[261]ある少年とある少女のごった煮な話2<sage>2007/07/17(火) 20:41:10 ID:iWbAd+ck
[262]ある少年とある少女のごった煮な話2<sage>2007/07/17(火) 20:42:32 ID:iWbAd+ck
[264]ある少年とある少女のごった煮な話2<sage>2007/07/17(火) 20:44:04 ID:iWbAd+ck
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[269]ある少年とある少女のごった煮な話2<sage>2007/07/17(火) 20:50:06 ID:iWbAd+ck
[270]ある少年とある少女のごった煮な話2<sage>2007/07/17(火) 20:51:40 ID:iWbAd+ck

〜case FTH もしもリンディ提督に会いに行ったら〜

「………フェ、フェフェ、フェイト…でいいかな?」
パッとフェイトの表情が華やぐ。エリオは慣れない呼び方に真っ赤になった。
「敬語も無しだよ?」
そういってはしゃぐフェイト。その様子を見てエリオは恥ずかしさ以上に嬉しくなった。
出来ればこの笑顔をもっと見てみたい。
「あの…駄目元なんだけど…一度フェイトさ」
「フェイト」
睨まれた。
「フェ、…フェイトのお母さんに会えるかどうか頼んでみようか?」
その一言にフェイトの目が大きく見開かれる。
「っ!!いいのっ!?」
今や彼女の顔は期待で一杯だ。
「出来るかどうかわかり…わからない…けど」
(リンディさんに説得してもらったら六課に戻ってもらえるかもしれないし…)
ほんの少しの打算もあるので少し罪悪感を感じつつ、エリオは行動に移った。
ストラーダを介して通信を繋げる。
通信先は以前教えてもらったリンディのプライベート回線だ。
暫く時間が経過した後に繋がった。
「すいません、リンディ・ハラオウン提督ですか?
 エリオ・モンディアル三等陸士です」
『リンディさんでいいわよ。私とエリオ君の仲なんだし。
 それより聞いたわよ?今どこにいるの?早く戻らないと皆心配してるわ』
どうやらリンディは誰かから事情を既に聞いているようだ。
「あ、聞いてましたか。それに関してなんですが…
 フェイトさんの説得を手伝って欲しいのでお時間頂けませんか?」
『説得?』
「えぇ、六課に戻るようリンディさんから説得していただきたいんです」
『……えぇ、解ったわ。
 今日はもう仕事は無いから場所を指定してくれないかしら?』


通信を切り、リンディは椅子に深く身を沈めた。
なのは達から詳細は聞いていて今のフェイトが自分を知らない事は理解している。
だから、会う事はお互いにつらい想いをするだけだとも言える。
フェイトが本当に会いたい人物が誰かも理解している。
だが、今のフェイトの母親は自分だ。
今、フェイトが覚えてないからという理由でフェイトから逃げ出す事、
それをしてしまえば二度と彼女へ向き合えないだろう。
覚悟を決める。
何パターンか考えた上で最も彼女を傷つけないであろう説明を選択し、地上へと向かう。
母親であるという、その矜持を貫くために。

フェイトの胸は期待で一杯だった。
何せ、エリオの話では既に自分とプレシアは仲直りしていて
彼女の最大の望みであった『優しい母さん』になってくれているのだから。
厳しい訓練もあの辛い時間も全て報われた。
早く優しい母さんに会いたい、その想いで彼女の胸は一杯だったのだ。
自分だと解りやすいように元の髪型に戻した。服装は変だがしょうがないので我慢。
変でないかどうか何度も何度もバルディッシュやエリオに確認し、
今はその時を待って公園のベンチで縮こまっている。
「あ、こっちです!」
エリオの呼ぶ声。つまり『母さん』が来たという事。
身を一層固くしてフェイトはその時を待つ。伏せていた視線に足が移った。
女性の足だ。視線を上げるとそこには――――――


見たこともない女の人が立っていた。

「こんにちは、フェイトさん。
 私はプレシアさんに頼まれて今貴方を預かっているリンディ・ハラオウンです」
その緑の髪の優しげな女性が告げた。
「えっ?」
エリオが驚きの声を上げる。
だかフェイトの聞きたい事はそんな事ではない。
暫くの沈黙の後にようやくある言葉を口にする。
「……母さんは?」
「プレシアさんは10年前に亡くなられました。
 貴方の事を最後に任されたのが私です」
つまり
(―――――母さんが――――死んだ―――――?)
震える足で立ち上がる。
「あなたは……母さんじゃない……母さんじゃないっ!!」
そう叫んでフェイトは駆け出した。行くあてもなく。


「フェイトさんっ!」
エリオが叫ぶがフェイトは止まらない。
「追い掛けてあげて?もう私の言葉は聞いてくれそうにないから」
「…はい!失礼しますっ!」
律儀に会釈をしてからエリオは駆け出す。
ひとり残されたリンディはエリオが見えなくなってから
フェイトが座っていたベンチにゆっくり腰かけた。
「やっぱりやめとけば良かったのかしら?」
口から出るのは意味の無い呟き。顔に浮かぶのは自嘲の笑み。
覚悟はしていたが、フェイトの言葉に想像以上のダメージを与えられた自分に気付く。
「…………」
先程のフェイトの言葉を反芻する。しょうがない事だ。
まだ自分と知り合っていないフェイトなのだから。
ましてや彼女の世界の中心はそれまでプレシアだったのだから。
理由はいくらでも思いつく。
しかし…震える足は立ち上がる力を持たず、頬を流れるものは止まらなかった。


「フェイトさんっ!」
バルディッシュに場所を教えて貰い、ようやくエリオは追い付いた。
そこは公園内の森の中だ。
エリオの言葉にフェイトが振り向く。その瞳にあるのは涙と純粋な敵意だ。
「――――嘘つきっ!!!」
フェイトの叫びがエリオの心に突き刺さる。
「嘘吐きっ!嘘吐きっ!嘘吐きっ!嘘吐きっ!」
彼女の怒りと嘆きは当然だ。結果的に彼女を傷つけたのはエリオだ。
彼女から見れば嘘を吐いたと思われても仕方が無い。
だからエリオは返す言葉を持たない。
その代わりに
「嘘吐きっ!嘘吐きっ!嘘吐きっ!嘘吐――――――」

思い切り抱きしめた。

エリオは初めてフェイトが自分より小さい事に感謝する。
精神が錯乱したフェイトは9歳の少女の腕力と体力しか持たない。
エリオでも何とか押さえられた。
フェイトが抵抗する。
足を思い切り踏まれた。背中に爪を突きたてられた。
鼻に頭突きをかまされ、鼻血が吹き出た。首筋を血が出るほどに噛みつかれた。
だが
(離すもんかっ!!)
エリオの腕は解かれない。
フェイトの今の恐慌状態は子供の癇癪だ。
そしてフェイトはそんな子供を優しく抱きしめてなだめてくれていた。
エリオはこの方法しか知らない。
だからこの腕は離さない。


夕日が森の緑に赤色を添える頃、エリオの腕の中でフェイトは寝ていた。
エリオはこのまま機動六課に連れて行こうかと考え…やめた。
彼女が自分で選択しなければまた逃げ出すだけだ。
そして無理矢理連れて行けばまた彼女を騙す事になる。彼女の信用は得られないだろう。
そう考え、フェイトを背負い、今朝までいたビルに向かう事にした。
あちこち怪我している少年が少女を背負って歩くというのは流石に奇異な目で見られたが
エリオは気にせず街を抜け、再開発区域へと辿り着いた。朝の廃ビルへと辿り着く。
(明日、一度管理局に戻るように言ってみないと…)
階段を登り、扉を開けて

吹き飛ばされた。廊下を滑る。
「ん〜ふ〜ふ〜ふ〜ふ〜…探しましたよォ?」
エリオが急いで頭を上げるとそこには横たわるフェイトがいた。
流石に目は覚めている筈だが彼女はピクリとも動こうとしない。
と、彼女の周りを青い壁が囲う。ケージと呼ばれる捕縛魔術の一種だ。
「そこでぇ大人しくしておいてくださいねェ?」
エリオが声のする方に目を向けると、そこには一人の男が立っていた。
その男は紺色の防護服を纏い、左手には何故か鎖を下げていた。右手には深緑色のデバイス。
目つきは爬虫類を連想させ、本能的な悪寒を感じさせる。
エリオは壁に手をつき、ヨロヨロと立ち上がる。思い切り撃たれた脇腹が痛む。
「ぐ…貴方は…?」
男が立ち上がったエリオに気付き、慇懃無礼に礼をする。
「あァ、自己紹介が遅れましたァ…ワタクシ、しがない商人でございます」
顔を上げ、視線があう。エリオの背筋に怖気が走った。
防護服を装着し、ストラーダを構える。
解る。魔力量やフェイトにかけたバインドからこの男の実力は自分の遥か先にあると。
「……………時空管理局古代遺物管理部機動六課所属、エリオ・モンディアルです。
 危険魔法無断使用の現行犯で貴方を逮捕します」
そこで一旦言葉を切る。
「貴方には弁護士を雇う権利と黙秘する権利があり」
「おやァ?かかって来ないのですかぁ?無理ですよねぇ?
 調べてますよ?エリオ・モンディアル。貴方Bランクですもンねェ?
 AAランクのワタクシに正面から挑む程馬鹿ではない…と?」
見透かされていた。背中に嫌な汗が流れる。だが続ける。
「何故こんな事を?」
「応援が来るまで10分?15分?まァいいでス。今気分が非常にイイ!ので付き合いましょう。
 数年前まで競売の仕切りなどをやらせて頂いていたのですがねェ?
 そこの執務官殿に主催していた競売を潰されまして…
 哀れなワタクシは失意のドン底!そこに以前の御得意様からァ声がかかったのですよォ?
 あの商品を手に入れれば資金援助をして下さる…と」
そういってケージ内のフェイトを指差す。
「ワタクシにべもなくその話に飛びつきました!
 でも相手はオーバーSの執務官殿。ワタクシ風情が叶う相手ではございませン。
 そこでコレ!今回の目玉商品!」
そう言って青い透明な玉を取り出した。ロストロギアだ。
「コレで気絶したところを攫おうと思っていたのですが…
 いやはや、キミに見事に邪魔されましてねェ?
 さァ…何分稼げました?あと何分待てばお仲間がいらっしゃるんですかァ?」
そう言ってスフィアを展開する。35個の魔弾が宙に出現した。
「それまで生きていられるとイイですねェ?」
魔弾が放たれる。
狭い廊下だ。回避運動をしようにもスペースが全く無い。
「―――がぁっ!!!」
ほぼ全弾喰らって吹き飛ばされた。また廊下を滑り壁に叩きつけられる。
「ホラホラ?囚われのお姫様を助けなきゃ?そんなザマじゃ騎士失格ですよォ?」

フェイトはケージの中でぼんやりと眺めていた。
気付いた時には朝までいた廃ビルに横たわっており、ケージに囚われていたのだが…
それら全てがもう彼女にはどうでも良かった。
彼女にとって全てであった母親がもういないのだから。
エリオと、見たこともない一人の魔導師の会話が聞こえる。
自分が誰かに商品として売られようとしている。
そんな事実もフェイトの心に恐怖ひとつ呼び起こさない。
エリオが魔導師の光弾に何度も何度も吹き飛ばされる。
しかしフェイトの心には波ひとつ立たない。
何もかもどうでもよかったのだ。
(母さんがいないなら……)

「ん〜?逃げてばかりでは何時までたっても助けられませんよォっ!?」
男の言葉にエリオの足が止まる。
「…そうですね…」
魔導師に正面から向かいあう。
左足を前に、右手を引き、ストラーダの穂先に左手を添えた。
正面にいるのは魔導師。その背後にはケージに囚われているフェイトだ。
「今から…徹します。……止められるものなら…止めてみろっ!!」
「んん〜!恰好イイですねェっ!だけど…それが出来ますかァ?」
男の周囲に魔弾が浮かんだ。数えるのが嫌になる程の量だ。
「ストラーダっ!カートリッジロードぉっ!」
『explosion!』
スライド音と排気音が響く。魔力が漲る。
左足に力を込めた。

駆け出す。
「一」
魔弾が放たれる。
「閃」
右手。穂先。左足。右肩。右目。左脇腹。首。右足。
そこから先はよくわからなかったがとにかく体のあちこちに着弾した。
だが、止まらない。
「必」
ストラーダに光が灯る。
弾幕を抜けた。右手を突き出し、叫ぶ。
「中」
『speer angrif!!!』
突き抜けるっ!

「なァっ!?」
結論から言うと、魔導師は避けた。
魔力量から、彼のシールドでなら防ぎきれる突撃だとは解っていたのに、避けてしまったのだ。
それはエリオに気圧されたという事に他ならない。
エリオは突き抜ける。
その先にはフェイトが囚われているケージがあった。
砕きの音が響く。

すぐ横には扉があった。自分ではあの魔導師に勝てないのは理解している。
「フェイトさんっ!」
フェイトの手を取り、逃げ出そうとして
「―――離してっ!」
振りほどかれた。
「おやおやァ?お姫様はナイトを御所望では無いようだ?」
魔導師の男が笑みを深くする。

もうどうでもいいのに。何で彼はボロボロなんだろう。
「フェイトさんっ!何でですかっ!」
何で彼は叫んでいるんだろう。疑問は今までからっぽだった心に大きな波を呼ぶ。
感情のままにフェイトは叫んだ。
「もういいのっ!私なんてっ!母さんがいないんだからっ!」
涙がこぼれ落ちる。
「母さんが望んでくれないんだったら私なんて生きている意味がな――――」

「僕がっ!!!」

フェイトの叫びを更に遮るほどの大音量の叫び。
この場所でそんな声を張り上げる人物は一人である。
エリオだ。
「僕が望んだんじゃ駄目ですかっ!!僕が望んだからじゃいけませんかっ!!
 僕はっ!僕はフェイトさんに生きてほしいんですっ!」
フェイトの心の波が、今までと別の意味で揺れだした。
「僕だけじゃありません!キャロだって!なのはさんだって!
 シグナムさんだってみんなみんなみんな!みんなフェイトさんに帰ってきてもらいたいんです!」
もう一度エリオはフェイトの手を掴んだ。
今度は振りほどかれない。力任せにひっぱってフェイトを立たせる。
「フェイトさんが逃げたいならそれでもいいです!
 追いかけてっ!追い詰めてっ!いつか絶対に帰ってもらいますからっ!!!」
フェイトの意思を無視した無茶苦茶な言葉だ。
だが…
「―――――フェイト」
「フェイトさんが嫌でも」
「フェイト!」
フェイトの声の調子が変わった事にエリオがようやく気付く。
「……フェイトさんじゃなくて、フェイトだよ?」
「――――フェイトさ」
「フェイト」
「……フェ、フェイト」
彼女の顔を見れば瞳はまだ涙に濡れていた。だがそこに浮かぶのは確かな笑み。
「エリオには無理でも…二人なら倒せるよね?」
「はいっ!」
「敬語は禁止っ!バルディッシュっ!」
『stand by』
母さんがもういない事を納得出来たワケではない。
だが、自分をこれ程までに望んでくれた人がいたのだ。
だから…もう少し、生きてみたい。彼の話を聞いていたい。
そう、思えた。
だが、それには目の前の男が邪魔だ。
「子供二人に何が出来ると思ってるんですかァっ!?」
ならそんなモノは吹き飛ばしてしまおう。

フェイトはエリオが寝たのを確認した後に自室へ向かった。
ある人へと通信を繋ぐ。
画面に映し出されるのは
「母さん?」
リンディ・ハラオウンその人である。
「あら、こんな夜遅くにどうしたの?」
「えっとね…今日中に言わないといけない事があって…」
リンディの目は赤い。理由なんて考えるまでもなかった。
言葉に乗せられる想いなど僅かだ。
だが、それでもありったけの想いを込めて、言葉を紡ぐ。


「ありがとう
 母さんになってくれて」




〜続々々case FTH 医務室にて〜

機動六課医務室。
現在ふたつのベッドが占拠されていた。
しかもフェイトとはやてという二人のエースによってである。
本来なら慌てるべき事態であるが原因が判明している事とその原因のあまりのくだらなさに
周囲は呆れかえるだけであり動揺などは起こらなかった。
ちなみにエリオには貧血という嘘の理由しか告げられておらず、
故に彼は全力でフェイトの看護をしている。
しているのだが…
「エリオ、食べさせて?」
フェイトが邪魔しまくっていた。
正確には事あるごとにエリオに甘えて、エリオを赤面させているのだ。
現在も、食事として持ってきたスープをエリオに食べさせるように強請っているのだ。
エリオは度重なるフェイトの我が侭に疲れきっていた。
「あのっ!ひとりで食べれるでしょう?」
「でも…気分悪くて…」
そういって目を伏せる。
(……ホントに気分悪いのかな…でも…)
真面目な少年は些細なフェイトの仕草の変化に大いに悩む。
しかし…フェイトの方は自分がエリオに甘えるというナカナカ無い機会を満喫しているだけだった。
「………あの、じゃあ食べさせますから…ベッド起こしますね」
元来他人をあまり疑わないエリオの方が先に折れるのも当然である。
ベッドを操作してフェイトの上半身を起こす。
そしてベッドの上にテーブルを出してスープを起き…そこでエリオの挙動が止まった。
スープは今作ってもらったばかりだ。
つまりホカホカであり湯気は盛大に立っている。フェイトが呟く。
「私、猫舌なんだ…」
聞いた事など勿論無いが本人が言うのなら本当なのかもしれない。
エリオは悩み抜いた挙句、仕方なく…本当に仕方なくだが
エリオはスープをひとさじ掬うと、それに息を吹きかけて冷ました。
そのままフェイトの口に運ぶ。
フェイトはそれを雛鳥のように咥えた。
「おいしいですか?」
「……あまり味がわからないな。エリオはどう思う?」
そう問われて、エリオはひとさじすくって口に入れた。
口の中に広がる優しい味。正直にエリオは感想を口にする。
「おいしいと思いますよ?」
だが、フェイトの反応は味など全く関係ないものだった。
「間接キスだね♪」
エリオの顔が一気に染め上がる。フェイトの表情はニコニコと笑顔のままだ。
「ホラ、次食べさせて?」

エリオにとってはとても長く、フェイトにとってはとても短い時間が過ぎた。
スープの皿は綺麗に空になっている。
ベッドの上の皿をどけて、テーブルを閉まおうとして、エリオの視点が一瞬止まる。
だが次の瞬間にはもの凄い勢いで首を逸らしていた。
そのあからさまに不自然な挙動にフェイトが何かを感じ取り、
エリオの視線が一瞬止まった位置を考え始める。
(…えっと…あの時はエリオは私の胸元を見てたような…)
自分の胸元を見下ろしてみると医務室の服に包まれた何の変哲もない自分の胸しかない。
(……あれ?)
いや、そこには確かにいつもと違うところがあった。
一度検査されて寝巻きを着させられた為に、下着類などを全くつけていないのだ。
つまり、ノーブラであり、普段はわからない乳首が服の上からでもハッキリわかるのである。
「エリオ」
声をかけると少年はビクリと反応した。その様子にフェイトは確信を得る。
「どこ見てたのかな?」
「ど、どこも見てませんよっ!」
少年の顔はまた真っ赤である。
「私の胸に何か変なものでもついてたりした?」
遠まわしに探ってみた。
「………………」
「エリオも結構エッチだね」
とどめ。少年のもだえ苦しむ様に意地悪な快感を覚えるのをフェイトは確かに感じた。

しかしそれが終わると、しばらくエリオに頼むことは無かった。
折角の機会なのだ。もっと何かエリオを困らせる事はないかとフェイトは探す。
(………そうだ!)
「エリオ…お願いがあるんだけどいいかな?」
「何ですか?」
「寝汗かいちゃったから体拭いて欲しいんだけど…」
フェイトは想い描く。
一度顔を真っ赤にしてそれから渋々頷いて、恥ずかしながら自分の体を拭くエリオを。
なら自分はわざと胸をエリオの手に押し付けたり、エリオに見せ付けたり…
だが、エリオの反応はフェイトの思い描いたものとは少し違っていた。

「いい加減にしてくださいよっ!」

顔は確かに真っ赤だったが…そこに浮かぶのは怒り。
「さっきから無茶な事ばかり言って!それだけ元気あるなら僕もう帰りますからっ!」
叫び、出て行くエリオ。
「え?」
フェイトの思考はその事態の急変についていけない。
エリオの言葉を反芻する。
「え?」
エリオの表情を思い出す。怒りだった。
「あれ?」
つまり…エリオに拒絶されたのだ。


ひとり残されたフェイトに沈黙が重くのしかかった。

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目次:ある少年とある少女の話
著者:一階の名無し

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