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「――んっ!?」
「……フェイトちゃん、どうしたの」
コーヒーを飲むなり口を押さえて唸ったフェイトちゃんに首を傾げて問いかけた。
すると、フェイトちゃんは苦笑いを浮かべて、
「……あはは……砂糖入れるの忘れちゃった」
と少し恥ずかしそうに言った。
いつも大人っぽいフェイトちゃん。
勉強でも運動でも人並み以上にこなすフェイトちゃん。
そんなフェイトちゃんだったけれど、味覚は少々子供っぽかった。
苦いもの全般がダメなのだ。
ゴーヤはもちろんブラックコーヒーなんてもってのほか。
好き嫌いは良くないと、無理やり胃に収めることは出来るようなのだけれど、
美味しいとは感じないらしい。
だから、私の家や翠屋ではフェイトちゃんに合わせた甘さでコーヒーを出していた。
もちろんそのことはフェイトちゃんも分かっていた。
ただ、今いるのは初めて寄った喫茶店でそのことを失念していたのだった。
違う店で、いつもの様にカップを手に取り、いつもの様に口に含んで……固まった、と。
「さ、最近はましになったんだよ? うちだとスプーン半分は減らすようにしてるし……」
「あはは」
恥ずかしそうに砂糖を加えながら言い訳するフェイトちゃんがなんだか可愛くて笑ってしまう。
すると、少し拗ねたようにうつむいてしまうフェイトちゃん。
その姿も可愛くて、ますます笑顔になる私にますます拗ねるフェイトちゃん。
「……はぁ……もー、格好悪いなぁ……」
「いいじゃない。可愛いんだから♪」
「う〜……でも……」
「私、フェイトちゃんの可愛い所大好きだよ」
「…………」
真っ直ぐに見つめて言うとフェイトちゃんがまたうつむく。
さっきとは違う意味で顔が赤くなっているみたいだった。
優しくて強くて格好いいフェイトちゃん。
そんなことは私も、周りの誰だって知っている。
でも、こんなに可愛いフェイトちゃんは彼女が心を許している数人しか知らない。
もっといろんな人に知らせたい、と思う反面、
自分だけが知っているフェイトちゃんの姿をもっと知りたいとも思ってしまう。
そんな少し矛盾した感情を抱えながら、私は頬を赤く染めるフェイトちゃんを見つめていたのだった。
おわり
2012年11月18日(日) 21:24:11 Modified by sforzato0