだろうか
伺い見た忍者の表情はどっちでもなく、少し驚いただけのようだった。
「楓・・・今、覚醒してるのか?」
「い、いえ!素です、そのまんまです!」
「だよな。黒髪のままだし。
 覚醒して今のセリフ言ったんだったら即天元突破もんだけど」
ずいと忍者が顔を寄せてくる。
おそらく目の色も変っていないはずだ。青龍の力は発現していない。
至近距離で見つめられていたたまれなくなる。
楓は土下座せんばかりの勢いで頭を下げた。
「すみません、調子のりすぎました!言ってみただけなんですごめんなさい!」
「つーか男同士でキスって嫌じゃねーの?」
ぐさっと来た。
確かに同性同士の壁は高い。
楓自身も相手が忍者でなければちょっとそれはどうかと思うだろう。
「すいません忘れてください!」
「いや、覚醒してないお前自身がやりたいってんなら俺拒否るつもりは無いんだけど」
「えっ!?」
ひょいと上を向かされたと思ったら、頬にかすかな感触を感じた。
「なんでだろうな、やっぱり楓相手なら嫌な感じしねー」
「!!!」
思わぬ事態に完全にフリーズする楓。
忍者はいたずらっ子のように笑うと、こつんと額同士をぶつけた。
「さ、お駄賃は先払いでやったぜ。上で寝こけてる連中を引っ張って来い!」

天然なのか高度な誘いなのか分からない爆弾を連発する年上の想い人に純情剣士が勝てる日は遠そうだ


3.風邪と接吻(2010/3/5 上のSS作者による追記です)

■注意
上記の続き 風邪のドサクサにまぎれて未覚醒状態でもワンチャンアレバ勝テルー!


TeLLLLL,TeLLLLLLL・・・
ガチャ
『こんにちは、楓です。汚い忍者さんいますか』
『ごめんにゃ、汚忍は今日寝てるにゃー』
『めずらしいですね、お昼寝ですか?じゃあ後でまた掛け直します』
『風邪にゃんだにゃー、もう四日も寝込んでるからしばらく電話に出るのは無理にゃ』
『え!?』

数時間後、楓はヴァナディールの冒険者達が同居する家の前に立っていた。


「いらっしゃいにゃー」
「おじゃまします。あの、忍者さんは?」
「寝室だにゃ」
出迎えたのはミスラの忍者だった。
この家の者は皆昼間出かけていることが常らしいが、今日は病人がいるから家を空けられないようだ。
「最初はリューサンと私が罹ったんだけど看病してた汚忍にもうつっちゃったみたいにゃ」
ミスラの耳がしょんぼりと下を向いている。
MUGEN界の風邪はヴァナ・ディールの回復魔法では治らなかったらしい。
高熱を出して倒れた病人を汚忍は甲斐甲斐しく看病する傍らいつもどおり家事をこなした。
やっと二人が起き上がれるようになったら、今度は突然忍者自身が倒れたのだという。
家事と看病をほぼ一手に引き受けていた忍者が寝込んでしまって相当困っているようだ。
「赤猫ちゃんがご飯作ってくれるけど朝晩全部甘辛い料理だにゃー。
 内藤は掃除する端から草生やすしゴミの分別は誰も分からないし
 ・・・汚忍、風邪引いても黙って倒れるまでこんな大変な家事全部やってくれてたにゃ」
愚痴る猫忍のしっぽもしゅんと垂れ下がっている。
見かねて楓は手に持っていた紙袋を差し出した。
「これお土産です。食べませんか?」
「にゃ、ロールケーキだにゃ!全部食べていい?」
「全・・・太りますよ!?」
返事を待たずに猫忍は居間へ駆け込んで行ってしまった。
ケーキを机に置き、いそいそとお茶の用意をし始める。
楓は止めても無駄と見て、もう一つ持っていた袋からりんごを取り出した。
「猫忍さん、台所借りますよ」
「おっけーにゃー!もぐもぐもぐ」
「早っ!」
ミスラのしっぽが嬉しそうに左右に揺れている。
良かった、元気が出たみたいだ
手際よくりんごを剥き、食べやすいように小さく切り分けて二皿に分けて盛る。
片方にフォークを添えてミスラの前に置くと、また嬉しそうに楓を見上げて礼を言った。
「ちょっと忍者さんの様子を見てきます。二階へ上がっていいですか?」
「うん。汚忍寝てるけどきっと喜ぶにゃ」

和室の一番奥の一角にだけ布団が敷かれていた。
音を立てないようにそっと近づく。
気配に聡い忍者は普段ならすぐに気がつくはずだが、今はかすかな寝息を同じリズムで立てるだけだった。
枕元に膝をついて忍者の寝顔を見下ろす。
さほど苦しそうでもなく静かに眠っているが、熱はしっかり高いらしく頬が赤い。
恐る恐る手を出して額に触れてみた。
(熱い・・・)
肌が少し汗ばんでいる。
そのまま頬に手を動かし、そっとなでる。
普段は常に乱波半首で隠されている柔らかい肌。
こんな風に触れてみたいと思い始めたのはいつからだろうか、もしかしたら初めて会った日からずっとなのかもしれない。
目線と忍者装備で素顔と共に本心まで隠しているかのような忍者に少しでも近づけたような錯覚。
病で寝込んでいる隙になんて卑怯もいいところだが、それでも意中の人に触れることができたのが嬉しい。
しばしそのまま少し高い体温を堪能していると、忍者がかすかに動いた。
あわてて楓は手をひっこめる。
すこしだけまぶたが持ち上がり、うつろな瞳が楓を見上げた。
「すみません、起こしてしまいましたか?楓です」
「楓?なんで・・・・」
「風邪だって聞いてお見舞いに来たんです」
心臓がバクバク鳴っている。
顔をなでていたのを気づかれただろうか。
熱に浮かされて忘れてくれれば良いのだが。
忍者の視線が楓を通り過ぎ、手元の方へ向けられた。
つられて同じ方向を見てみると、楓が持ってきた剥き身のりんごに行き当たる。
「良い匂いだな・・・」
「忍者さんりんご食べたいんですか?と言うか食べられます?」
忍者が目を閉じて小さく頷いた。素直な反応に少し嬉しくなる。
忍者はなにかと楓を年下扱いして甘やかし、やれる仕事は楓の分までさっさと済ましてしまう。
こんな風に全部楓の言いなりになるのは初めてだ。
ぐったりした上体を支え起こし、楓にもたれさせて片手で抱える。
小さく切ったりんごのかけらをフォークで刺して持ち上げかけ・・・やめた。
いくら食器とは言え、今の弱りきった忍者にとがったフォークの先を向ける事がなんとなく躊躇われる。
しばし逡巡し、素手でりんごを一つつまんで忍者の口元へ持っていった。
忍者は楓に体重を預けて目を瞑っていたが、りんごの匂いに気がついたのかうっすらと目をあけ、りんごを口に含んだ。
その一瞬、楓の指が忍者の唇をかすめた。
「!」
ゆっくりとりんごを咀嚼する音が聞こえる。
音にあわせてかすかに上下する、あの唇に確かに触れたのだ。
忍者の口元から目が離せなかった。
こくんと嚥下する動作につられて楓もつい息を呑む。
そのままじっと見つめていると、忍者がみじろぎした。
「・・・」
「は、はい何でしょう?」
「・・・もう無い?」
慌ててもう一つりんごを取って先ほど同様口の近くへ持っていった。
忍者が緩慢な動作でりんごを口にくわえる。
薄黄色の果物と一緒に、楓の指も。
かすかに歯の感触と熱い吐息
柔らかく湿った咥内を指先に感じたと思ったら、温もりがすっと離れた。
「―――――すいませんっ!」
これ以上ないくらいすばやく手をひっこめる。
一瞬だが確かに感じた肌よりもさらに高い体内の熱と湿り気。
思い出すと頭が沸騰しそうだ
当の忍者は楓の指に触れた自覚もないのか、まだ夢うつつのような表情のままりんごを味わっている。
(あれ、と言うかこの状況って・・・・・・)
自分に完全に体重を預けて腕の中に納まっているのは片思いをしている相手
熱で上気した頬に熱い吐息、時々開かれる瞳は潤み
意識が朦朧としているのか楓が手ずから与える果物を素直に食べている
まるで雛鳥に餌付けでもしているように
(すごく・・・・・・・・・恥ずかしいですorz)
いや、状況的にはものすごくオイシイのには違いないのだが楓の理性的にそれは許せない。
さりとてさっさと忍者を放り出すこともできない。
腹が減っていたのか単にりんごが気に入ったのか、楓の葛藤などおかまいなく次を欲しがるのだ。
意図せずして大変嬉しい体勢になってしまった罪悪感とドキドキで悶々と悶えつつ
果物ひとかけすら飲み込むのにやたら時間がかかる忍者のテンポにあわせて休み休みりんごを運んでやる。
りんご約半個分を食べきるのにどれだけ時間がかかっただろうか。
良識と煩悩のあいだで激しい応酬を続けていた楓の脳内は一周して変な悟りの境地に達していた。
「・・・」
「すいません、もう無いんです。次のりんご剥いて来ましょうか?」
「・・・ん、いい」
忍者が目を瞑ったままかすかに首を横に振る。
ともすればまた寝入ってしまいそうにたよりなげな声色だった。
わずかに開かれた唇に指をそわせる。
覚醒した勢いで無理やり唇を重ねたことはあるが通常状態で触れあったことはない。
忍者は楓のことを可愛い年下の友人くらいにしか思っていないのだ、そんな事できるわけがない。
・・・普通の状況ならば。
頬に手をそえて上を向かせる。
忍者はもう意識が無いのか目を閉じ、されるがままになっている。
心臓がこれ以上無いくらいにバクバク鳴ってうるさいくらいだが、不思議と動揺は無かった。
軽く、触れるだけ
かすかに透くようなりんごの香りがした。
完全に力を抜いて自分にもたれかかる身体を一度両手で抱きしめてからそうっと布団に横たえた。
ずれてしまった布団を掛け直し、顔にかかった前髪をかきわける。
と、かすかに口が動いた。
「・・・・・・ったく」
「忍者さん?寝てなかったんですか」
「んなことして・・・風邪、うつるぞ」
かすれた声であきれたように言う。
楓は動じず忍者の顔を覗き込んだ。
忍者が目を開けないのを良いことに、ごくごく近い距離まで顔を近づける。
「忍者さんの風邪なら良いです。うつしてください」
もう一回、同じ箇所を触れ合わせた。


空になった皿を片手に階段を一歩一歩下りる。
居間では相変わらずミスラの忍者がりんごを食べていた。
ロールケーキは結局全部1人で食べてしまったようだ。
あれだけ食欲があっても体型は常にスレンダーである。
ヴァナ・ディールの冒険者の性質はよく分からない。
「あ、かえでー!汚忍は大人しく寝てた?」
「一回起きたけどまた寝ちゃいましたね」
「にゃははー、さてはかえでもりんご自分で食べたくちだにゃー?」
それをやるのは猫忍の方だろう
台所へ直行して流しで皿を洗う。
家事をやる忍者が倒れたせいか、先日来たときよりも散らかっているようだ。
「ちゃんと食べてくれましたよ忍者さん。ちょっと時間かかったけど」
「えっ!?ほんと?」
ミスラの耳と尻尾がピンと立った。
洗い物をする楓を見つめる目がキラキラときらめいている。
「良かったー!汚忍倒れてからずっと何も食べないし薬も飲んでくれないし、
 たまに無理やり流し込んだスポーツドリンクなんとか飲み込むくらいで
 そろそろやばいんじゃないかってすごい心配だったんだにゃー!」
「え、って倒れてから確か四日って・・・しかも無理やり!?
 なんですかそれちゃんと病人安静にさせてますか!?」
「本人が一番自重しないにゃ、ブロントさんが部屋に入るとHPやばいのに必ず挑発するにゃー;
 意識のあるときにケアルかけようとしたらなぜかその場回避で避けるし・・・」
「だあぁっ!なんでいつもそうなんだあの人は!」
何をおいても天人似の騎士にケンカを売るのに全精力を注ぎ込む、あの執着は未だに理解できない。
病気でヘバっているときまでそうなのだからもはや半ばライフワークと化している感がある。
(ある意味すごく良いコンビだよな・・・)
猫忍が使っていた皿も受け取って、流しに放置されていた他の食器もろともさっと濯いで食洗機につっこむ。
迷いの無い手つきをカウンター越しにうきうきと猫忍が見つめて来た。
「家事たまってるみたいだね。忍者さん心配だし、片付けがてら今日は夜までいていいですか?」
「ありがとう!かえでお母さんみたいだにゃー!」
「嬉しくない・・・」
「でも気をつけるにゃ、汚忍も私の看病して同じ風邪ひいちゃったにゃ」
「そうでしたね、帰ったらうがい手洗いちゃんとします」
「にゃん♪」
上機嫌のミスラに掃除を手伝ってもらいながら、思い出すのは先ほどのわずかな逢瀬。
『んなことして・・・風邪、うつるぞ』
そうだ、間違いなく”風邪がうつるような事”をしたのだ。
あの感触の名残を確かめるように、自らの唇にそっと触れてみた。


「――――で、目出度く発症して今度は忍者さんに看病してもらうのがお約束と思っていたら
 普通に何も無くてがっかりというまさかの定石破りが現状ですか?
 せっかく根性と下心出したのにフラグボッキリざまぁみそづけって感じですねぇ」
「うわああああああああどこまで知ってるんだお前!」
「ふむ、軽〜くジャブ程度にカマをかけただけですがやはり下心アリだったわけですね。
 ちょろいも・・・いえいえ、まったくもって素晴らしい」
「くっ・・・これしきの誘導で・・・!」
数日後の楓の自宅。
問題ごとばかり持ち込む天狗が窓枠に腰掛けてニヤニヤと笑っている。
予想外の伏兵に青ざめる楓を前に、天狗はさらに追撃とばかりにポケットから写真を取り出す。
薄暗い廊下で、金髪の自分が黒装束の忍者を捕らえて今にも口付けようとしている。
初めて忍者と会った鍋を食べる宴会の夜の、思い出すのも恥ずかしい一場面だ。
「見、見っ、見てたって言うかいつのまに写真まで・・・!?」
「いやー残念でしたねぇ、邪魔さえ無ければ空前絶後のシャッターチャンスが到来したはずなのですが
 しかし一世一代のラブコールはしっかりこの耳に捕らえましたよ、ええ!
 テープレコーダーを準備していなかったのが非常に悔やまれますね、この文文。文一生の不覚!」
「撮るな!忘れてくれそんな写真今すぐ破棄しろぉーーー!」
「いやはや奥手一筋と思われた貴方がまさかよそのストーリーの歳上の男性に一目ぼれをするなどとは
 この幻想郷最速の早耳天狗にも見抜けませなんだ。恋とはまこと分からぬ物でありますことよ!
 宴会で会ったっきりの人のお宅に何度も遊びに行った上に先日は当の忍者さんが風邪でダウンしていたとなると
 これはギャルゲも真っ青なフラグktkrと期待で胸いっぱい腹いっぱいこれぞメシウマ、NDK NDK?」
「もう勘弁して・・・orz」


3.5 風邪と接吻 つけたし(2010/3/21 上のSS作者による追記です)

■注意
上記のSSの場面追加
ヴぁーんさんは仕事であまり家にいない印象だったので登場しなかったのですが、
6スレ目の>>329が大変萌えたので急遽つけたし
楓が来る2日前くらいです

風邪と接吻 つけたし場面


結論 ヴぁーんさんはかっこいい


4.楓宅にご招待(後で追記)(2010/4/21 上のSS作者による追記です)

■注意
5スレ目>>493のレス内容を元にSS化させていただきました

「殺風景ですみません、あがってください」
「へー、結構綺麗にしてるじゃん」
楓の下宿先である中西荘。
そわそわと落ち着かない楓と比べ、客である汚い忍者の方が余程平然とした様子で玄関をくぐった。

楓がヴァナ・ディールの冒険者達の借家に泊まって数週間。
今度はうちに遊びに来ませんか
たったそれだけを言うのに変じゃないか図々しくないかと散々悩んだ挙句
勇気を振り絞って忍者に声をかけたところ
「楓が1人暮らししてる家?面白そうじゃん、行っていいの?」
「な、何も面白いものはないですよ!」
拍子抜けするほどあっさりとOKされた。
楓としては好きな人を自宅に招待するという一大イベントに望む覚悟だったのだが
忍者はやはりその手の意識を全く持っていないようだ。
覚醒状態で無理やり押し倒したのを無かったことにしてくれたのはありがたいのだが、
どうも楓が忍者を好きだという事実も一緒くたに忘れられている気がしてならない。
変に意識されて距離を置かれるよりはマシだが、ここまで見事にスルーだと少し悲しい。
結局毎回マイペースな忍者の言動に楓一人が右往左往するだけなのだ。

一人暮らしの部屋にありがちな手狭な居間に客人を通し、お茶の用意にとりかかる。
急須に入れるのはいつも自分だけで飲む物よりも数段良い茶葉。
今日のために買っておいたのだと忍者に知られたらまた笑われるので内緒だ。
居間ではちゃぶ台の前に陣取った忍者が物珍しそうに部屋の中を見回していた。
茶の用意一式を載せた盆を机に置くと、その横に「手みやげだ」と包みが乗せられる。
表には評判の良い和菓子の店のマーク
「あ、これ」
「知ってるか?」
「おいしいですよねこのお菓子」
「良かった。楓が喜ぶかなと思って買ってきたんだ」
笑顔でさりげなく言われ、意味を解した瞬間どきりとする。
汚い汚いといわれる通り名に反して基本的に人当たりの良い人なので、習慣で買ってきてくれたのか楓のために選んでくれたのかは分からない。
しかし嬉しいことには変わりない。
茶を注ぐ間にも頬が自然と緩む。
「なーにニヤついてんだ?」
「すいません、忍者さんがうちに来てくれたのがなんか嬉しくて」
「締まらねぇ顔してんな正直者め」
緩みっぱなしの頬をつねられた。
手加減してくれているらしいが少し痛い。夢ではないようだ。
お互いに話すのは相変わらず他愛の無い話題ばかり、
最近出た大会のこと、お互いの近況、苦労話。
学校の友人たちに知れたらじじくさいと笑われそうだが、
2人で茶を片手に話に花を咲かせるだけで不思議に安心するのだ。

ドンドンドン
居心地の良い空気を破って、突如騒音が部屋に飛び込んできた。
誰かが勢いよくドアを叩いているようだ。
嫌な予感がする
「なんだ?インターホン使えばいいのに」
「僕が出ます、忍者さんは座っててください」
ズドンミシッドゴンシャイセッ
玄関にたどりつく少しの合間にノックなんて可愛いレベルを通り越して明らかにドアが立ててはいけない音が混ざり始めた。
「ヒャア!もう我慢できない!破滅のブラスト・・・」
「やめろ!10秒くらい待て!」
「開けてくれるな!焼けないではないか!」
「中に入るよりドアふっとばす方を主目的にするな!」
外にいたのは予想通り、生肉を食っても腹を壊さない見た目だけは可愛い女子高生の友人だった。
珍しく穏やかな空気を吹き飛ばし、一気に日常に引き戻されてどっと疲れた気分になる。
「今日は何も約束してなかっただろ・・・」
「天狗が面白そうだから楓の家に押しかけようと言い出してな。晩飯をいただきに来た!」
「天狗が・・・?」
嫌な予感倍増。
とりあえずどらごんを迎え入れて施錠する。
居間に戻ると黒いオーラが見えそうなほど険悪な空気が流れていた。
先ほどまでの優しい表情が嘘のように不機嫌そうに睨む忍者、その視線の先にはおなじみの鴉天狗。
楓はがっくりと肩を落とした。
「・・・文さん、どいう事ですかこれは・・・」
「他人行儀ですねぇ、アポ無しで私がお邪魔するのも初めてのことではないでしょう?」
「いきなり窓から入ろうとする不審者を迎え入れるか窓ガラスが木っ端微塵になるかの2択せまる押しかけの前科があるのかよお前は!」
「ロスでは日常茶飯事ですよ」
「どこの世界のロスを捏造してんだ腹黒天狗!」
「窓は割らないでくださいって何度も言ってるだろ!」
「いいから晩飯にしようぜ!何まだ早い?細けぇことは気にすんなだ!」
この空気には覚えがある。
あの非常に世紀末なメンバーで行われた鍋を食べる宴会だ。
非常識な同席者がいると、楓と2人きりの時と違って忍者の態度は堅くなる。
いや、無難にやりすごすための仮面をつけると言うべきか。
とくに天狗とは初対面で何かあったらしく、あまり仲は良好とは言いがたい。
どらごんはどらごんで悪気は無いが行動がむちゃくちゃなので、忍者が世話を焼くはめになる場面が多い。
(ああ、せっかく忍者さんがうちに来てくれたのに結局こうなるのか・・・)
常に腹をすかせているどらごんにせかされて楓は台所に向かった。
家に誘ったのは失敗だったか、乱入者を避けるためにどこかへ遊びに行こうと誘うべきだったか
残念な気分でいっぱいになりながらさて何を作れるかと冷蔵庫を開けてしまう習性が恨めしい。
と、後ろからぽんと肩を叩かれた。
「手伝うぜ」
「忍者さん・・・!」
座っていてください、と言おうとしたが肉食系女子2名が居間でウキウキと待っている様子を目にした瞬間
出てきた言葉は「ありがとうございます」だった。


1人暮らしの台所は男子2人が立つには少し狭いが、やはり手が増えただけ仕事は早い。
夕飯と言うには少し早い食事の用意が着々と進んでいく。
それが自炊暦の長い楓とヴァナ宅10人オーバーの炊事係を担う忍者の2人となればなおのこと。
忍者は初めて来たとは思えない手際の良さで手伝ってくれる。
間合いを取るのも上手いのか、狭い台所で邪魔になるどころか手伝って欲しい場面で声に出して頼む前に動いてくれる。
ヴァナ・ディールの冒険者達は6人一組で連携して行う集団戦闘が基本なのだとか。
そりゃ人との間合いを取るのが上手くもなるというものだ。
思い返せば鍋の宴会場でも楓と汚い忍者、それにフェルナンデスやヨハンも手伝って用意をしている間は楽しかった。
「いやはや息ぴったりですねぇ、ついつい妬いてしまうのは筋違いでありましょうか」
「天狗っ・・・!」
いつのまにか天狗が居間の入り口に立って食事の用意に励む主夫2名を観察していた。
「はいはいこれやるからあっち行って大人しく待ってな」
「別につまみ食いをしに来たわけではありませんよ?もちろんこれは有難く頂いておきますが」
「2人で充分狭いんだからひやかしもやめてください」
「何つまみ食い!?なぜ己を呼ばない任せておけ全部喰ってやる!」
「来るな!」
「・・・忍者さんしばらくどらごんの相手お願いできますか?」
「分かった。おいこらこっち来いエサやるから」
忍者におかずの一品を託して頼むと、つられてどらごんがついていった。
天狗に比べれば素直なものだ。
そして残ったのは面倒くさい方。
「・・・何か用ですか?」
「いやなにお二人の仲がどの程度進んでいるかと個人的に気になったものでしてね。
 なかなか良好の様子で何よりです」
じろりと天狗を目で威嚇するが、その程度はどこ吹く風と流される。
面倒な相手にかぎつけられたものだ。
いやむしろ隠し事に鼻が効くからこそ面倒な存在なのだが。
天狗は楓の思い人を知っている。証拠写真まで抑えられている。
今のところたまに冷やかしてくるだけで言いふらすでもなく脅すでもなく様子見という感じだったが、
当の忍者がいる今日乱入してきたのははたしてどういう心積もりなのか。
「邪魔する気じゃないなら放っておいてください」
「そうは言われましても私めの記者としてのゴシップ魂が放置は許さないのですよねぇ。
 あ、安心してください誰にも他言はしていませんから」
と言う事はどらごんは何も知らないまま食事目当てに付いて来ただけか。
バレていないのは不幸中の幸いだが、それはそれで面倒くさい。
楓は盛大にため息をついた。
「おや、もしや我々お邪魔でありましたか?」
「分かっているなら来ないでください・・・」
「ナイス本音いただきました!!2人っきりになりたいのですね!」
「・・・もうそれで良いです、ご飯食べたらどらごんつれて帰ってください」
「残った恋人同士でお楽しみの夜ですね、分かります」
天狗の相手は疲れるの一言に尽きる。
相手をするだけ余計に面倒くさい実態になると判断し、楓は会話を打ち切って料理に専念した。
天狗が何度か名前を呼んでくるのが聞こえるが、無視無視無視。
「楓さん、流石に怒りました?もうしわけありません」
無視無視無視
天狗の声を雑音と聞き流して包丁を振るう。
無心に失敗してダンダンと叩き付け気味の切り方になっているが手は止めない。
「では最後に一つ。忍者さんとはどこまで行きました?」
サクッ
「痛ってーーーー!」
天狗のあまりの不意打ちに包丁を持つ手元が狂った。
小松菜の茎で滑った刃がさっくりと楓自身の左手に刺さる。
「楓さん!?」
「おい大丈夫か楓!」
駆け寄ってきた忍者が驚く天狗を押しのけて楓の手を取る。
ぐいと引っ張られて一瞬痛みを忘れた。
「す、すいまんせん大丈夫です!ちょっと手が滑って・・・!」
「大丈夫じゃねぇだろ結構深くいってるじゃねぇか!どうせお前が余計なことして気ぃ散らしたんだろ天狗」
「いえいえ小生は軽〜く近況を聞いていただけで・・・」
「お前のインタビューはすでに攻撃判定ついてるだろ料理中の人間に近づくな!」
手を握られたまま忍者と天狗の口喧嘩が始まってしまい、楓はうろたえるしかない。
指の背に深く避けた傷口が差すように痛むが、それよりも手首付近を掴む忍者の手のぬくもりが痛みそっちのけで気になる。
裂傷の縁に溜まった血が零れて赤い筋を作るのが見えた。
このまま垂れたら忍者の手を汚してしまう
半ばパニック状態の頭がぼんやりとそんなことを考えた刹那、さらに手が持ち上げられた。
忍者が少し身を屈めて自らの手で支える楓の左手に顔を寄せた。
・・・これは夢だろうか
柔らかい感触が流れた血の跡をしっとりとなぞる。
傷口は労わるように優しく、溢れた血だけを舐め取って温もりが離れた。
少し目を伏せた忍者の、唇に微かに付いた自分の血から目が離せない。
「後は俺がやっとくから天狗に手当てしてもらえ。変なまねするなよ天狗?」
背中を押され、呆然としたまま居間へ向かう。
珍しく天狗も無言のまま付いて来た。
物入れの襖を開けて救急箱を取り出したところを見ると、一応手当てはしてくれるつもりのようだ。
なぜ救急箱の収納場所を知っているというツッコミをする余裕は今は無い。
動きがぎこちない2人を見てどらごんが不思議そうな顔をしている。
消毒薬がつんと傷口にしみた。
先ほどの光景と感触が思い出されて頭の中がいっぱいになる。
天狗の目の前であれはいったいどういうことなのか、また素で天然トラップし掛けて来たのかあの人は。
第三者がいなければあのまま勢いで楓の方が何をしたか分からない所だ。
ガードが甘いどころじゃない、自らくらいに来てるじゃないかこれだから忍者は安定性が無いとか言われるのだ
「・・・・・・・ごちそうさまでした」
「何が!?」
天狗がぼそりと呟いたセリフに光の速さでつっこむ。
何を食べたんだなぜ己を呼ばない、と隣でどらごんが騒いでいるがそうじゃないぞどらごん。
つっこむまでもない、何がごちそうさまかなんて楓が一番よく分かっている。
正直晩飯もいらないくらい腹いっぱい胸いっぱい、ついでに脳みそはいっぱいいっぱいだ。
「まさかここまで親密なご関係になっているとはこの海のリハクの目にも見抜けませんでした。
 いやはや本当にお邪魔をしてしまったと言うか冷やかしに甲斐があったと言うか」
「ちょ、文さんしーっ!違う!違うってば!ほんとにそんなんじゃなくて・・・その、忍者さんとは・・・!」
「違うも何もあれほど自然にいちゃつくのを見せ付けておいて隠すことなどもはや無いでしょう?」
「本当に違うんです、その・・・そういう意味で好きなのは僕の方だけで・・・」
側にいるどらごんの様子をちらりと伺うが、テレビ画面に映る試合に夢中で聞いていない様子だ。
しばらくこちらに注意は向かないだろう。
どらごんと、あと台所で手際よく料理を続ける忍者の目を逃れるようにこそこそと天狗に身をよせる。
「どういう意味です、告白なさったのではないのですか?」
「だからそういう風には見れないって断られたんだよ!男同士なんだ、普通だろ!?」
「しかしそれではなにゆえこうも親しく自宅に招き招かれしているか分かりませんが・・・」
「それは・・・僕が忍者さんの好意に甘えさせてもらっているだけです。
 友達としては嫌いじゃないって、言ってもらえたから・・・」
「ふぅむ、友達として、ですか?」
天狗が何か考え込んでいる。またお得意の邪推でもしているのだろう。
楓をからかうならいつもの事だ、好きにしてもらっても構わない。
だが忍者に迷惑をかけるのは勘弁してもらいたいところだ。
「忍者さんを冷やかすのはやめてくださいよ。本当に普通の友達として僕を扱ってくれているんですから」
「普通の友達ではないと思いますが」
「・・・どういう意味ですか?」
天狗が楓の左手に視線を落とす。
すでに絆創膏がまかれて傷口は見えない。
「楓さん、料理中にこんな風に手を切ったら普段ならどうします?」
「普段ならって・・・普通に消毒して絆創膏貼るだけだよ」
「血が垂れたらつい傷口を舐めたりしますよね」
「・・・しますけど」
先ほどの忍者の行動が思い出されて頬が熱くなる。
何気ない自然な行動のはずなのに、他人にされるとああも扇情的な行為になるものかと驚愕する。
「ではもし私が料理をしていて手を切ったら?」
質問の意図が分からない。
そもそも料理は楓の担当なので天狗が包丁を握るシチュエーションなどあったことが無い。
「・・・手当てしますよ。当然でしょう」
「舐めますか?」
「なんでですか!」
これは羞恥プレイの一種なのだろうか。
舐める舐めないとか質問自体も恥ずかしすぎる。
そうでなくとも忍者の舌の感触や目を伏せて首を傾げる仕草などを思い出して顔が熱いというのに。
「ほら、つまりそういう事ですね」
「すいません全く意味が分からないのですが」
「だから”普通の友達”程度ではあのような行動は取らないと言うことですよ」
やっと質問の意図は読めてきた。
だがまだそれがどういう結論になるのかわからず、天狗の言葉の続きを待つ。
天狗は やれやれだぜ とでも言いたげに息をついて続きを言った。
「おそらく忍者さんにとって楓さんは”自分”の領域に入れても苦痛じゃない相手なのでしょう」
「?」
「小生、とある仕事で忍者さんとご一緒させていただいた事があるのですが
 一部例外はあるものの誰に対しても比較的無難な態度を取る方とお見受けしました。
 無用な揉め事を嫌う様で・・・まぁそこに付け込んでいろいろ仕事を押付けさせていただきましたが」
だから忍者と天狗が対面すると空気が微妙になるのか
楓は頭を抱えたくなった。
忍者なら仕事を押付けられたら文句を言いつつ手際よくこなしてしまうだろう。
「ですが誰にでも無難に合わせて衝突を避けると言うことは、
 裏を返せば誰に対しても一定の距離を置いているとも取れます」
その印象は楓にも理解できる。
忍者は人並みに笑ったりつっこんだりするが、どこかの一線で相手に合わせて自分の主張を押し通す事は無い。
おそらく100%偽りのない感情をむき出しにする相手はあの白い騎士だけなのだろう。
「お2人は始めて会った日からなにやら気が合うご様子でした。
 楓さん相手ならば偽らず隠さずの態度でも大丈夫だと忍者さんは判断したのではないでしょうか?」
ひょいと天狗の白い手が楓の左手をつかんで持ち上げる。
傷やマメで堅い自分や忍者の手とは違う、柔らかく細い指先。
男であれば普通どきりとするシチュエーションのはずだが、忍者に手を取られた時ほど同様はしなかった。
どうして自分は明らかに男性である忍者に惚れたのかと楓は不思議に思う。
「忍者さんは自分と”他人”との間を画す一線の内側に楓さんが入るのを許容した。
 それゆえに楓さんの傷に対してつい自分のそれと同じ対応をしてしまったのではないでしょうか。
 事実忍者さんはあの行動について全く疑問を持たずごく自然にやってのけました」
さすがブン屋だけあって弁論に説得力がある。
ただの第三者の推察にすぎないが、それが本当だったらどんなに良いか。
空蝉を張って攻撃をすりぬけ、『汚い忍者』という強固な仮面で本心を隠して感情の応酬をかわす、
そんなとらえどころの無い忍者自身に近づくのを自分だけが許されているなど。
なんて都合の良い幻想だろう。
「・・・考えすぎだよ文さん、忍者さんはずっとあんな感じだ。僕と似たような面倒事が多い境遇だから同情してくれてるだけだよ」
「なぜそこまで引いて考えてしまいますかね、勿体無いことです。
 多分押せば落ちる可能性が高いと言うのに」
「は!?」
「だから脈ありだと言っているのです。
 同性同士と分かった上で告白した後でもあの態度、
 つまり自分に対して恋愛感情を持っている楓さん自体をすでに受け入れてしまっているわけですよ忍者さんは。
 上手くやれば友達からそれ以上に親しい関係にスライドさせるのは難しくないと思いますよ」
どうしてもこっちの方向に話を持って行きたいのかこの天狗は。
楓にとって甘い話ばかりをさも確かそうに提示するが、うっかり乗ったら後で必ず痛い目を見るに違いない。
なにより面白半分に忍者との関係に首をつっこんで欲しくない。
「いいかげんにしてください、俺は忍者さんとそういう風になりたいわけじゃないんだ!」
「おや、でも今でも好きなのでしょう?」
「それはそうだけど・・・僕の気持ちばかり押付けるのは絶対に嫌なんです。
 下手に期待していたらまた抑えが利かなくなるかもしれない・・・
 もう忍者さんにあんな酷いことはしたくないんだ」
思い出すたびに自己嫌悪でいたたまれない気持ちになる。
自制心を失って忍者を手ひどく扱ってしまったことが苦い沁みのように記憶にこびり付いていた。
覚醒時のことだからと忍者は笑って楓を許してくれた。
だからこそ自分が一方的に甘えるのは許せなかった。
忍者が楓に友達としての関係を望むなら、楓も友達としてそれに応えたい。
少なくとも忍者は楓が己を好きであると知っていて、しかもそれを否定していない。
これ以上の事を無理に望む必要性も権利も無いのだ。
「楓さん・・・」
「僕のわがままでまた傷つけるくらいなら、このまま友達のままの方がよっぽど―」
「まさか あ な た が タ チ で す か!?」
「・・・・・・は?」
なんだか天狗もひどく驚いている様子だが質問の意味が分からない。
思わず聞き返すが、天狗も珍しくも動揺している様子だった。
「どういう意味ですか?」
「だから・・・つまりですね、コホン。その、すでに忍者さんに手を出してしまったので?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
否定はできない。と言うか図星である。
第三者の口から改めて問われると、いかに自分がとんでもない事したか改めて自覚させられる。
同性同士であるとは言っても立派な傷害罪にひっかかる行為だ。
「・・・・・・よくそれで許してもらえましたね」
「うん、僕もそれは思う・・・。覚醒したときのことだからしょうがないって・・・
 ほんとに忍者さんには申し訳ないよ・・・」
「な、なるほど、青龍の覚醒状態であれば楓さん攻めもまぁ考えられますね」
「文さんさっきから何言ってるんですか!?」
「いえいえこちらの話です。ふむ・・・」
天狗がにっこりと笑った。この可愛い顔に騙されてはいけない。
腹のうちでは何を企んでいるか分かったものではないのだ。
「やはりあなたがたお似合いだと思いますよ。
 不肖小生、野次馬根性込みで応援させていただきます」
「そこは口先だけでも野次馬抜きって言う所じゃないですか!?」
「と、それは冗談としてもですね。
 楓さんは的に立ち向かったり小生達にツッコミを入れている間は非常に活き活きとしておられます」
嬉しくないハーレムに振り回されて活き活きしてると言われてもさっぱり嬉しくないのだが。
原因の1人である天狗にぬけぬけと言われて楓は憮然とするが、天狗はそんな不満などどこ吹く風だ。
「これはこれで大変良いことですが、
 逆に忍者さんの側では至極リラックスしていますね。忍者さんも同様のご様子。
 恋人までも行かなくても親友、あるいはもっと深く兄弟のような関係でも良いでしょう、
 お互いに何も心配せずに背中を預けて目を閉じることが出来る、そんな相手として大事にすべきだと思いますよ」
さきほどから天狗はメモを取る様子も無い。
とするとブン屋根性はあるにしてもバラしたりネタにするつもりではなく、
応援すると言ってくれた言葉は嘘ではないのかもしれない。
「ただし聞いた限りでは忍者さんが認めているのは覚醒していない楓さん自身。
 青龍の力の暴走にはよくよく気をつけるべきかと」
「文さん・・・僕は・・・」
「なんださっきから何の話をしているんだ」
ここで割り込んで来るのかどらごん
言いたいことが頭から吹っ飛んでしまい、おもわずどらごんを睨みつける。
見ていた大会の1パートが一通り終わって注意が画面から逸れたらしい。
「話半分でしか聞こえていないが忍者と喧嘩でもしたのか?」
話しづらい内容と分かっていないのか、ずいっと顔を寄せて尋ねてくる。
どらごんはいつでも直球で容赦が無い。
はぐらかすわけにもいかず、楓は黙ってうつむく。
それを肯定と取ったのかどらごんはさらに身を乗り出してきた。
「ふぅむ、お前が忍者と喧嘩とは意外だな」
「僕が一方的に悪いんです。とても失礼な事をしてしまって・・・」
「ならば謝ればいいだけのことだ。
 なぁに素直に言えば大丈夫だろう、忍者は楓が好きだからな」
「ぶはっ!?」
「おやおや」
予想外の伏兵によるふい撃ちに思わず吹き出した。
どらごんはそんな楓の反応などお構いなしに得意げに続ける。
「鍋の会場ではなぜか知らんが己は小言を言われっぱなしだったがな、
 楓は己に比べればよっぽど忍者に気に入られてる。お小言をちゃんと聞けば許してくれるだろう」
「かく言うあなたはそのお小言を最後まで聞かない人ですけどね」
天狗が嫌味をサクサクとどらごんに刺すが、もとより細けぇことはいいんだよな性格の彼女に通じるはずもない。
悪気なさそうに笑い飛ばすと楓に試合DVDの続きは無いかと聞いてきた。
あんな風に単純に考えられたらどんなに良いか
直感で物を言うどらごんが羨ましいような羨ましくないような、複雑な気持ちで女子2名の言い合いを傍観した。

「はいお待ち。どらごん腹減ったってうるせーぞ!」
「きたぁあああああ!メシだぁあああああ!!」
「料理の方もなかなかの腕前の様子ですね、では遠慮なく」
食卓に皿が並べられるが早いか、ドラゴンが箸を持って野菜炒めに襲い掛かる。
「忍者さん、洗い物は僕が・・・」
「その手じゃ沁みるだろ。こっち少し片付けるだけだから先食っとけ」
そう言われてもはいそうですかと食べるわけにはいかない。
忍者が調理器具を片付けて腰を降ろすのを待って楓も箸を取った。
食卓を囲むのはいつものメンツではなく、汚い忍者がいる。
2人きりでないのは残念だがそれでも自然と笑みがこぼれた。
「で、お前ら何しに来たんだよまさか本当にメシ食いに来ただけか?」
「いえ小生は晩御飯をいただくのはむしろ予定外で楓さんをひやかしに来」
「文さん!」
「ふふふ、長々とお2人のお邪魔をする気はありませんよ。
 食べ終われば速やかに退散する所存です」
素直に帰ってくれるならありがたいが、このセリフには反応しづらいことこの上ない。
うっかり返事をすればどう勘違いされるか
やはり天狗は一筋縄ではいかないと楓はげんなりする。
「己は誘われたからだ。ついでに楓がヒマなら東方緋想天の対戦でもしようかと思ってな」
「ん、なんだお前緋想天できるのか?」
「おうよ!己自身の拳で殴るほど強くはないがそれなりに戦えるぞ!」
予想外のところに忍者が食いついた。
思っても見ない流れになりそうな気配を感じる。
まさか
「メシ食ったら対戦しようぜ。楓もできるんだろ?」
「ほほぅ、己に挑んで来るとはな!どれ程の腕かみせてもらおう!」
「あ、天狗は帰っていいぞって言うか帰ってくれ」
どらごんの居残り決定。
別に甘い雰囲気など期待していたわけではないが、2人きりになれるかと僅かに抱いていた期待が崩れる音がする。
「・・・・・いえ、緋想天でしたら私も参加させていただきたいですが・・・」
天狗がちらりとこちらを見ながら遠慮がちに返事をする。
そんな目で僕を見ないでくださいorz
「・・・なるほど、現状では完全にオトモダチなのですね。ご愁傷様です」
「文さんがどらごんなんて連れて来るからじゃないですか!」

教訓:ブン屋が関わるとロクなことがない

このページへのコメント

おお、気づいてもらえてた!ありがとうございます!
異変じゃないので天人は出せませんでしたが、紅魔卿の女の子達にいじられる楓って良いですよね!
スレ内容から着想した話は今のところここまでなので一旦筆を置きますが、
この後2人進展しかたが予想できないですw

0
Posted by 筆者 2010年05月05日(水) 23:33:16 返信

ヒャッハー!続き来てた!乙です!
相変わらず報われない楓もマイペースな汚忍も大暴れのどらごんも
何か企んでそうだけど応援してくれてる文もみんな可愛いです!
楓はいつになったら恋人にクラスチェンジできるんだろうw
ごちそうさまでした!

0
Posted by 名無し 2010年04月27日(火) 16:52:51 返信

ありがとうございます、続き物なのでこっちでひっそり足してますw
なんかもうこの2人2828すぎて妄想止まらないんですがwww
青春まっしぐらの2人が可愛い女の子が個人的に萌えポイントなので
忍者が楓宅に遊びに行って文達が乱入するSSとか書きたいです

0
Posted by 筆者 2010年03月31日(水) 20:20:03 返信

続きが…来ているだと…乙です!
楓も汚忍も見てると2828してしまうw
風邪シチュだなんて、すごく…美味しいです…。
あと、猫忍やフミィが可愛いです!楓はフミィに散々からかわれればいいよ!

0
Posted by ななし 2010年03月29日(月) 18:31:50 返信

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