[234] 或る烈火の将の変身(1/2) sage 2008/02/08(金) 06:11:58 ID:5ELinrRL
[235] 或る烈火の将の変身(2/2) sage 2008/02/08(金) 06:12:21 ID:5ELinrRL

 機動六課の昼下がり、心地良い日差しが差し込んでいるとある廊下の一角。
シグナムとヴィータの部屋の外で何故か壁に背をつけ待っているヴァイスが居たが、実は部屋の中に居るシグナムを待っていた。
待っているとは言っても、特に恋人関係でも友人以上の関係でも何か含みのある関係でもないのだが、事の発端は数分前のヴァイスの一言に遡る。
その台詞とは――
「シグナム姐さんって悪女は無理そうっすよね」
というものであったが、その台詞に対しての彼女の返答は
「失敬な。私とてかような属性ぐらい持ち合わせている。なんなら見せてやろうか」
なんていう彼女にしてはかなり珍しい半ば逆切れ気味の迎撃があって、今に至っているのであった。
(いやまあ、正直想像つかねーんだよな……)
そんな風にヴァイスがやっぱ無理だろ、と脳内で反芻していると、部屋の中から問題の人が出てきた。
大胆なスリットの入った真っ赤なチャイナドレスには、いくつもの大きな牡丹の華が開いている。
覗く足には太ももまでしかない黒いストッキング。
手にはこれまた挑発的な真っ赤な扇子を持っていた。
そして不敵に微笑んで見せたのだが――如何せん相変らずのポニーテールが衣裳の妖艶さに反発し、清楚さが激しく浮いていた。
「いや……やっぱ無理っすよ。いや、本当に綺麗っすけどね」
「……そ、そうか?」
そういって恥らいつつ、大きな胸元に扇子を被せる仕草は、果たして悪女などという表現からすれば程遠いものであった。
どちらかといえば、彼氏に無理矢理頼み込まれて、仕方なく要望の服を着せられている絶賛ラブラブ中の体育会系の少女と言った方が正しい。
「こういうのも悪くないと思うのだがな?」
そう言いつつ、ヴァイスの肩に腕を乗せて不敵に笑うのだが、やっぱり普通に綺麗なだけであくどさが全く感じられなかった。
良くも悪くも朴訥で実直な人柄が衣裳に反発しすぎていてそこで思わずヴァイスは吹き出す。
「いやいやいや、似合わないっすよ。いや、綺麗なんすけどね」
彼の表情にむー、と納得いかない表情で肩から腕を離して唸る。
「……仕方ない、ちょっと志向を変えるか。しばし待て」
「はいはい……」
そして彼女が部屋の中に消える。
ちなみに部屋の中に衣裳があるわけではなく、ヴァイスが受けた説明によれば、あくまで魔力で作っているに過ぎないのだとか。
時間がかかっているのは、そのイメージを正確に頭に思い浮かべる必要があるから、という訳なのである。
ぼーっと待機中で暇とはいえ仕事中にこんなことやってていいのか?と今更疑問に思いつつ待っていると、再び中から問題の人が出てきた。
今度の衣裳はといえば――
ぎりぎり見えない真っ赤なミニスカート、太ももだけちらりと見せた薄い桜色のオーバーにーソックスに、
真っ白いふかふかの長袖に何故か白いマフラー、挙句髪は完全に下ろされていて綺麗に肩の上に散っていた。
大きな胸がさらに強調されてひどく手触りがよさそうである。
例に漏れずかなり照れながら、これならどうだー、と言わんばかりに主張するシグナム。
「こ、これならどうだ少しはすれてみえ――」
主張の最後まで待たずして、笑いながら涙目で壁を叩きまくるヴァイス。
「いやいやいやいや、超可愛いっす、ほんとに、清純可憐すぎっすよ」
「む、むー?」
そうなのか?と首元に手を持ち上げて悩む仕草が、これまた可愛らしい。
どっからどうみても雪の中彼氏を待っている健気な女の子風でしかなかった。
そして、そんなタイミングで2人の脇の角から、書類を持った金髪の執務官の人――フェイトが突然現れた。
2人の様子と、シグナムの服装に、目を丸くした隙に先手を打とうとしたシグナムであったが、
「て、テスタロッサ、後ろをむ」
にこ、と笑顔で遮られた。
「嫌です」
とことこと歩いてきてじーっと観察されて、一言。
「シグナム、可愛いですよ?」
「はうあうぐくぁwせdrftgyふじこpl;@:」
ここぞのばかりに普段の反撃を試みる執務官。
「シグナムってこんな格好もできたんですね……」
「できるんすね……」
「う、うううううるさい!容姿などいくらでも変えれるし、服だって単なる上辺に過ぎんだろう!」
「そんなことはないですよ」
「そうっすよ。多分容姿とか髪色とかどれだけ変えても、中身がシグナム姐さんである以上、悪女にはなれない気がするんすが」
「うんうん」
「む、むー!おのれ!みておれ!」
そうして再び部屋の中に消える。
それとなくヴァイスに事の顛末を一応確認するフェイト。
「悪女を目指してるの?」
「ういっす。そんな属性ぐらい持ってる、とか仰って譲られないものでして……」
「なるほど……」
呆れて苦笑いをしていると、再び中から問題の人が出てきた。
今度の衣裳はといえば――
解かれた桜色の頭に付いた黄色いふさふさとした三角の獣の耳、豹柄のボディコン服、手足には肉球つきの同じ柄が付いていた。
大きく開いた胸元と、しっかりと細い腰を締めた黒いベルトは妖艶になりうるあろうはずのパーツであるのだが、
如何せん白い肌と良くも悪くも真っ直ぐな瞳が激しく衣裳と噛み合っていなかった。
「こ、これなら少しは獣っぽく――!」
笑いをかみ殺しながら、即座に後ろを向いたヴァイスは兎も角、フェイトは全力全開で壁に拳を叩きつけていた。
懐から金色の端の切れた三角形の長年連れ添っているデバイスを取り出して問いかける。
「ね、壁、叩いてもいい?」
「will not, sir(自重してください)」
む……これでも駄目なのか?と肉球の付いた手の平をじっと観察していたシグナムであったが、
よりにもよってそのタイミングで、今度はライトニングの残り2人の子供達――エリオとキャロが制服姿で脇の角から
その3人の隣にぱっ、と飛び出してきてしまった。
あ、フェイトさん――とエリオが何かを話しかけようとしたその瞬間に、その幼い双眸×2にばっちりと理解不能な副隊長の謎な姿が認識されてしまった。
ぱか、と口を開けて目が点になって固まる子供2人。
即座に部屋の中にシグナムが隠れたが、明らかに手遅れであった。
再びバルディッシュにフェイトが問いかける。
「ね、壁、叩いてもいい?」
「should not, sir(いい加減にしてください)」

 後日、シグナムにあの時のことは忘れるように、と言われたエリオとキャロは、むしろ率先してそれを受け入れた、とか。
ただし、そのとき小さな召喚師の方に一言だけぼそっ、と呟かれて絶叫したらしい、こんな風に。
「でも……とても可愛かったですよ」
「みぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」



著者:どっかのゲリラ兵

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