550 名前:ティアナ・ランスターの疑問[sage] 投稿日:2008/10/07(火) 21:06:39 ID:xhmZaGjs
551 名前:ティアナ・ランスターの疑問[sage] 投稿日:2008/10/07(火) 21:07:26 ID:xhmZaGjs
552 名前:ティアナ・ランスターの疑問[sage] 投稿日:2008/10/07(火) 21:08:00 ID:xhmZaGjs
553 名前:ティアナ・ランスターの疑問[sage] 投稿日:2008/10/07(火) 21:08:44 ID:xhmZaGjs
554 名前:ティアナ・ランスターの疑問[sage] 投稿日:2008/10/07(火) 21:09:35 ID:xhmZaGjs

 この春、機動六課の解散に伴いティアナはフェイトの執務官補佐となり、クラウディア所属となった。
 新しい職場に始めは緊張したものだが、打ち解けるのは早かった。
 フェイトと執務官補佐のシャリオは一年間同じ職場で働いた仲であり気心は知れている。それ以外のク
ラウディアクルーも、大半が元アースラクルーでありフェイトとは長い付き合いだ。そのフェイトの補佐
ということで、ティアナにもなにかと親切にしてくれる。
 一ヶ月もする頃には、ほとんどの同僚と軽い雑談ぐらいは交わせるようになっていた。仕事の方もフェ
イトとシャーリーが丁寧に教えてくれ、大きな失敗は一度も無い。
 そうして余裕が出てくるにつれ、職場のくだらない噂なども小耳に挟むようになってくる。
 曰く、オペレーターのあいつと食堂のお姉さんが付き合ってるらしい。
 曰く、訓練室の壁が一ヶ所やたら新しいのは、たまたま仕事でやってきた某教導官がぶっ飛ばしたから
だ。
 曰く、あいつのバストサイズが急に上がったのは、さる伝説の乳揉み師に胸を揉まれたからだ。
 曰く、艦内の自販機に必ず「砂糖とミルク入り」とでっかく印字された緑茶があるのは、さる国家的陰
謀によるものだ。
 突飛なゴシップもどきな噂も多いが、そんな中でもまれに真実が含まれていたりして驚いたりすること
もある。
 そんな中で、ティアナが一番気になっているのが噂がある。

 曰く、クロノ艦長と妻であるフェイト執務官は時々艦長室でよろしくやっている。




         ティアナ・ランスターの疑問




「ここの部分だが、もう少し詳しく書いてくれ」
「いつもこれぐらいの説明で通じているんですが」
「提出先の空士五八部隊の隊長が変わったのは知ってるだろ。彼は最近まで内勤組だったから、まだ空士
隊について分かってないことが多いと思う。丁寧にやって悪いことはない」
「……そこまで気を使う必要あるんでしょうか」
「今はこちらも向こうも忙しくない。こういう時にこそ丁寧な処理を心がけていれば、本当に忙しくなっ
た時に困らずにすむ。違うか?」

 フェイトが提出した書類の報告をしているのを、同じく執務官補佐であるシャリオと並んで聞きながら、
ティアナは報告相手である男性にそっと目をやった。
 クロノ・ハラオウン提督。執務官時代から数々の功績を上げて、管理局記録至上最年少で提督に任命さ
れた人。ほんの一月前までは機動六課の後見人でもあった。
 そして、フェイトの夫でもある人。
 機動六課時代にしばしばクロノは六課の隊舎を訪れていたが、三等陸士にすぎないティアナと接点は無
く、廊下を歩いているのを眼にしたぐらいである。
 堅物だという噂を聞いていたが、実際に上司となってみるとけっこう柔軟な人だった。ミスについても
最初はじっくり話し合ってどうしてミスが出たのか、どうすれば同じミスをしなくて済むかを指し示して
くれる。厳しい叱責を受けるのは、同じ過ちを二度繰り返してからである。

「そういうわけだから、そこだけ書き直してからもう一度持ってきてくれ」
「分かりました」

 返された書類を揃えているフェイトと、ディスクに座って別の書類に目を通しているクロノの様子をティ
アナは見つめた。
 夫と妻という雰囲気はまるで感じられない。あくまで上司と部下といった風である。

「そろそろお昼だね。ティアナとシャーリーは先に食堂行っててくれる? 私はもうちょっと艦長に報告
することがあるから」
「はい。ついでにフェイトさんのご飯と席、確保しておきましょうか?」
「だったらお願いできるかな。Bランチで」

 フェイトに頷き、クロノに軽く頭を下げて部屋を出た。
 食堂ではティアナがフェイトの分を取りに行き、シャリオが売店で二人前のパンを買って席に着いた。
パンの中からジャムパンを選び封を切りながら、ティアナはハムマヨネーズを手に取ったシャリオに訊ね
た。

「フェイトさんって、前からクロノ艦長とはあんな感じでしゃべってるんですか」
「あんな感じって、書類差し戻されたこと? 元々細かいことまで目を配る人だから、けっこうああいう
ことも……」
「そうじゃなくて、あんまり夫婦らしくないかなと思って」
「あー、それは確かに。けどここは職場だから、夫婦だからってあんまり馴れ馴れしくするのは良くない
と二人とも思ってるんじゃないかな。真面目な人達だから」

 パンを口に運びかけたシャリオだったが、途中でやめて首をかしげた。

「でも、言われてみたらちょっと不自然というか、他人行儀かな。他にも夫婦のクルーはいるけど、もう
ちょっとそれっぽい雰囲気あるよね」
「食事を一緒にしてるのは時々見かけますけど」
「ほんと、それぐらいかな」
「……寂しくないんでしょうかね」

 ティアナに恋人はいない。いないが、気になった人はいる。
 機動六課時代に度々世話になったその人は、解散後武装隊に行ってしまい全く顔を合わせていない。想
いを伝えるもなにも、それ以前の段階だったのでそれが当たり前といえば当たり前なのだが、いなくなっ
てから大切さに気づくとはよく言ったもので、彼の顔が見れないというだけでティアナは時折無性に寂し
くなる。
 しかしそんな自分と違って、クロノとフェイトはスキンシップなどほとんどしていなくても平気そうで
ある。見ていると、自分のように強く想ってしまうのが特異なのかと考えてしまう。
 それともあの二人にもティアナと同じような強い感情を持っていた時期もあったが、思いを遂げてしま
えば鳴りを潜め、後は落ち着いてしまうものだろうか。

「実は、夜中にあれこれしてるとか。今もひょっとしたら、報告っていうのは嘘でこーっそりエッチなこ
としてたりして!」
「……趣味が悪いですよ」

 シャリオの発言に眉をひそめつつも、ティアナとて思春期の女の子である。ついつい想像してしまう。
 提督室で二人っきりになると、フェイトは制服のボタンを外し下着を露にする。クロノもその胸に手を
伸ばしてフェイトを抱き寄せ愛の言葉を囁き、やがて二人の唇は重なり……。

「それはないんじゃないかな」

 いきなり後ろからかかった声に、思わずティアナとシャリオはびくりとする。

「ティアナ、隣いい?」
「あっ……はい」

 スパゲティの乗ったお盆を手に座ったのは、エイミィだった。
 クロノとは士官学校からの付き合いで、アースラ時代からの古株の一人でもある。人付き合いの良さは
シャリオにも勝り、ティアナともすぐに親しい口をきくようになった一人である。

「それでさっきの話だけど」
「へ?」
「だから、クロノ君とフェイトちゃんがいちゃいちゃしてるかって話。気になるんでしょ?」
「そ、それは……」

 素直にそうですとも言い難く口よどむティアナだったが、エイミィは勝手に続けた。

「あの二人がくっついた時にも色々噂はあったんだよ。夜中にクロノ君がフェイトちゃんの部屋に入って
いくの見たとか、提督室から出てきたフェイトちゃんの制服が乱れてたとか。それで一度本当かどうか確
かめようと思って、モニター室の子に二週間ぐらい部屋の前を見張っててもらったんだけど……」
「それ、ばれたら減俸ものなんじゃ……」
「どうだったんですか!?」

 興味津々なのを隠そうともせず、シャリオが机の上に身を乗り出す。つっこみを入れたティアナ自身も、
ついエイミィに身体を近づけた。
 だが二人の期待に反して、エイミィは軽く肩をすくめた。

「全っ然そういうことはしてないみたい。二人とも寝る時は絶対自分の部屋。艦長室に長時間滞在した時
も、エッチなことした気配はなーんにも無し」

 クルー全員拍子抜けだったよと言うエイミィだが、シャリオはまだ納得しかねるという顔である。

「じゃあお二人とも夫婦なのに、航海中は本当に全くなにもしていないんですか?」
「それも違うと思うけど」

 スパゲティを一口食べて、もぐもぐと口を動かしながらエイミィは続けた。

「二人とも朴念仁と清純派っぽく見えて濃いからね。キスぐらいはこっそりといっぱいやってるんじゃな
いかなあ」

 そう言って、未だ現れないフェイトの分の定食を意味ありげな視線で見るエイミィだった。

          ※




 ティアナとシャーリーが出て行くと、フェイトもドアに向かった。
 報告すると言ったにも関わらず不自然な行動を取るフェイトだが、別にクロノも驚いた風もない。
 入り口のパネルを操作して鍵をかけると、再びクロノに近づく。今度はデスクの手前ではなく椅子の隣、
クロノの本当に目の前まで。
 いいとも何も訊ねはせず、フェイトはすぐそこにある唇に口づけた。
 乾いている唇は、少しだけざらざらしている。だがすぐにフェイトの唾液とクロノ自身の口から溢れて
きた唾で潤いがつく。唾液が糊の役目を果たしているように、ぴったりとくっついて離れない。
 唇を重ねクロノの体温と味を感じていると、身体の奥が騒ぎ出す。もっと深い場所で繋がりたいと。
 しかしフェイトは想いをしっかりと抑えて、ただ唇を重ねる行為に没頭した。
 これまでどうしても我慢できなくなって、提督室でしたことはあるにはある。しかしやっている最中は
背徳感で燃え上がったがやっぱり後ろめたさがあったため、相談して仕事場ではキスだけ、それも絶対に
他人がいない場合にということにしたのだ。

「ん………あ……」

 根を閉じて僅かに漏れてくるクロノの言葉を舐め取っているうち、情熱が増してくる。
 舌を入れながらありったけの力で背もたれごとクロノを抱きしめ、彼の匂いを肺いっぱいに吸い込む。

 少し苦しくなったのでフェイトは息継ぎをしながら、クロノの耳元で囁いた。

「あと一週間で休暇になるから……その時はいっぱい可愛がってね」
「ああ……けど、今もこれぐらいは」
「ふぁぁ……!」

 喉から顎までの敏感なラインを舐め上げられて、くすぐったい刺激が走る。同時に背中を大きな手の平
が優しく撫で回してくれた。
 ぞくぞくと身震いしながらフェイトも跡がつかない程度に歯でクロノの耳たぶを弄りつつ、横目で時計
をうかがう。
 ティアナ達に疑われない程度の時間まで、あと五分といったところ。
 その間はずっとキスしていようと、フェイトは耳を離れて最愛の人との口づけに酔いしれた。

          ※




「あ、フェイトさんこっちですよー!」

 食堂にやってきたフェイトを目ざとく見つけたシャリオが、手を振ってフェイトを呼ぶ。
 近づいてくるフェイトを見たエイミィが、ふとフォークを持つ手を止めたかと思うと、にやりと笑って
指差した。

「フェイトちゃん、襟元濡れてるよ?」

 エイミィが人差し指の先では、たしかにシャツが濡れていた。ほんの水一滴分程度の、よっぽど気をつ
けて見なければ気づかない程度の濡れ具合。
 だが指摘されたフェイトの変化は劇的だった。
 ばっと襟を押さえたかと思うと、見る間に顔の色が赤く茹で上がっていき、視線は落ち着かなくそこら
じゅうを動き回っている。
 その様子を見て、エイミィが笑みを一段深くした。シャリオも実に良く似た表情へと変わる。

「こっ、こっ、これはクロノの部屋で飲んだ水をちょっと零しちゃって!」
「へえ、コーヒーでも紅茶でもなくてただの水なんだ。クロノ君もケチだねぇ」
「く、クロノがケチなんじゃなくて、私が水でいいって言ったから……」
「あれ? そもそも艦長室って冷蔵庫ありましたっけ。ポットとインスタントコーヒーぐらいしかなかっ
たような?」
「ふーん、ということは、クロノ君ってば沸騰したお湯なんか飲ませたんだ。立派な奥さん虐待だね。裁
判所いっとく?」
「いや、あの、そうじゃなくて……」

 にやにやと、全てを分かりきった上で遊んでいるエイミィとシャリオ。
 対するフェイトは、しどろもどろで無理がありすぎる返事をしている。
 そんな三人を見ながら、ティアナは思った。

(ちゃんとやることやってたんだ)

 なんだか妙に安心するティアナであった。




         終わり


著者:サイヒ

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