[724] 『続・幸せは愛だよ』 sage 2007/11/25(日) 08:31:31 ID:dg1EKl56
[725] 『続・幸せは愛だよ』 sage 2007/11/25(日) 08:32:25 ID:dg1EKl56
[726] 『続・幸せは愛だよ』 sage 2007/11/25(日) 08:33:14 ID:dg1EKl56
[727] 『続・幸せは愛だよ』 sage 2007/11/25(日) 08:34:12 ID:dg1EKl56
[728] 『続・幸せは愛だよ』 sage 2007/11/25(日) 08:35:11 ID:dg1EKl56

「つまり僕が何を言いたかったかというと―――なのはとの生活は実に順風満帆であるということだけなんだ」
「黙れクソメガネ。叩き割るぞ」
「そんなことをしたら死ぬぞ! 僕が!」
「メガネが本体なのかよ!」

――――――――――――――――――

「で、今日はなんだ。どんな議題だ」
「うん。まずはこの映像を見て欲しい。こいつをどう思う?」

 止める間もなく中空へと映し出される映像。
 そこに映っているのはヴィヴィオ。そして、ユーノ。
 ヴィヴィオはユーノに肩車して貰いながらも、恥ずかしそうにカメラのほうを気にしている。
 まあ、展開的に間違いなくカメラを構えているのはなのはなのだが―――以前は撮られていることに気付いた瞬間カメラの破壊に出ていたことから成長が見られる。

 照れつつも父親の頭から手を離さず、嬉しそうに頬を染めている少女。
 何があったかは知らないが、ユーノはヴィヴィオの懐柔に成功しているらしい。

「―――で?」
「可愛いでしょ」
「ああ。まあ可愛いけどよ」
「可愛いよねぇ」
「……そうだな」
「ああ可愛い」
「それだけかよ!?」

 何か続きがあるのかと思って待っていたヴィータがその男のメガネを上に弾く。
 あ、と彼が声を上げる間に右手を突き出してその両眼へとジャンケンチョキ。
 ぐぎゃmがえhぴがdsんごあという声を上げて地面へと転がる金髪尻尾頭の姿が実に滑稽だった。

「ったくよぉ。会うたびにこんなもん見せられるこっちの身にもなりやがれ……」
「い、ぐぐ……何を言ってるんだいヴィータ。こんなヴィヴィオの姿を見られて実に幸福だと思わない?」
「ヴィヴィオの元気な姿や成長を見るのはいーさ。けどそれとこれとは話は別だっつーの」
「はぁ、意地っ張りだな。まあ、ヴィータの長所だよねその意地は。個性だ、大切にしなよ?」
「お前人の話聞いてるか?」

 多分聞いてないし聞く気無い。
 ここは常にパーフェクトワールドと言わんばかりに両手を広げ、自慢げに。

「愛っていいよね」
「ふーん」

 そっけないヴィータにユーノはむう、と呟いてから。

「ヴィータって恋はしないの?」
「お前なぁ……所詮こっちはプログラムだっつーの。恋とか愛とか、あるわけねーだろ」
「それは違う」

 真剣な顔で、ユーノが否定する。
 自嘲気味だったヴィータもその態度に驚いて、一歩下がってしまう。

「な、なんだよ。何が違うんだよ」
「ヴィータは確かにプログラムかもしれないけど―――そこには、確かに心があるだろう。心があれば、恋も愛もきっとあるよ」

 ユーノは今まで彼女に殆ど見せなかったような真剣極まり無い顔で、スッと指をヴィータの胸に突き刺す。
 そこにあるのは心臓。
 いや、心臓ではなく―――心の在り処。
 ……やはり今代の主の周りの奴らは、馬鹿みたいにお人好しばかりだぜ、と思いつつ。

「なあユーノ」
「何?」
「お前、今、自分がどこ触ってるか分かってるか?」
「どこって……胸板だけど」
「胸だボケ! このセクハライタチ!!」

 激しい衝撃がユーノの身体を吹き飛ばし、螺旋の回転力を持って空中を舞い踊ったユーノが反対側の机と椅子の群れに突っ込む。
 ヴィータの手にはグラーフアイゼン。主の意志に呼応した鉄の伯爵はその姿をラケーテンフォームへと変じて対象を撃ち抜いていた。

「―――死んだか?」
《ja》
「あ、死んだんだ―――って流石にやりすぎたか!? おい無事かユーノ!」

 慌てたように瓦礫の山と化したそこへと駆け寄る。
 周りでは局員たちが何事かとそれを眺めていたが、それも気にせずに右足だけ突き出して埋まっている馬鹿を掘り出そうとする。

「おい、しっかりしろ! 傷は深いぞ!」
「え、殺す気マンマン!?」

 珍しいヴィータのボケに思わず突っ込むユーノ。
 瓦礫の山の中からなのでなんの恰好もついていないが。
 とりあえず周囲の局員たちの手も借りつつなんとか中から這い出てきたユーノは頭を擦って地面にへたり込む。

「はあ……死ぬかと」
「まず、なんで生きてるのか聞いていいか」

 ミッドチルダの非殺傷設定とかいう生温いそれと違い、ベルカのアームドデバイスは直接打撃だ。
 しかもドリルドリルとしたラケーテンフォーム。カートリッジロード済み。
 なんで生きているのだろうか。

「ふふ……『こんなこともあろうかと!』さっき君の胸を触る前から予め自分の前面にシールドを展開していたんだよ」
「お前、『こんなこともあろうかと!』って言いたかっただけだろ」
「まさか。ああ、でも地球に行った時に会った機械を直してくれる人がいてさ。その人にこのハンディカメラの修理頼んだんだよ」

 また何か変人と遭遇してきたらしい。

「直ったらしく、取りに行ったら―――ミサイルとか電流とかディスなんたらフィールドとか展開出来る装置までついててさ」
「……戦闘用カメラ? まあ、水中用カメラとかあるしな……ってか質量兵器……」
「うん。だから丁重にお断りしたらその人は言ったんだ『こんなこともあろうかと! 予め普通の修理もしておいたんだなぁこれが!』って」
「じゃあ初めからそっち出せよ!」

 世の中変態ばかりなのだろうか。
 でもね、とユーノはしんみり語る。

「その後、奥さんが出てきて『あんた! また無駄なことにお金を使って! 今月はもう食べていくお金も残ってないのにどうするのよ!』と言ったんだ」
「……」

 まだ続くのだろうかこの話。

「―――で、そこからは見事、昼ドラのような展開で家庭崩壊していく様が見るに耐えなくて、少し多めにお金を包んで置いてきた」
「ああ、うん。それは……いいのかそれ?」
「まあ仕事に対する正当な報償ってことで……」
「ふうん。でだ」
「うん?」

 ヴィータが笑う。
 ただし、額に青筋を立てつつ。

「予めシールド展開をしていたってことは―――お前、わざとアタシの胸に触ったってことでいいんだな?」
「あ。あんなところにゲボうさの気ぐるみが」
「え、どこ!? どこに―――ハッ!?」

 超反応したヴィータを置いて、ユーノは全力ダッシュを敢行してた。
 気づいた時には既に数十メートル離されていたことに気付いたヴィータが怒りをあらわにしてその後を追う。

「待ちやがれ! てめえやっぱり生かして帰さねえ!」
「待ったら生きて帰れない! ―――ああもしもしなのは? うん、今本局。もうちょっとしたら帰れるからさ、うんうん。あはは、あ? ヴィヴィオ」
「余裕だなお前!」

 吠えるヴィータを無視しつつ、廊下を走る。
 手元の携帯端末からは愛しの娘の声が柔らかく耳を擽る。

「うん分かってる。ああ、じゃあ帰りに買って帰るよ。ええと、なんだっけ……コアドリル?」
「ぐ、あいつなんであんな逃げ脚はえ―――お?」

 すると、廊下の向こうから見覚えのある姿が見えた。
 すらりとした長身、武装隊のアンダースーツに身を包んだ長髪の女性。
 それは、間違いなく自分と同じプログラムの―――

「シグ―――」
「あぁ〜いのうったがぁぁぁぁ命を叫びっぃぃい! YO、YO! 夢を壊しぃ、空へをKILLぅぅ! I CAN FLY! ―――む? ヴィータか」
「すんません人違いでごぜーました!」
「くっ、シグナムさんか!」

 ヴィータの叫びはまたも無視されるが、シグナムはユーノの姿を見、それを追うヴィータを見て―――頷く。

「スクライア。悪いがくい止めさせてもらう」
「―――おお? なんかよくわかんねーけど話が通じた! 頼むシグナム!」
「分かっている。行くぞレヴァンテイン!」
《YAHOOOOOOOOOOOOOOOOO!!》
「あれそれほんとにレヴァンテインか!?」

 普段からテンション高めなデバイスだが、今日はまた一段とベクトルの違うテンションの高さだ。
 すると、それと聞いたシグナムが物凄い勢いでヴィータを睨みつけた。

「ヴィータ貴様! 私の相棒を疑うつもりか!」
「へ?」
「ヴィータ……いくらなんでもそれはレヴァンテインに失礼だよ……」
「え?」

 足を止めたユーノと、こちらを睨んでいるシグナムに視線でとらえられ、思わずその場に立ち止まるヴィータ。
 なんだろうこの展開、と思わなくもなかったが、取りあえず流れ的に。

「お前という奴は……一度その根性を鍛え直す!」
「やっぱり!? うああああん厄日か今日はぁぁぁ!」
「ヤクビ? ヤクビって何?」

 そんなユーノの問いに答えてる暇はない。
 が。
 別にシグナムの標的はヴィータだけではなかった。
 取りだされたデバイスによる一撃は、途中にいたユーノの足もとにも見事直撃の様子を見せ―――

「うわ僕も!?」
「お前も止めておくということを先程約束したのでな。騎士は約束は守る」
「なんかシグナムさんの方向性が掴めないんですけど! うわああヴィータ一緒に逃げよう! どこまでも!」
「ど、どこまでもって、―――う、うん! あ、いや、あ、アタシは別にお前となんか逃げたくねーんだからな!? 仕方なくだぞ!?」
「え、あ、うん。分かってるけど」

 ヴィータとユーノ、並んでシグナムの剣先から逃げ続ける。
 すると、ヴィータは次第に笑いが込み上げてきた。
 ヴィータはくつくつと、笑いながらもなんとか逃げることに集中しようとするが、それが止まらない。

「何さ?」
「くっくっく……いんや。―――別にまあ、こんな日があってもいいかな、ってさ」
「ふーん。ヤクビなんじゃなかったっけ?」
「そりゃあ厄日さ。でも、まぁ……」

 目を瞑って。
 それから軽くユーノを見上げて、無邪気に笑う。

「―――厄日ってのは、今までと変わりない最高の毎日ってことだからよ」
「ああ、そういえば前に遺跡発掘に行った際に会った盗掘者の護衛の人が似たようなことを―――オミヤーゲがどうのこうの……」
「ええいもうどうでもいいぜ! 逃げるぞユーノ!」

 ユーノの手を引っ掴んで走る。
 それは、数百年の日々の末に手に入れた、安寧の一ページ。


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著者:シナイダ

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