「だってはやてさんが……フェイトママがちっちゃい頃、なのはママを襲おうとしてたって……」
「！！」
想像だにしなかった娘の反撃の前に言葉を失う二人の母親。
当時のこと――ヴィヴィオに言われた通りの光景――がなのはの頭をよぎった。
娘にそんなことまで把握されていたこと、娘の友人――いや恋人か――の前でそれを暴露されたことにいたたまれない恥ずかしさを覚えつつ、横目でそっとフェイトをうかがう。
……だめだ。耳まで赤くなって固まっている。
なにを思い出してるんだろう。そんなことが頭をよぎり、余計に恥ずかしくなる。
自分の頬にも血が上るのを自覚しつつ、なのははフェイトに助けを求めるのをあきらめた。
はやてへの文句を頭の隅におしやり、とにかくこの場は自分がなんとかしなければと気持ちを奮い立たせて口をひらいた。
「……ヴィヴィオ。ママたちは別にそんなことはしてな」
「だだだだってなのははすごく可愛かったんだよ！」
慎重に言葉を選んでいるなのはの横で、フェイトが唐突に声をあげた。
いきなりの大声にフェイトをのぞく三人はびくりと肩を震わせ、おそるおそるフェイトの方へ顔をむけた。
今にも目をまわしそうな顔のフェイトが上ずった声でまくしたてる。
「わたしはなのはが大好きで、友だちになってからもっともっと好きになって、なのはに抱きしめられたり手を握られるとあったかいし、やわらかいし、い、いいにおいが、」
「ふぇ、ふぇいとちゃん！！」
あわててフェイトの口をふさぎにかかるなのは。
「いいにおいがするし、もうなのはのモガッ」
両手でフェイトの口をふさいだ。ふさいだのはいいものの、いきおいあまってそのままフェイトと一緒に倒れこんでしまう。
ごんっ。
そしてフェイトはしたたかにリビングの床に後頭部をうちつけたのだった。



「ん……いたた……」
「フェイトちゃん……？」
フェイトはなのはのひざ枕のうえで目をさました。
後頭部の痛みに顔をしかめながら、ぼんやりする頭で何があったのかに思いをめぐらす。
「あ……ヴィヴィオとアインハルトは……？」
「うん……二人ともフェイトちゃんのこと心配してたけど……大丈夫だからって、もう部屋に戻ってもらったよ」
「そっか……」
「ごめんね、フェイトちゃん、大丈夫……？」
涙のうかんだなのはの目尻に、フェイトはそっと手をのばした。
「うん、こっちこそごめんね、なのは……」
そのままそっと愛しい人の栗色の髪をなでる。
「……私だってフェイトちゃんのこと、ずっと大好きだったんだよ」
「……うん」
「……今だって」
「……うん」
「これからも、ずっと……」
「……うん」
フェイトはあきることなく、なのはの頬を、髪をなでつづけた。


細くひらいたドアの隙間からのぞく二つの影。
視線の先にはひざ枕をして、声もなく見つめ合う二人の大人。
「ヴィ、ヴィヴィオさんのご両親、すごいですね……」
「そ、そうですね……」
気恥ずかしいような、心強いような、誇らしいような。
なんとも言えない気分になりながら、ヴィヴィオは二人の母親を見つめていた。