350 ジャスト・ラック・ブルース(3話 1/5) sage 2008/03/10(月) 06:40:25 ID:exxQQ/AL
351 ジャスト・ラック・ブルース(3話 2/5) sage 2008/03/10(月) 06:41:40 ID:exxQQ/AL
352 ジャスト・ラック・ブルース(3話 3/5) sage 2008/03/10(月) 06:43:36 ID:exxQQ/AL
353 ジャスト・ラック・ブルース(3話 4/5) sage 2008/03/10(月) 06:44:45 ID:exxQQ/AL
354 ジャスト・ラック・ブルース(3話 5/5) sage 2008/03/10(月) 06:45:49 ID:exxQQ/AL

追っ手が2人やられたことから魔導師たちはゲンヤを「ただの脆弱な非魔導師」
という認識をあらためより集団で探索を行っていた。

そんな魔導師らをいきなり鉄砲水が襲った。

「へっ、ざまあみやがれ」
水路の上には備え付けのレンチで水量調節のパネルをいじるゲンヤがいた。
魔導師はこの鉄砲水に飲み込まれてくれるだろうと思っていたが。

「ありっ?」
水は全てプロテクションで防がれていた。

(そりゃそうだよな、こんな小手先、魔導師相手に効くわけねーよな・・・)

そんな事をゲンヤは考えていると、魔導師たちはプロテクションを解除し、デバイスをゲンヤに向けた。
無数のシューターがゲンヤめがけてとんでくる。

「のわっ!?」

ゲンヤはシューターを扉を通路の閉めかわしながら通路を奥の方へ逃げた。
配管や曲がり角が多いこのエリアは、ゲンヤにとっては好都合であった。
多くの弾が誘導しきれず管や柱、水路の壁、またゲンヤの操作によって閉じられた扉に当たっていく。

そうして魔導師たちが閉じた扉を破壊している間にゲンヤは廊下に埋め込まれている柱のボルトを
レンチでゆるめていった。

ゲンヤが逃げた通路の奥には地下水路の水を一気に集める集水室があった。

内部は落差工という人口の滝がたくさん集まっている。
底は非常に深く、その落差工を一気に見ることができる管理橋の上にゲンヤは追い詰められた。

しかしゲンヤ奥にたって身じろぎもしない。代わりに数を数え始めた。
「5・・・4・・・3・・・2・・・1」

「天国に行くカウントダウンか?」
そう魔導師たちは行って嘲ったが、ゲンヤもニヤッと笑いこういった。

「いや、お前らが地獄に落ちるまでのカウントダウンさ」

そういいながら、ゲンヤは後ろにある調整器のスイッチをたたく、即座に警告音が鳴り魔導師達の上に
落差工の水が降ってきた。

もちろんこれらもただの水である。プロテクションで軽く防がれたが、魔導師たちの乗っている足場が
『ミシミシ・・・ガコン!!』と悲鳴を上げた。

落ちてくる水の衝撃に耐え切れず床が抜けたのだ。

管理橋は周囲の柱や管により支えられていたが、ゲンヤは相手のシューター集水室の周囲を支える柱に
当たるようにわざと誘導しながら逃げたり、ボルトをゆるめたりしていたのだ。

床が抜ける直前にゲンヤは自分の真上にある配管にしがみついた。

しかし、魔導師らの方は防御に集中していたため、気づいたときには時すでに遅く、防御魔法
を展開したまま落ちていった。

配管にぶらさがりながら底の見えない穴を見てゲンヤははき捨てた。

「安心しろ、クソったれども。BJはそんなやわじゃねぇ。もっとも、1日は足腰たたないだろうけどな」

集水室手前の吹き抜け。崩落した集水室の出入り口からゲンヤが現れた。
そんなゲンヤにヴィンセントが近づいてきた。

「よう、あらかた片付けたぜ、出口までもう少しだ」

そう言って、ゲンヤは不意に後ろの出入り口を見た。その直後に穴の底からシューターがとんできた。

「ヴィンセント!」ゲンヤはヴィンセントを突き飛ばした。
シューターが無数にはじけゲンヤの周囲で魔力の爆発が起こった。

「ゲンヤさん!」
トレンチコートは裂け、身体のあちこちから血が出ている。
「大丈夫だ、カスリ傷だぜ。こんなもん」
ゲンヤは軽くそう言った。

ヴィンセントは最初はゲンヤに肩を貸して歩こうとしたが、ゲンヤはヴィンセントの手をどかして
壁のボタンにパスコードを入力して扉を開け、そして言った

「その扉を抜けて先2ブロック右に曲がって長い直線の奥にあるマンホール。そこが近隣の陸士部隊隊舎の真上だ」
「ゲンヤさんは?」

「俺は少し一服してから行くことにするよ。なに、すぐに追いつく。そんな不安な顔するんじゃねえよ」
そういってトレンチコートのポケットからタバコを取り出しヴィンセントに見せて笑った。
「よし、行け!全力で走れ!!」

そしてヴィンセントの背中を精一杯強く押すと、扉を閉めた。そしてゲンヤは力が抜けたようにタバコの箱を落とし
壁に寄りかかるようにして沈んだ。立っているのもやっとだった。

穴の底から魔導師らが上がってくるのがわかる。空戦魔導師が少なからず混じっていたらしい。

(やれやれだぜ・・・)かろうじてポケットからライターを取り出し火をつける。

そして、そのタバコの火を見ながら不意にあの今日がちょうど「あの日」だということを思い出した。



4年前、今日みたいにきれいな夜空だった日。

そして燃え盛る炎が地上を覆いつくした日。
レリックの爆発によりミッドチルダの臨海第8空港は未曾有の大火災に見舞われた。
狂える炎に立ち向かう災害救助班の中心に2人はいた。

『よし!避難の誘導完了!周囲にバイタルなし。待たせたな!魔法使っても大丈夫だぜ!』
『はい!』

そうして月夜に詠唱がこだまする。
『仄白き雪の王、銀の翼以て、眼下の大地を白銀に染めよ。来よ、氷結の息吹、アーテム・デス・アイセス!』
燃え上がる空港を包むように上空に浮かぶベルカの魔方陣。そして青い光が狂える炎を消していく。

はやての広域魔法とゲンヤの錬達した指揮のコンビネーションにより、火災は予想以上の
速さで消えていった。
数時間後、はやてが指揮車に戻ってきた。周辺も落ち着きを取り戻し始めている。

「よう、嬢ちゃ・・・すまん、八神一尉、よくやったぜ!!」
はやてが敬礼をしてきたので一応形だけの敬礼をし、感心したようにゲンヤは言う。

「そんなことは・・・ナカジマ三佐の指揮がいなければ、うまく使えなかったですから」
「そうかねぇ?俺なんか魔導師でも何でもないからな、嬢ちゃんらが行動しやすいよう適当に指揮をとってただけだよ」

「いえ!本当に感謝してます!ナカジマ三佐の指揮は本当に的確でした」
「そうかい・・・感謝されるってのは俺には一番似合わないんだよな。ガラでもねえし。でも、ありがとよ」

そう言ってゲンヤは交替士官と入れ違いに指揮車を降りていった。
振り向きざまにはやてにいった。

「感謝してるっていうんなら、今よりもっといい魔導騎士になってよ。4年後にでも返してくれや」
そして2人は別れた。いつもの軽口であった。ゲンヤは別に返してもらうつもりは毛頭なかった。

(あのチビたぬき・・・しっかり覚えてやがったのか・・・)

魔導師が下の穴や奥の通路から集まってきた。
奥には壁にもたれてタバコをくわえたゲンヤがいた。

魔導師の一人が問いただす
「奴はどこだ?」
「さぁな」

ゲンヤはとぼけた様に、軽くそう受け流した。
すると魔導師はゲンヤの左肩をデバイスで撃ち抜き、激痛に顔を歪ませるゲンヤを再び問いただした。

「最後のチャンスだ。奴はどこだ?」
「・・・(やれやれだぜ)」ゲンヤは自嘲気味にそう思った。

くわえたタバコももうフィルターしか残っていない。

ギンガとスバルには悪いがそんな俺の人生も納め時ってところか。

ボロボロのトレンチコートに安物のソフト帽、ださい陸士の制服じゃ格好がつかないよな。

こんなんで逝ったら真っ先にクイントに笑われちまう。

「死ね」

返答がないことを確認すると、魔導師の一人が無情に言い放ち、杖をゲンヤの頭に向けて魔力をこめ始めた。

ゲンヤは静かに眼を閉じた。

(八神、てめえとの約束、守れそうにないぜ・・・)



前へ 次へ
目次:ジャスト・ラック・ブルース
著者:44-256

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

メンバーのみ編集できます