752 名前:ノーヴェの純愛奮闘記 [sage] 投稿日:2010/12/05(日) 00:44:42 ID:9NYDg4Vs [2/5]
753 名前:ノーヴェの純愛奮闘記 [sage] 投稿日:2010/12/05(日) 00:45:16 ID:9NYDg4Vs [3/5]
754 名前:ノーヴェの純愛奮闘記 [sage] 投稿日:2010/12/05(日) 00:45:49 ID:9NYDg4Vs [4/5]

ノーヴェの純愛奮闘記 例えばキスの話


 例えばの話。
 彼女で彼氏な関係の男女がいたとして。
 さて、デートの終わり際ときたら、さて、何とするか。
 ホテルにしけ込んでしっぽり濡れる?
 否。
 それは彼女達の場合、不可能であった。
 なにせ……まだその段階まで進んでいないから。


「それじゃあ、俺はもう帰るな」

「あ、うん……それじゃあ」


 家の近くまで来たところで、彼はおもむろにそう告げた。
 ノーヴェは嬉しそうな表情の中に、少しだけ名残惜しげな色を秘めている。
 二人が付き合いだしてそれなりに時が経ち、今では休日にデートを重ねるのもそう珍しい事ではなくなった。
 もっと深い関係になりたいとも思うが、まだ早いんじゃないかとも思う。
 つまり、今の二人はある種の停滞期とも呼べるだろう。
 だからってお互いの気持ちが薄れるか? もちろん答えはノーだ。


「あ、あのさ……」


 ノーヴェをナカジマ家の近くまで送り、彼が立ち去ろうとした時である。
 少女の白くしなやかな指が彼の服のそでをキュッと摘んだ。
 見上げる金色の瞳はどこか寂しげで、物欲しそうな眼差しを投げかけてきていた。
 これが何を欲しているというサインなのか、分からないほど彼は鈍感ではない。


「ああ、良いよ」


 ただ短くそう告げて、彼はそっとノーヴェの肩に手を回した。
 近接戦闘特化の戦闘機人とは思えぬほど柔らかく、小さな肩。
 優しく触れていれば、彼女はただの乙女だ。
 そして青年は、少女の顔にそっと近寄る。
 これから起こる事を察してノーヴェは静かに瞳を閉じた。
 だが、しかしだ……。


「ひゃぁ!?」


 唇に来るかと思った愛撫は、なんと耳たぶに来たではないか。
 軽くチュっと口付けられ、さらに舌がちろりと舐め上げる。
 まったく予期していなかった快感に、乙女の口からは愛らしい声が漏れ、細くしなやかな肢体は震えた。


「い、いきなり何すんだよ!?」

「ん? 何か問題でもあった?」

「当たり前だろ!」


 まるで悪びれた風でもない彼のその反応に、ノーヴェは顔を真っ赤にして怒る。
 今度こそ、と目を閉じてキスに待機する少女。
 だが、彼は次もまたその淡い期待をへし折った。


「ふにゃぁ!?」


 今度はうなじだった。
 ほっそりとした艶かしいそのラインを存分に愛でるように、彼の舌がぺろりと這う。
 加えて、何度もキスが繰り返された。
 ついばむようなバードキスが穢れを知らない乙女の首筋を何度も味わい、痺れるような快感をもたらす。


「んぅ……ふぁ」


 未曾有の心地良い刺激に、ノーヴェは今まで上げた事もない甘い声を漏らして震える。
 だが、少女は彼の腕の中でつたない抵抗を試みた。

 乙女が欲しいのは、もっと別のものだ。


「や、やめろって……そうじゃ、なくて……」

「そうじゃなくて? 何?」 

「それは……その……」


 ちゃんと唇にして欲しい。
 そう口にしてしまえば簡単なのだが、いざ実際に哀願するとなると羞恥心が募る。
 ノーヴェは口ごもって、もじもじと胸の前で指を弄りながら俯いた。
 ちらりと恨めしそうに彼の顔を見る。
 本当に無知からこんな事をしているのか?
 その疑念は一瞬で晴れた。


「ん? どうしたのかな? 何かして欲しい事があったら、ちゃんと口にしなきゃ分からないよ?」


 声音だけは優しげに、だが見下ろす視線と釣りあがって微笑を形作る口元には――明らかな嗜虐の色彩があった。 
 そう、つまり全ては分かっていて行われていたのだ。
 彼はノーヴェが何をして欲しいか知っている、だがあえてその望みを外している。
 何故か?
 決まっているだろう。
 少女の口からどうして欲しいか引き出し、その恥らう様を愛でたいという嗜虐心が故である。
 基本的にノーヴェに対して絶対的な優しさを見せる彼であるが、たまにこのようにやたら意地の悪い事をしたがる時がある。
 それをノーヴェは内心“いぢわるモード”と名づけていた。


「うう……いぢわる……」

「何か言った?」

「何でもない……」


 わざとらしく首を傾げる彼にプイとそっぽを向き、だがすぐに向き直って見つめる。
 こうなった彼は徹底的に意地悪だ、こちらが意地を張ってもきっと敵わないだろう。
 そう諦め、ノーヴェはついに決心して口を開いた。


「し、して……欲しい」

「何を?」

「き、キス……」

「どこに?」

「く、くち……ちゃんと、くちに、して……」


 最後の方はほとんど尻すぼみで消えそうになっていたが、涼やかな声音はしっかりと彼に哀願を届けた。
 普段は少し強気で素直でない少女の儚げで愛らしい言葉に、彼は心底満足げな顔で頷く。
 どうやら、嗜虐心の方は満たされたらしい。
 そうなれば後はいつもの通りだ。


「うん、じゃあちゃんとしてあげないとな」

「ん……」


 髪を優しく撫でながら、そっと彼の顔が近づき、そして……口付けた。
 柔らかい唇の感触を確かめるように触れ合い、舌がするりと絡み合う。
 もっともっと、と、おねだりでもするように、無意識のうちにノーヴェは体を摺り寄せてキスに溺れた。
 一体どれくらいそうしていたか。
 酸欠になりそうな程甘い口付けに陶酔し、ようやく二人の唇は離れる。
 両者の間には透明な唾液が橋を掛け、ぷっつりと音もなく切れた。
 待ちわびた愛撫の快感に酔い痴れて瞳をとろんと潤ませながら、しかしノーヴェはどこか不満そうな顔で彼を見上げた。


「あ、あんまり……いぢわるすんなよな……」

「ああ、ごめんな。でも、ノーヴェだっていけないんだぞ?」

「……あたしが?」


 少女が怪訝そうな顔をすると、彼はささやくようにこう告げた。


「ノーヴェがあんまり可愛いから、たまに苛めたくなっちゃうんだよ」

「〜〜ッッ!!」


 その言葉を聴いた瞬間、恥ずかしいやら嬉しいやらで少女はボンッ! と音が立ちそうなくらい顔を真っ赤に染め上げた。
 羞恥心に紅潮する様に、彼はまた満足そうな顔をしている。
 どうやらまたからかわれてしまったらしい。
 今度こそ少女は憤慨して、プイとそっぽを向いた。


「も、もう知らないからな!」


 まるで捨て台詞とばかりにそう吐き捨てて、ノーヴェは真っ赤な顔を隠すように自宅へと走り去っていく。
 しかし彼はいつもと変わらぬ風に、じゃーね、と手を振っていた。


 まあそんな感じで、二人は仲良しでかつラブラブなのであった。




続く。

 おまけ


「ふう……きもちいいなぁ」



 そう独り言を漏らしながら、一人の少女がベランダへに歩み出た。
 濡れたブラウンの髪は風に舞い、上気した肌は火照りを冷ます。
 パジャマに身を包んだ発育した肢体は、実に美しい。
 乙女の名をディエチ・ナカジマ。
 ゲンヤに引き取られた元ナンバーズの戦闘機人にして、家庭的で淑やかなおとなしい女の子である。
 彼女の固有能力はヘヴィバレル、遠距離から大威力のエネルギー砲撃をぶち込むというその外見からは想像もつかないおっかない力だ。
 が、普段の彼女は清楚そのものであり、趣味はその優れた視覚を用いて夜空を眺めるという奥ゆかしいものである。
 お風呂上りの今もまた、夕焼けの空ともうじき来る夜空のコントラストを楽しもうという算段である。
 が、そこでディエチはある事に気づいた。
 前方、おそらくは百メートルもないだろう、家の近くに見知った人影がある。
 目を凝らせばすぐに視認できた。
 自分の姉妹であるノーヴェ、そして彼女に寄り添うようにしている男性、最近できたノーヴェの恋人だろう。
 きっとデートの終わりに家まで送ってくれたのだろうか。
 優しい人だなぁ、と、一人ごちるディエチ。
 だが次の瞬間、少女は目を見開いて驚愕した。


「え、えええ!?」


 なんと、ノーヴェと青年がくっついてチュッチュし始めたのである!
 その光景の、なんとすさまじい事か。
 ただキスするだけじゃない、ねっとりといやらしく耳やうなじを愛撫しているのだ。
 あまりの事に顔を真っ赤にするディエチ、しかし目は離せない。
 やだもう! とか言いながら顔を手で隠すが、指の隙間からきっちり見ている。
 余すところなく視覚で捉え脳内の記憶野に保存するディエチ。
 他人の色恋沙汰に興味津々なあたりは、やはり女の子である。
 しばらく観察を続け、最後の濃厚なキスを見てしまったディエチは、体を冷ますどころか余計火照らせてしまった。
 というか見ているだけで恥ずかしくなるイチャつきっぷりに顔から火が出そうである。


「はぁ……」


 なんだかポーっとして夜空を見上げるディエチは、口からため息をこぼす。
 今見た光景の余韻に浸り、同時になんだかいけない事をした気分だ。
 まあ公衆の目に触れかねない場所でイチャつく方が悪いのだが、家族のプライベートを覗いてしまって罪悪感がちくちくと胸に刺さる。
 と、そんな時だ。


「ただいまー」


「はひッ!?」


 件のノーヴェが帰宅して、その声が響く。
 ディエチは驚いたあまり目を白黒させて飛び上がるほどびっくりした。


「あ、ああ! おかえりなさい!」

「ああただいま。ってか、そんなところで何してるんだ?」


 ベランダで尻餅をつきそうになってる姉妹の姿に、首を傾げるノーヴェ。
 ディエチは頬を真っ赤に染めて、目をそらしつつにしどろもどろに答えた。


「な、なんでもない、よ……」

「そっか。まあ風邪ひかないうちに戻れよ」

「う、うん……その、ごめんね」

「なんか言ったか?」

「な、なんでもない!」

「?」


 やけにむきになって否定するディエチにもう一度首を傾げつつも、ノーヴェはくるりと背を向けて居間から自室に去っていった。
 その後姿にほっとため息をつきながら、今度こそディエチは夜空を見上げた。
 天にひしめく満点の星と月を見上げながら、少女は思う。
 これからはなるべく上だけ見ていよう、と。


前へ 次へ
目次:ノーヴェの純愛奮闘記
著者:ザ・シガー

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

メンバーのみ編集できます