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0 distance

546 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/01/28(月) 22:34:43 ID:JpR5BIUI
>>543-545
ありがとうございます!それでは以下一応注意書きとして

・なのフェイ。微シリアスで前半は少し暗めかもしれません
・時期は中学1〜2年生頃

では、手間取りましたが投下行きます
微妙に長いです。13レス程使用させて頂きます

547 名前:0 distance[sage] 投稿日:2008/01/28(月) 22:35:57 ID:JpR5BIUI
声にならない声を張り上げたのは、意識が覚醒するその直前だった。
名前を呼んだつもりだったのに、それは音にならずに朝の静かな空気に
溶けて消えた。それが嫌な暗示に思えて仕方がない。
僅かに息を乱して、フェイトはベッドから体を起こす前に右手を目の前に持って来る。
今は小さく震えているその手には、目覚めるその時まで紅い血がべっとりと付いていた。
無論、夢の話だ。実際にはそんなことはなく、昨日仕事を終えて帰宅したフェイトは
そのまま床に就いたのだから。
「…夢」
そう、夢だ。
最悪の夢だった。

フェイトの調子が悪そうだ、と最初にアリサが気付いたのは朝のHRが終わって
一限目の準備をしていた時だった。普段から自分で人に話を振ってくるタイプではない
ことは承知の上だが、それにしても今朝の彼女は静か過ぎる。
「フェイト」
少し離れた所から声をかけてみるが、反応はない。まるで呆けたように焦点の合わない目を
宙に彷徨わせている。
「フェイトー」
先程より数歩歩み寄って再び呼びかけてみるも、結果は同じ。机の上には未だに鞄を出しっ放しだ。
むっとしてアリサはフェイトの耳を摘み上げる。
「フェイト、ちょっと聞いてんの!?」
「わ、えっ!?ア、アリサ…?」
「アリサ?じゃないわよ。もうすぐ授業始まるわよ」
言われた台詞の内容をすぐには理解出来ないフェイト。溜息混じりにアリサが鞄を指してようやく
彼女は慌てたように教科書を出し始めた。

548 名前:0 distance[sage] 投稿日:2008/01/28(月) 22:36:50 ID:JpR5BIUI
「朝から何ぼーっとしてんのよ?」
「う、ん…その、ちょっと」
言いかけたのか、それとも初めから言うつもりがないのか。フェイトは口ごもり、続く言葉は
出て来ない。どうしたものか、とアリサが天井を仰いだところで、始業のチャイムが鳴った。

中学校に進学してから、フェイトやなのは、はやては以前と比べ益々出席できる日が減っていた。
管理局勤めにもすっかり慣れ、こなす仕事の量が増えている。また、質も駆け出しの頃より
一段も二段も上のものも多く、時には疲れてそのまま登校できたはずの半日を寝て潰してしまう
ことだってある。
だからこそ、今日のように一日丸々学生として過ごせる日々は貴重だった。休んでいた分の授業
ノートも写さないといけないし、授業ならではの先生の話も出来るだけ聞いておきたい。
けれど、それなのに今、フェイトは授業を受けている身にもかかわらず、先生の話などこれっぽっちも
聞いていなかった。耳には入っている。しかし頭がそれを理解しようとせず、まるで雑音のように
思考から追い出してしまう。
机の上に出された教科書とノートは開いてはいるものの、既にそのページは開始直後に説明が
終えられた箇所だった。手に握られていたシャーペンはいつの間にか滑り落ちていたが、フェイトの
意識はそれに気が付かない。
彼女の頭を支配しているのは他でもない、今朝の悪夢だ。日が差し込んで若干白が落ちている教室の
中にいるというのに、まだあの紅が目の前から消えてくれない。

夢に出て来たのは、なのはだった。そして自分。二人きり。
寒い世界だった。一面雪で埋め尽くされて、他には何もなく、空、あれは空だったのだろうか。
足元は白、他は灰色で染まっていた。そのせいか、目の前に立つなのはのバリアジャケット
の白もどこか霞んで見えた。

549 名前:0 distance[sage] 投稿日:2008/01/28(月) 22:37:40 ID:JpR5BIUI
少しして、なのはがこちらを振り返って笑ってくれた。その笑顔が、いつもの彼女のものなのに
異様に胸をざわつかせて、フェイトは堪らず手を伸ばしていた。
だが、その手は届くことなく、その瞬間まで目の前にあったなのはの体は、いつの間にか
地に伏していた。
白と灰色だけの世界に鮮やかな紅が乱暴にぶちまけられる。
後はもう思い出したくもなかった。必死に彼女を抱き起こして名前を呼んだ。返ってくる声が
ないことに気付きたくなくて、何度も何度も叫んだ。
(…最悪だ)
頭を抱えて、胸の中の重苦しい空気を吐き出す。似たような夢は今までにも何度か見たことがある。
見るようになったのは、なのはが墜落事故の負傷から復帰してからだ。フェイトは実際に彼女が
堕ちたその光景を見たわけではない。けれど後から耳にしたその時の状況や、病院での彼女の負傷
具合などがピースとなって組み合わさる。勝手に脳が構築する。
最初は仕方ないものだと割り切っていた。なのはが瀕死の重傷を負ったあの事故は自分に確かな
影響を与えたことは間違いないのだし、あの頃はまた彼女が堕ちてしまうのではないかと
不安ばかり抱えていたから。
けれどもうあれから数年経った。既になのはは夢だった教導隊入りを果たし、順調に任務をこなしている。
そして体調管理も事故前とは比較にならないほど気をかけるようになった。
もうフェイトが心配するようなことはないのだ。それが分かっているからこそ、フェイトも自分の
執務官としての仕事に全力で打ち込んでいる。
後はお互いに真っ直ぐ前を向いて進んで行くだけだ。そう思えるようになった矢先だったというのに。
フェイトは斜め前の空いた席に目をやる。なのはは今日も欠席だ。
(なのは)
会いたい、と声にはせずに口だけ動かした。もちろん伝わるはずがない。
何をやっているんだろうと自嘲気味に笑おうとして、けれどそんなことすら上手く出来なかった。

550 名前:0 distance[sage] 投稿日:2008/01/28(月) 22:38:31 ID:JpR5BIUI
「うーん。ずいぶんとまた重傷やね」
昼休み。はやて、すずかもフェイト達の教室にやって来て四人で昼食を取る。
アリサが半ば無理矢理、今日のあまりに悪い調子の理由をフェイトに吐かせ、それを聞いた
はやてが開口一番に呟いた。
「気持ちはまあ…分からんでもないけどな。でもそんなに引きずらんでも」
「うん…その、自分でも気にしすぎだとは思うんだけど……」
事故を知っている者は誰でも、フェイトと同じ思いを抱いている。だが心配し過ぎても
なのはが困るだけだ。そこまで分かっていても尚、フェイトの気分は晴れない。
「なのはちゃんは今日、お休みなんだよね…」
「ま、いればフェイトもここまで落ち込んでないわよね」
自分の心が完全に見透かされているのは長い付き合い故か。有り難いやら恥ずかしいやらで
フェイトは俯いてしまう。
「それにしても、フェイト、午後の授業どうするの?」
「どうするって…?」
今日は一日オフだと伝えていたはずなのだが。首を傾げるフェイトの考えを察し、そうじゃなくてと
アリサは続ける。
「そんな状態で授業受けてても仕方ないでしょ」
言われ、言葉を詰まらせる。つい先程受けた授業も内容をほとんど覚えていない。
「ノートは今までの分もまとめて後で写させてあげるから、保険室でも行って寝てきたら?
すっきりするわよ」
「それは、さすがに」
体調が悪いわけではない。要は、寝覚めが悪かった。ただそれだけのことだ。
それでいて授業をサボるのには抵抗がある。
「でもフェイトちゃん、顔色もそんなに良くないよ」
すずかが困ったように指摘する。本人がどう主張しようと、明らかに今のフェイトはお世辞にも
元気だとは形容出来なかった。

551 名前:0 distance[sage] 投稿日:2008/01/28(月) 22:39:06 ID:JpR5BIUI
「まだ時間もあるし、保険室は大袈裟でも、どこかで気晴らしでもしてきたらどう?」
「まあ、それが一番やね。今のままやと、逆にフェイトちゃんの方が心配や」
友人達の提案を聞きつつ、弁当の最後の一口を呑み込んだフェイトは、とうとう観念したように
曖昧な笑みを浮かべて頷いた。

重い鉄扉を開けて、外に足を踏み出す。屋上。人がほとんど行き来することのないこの場所は
魔法や管理局関連の話を持ち出す時によく利用しているが、今日のように一人で訪れることは
珍しかった。外に出た途端、フェイトの髪は風に吹かれて靡く。空に近いこの場所では、
風が吹かない日は滅多にない。
「ここがいいかな…」
思い切り肺に空気を吸い込むと、陰鬱としていた心が少しばかり浮上した気がした。
扉の側に腰を下ろして、足を放り出す。そして、校舎の壁に背を預けて目を閉じる。
そうすると、風が一層強く感じられた。目を閉じたままでも、空の青さを想像できるほどに。
この風が、不安も悩みも連れて行ってくれればいいと思う。陳腐な発想かもしれないが、それでも
今のこの気持ちが変えられるのなら何でもよかった。
そんなことを考えながら、もう一度息を吸って、フェイトは意識が虚ろになっていくのを感じた。

「フェイト、明日も仕事なのかしら」
フェイトを見送り、少し遅れて昼食を食べ終えたアリサがぽつりと呟く。
「ううん、どないやろ。特に聞いてへんから分からんなあ」
「フェイトちゃんのこと、心配?」
すずかの問いに、少し間を置いてから頷くアリサ。
「あの調子じゃちゃんと休めてないだろうし。まったく、あんたたちは揃いも揃って無理ばっか
するんだから」
「私も?」
「そう。はやて、あんたも」
はっきりと断言され、反論しようにもその反論を考えるのにはやては若干時間を食う。

552 名前:0 distance[sage] 投稿日:2008/01/28(月) 22:39:43 ID:JpR5BIUI
その間に、アリサの携帯が鳴った。誰からだろうと、彼女は首を傾げてすぐさまそれを
ポケットから取り出した。
「メール?」

フェイトは酷く浅い眠りに就いていた。風の音も、微かにする生徒の声も全て聞こえている。
頭の中にはぼんやりと靄がかかっていた。
しかし。
「フェイトちゃん」
一人の少女の声が、その靄を払う。
「フェイトちゃん…寝てるの?」
徐々に覚醒してきた意識を伴って、フェイトは誘われるように瞼を上げた。
ずっと顔を上に向けていたから、最初に目に飛び込んでくるのはあの青い空―――
「おはよう、フェイトちゃん」
ではなく、先程からずっと名前を呼びかけてくる少女の顔。
フェイトの視界一杯に映ったのは、なのはの笑顔だった。


「え、あれっ、なの、は、なのは!?」
「うん、なのはだよ…って、ちょっとフェイトちゃん落ち着い」
て、となのはが言い終えたのと、慌てふためいたフェイトが後ろのコンクリートの壁に頭を
ぶつけたのは、ほぼ同時だった。

後頭部がじんじんと痺れているのを感じる。どうやらたんこぶはできなかったようだが、
暫くはこの痺れが続きそうだ。フェイトは片手でぶつけた箇所をさすって思う。
「もう、いくらなんでも驚きすぎだよ」
「ごめん…今日はなのはは休みだと思ってたから」
フェイトの言葉を受けて、本当はそのつもりだったんだけど、となのはは続けた。
「管理局の仕事が思ったよりも早く終わったから、急いで来れば午後からの授業には
間に合うかなって」

553 名前:0 distance[sage] 投稿日:2008/01/28(月) 22:40:25 ID:JpR5BIUI
実際、来てみればまだ時間的には昼休みの最中だ。これは準備にかかった時間の最短記録
が出たかもしれないと喜ぶなのはに、フェイトは眉を顰める。
「駄目だよなのは。休みはしっかり取らないと、疲れだって溜まっちゃうし」
「大丈夫。分かってるよ。無茶はしてないから」
「でも」
いつもの会話、いつものやり取り。けれどフェイトはいつものそれよりもはっきりと伝えたかった。
今朝見た夢。かつての事故。脳裏を何度も繰り返しよぎるそれらがフェイトにはたまらなく怖い。
気付けば隣に座っているなのはの方に身を乗り出していた。
なのはの視線がじっとフェイトを捉える。
「…フェイトちゃん、やっぱり何かあったの?」
思いがけないなのはの言葉に、え、とフェイトは聞き返す。
「実はね、学校に行くことにするねってアリサちゃんにメールを送ったら、返事が来たの。
フェイトちゃんの様子がおかしいから行ってあげてって。多分、屋上にいるだろうからって」
「アリサが…?」
見れば、なのはは鞄をここに持って来ていた。おそらく、教室に寄らずに直接ここに来たのだろう。
「フェイトちゃんどうしたんだろうなって急いで来てみたら、気持ち良さそうに寝てたから
安心しちゃったんだけど…でも」
言って、なのはは手を伸ばす。その手はフェイトの目の淵に触れた。
「やっぱり、フェイトちゃん、どこか辛そうだよ」
彼女は溜まっていた涙を拭ってくれたのだ。なのはの指先が濡れているのを見て
フェイトは思った。
けれど、それは苦しいからではなくて、辛いからでもなくて、ただ頭をぶつけた拍子に
出てしまっただけのものだ。
「なのは」
だから、彼女が考えているようなものではないのだと言おうとするフェイトに、なのはは
小さく頭を振る。
「うん。でも、辛そうだから。放っておきたくないよ」

554 名前:0 distance[sage] 投稿日:2008/01/28(月) 22:41:09 ID:JpR5BIUI
不思議だった。ぐらぐらと不安定だった心は、なのはの声を聞くだけで芯が通ったように
落ち着いていく。今、自分ははここにいるのだとはっきりと感覚出来る。
「何か、あったの?」
「…う、ん」
「話、聞かせてくれる?」
「……ごめん」
フェイトは目を伏せる。彼女を困らせたくなかった。勝手に心配して、勝手に不安になって
いるだけなのに、その感情をぶつけるのは間違っている。他の誰に言えても、なのはに
だけは言えなかった。
しかし、フェイトの謝罪の言葉を聞いても、なのはは穏やかに微笑んだままだった。
「謝らなくていいんだよ。でも、もしほんの少しでも話せることがあったら、話して欲しいな」
なのはがのんびりとした口調で、決して急かさずに告げる。ほんの少しでもいい。その言葉に、
フェイトは口を開く。
「…嫌な、夢を見たんだ」
「うん」
「それで、それをずっとこんな時間まで引きずっちゃって」
「うん」
小さく打たれる相槌がフェイトの次の言葉を引っ張り出す。目線を上げてみれば、なのはがずっと
こちらを見てくれていることに気が付いた。
「ただそれだけなんだ。みんなに心配かけて、本当にごめん」
「本当にそれだけなの?」
更に何かを聞き出そうと顔を覗き込んでくるなのはに、フェイトは苦笑して本当だよと答える。
その顔を見て、つられたようになのはも笑った。
「フェイトちゃんがそう言うのなら、わたしはこれ以上はもう訊かないよ。ちょっとまだ心配だけど、
話してくれて嬉しいな」
そう言ってから、なのはは急に真顔になった。怒っているのではないのだろうが、先程よりも強い
視線にフェイトは思わずたじろぐ。

556 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/01/28(月) 23:00:43 ID:JpR5BIUI
「フェイトちゃん、一人で抱え込みすぎたらダメだよ」
いきなり切り出されたその台詞は、普段ならばフェイトが口煩いほどなのはに言っているものだった。
その意外さに目を丸くしたフェイトを見て、なのはは不満そうに顔を歪める。
「フェイトちゃん、今なのはには言われたくないって思ったよね」
「いや、その…少しは」
流されるままに本音を漏らしてから、さすがに正直に言い過ぎたかとフェイトは後悔する。
「酷いなあ。わたしは真面目なのに」
しかし、大袈裟に落胆してみせるなのはは、言うほど気にしてはいないようだった。
その証拠に、彼女はすぐにまた優しく微笑む。
「フェイトちゃんはわたしのことが心配だって言うけど、わたしだってフェイトちゃんのことが心配なんだよ」
その笑みには微かに困っている風が滲み出ていた。フェイトは黙ったまま、次の言葉を待つ。
「みんなが辛そうな時はすぐに分かってくれるのに、自分のことはいつも大丈夫って一言で済ませちゃうから」
なのはが体勢を変え、二人の距離が少し縮まる。
「本当は、もっとたくさん聞かせて欲しいんだよ。フェイトちゃんが感じたことも、思ったことも、
考えたことも。何でも一緒に、は無理かもしれないけれど…フェイトちゃんのこと、ずっと
近くに感じていたいから」
そう言って、またなのはは笑った。いつだってこうして彼女は笑顔を絶やさない。
けれどそれに飽きるなんてことは決してなく、魅入られるようなその表情がフェイトの内の燻る
想いを強くする。
「わがままかな」
そんなことはない。私だって同じ気持ちだ。答えたいのに、口が上手く回らない。
気持ちばかりが先走って、空回りしているように感じる。
それでも、もっと彼女の近くにいたい。その存在を感じていたい。
次の瞬間、フェイトは無意識になのはの手を取っていた。

557 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/01/28(月) 23:01:22 ID:JpR5BIUI
「…フェイトちゃん、どうしたの?」
「えっ、あ、ごめん!これは、その…」
咄嗟に繋いでいた手を放し、再び距離を開けようとしたフェイトを、今度はなのはが手を取ることで
制した。
「フェイトちゃん。今考えてたこと、教えてくれる?」
「い、いま、考えてたこと?」
フェイトは混乱する。分からない。無意識の行為だったのだから、明確な目的なんてなかった。
ただなのはの近くに、もっと近くにいたいと、それだけを思って。
「……っ!」
刹那、自分の考えを理解したフェイトは顔を紅潮させた。駄目だ。これは言えない。心配してくれている
なのはに対して、こんなことを思うのはあまりに失礼だ。
「何でもないから、本当っ」
とにかくこの場から逃げ出したくなったフェイトだったが、思いの外しっかり握られている手がそれを
許してはくれない。更に、あろうことかなのははその手でフェイトの頬を包み込んだ。両の頬に手を
添えられ、フェイトは視線すら逸らすことを防がれてしまった。
「フェイトちゃん」
「う……」
逃げられない気配をひしひしと感じる。それ以上に、なのはが至近距離にいるという
事実がこれ以上ないくらいフェイトの鼓動を早める。
誤魔化さないといけないのに、なのはに見つめられている今それは不可能だ。この
状態で平然と嘘を吐けるほどフェイトは出来た人間ではない。
「…いな、って」
「え?」
零れた声がよく聞き取れなかったなのは。フェイトはごくりと唾を飲み込んで、覚悟を決める。
「なのはのこと、抱き締めたいって、思った」
周囲に誰もいないせいか、いやに声が通った。
「…え、ふぇえええっ?」
今度はなのはが顔を赤らめる番だった。一方、既に何かを振り切ったかのようなフェイトは
僅かに照れを残してはいるものの、落ち着いたトーンで話を続ける。

558 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/01/28(月) 23:02:20 ID:JpR5BIUI
「駄目かな、なのは」
「えっと、ちょっと待ってっ。ううん、待ってって言うか…その、どうして、っていうのも
おかしいよね。わたしが言って欲しいってお願いしたんだし…うう」
「ごめん。嫌ならいいんだ。なのはを困らせたくはないから」
「嫌じゃないよ!それは本当!」
戸惑うなのはが、その意思だけは声を張って示した。その真っ直ぐさがフェイトには素直に嬉しい。
だが、当の彼女は暫しの間うんうんと唸って何とか気持ちを落ち着かせようとしていた。
「…うん、分かった。その、こう言うのはおかしいのかもしれないけど、フェイトちゃんが
したいなら、いいよ」
言い終えたなのははちょこんと姿勢を正す。完全に待ちの姿勢に入ったのだ。
そんななのはに、フェイトがゆっくりと手を伸ばす。恐る恐る、と形容するのが的確かもしれない。
よくよく考えてみれば「抱き締めたい」「いいよ」なんて会話の後に、その通りに実行するのは
恥ずかしいことこの上ないではないか。
無論、なのははそんなこと気にしていない。見ている人だっていない。
けれど、何より自分で自分が恥ずかしいのだ。
徐々に動きが緩慢になる。ああ、何であんなに包み隠さず本音を言ってしまったのだろう。
フェイトは開いていた手を閉じようとする。やはり、止めておこう。それがいい。
だが。
「わっ…!」
それよりも前に、痺れを切らしたなのはが自分からフェイトを抱き締めた。心臓が破裂するかと思うほど
勢いよく跳ね上がる。
「なな、なのは!何で…!」
「もー。フェイトちゃんがしてくれないからだよ。止めようとしてた?」
図星だった。考えが全て見透かされている。
「…ねえ、フェイトちゃん。抱き締めてくれる?」
なのはにそう言われて、フェイトが拒否できるはずもなく。またそうする理由も、今となってはもう
何もない。なのはがそうしているように、フェイトも腕を彼女の背に回す。
今、二人はこんなにも近くにいるのだ。

559 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/01/28(月) 23:03:00 ID:JpR5BIUI
相手の心臓の音が聞こえる。仄かに鼻に届いてくるのはずっと求めていた
匂いだった。もっと近くに、と一方が手に力を込めれば、もう一方も応えるように
もっと強く抱き締め返す。
「フェイトちゃん。わたしね、今フェイトちゃんのこと、とっても近くに感じてるよ」
耳元で囁かれる声は、涙が出るくらい優しい声だった。うん、とフェイトは彼女への
精一杯の気持ちを込めて頷く。
「なのは、あたたかいね」
「にゃはは。そうかな?」
「うん。私も、感じてるよ。なのはの温度、なのはの声、なのはの匂い…」
なのはの全てを、彼女を構築するあらゆるものを全身で感じる。夢の中では
感じられなかったものだ。この手から零してしまったものを、確かにフェイトは
今感じ取っていた。
まだここにある。この手で守りたいもの。大切な人。
そして、これからもずっと。
今朝の悪夢はもうとうに薄れ、彼方へと消えていた。今のフェイトは、腕の中にいる
大切な人で満たされている。
「フェイトちゃん。今、何のこと考えてる?」
フェイトはいつまでもこうしていたいと強く願う。思うこと、考えることを言葉に乗せて
なのはに伝えることで、それは叶うのだろうか。なのはが伝えてくれるたくさんのことを
受け止めた分だけ、その願いは現実へと近付くのだろうか。
「なのはのこと、もっと強く抱き締めたい。もっと近付きたい」
「…そこまではっきり言われると、ちょっと恥ずかしいかも……」
「今更だよ」
言い出したのはなのはの方なんだから、とからかうフェイトに、なのはは不貞腐れたように
頬を膨らました。けれど、こうして笑うフェイトは本当に可愛いから、少しくらいは我慢しよう
と思う。

560 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/01/28(月) 23:04:10 ID:JpR5BIUI
「…それなら。近付いて、抱き締めて、それからどうしよっか?」
開き直ったなのはがそう言って、フェイトの要望通りに動く。もう何も彼女達を止めるものはない。
「もっとだよ、なのは。今よりもっと、もっと近くで、もっと強く、私になのはを感じさせて―――」
もう二度と悪い夢なんか見ないように。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。その音を、二人は意識のどこか遠くで聞いた。


結局、気晴らしに屋上に行ったはずのフェイトと彼女の様子を見に行ったなのはが
友人達の前に戻って来たのは午後の授業が終わり、放課後下校しようかという頃合だった。
そんな長い時間、二人が何をしていたかという追求は数日に及んだが、どれだけ
質問責めをしても両者とも顔を真っ赤に染めるばかりで最後まで答えることはなかったという。

561 名前:名無しさん@秘密の花園[sage] 投稿日:2008/01/28(月) 23:04:45 ID:JpR5BIUI
これで終了です。途中で規制されてしまった…急に中断してしまってすみませんでした
>>555の方、ありがとうございました

長編を書いてたんですが詰まってしまったので短編に逃げました
しかし、後半のいちゃいちゃを書きたかっただけだったのに気付いたらこんなに長くw
またこの悶々とした妄想が形になった時にはお世話になりたいと思います
どうか、こんなんでもみなさんの妄想…と言っては何ですがwほんの少しでもそれの足しに
なればなあ、と願っとります
それでは、スレ汚し失礼しました
2008年01月30日(水) 01:59:18 Modified by nanohayuri




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