[648] 『幸せは愛だよ』 sage 2007/11/16(金) 00:10:57 ID:KVePKgg9
[649] 『幸せは愛だよ』 sage 2007/11/16(金) 00:12:24 ID:KVePKgg9
[650] 『幸せは愛だよ』 sage 2007/11/16(金) 00:13:55 ID:KVePKgg9
[651] 『幸せは愛だよ』 sage 2007/11/16(金) 00:14:49 ID:KVePKgg9
[652] 『幸せは愛だよ』 sage 2007/11/16(金) 00:15:50 ID:KVePKgg9

「ヴィータ」
「ん? ……むぐ、おー冷てぇ……んだよ?」
「―――愛って、いいね」
「止まることなく沸いてんのか? その頭は」

―――――――――――――――――――

 ユーノに奢らせたギガテラックスアイス(not誤字)を口の中で頬張りつつ、ヴィータは半目で目の前の男を睨む。
 目の前のメガネ野郎が高町なのはと付き合い始めたのは知っている。
 子供であるヴィヴィオを通じて初めて己らの気持ちに気付くのだから―――呆れを通り越して感動さえ覚えそうだ。

「……ったく、なぁにが愛だ何が。今のお前らは愛と幸せ正しく絶頂期だろうが」
「馬鹿言うもんじゃないよヴィータ。その表現だとこれからは今以下の幸いしか舞い込まないみたいじゃないか」
「じゃあ、なんだよ。なんて表現すりゃいいんだ」

 気怠るそうに問うヴィータに、何を当り前なという顔で、

「僕たちの幸せには、まだ愛が灯ったばかりなんだよ」
「……」

 爽やかに言い切るアホを見つつ、あれこいつこんなに馬鹿だったかなと首を傾げ―――ああ、磨きが掛っただけかと納得した。
 巨大なアイスをスプーンで切り崩しつつコンスタントに口内へと運ぶ。この痺れる冷たさがたまらない。

「で、愛がいいとかそんな話だったか」
「ああそうそう。聞いてよ」
「聞いてる。聞きたくもねーけど、フェイトやはやてに飛び火するのが忍びないから聞いてる」
「皆、気を使うことはないのに。僕となのはは―――ノンストップだよ」

 人目憚らず飛ばしてる緑スーツを半目で睨み、首を振る。

「ブレーキをつけ忘れた新幹線に並走しなきゃならない人間をどう思うよ?」
「お気の毒に」
「そう思うならブレーキ拾ってこい!」

 付き合っている自分が馬鹿のようだ。むしろ新幹線に紐で括られ、引き摺られてる気もするくらいに。

 ……いや、と己を落ち着かせる。
 奴は自分のペースで話を展開しているから調子に乗るのだ。
 まずは機先を制す必要がある。

 紅の鉄騎はヴォルケンの特攻役。先の先が仕事。
 だからまず先制攻撃で―――図星を突くことで出鼻を挫く!

「愛についても何も、お前ら年中発情期カップルなんだから問題ねーだろ」
「酷いなその言われよう。あ、ヴィヴィオのホームビデオ見る?」
「脈絡がねぇ!」

 先とか後とか前とか後ろの問題じゃなかった。
 いきなり上から落ちてきた話題には頭の切り替えを要する。
 そんな彼女の葛藤を余所に、ユーノは常に持ち歩いている―――映像記録用の媒体を持ち出すと勝手に弄り始める。

「……なんだよそれ。地球式か?」
「そ。少し前に日本に行った際、子供談義で意気投合した白衣の人がいてね」
「ああ、類は友を呼ぶってやつだろ? 知ってるぜ」
「君が何を言ってるのか理解不能だけど……とかく、その人が自分の子供をより美しく鮮明に保存するため、会社の研究費で作ったらしいものを横流しして貰ったんだ」

 良い人だったよ。と、にこやかに笑ってる。

「さらっと言ってるけどそれ犯罪だぞ」
「子供の愛らしさは罪ってやつだよね? 知ってるよ」
「お前が何言ってんのか私にはさっぱり理解出来ねぇ……」

 そのハンディカメラ風のものには、電池ホルダーらしき場所に『UCAT』と記されている。会社名か何かだろうか。
 同じ言葉を使っているはずなのに半分も意思疎通が出来てない2人は、中空に現れた小さな画面に視線を寄せる。
 ユーノが手元のカメラのスイッチを操作すると、その画面に撮り溜められた内容が再生され始める。

「ふふ……ほら見て御覧よヴィヴィオがまだこっちに気付いてない気付いてない―――今気付いた!」
「おい画面にノイズが走ったっていうか今ヴィヴィオの奴なんか投げただろ! なにしてんだお前!」
「あ、これ撮ったのなのはだよ。僕はちょっと忙しくて」
「あいつも忙しいだろ! あのバカ!」

 仕事をしろ仕事を! と叫ぶヴィータもなんのその。
 ヴィヴィオのみを映した映像は回り続ける。

「あ、ちなみにこれは三人で初めてお風呂に入った時ので、」
「意味が分からねえ! なんで一緒に風呂なんか入っててその時の映像を収めてんだよお前ら! ビオレママにでもなる気か!」
「やだなぁ僕は男だからママじゃないよヴィータ」
「どっちでも変わんねぇよお前は」

 女顔だし、相方が男らしいしと言って流しておく。
 ちなみに映像内では裸のヴィヴィオとなのはが映し出されたり、ユーノとヴィヴィオが仲良さそうにじゃれ合う姿などが映ったりする。

――――――――――――――――――――――――――――――

 タオルに泡を含ませてユーノの背中に押しつけているヴィヴィオに、画面内のユーノが笑いかけている。

『あはは、もうくすぐったいってヴィヴィオ』
『んー! でもユーノパパのお背中流すの!』

 ムキになったように首筋から下を擦る。
 ユーノは痛い痛いといいながらも、甘んじてその行為を受けていた。

『……あ、そうだ』

 と、画面内のなのはがカメラを―――ちょうど三人が映るような位置に置いて、ユーノの方へと移動する。
 もちろんなのはは身体にタオルを巻いており、カメラに映る範囲では大事な部分はすべて見えない。
 ただまあ、恐らく近くにいるユーノやヴィヴィオには……タオルが濡れ、透けて見えたりしてるのだろうが。

『え? どかしたのなのは』
『ねー。ヴィヴィオ? 一緒にパパのこと洗ってあげよう? 私は前を洗うから、ヴィヴィオは後ろ洗ってあげてね?』
『うん! 分かった!』
『ええっ!?』

――――――――――――――――――――――――――――――

「おいなんか雲行きが怪しくないか」
「……はて。確かこれは……」

―――――――――――――――――――――――――――――――

 母の許しをもらい、嬉々として娘が背中を洗い始める中。
 なのははユーノの前のタイルにひざまづき、

『―――はむ』

 顔を股間へと沈めて、大事な部分を咥えこんだ。
 いきなりの事態に驚いたユーノは、慌てたように後ろのヴィヴィオから前が見えない様に必死に両手でガードする。

『うわ!? ちょ、ちょっとなのは! ヴぃ、ヴィヴィオが後ろにいるのに……あう!』
『ふふ……ゾクゾクするでしょ? ん、じゅる……』
『パパー? 気持ちいいー?』
『あ、う、うん。き、気持ちいいよー。と、とっても』

 ヴィヴィオはそんな母の痴態に気付かず、夢中でその背中を洗っている。
 激しいストロークと共にぐちゅぐちゅという水音が響き、なのはの頭が上下する。
 歯を食いしばったユーノは必死にそれに耐えているようだったが―――流石に限界が近いようで。

 それを見取ったなのはは一旦彼の陰茎から口を放し、涎を滴らせながらも―――淫猥に笑った。

『ぷは……んふ。ねぇヴィヴィオ? 自分の身体を泡だらけにして、パパの身体に擦りつけて洗ってあげて? パパ、とっても喜ぶから……』
『ほんと? やる!』

 母の言葉は素直に聞くいい子なのである。
 が、焦るのは当然やられる方で。

『え、ええ!? なのは、それは流石にっ―――』
『じゃあ、ママも前から一緒にするからね……?』
『うん! ママと一緒! えいっ』
『観念してね、ユーノ君。……ん、あっ……!』

 後ろから娘の身体が、前からは熟れた幼馴染で恋人の裸が抱きついて来て―――

――――――――――――――――――――――――――――――――

「ざっけんな!! 何見せんだコラ!」
「あ、あれ? おかしいな……確かなのははカットしたって言ってたのに……」

 そういう問題じゃねえー! と、周りの人の視線も無視してヴィータが叫ぶ。

「おかしいのはお前らの頭だボケ! ガキの前ですんな!」
「何を?」
「そ、そりゃ、そ、そそそういう……って言わすなセクハラメガネ!!」
「あはは。ヴィータは可愛いねー」
「おめえに言われると激しくムカつく!」

 ぜーはーと息を吐きつつもマイペースな目の前の男を睨みつける。
 そして呼吸を整えつつ―――

「つーかヴィヴィオはともかくなのはの裸をこんな公共の場で出すなよ……」

 仮にもここはカフェテラス。
 時間が時間なので満員というわけではなく人も疎らだが―――全く誰もいないわけじゃない。
 すると目の前の無限書庫司書長は口の端で笑った。

「大丈夫大丈夫。―――見た奴は社会的にお陀仏してもらうから」
「職権濫用ってんだよそういうのは!」

 とりあえず周囲の誰も見ていないことに安堵する。
 ……今の奴は嫁(仮)と娘(仮)の為なら鬼となるだろう。理不尽な、と前につくが。

「ヴィヴィオもカメラが回ってなければ僕にベタベタなんだけどね……」
「この映像盗撮か! ってか止めろ!」

 どおりでさっきからヴィヴィオが無防備だと。
 画面を見ると、ヴィヴィオとなのはの肢体にサンドイッチされるユーノがいつまでも映っていた。殴る。が、生憎ホログラフなので通用しない。
 するとユーノは慌てたように両手を広げて弁解する。

「盗撮だなんて違う! 見ての通り母親の了解は取れてる!」
「本人の意思は無視か!」
「だって見てよほら……普段通りの甘えたがりなヴィヴィオが画面に……」

 ユーノの背中に抱きついて楽しそうに身体を上下させる姿は、まあ、幸せそうで。
 確かに可愛いと言われれば可愛かったが―――

「でもな、盗撮は止めとけな」
「いや、だから盗撮とは人聞きの……まあ、善処します」
「善処じゃなくて止めとけな」

 グラーフアイゼンの構えを取ったヴィータの迫力に押されたらしく、ユーノがうっと息をのむ。

「うう、でもヴィヴィオが……」

 と、今度は涙目で落ち込み始めた。
 きっとなのはも今じゃこんな感じなのだろう、とゲッソリするヴィータ。
 頭をボリボリと掻くと、顔を上げて諭すように言う。

「カメラ向けても人目憚らず抱きつかれるくらいに好かれりゃいいんじゃねえか?」
「……成程。確かにそれは……流石に含蓄がある……」
「てめぇ今、人を年寄り扱いしただろ」

 今気付きましたと言わんばかりに尤もらしく頷く。
 そのメガネを見やってから、溜息。

「全く親バカってレベルじゃねーなお前ら……」
「じゃ、何さ」
「決まってる」

 肩をすくめわざとらしく口元を歪める。
 そして突っ込みを入れている間にデロっと溶けたアイスを虚しそうに見つめ、ようやくお風呂場のシーンからヴィヴィオの授業風景に映った映像に目をやり。

「超お似合いの―――バカ親だよ」

 それだけ言って笑うと、身を乗り出してユーノの前髪を指で弾く。
 うーん、と不満そうに唸っている輩を置いておいて、ヴィータはふと外を見る。
 歪んだ次元の揺らめきは見えず、人工的に作られた昼が覘く世界。

 馬鹿が増えても世界は変わらず。
 さりとて、少しずつ動いていた。

「結局てめえらが付き合い始めても、現状特に変わらねえんだな」
「ん? そりゃそうでしょ。僕となのはのことなんて、世界からすれば些細なことだよ」
「おーおー。流石に無限書庫の司書長様は言うことが違うね」
「そういうことじゃあないけどさ。ま、何にせよだヴィータ。世界は変わらなくても個人の世界観にはそれなりの変化もあるんだよ」

 と、言って。
 今まで彼女が見たことないような柔らかい微笑みを浮かべたユーノは。
 ヴィータへと笑いかけ、告げた。

「だから、愛っていいよ?」
「―――!」

 突如としてヴィータが顔を真っ赤にする。
 どうしたの? と聞くがうるせえ! としか返ってこない。
 変なヴィータだなぁ、と思っていると―――ヴィータが唸って、悔しそうに吠える。

「う、うう……変な顔で笑うんじゃねぇ!! 認めねえからな!」
「え、何を!?」
「何もかもだ!!」
「き、君も大概理不尽だよっ」

 これだから毎日が面白い。
 形はどうあれ、愛ってなんて、素晴らしい。


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著者:シナイダ

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