第六十九景 槍鬼 << 物語 >> 第七十一景 虎殺
駿府城の堀にかかる橋にて、笹原に声をかける男。修三郎を呼び止めたのは、駿河藩武芸師範、日向半兵衛正久。季節と、牢人者の話題を語った後、一介の武芸者に稽古をつけるの控えるべき、こちらは勝って当たり前、向こうはかすっただけで名誉ゆえと忠告した。修三郎の顔面が羞恥に紅く染まった。最後に、笹原の槍は誰のものか、、、とも。
笹原邸では、源之助が鉈を薪に押し当て、腕力だけで割っていた。それを見つめながら、感嘆の声を上げたのは、瓜田仁右衛門。源之助と同じく、笹原邸に身を寄せる牢人者である。四月の更衣に備えて、三重と共に洗い張りを行うのは、仁右衛門の妻、茅。茅の腹は膨らみ始めており、三重が尋ねると、蜩の鳴く頃には生まれるとのこと。それまでに仕官が叶えばと茅が言うと、仁右衛門は接写脳では笹原様のお墨付き、さらに鯉こくは乳の出を良くするからと、釣りに出かけた。気の早いことと茅が笑い、三重も微笑む。三重が笑うと、源之助の頬も幾分か緩んだ。
夜、ある任務に関して修三郎の上役である曾根将曹邸にて。怪しと思われる者、つまり隠密は見つけたかとたずねる将曹。それに対して、身柄を預かりし二十二名の浪人者、いずれも人品骨柄正しく武芸優秀、笹原の名にかけて怪しと思われる者は皆無と修三郎。しかし殿から隠密を発見せよと命令が下っており、自分が犠牲となりかねない将曹は、修三郎から牢人台帳を借り、目をつぶりある頁を破りとった。
「このもの隠密なり」
そう宣言した将曹にご無体と修三郎が告げるが、またしても、笹原の槍は誰のものかと聞かれる。その言葉を聞き、何かを思う修三郎。この槍は駿河大納言、忠長公のお意志に従い、働くばかりだと言い切った。
あくる日、髪と顔を整え、正装になった仁右衛門。修三郎に呼び出された仁右衛門は、このたびの推挙はお礼の申し上げもないと挨拶した。修三郎は見せたいものがあるといい、あの舌切り槍を持ち出した。大蛇といえども小指に満たぬ大きさ、その的をこの穂先で貫くことができると思いかと質問した。仁右衛門は返答に窮した。無理といえば礼を欠き、できるといえば巧言になる。そこで笹原どのの槍は、余人の及ばぬ精妙な働きをするものと回答した。左様、と一言いい舌切り槍を頭上で回転させた修三郎。その一閃、舌切り槍が三つの心臓を正確に貫いた。
笹原邸にて、鯉こくをすする源之助ら。瓜田様はご仕官をなされたご様子と三重が告げると、源之助は何か考えたあと、何よりにござると一言。
笹原邸では、源之助が鉈を薪に押し当て、腕力だけで割っていた。それを見つめながら、感嘆の声を上げたのは、瓜田仁右衛門。源之助と同じく、笹原邸に身を寄せる牢人者である。四月の更衣に備えて、三重と共に洗い張りを行うのは、仁右衛門の妻、茅。茅の腹は膨らみ始めており、三重が尋ねると、蜩の鳴く頃には生まれるとのこと。それまでに仕官が叶えばと茅が言うと、仁右衛門は接写脳では笹原様のお墨付き、さらに鯉こくは乳の出を良くするからと、釣りに出かけた。気の早いことと茅が笑い、三重も微笑む。三重が笑うと、源之助の頬も幾分か緩んだ。
夜、ある任務に関して修三郎の上役である曾根将曹邸にて。怪しと思われる者、つまり隠密は見つけたかとたずねる将曹。それに対して、身柄を預かりし二十二名の浪人者、いずれも人品骨柄正しく武芸優秀、笹原の名にかけて怪しと思われる者は皆無と修三郎。しかし殿から隠密を発見せよと命令が下っており、自分が犠牲となりかねない将曹は、修三郎から牢人台帳を借り、目をつぶりある頁を破りとった。
「このもの隠密なり」
そう宣言した将曹にご無体と修三郎が告げるが、またしても、笹原の槍は誰のものかと聞かれる。その言葉を聞き、何かを思う修三郎。この槍は駿河大納言、忠長公のお意志に従い、働くばかりだと言い切った。
あくる日、髪と顔を整え、正装になった仁右衛門。修三郎に呼び出された仁右衛門は、このたびの推挙はお礼の申し上げもないと挨拶した。修三郎は見せたいものがあるといい、あの舌切り槍を持ち出した。大蛇といえども小指に満たぬ大きさ、その的をこの穂先で貫くことができると思いかと質問した。仁右衛門は返答に窮した。無理といえば礼を欠き、できるといえば巧言になる。そこで笹原どのの槍は、余人の及ばぬ精妙な働きをするものと回答した。左様、と一言いい舌切り槍を頭上で回転させた修三郎。その一閃、舌切り槍が三つの心臓を正確に貫いた。
笹原邸にて、鯉こくをすする源之助ら。瓜田様はご仕官をなされたご様子と三重が告げると、源之助は何か考えたあと、何よりにござると一言。