後ろから抱きしめて
214 名前:304[sage] 投稿日:2007/10/28(日) 00:29:25 ID:c/rdEJbA
ちょっと暗めのものを投下したいと思います。
主に痛い思いをするのはなのはさんです。
これから5回に分けて投下します。
216 名前:後ろから抱きしめて(1/5) 304[sage] 投稿日:2007/10/28(日) 00:34:07 ID:c/rdEJbA
それは些細な会話から始まった。
「ヴィヴィオ、兄弟欲しいなー。」
「兄弟?」
「うん。学校のみんなね、結構兄弟いたりして楽しそうなの。」
「そ、そうなんだ…。」
「フェイトママとなのはママがいれば赤ちゃんできるんでしょ?
ヴィヴィオも欲しいなー。」
「…うん。そうだね。フェイトママが帰ってきたら話してみようか。」
「ほんと?やったー!」
そうは言ったものの私にはどうすることも出来なかった。
私とフェイトちゃんは恋人じゃない。
一緒に住んではいるけどそれはヴィヴィオのために家族の形を取っているだけで
私たち自身が愛し合ってるわけではなかった。
今日もフェイトちゃんは次元世界を相手に三週間の航行任務に就いていて
帰ってくるのは一週間後。
帰ってきた彼女に何て言えばいいんだろう。
ヴィヴィオが兄弟が欲しいって。
なのはママとフェイトママの赤ちゃん。
ヴィヴィオの兄弟。
彼女は何て言うだろう。
なのはママとフェイトママは友達だから…
それから私は密かに鬱々とした日々を過ごした。
そして一週間。フェイトちゃんが帰ってきた。
三週間ぶりに間近で見るその姿に胸が熱くなる。あくまで友人としての範囲で
不自然にならない程度に喜んだけど喜色満面で駆け寄り無邪気に喜ぶヴィヴィオが羨ましかった。
217 名前:後ろから抱きしめて(2/5) 304[sage] 投稿日:2007/10/28(日) 00:40:39 ID:c/rdEJbA
「兄弟?」
「うん。なのはママとフェイトママがいれば赤ちゃんできるんでしょ?」
久しぶりの再会による興奮も収まり夕食を摂っていると早速ヴィヴィオが例の話をし始めた。
ちらりと視線をもらうけど曖昧に微笑む。それだけでなんとなく心情を分かってくれた
らしく一週間前の私と同じように相談してみるねと言って話を切り上げる。
お風呂はヴィヴィオがフェイトちゃんと入った。二人が出た後入浴を終えると
リビングにあるテーブルにはフェイトちゃんが座っていた。
私を見ると静かにキッチンに立つ。
「ヴィヴィオは?」
「もう寝たよ。コーヒーでいいかな。」
「うん、ありがとう。」
しばらくしてことりと白い湯気の立つピンクのマグカップが置かれる。
正面にフェイトちゃんも空色のマグカップを持って座る。
マグカップの型は一緒。前もあったけどここへの引越しの時に割ってしまって
色違いでお揃いのをまた買い直した。
「兄弟か…。困ったね。」
一言ママたちは子どもを作れないと言えばいいのかも知れない。
でもそれはヴィヴィオの夢を壊す。
兄弟だけじゃなく、母達は愛し合っているという幻想さえも壊してしまう。
「なのは…付き合ってる人っていないの?」
「え…」
「いや、その…いきなり子どもまでいかなくても結婚とか
そういうこと考えてもいい歳でしょ?
なのははそういう相手いないのかなーってちょっと考えちゃって…」
何を言われたのか咄嗟に理解できない。ようやく出てきた私の声は少し震えていた。
218 名前:後ろから抱きしめて(3/5) 304[sage] 投稿日:2007/10/28(日) 00:44:43 ID:c/rdEJbA
「フェイトちゃん六課からずっと私と一緒に暮らしてるでしょ?
それより前だって近所に住んでて学校でも一緒で…
そんな人いないって知ってるでしょ?」
「それはそうなんだけど…でもなのは人気あるから色んな人から
告白されたりしてたよね?
それに私よく家を空けるし…。今回も三週間もこっちにいなかったし
その間に誰かと付き合い始めたかな…なんて、その…。」
「そんな、そんなのないよ。私そんな人いないよ…。」
「あ、そうなんだ…。ごめん…。」
「いいよ別に…。」
気まずい空気が漂い始める。
本人から言われるのがこんなに痛いなんて知らなかった。
恋愛の話になってもそれは大抵人の話を股聞きしたりする程度で
こんな話したことがなかった。
告白されてもお互いモテるんだね、すごいねくらいしか言わなかった気がする。
「いきなり飛躍しすぎたね、ごめん…。じゃあ付き合ってる人はいなくても好きな人
…そこまでいかなくても気になる人っていないの?」
「い…」
いないよと嘘でも言えたらよかったのに。いるよと素直に言えたらよかったのに。
出かかった言葉を飲み込む。どちらを言おうとしたのか自分でも分からない。
「…フェイトちゃんこそどうなの?フェイトちゃんだって人気あるじゃない。」
「わ、私?私はその、そういうのよく分からないから…。」
うろたえながら下を向いてしまった。
フェイトちゃんいないんだ。よかった…。
でもいつかはフェイトちゃんにもそういう人が出来るんでしょ?
私とヴィヴィオがいるところを「家」だなんて言わなくなるんでしょ?
219 名前:後ろから抱きしめて(4/5) 304[sage] 投稿日:2007/10/28(日) 00:50:31 ID:c/rdEJbA
私が男だったらよかったのかな。ううん、フェイトちゃんでもいい。
どちらかの性別が違えばあるいはそうなる可能性もあったかも知れない。
でも同性だからこそ親しくなれたことも否定できない。
でも同性では可能性が低すぎて…。
そう思うとやるせなかった。
ミッドなら女同士でも子どもは出来る。地球を遙かに超える科学力がそれを可能にする。
ヴィヴィオが言わずとも子どもが欲しかった。
フェイトちゃんの子ども、欲しかった。
でも本当は子どもが出来なくてもいいから、愛して欲しかった。
色んな感情がぐちゃぐちゃと混ぜ合って抑えきれずに泣きそうになる。
泣き顔は見られたくない。寝室に行こう。今日は彼女に背を向けて眠りたい。
もしかしたらその背を慰めに抱いてくれることを期待して。
…打算だ。
「ごめん、話途中なんだけどそろそろ…。」
「あ、うん。そうだね、もう寝ようか。」
「フェイトちゃんも寝る?」
「うん。…コーヒー美味しくなかった?」
不安げな表情に手元を見ると私のマグカップの中身は少しも減っていなかった。
ずっと両手で包むように触っていたそれは温くなって表面に膜が出来ている。
そんなことないと慌てて弁解するけど飲む気にはなれなかった。
後片付けは私がやるからと言われカップを渡す。
結局捨てることになったどろどろと黒い液体が排水溝に流れていく。
フェイトちゃんは全部飲んだらしく軽く洗って終わり。
だから目に映るのは誰とも寄り添えない一筋の黒い流れだけ。
まるで私みたいだった。
220 名前:後ろから抱きしめて(5/5) 304[sage] 投稿日:2007/10/28(日) 00:54:01 ID:c/rdEJbA
寝室に入るとヴィヴィオがベッドの真ん中で大の字で寝ていた。
ヴィヴィオの右に横になるとフェイトちゃんがその反対側に横になって枕元のライトを消す。
「おやすみ、なのは。」
「おやすみ、フェイトちゃん。」
挨拶を交わししばらく経つと目も慣れてくる。
小さな娘と大きな彼女。どちらも小さな寝息を立てている。
よく考えなくても暗闇では背を向けて寝ているのが分かっても
寝てしまってはどうしようもないじゃないか。何より間にヴィヴィオがいるのに。
自分の単純さに自嘲する。
でもこれなら仮に泣いても涙を見られる心配はない。
それでも出来るだけ自然に寝返りをうつ。
「…大丈夫?」
優しい声音。真後ろから聞こえたそれに体が動かなくなる。
ぎっとベッドが鳴るとヴィヴィオと私の間の空間が沈んだ。
ゆっくりと腕が体の前に回される。
「ねぇ、なのは…。」
少し力を込めて振り向かせようとする手を掴んで拒む。
ぎゅっと強く握ると諦めたのか私を優しく抱きしめるだけだった。
優しく回された腕と、背中に当たる温かい体と、耳を掠める吐息に泣きそうになる。
お願いだから正面から抱きしめないで。後ろから抱きしめて。
顔だけは見られたくないから。
きつく目を閉じると目に沁みるような痛みの後に涙が流れ落ちた。
おわり
ちょっと暗めのものを投下したいと思います。
主に痛い思いをするのはなのはさんです。
これから5回に分けて投下します。
216 名前:後ろから抱きしめて(1/5) 304[sage] 投稿日:2007/10/28(日) 00:34:07 ID:c/rdEJbA
それは些細な会話から始まった。
「ヴィヴィオ、兄弟欲しいなー。」
「兄弟?」
「うん。学校のみんなね、結構兄弟いたりして楽しそうなの。」
「そ、そうなんだ…。」
「フェイトママとなのはママがいれば赤ちゃんできるんでしょ?
ヴィヴィオも欲しいなー。」
「…うん。そうだね。フェイトママが帰ってきたら話してみようか。」
「ほんと?やったー!」
そうは言ったものの私にはどうすることも出来なかった。
私とフェイトちゃんは恋人じゃない。
一緒に住んではいるけどそれはヴィヴィオのために家族の形を取っているだけで
私たち自身が愛し合ってるわけではなかった。
今日もフェイトちゃんは次元世界を相手に三週間の航行任務に就いていて
帰ってくるのは一週間後。
帰ってきた彼女に何て言えばいいんだろう。
ヴィヴィオが兄弟が欲しいって。
なのはママとフェイトママの赤ちゃん。
ヴィヴィオの兄弟。
彼女は何て言うだろう。
なのはママとフェイトママは友達だから…
それから私は密かに鬱々とした日々を過ごした。
そして一週間。フェイトちゃんが帰ってきた。
三週間ぶりに間近で見るその姿に胸が熱くなる。あくまで友人としての範囲で
不自然にならない程度に喜んだけど喜色満面で駆け寄り無邪気に喜ぶヴィヴィオが羨ましかった。
217 名前:後ろから抱きしめて(2/5) 304[sage] 投稿日:2007/10/28(日) 00:40:39 ID:c/rdEJbA
「兄弟?」
「うん。なのはママとフェイトママがいれば赤ちゃんできるんでしょ?」
久しぶりの再会による興奮も収まり夕食を摂っていると早速ヴィヴィオが例の話をし始めた。
ちらりと視線をもらうけど曖昧に微笑む。それだけでなんとなく心情を分かってくれた
らしく一週間前の私と同じように相談してみるねと言って話を切り上げる。
お風呂はヴィヴィオがフェイトちゃんと入った。二人が出た後入浴を終えると
リビングにあるテーブルにはフェイトちゃんが座っていた。
私を見ると静かにキッチンに立つ。
「ヴィヴィオは?」
「もう寝たよ。コーヒーでいいかな。」
「うん、ありがとう。」
しばらくしてことりと白い湯気の立つピンクのマグカップが置かれる。
正面にフェイトちゃんも空色のマグカップを持って座る。
マグカップの型は一緒。前もあったけどここへの引越しの時に割ってしまって
色違いでお揃いのをまた買い直した。
「兄弟か…。困ったね。」
一言ママたちは子どもを作れないと言えばいいのかも知れない。
でもそれはヴィヴィオの夢を壊す。
兄弟だけじゃなく、母達は愛し合っているという幻想さえも壊してしまう。
「なのは…付き合ってる人っていないの?」
「え…」
「いや、その…いきなり子どもまでいかなくても結婚とか
そういうこと考えてもいい歳でしょ?
なのははそういう相手いないのかなーってちょっと考えちゃって…」
何を言われたのか咄嗟に理解できない。ようやく出てきた私の声は少し震えていた。
218 名前:後ろから抱きしめて(3/5) 304[sage] 投稿日:2007/10/28(日) 00:44:43 ID:c/rdEJbA
「フェイトちゃん六課からずっと私と一緒に暮らしてるでしょ?
それより前だって近所に住んでて学校でも一緒で…
そんな人いないって知ってるでしょ?」
「それはそうなんだけど…でもなのは人気あるから色んな人から
告白されたりしてたよね?
それに私よく家を空けるし…。今回も三週間もこっちにいなかったし
その間に誰かと付き合い始めたかな…なんて、その…。」
「そんな、そんなのないよ。私そんな人いないよ…。」
「あ、そうなんだ…。ごめん…。」
「いいよ別に…。」
気まずい空気が漂い始める。
本人から言われるのがこんなに痛いなんて知らなかった。
恋愛の話になってもそれは大抵人の話を股聞きしたりする程度で
こんな話したことがなかった。
告白されてもお互いモテるんだね、すごいねくらいしか言わなかった気がする。
「いきなり飛躍しすぎたね、ごめん…。じゃあ付き合ってる人はいなくても好きな人
…そこまでいかなくても気になる人っていないの?」
「い…」
いないよと嘘でも言えたらよかったのに。いるよと素直に言えたらよかったのに。
出かかった言葉を飲み込む。どちらを言おうとしたのか自分でも分からない。
「…フェイトちゃんこそどうなの?フェイトちゃんだって人気あるじゃない。」
「わ、私?私はその、そういうのよく分からないから…。」
うろたえながら下を向いてしまった。
フェイトちゃんいないんだ。よかった…。
でもいつかはフェイトちゃんにもそういう人が出来るんでしょ?
私とヴィヴィオがいるところを「家」だなんて言わなくなるんでしょ?
219 名前:後ろから抱きしめて(4/5) 304[sage] 投稿日:2007/10/28(日) 00:50:31 ID:c/rdEJbA
私が男だったらよかったのかな。ううん、フェイトちゃんでもいい。
どちらかの性別が違えばあるいはそうなる可能性もあったかも知れない。
でも同性だからこそ親しくなれたことも否定できない。
でも同性では可能性が低すぎて…。
そう思うとやるせなかった。
ミッドなら女同士でも子どもは出来る。地球を遙かに超える科学力がそれを可能にする。
ヴィヴィオが言わずとも子どもが欲しかった。
フェイトちゃんの子ども、欲しかった。
でも本当は子どもが出来なくてもいいから、愛して欲しかった。
色んな感情がぐちゃぐちゃと混ぜ合って抑えきれずに泣きそうになる。
泣き顔は見られたくない。寝室に行こう。今日は彼女に背を向けて眠りたい。
もしかしたらその背を慰めに抱いてくれることを期待して。
…打算だ。
「ごめん、話途中なんだけどそろそろ…。」
「あ、うん。そうだね、もう寝ようか。」
「フェイトちゃんも寝る?」
「うん。…コーヒー美味しくなかった?」
不安げな表情に手元を見ると私のマグカップの中身は少しも減っていなかった。
ずっと両手で包むように触っていたそれは温くなって表面に膜が出来ている。
そんなことないと慌てて弁解するけど飲む気にはなれなかった。
後片付けは私がやるからと言われカップを渡す。
結局捨てることになったどろどろと黒い液体が排水溝に流れていく。
フェイトちゃんは全部飲んだらしく軽く洗って終わり。
だから目に映るのは誰とも寄り添えない一筋の黒い流れだけ。
まるで私みたいだった。
220 名前:後ろから抱きしめて(5/5) 304[sage] 投稿日:2007/10/28(日) 00:54:01 ID:c/rdEJbA
寝室に入るとヴィヴィオがベッドの真ん中で大の字で寝ていた。
ヴィヴィオの右に横になるとフェイトちゃんがその反対側に横になって枕元のライトを消す。
「おやすみ、なのは。」
「おやすみ、フェイトちゃん。」
挨拶を交わししばらく経つと目も慣れてくる。
小さな娘と大きな彼女。どちらも小さな寝息を立てている。
よく考えなくても暗闇では背を向けて寝ているのが分かっても
寝てしまってはどうしようもないじゃないか。何より間にヴィヴィオがいるのに。
自分の単純さに自嘲する。
でもこれなら仮に泣いても涙を見られる心配はない。
それでも出来るだけ自然に寝返りをうつ。
「…大丈夫?」
優しい声音。真後ろから聞こえたそれに体が動かなくなる。
ぎっとベッドが鳴るとヴィヴィオと私の間の空間が沈んだ。
ゆっくりと腕が体の前に回される。
「ねぇ、なのは…。」
少し力を込めて振り向かせようとする手を掴んで拒む。
ぎゅっと強く握ると諦めたのか私を優しく抱きしめるだけだった。
優しく回された腕と、背中に当たる温かい体と、耳を掠める吐息に泣きそうになる。
お願いだから正面から抱きしめないで。後ろから抱きしめて。
顔だけは見られたくないから。
きつく目を閉じると目に沁みるような痛みの後に涙が流れ落ちた。
おわり
2007年10月28日(日) 00:56:23 Modified by nanohayuri