551 名前:7の1[sage] 投稿日:2008/11/19(水) 21:14:41 ID:FHyS07q6
552 名前:7の1[sage] 投稿日:2008/11/19(水) 21:17:43 ID:FHyS07q6
553 名前:7の1[sage] 投稿日:2008/11/19(水) 21:20:13 ID:FHyS07q6
554 名前:7の1[sage] 投稿日:2008/11/19(水) 21:21:46 ID:FHyS07q6

第6章 交感

「なのはは、そこの赤い輪の中に立って、ヴィヴィオは、僕とここの青い輪に」

「そして、私はあそこですな」

 ユーノの指示を待つことなく、マテウスは黄色い輪の中に立った。

「この碑文は、一種の結界魔法によって光を分光、ヴィヴィオ、プリズムって知ってるよね?分光させることで
 赤や黄、青などの色に分け、それを多層構造にして石碑の周囲に展開しているから、普通の状態では見えない。
 僕とヴィヴィオが見えたのは、結界魔法の中に一瞬だけど入れたからだ。最初の解読の際マテウスさんに手伝
 ってもらってわかったんだが、完全な解読には3人の魔導師が必要なんだ。なのは手伝ってくれるね」

「うん、ユーノくん、ここだね」

 なのはは、赤い輪の中に立つとユーノとヴィヴィオを見た。

「詠唱が始まったら、障壁が輪に沿って生じるので、絶対に輪の中から出ないこと。なのは、リンカーコアに傷
 害が生じるから絶対に出ちゃ駄目だよ」
 真剣なユーノの口調になのはは黙ってうなずいた。 

「さて始めますかな」
 新しい葉巻を取り出して火を付けたマテウスが声をかけるとユーノはうなずいた。

「いにしえに生ぜし縁により、我、汝を喚起す。光ありて闇あり、人は闇より出でて光を視たり・・・」

 低い声で詠唱を続けるユーノの声を聞いていたなのはの姿が、空気に溶けるように消えると桃色の魔力光を
放つリンカーコアが赤い輪の中に浮かぶ。

 詠唱を続けるユーノとその脇に立っているヴィヴィオの姿も、桃色のリンカーコアだけになったなのはと同じ
様に姿が薄くなりはじめ、やがて緑色の魔力光を放つリンカーコアと紫色の魔力光に輝くリンカーコアが青い輪
の中に出現する。

「ユーノ博士が緑色、ヴィヴィオ様は、やはり聖王の虹色でしたか。で、高町一尉は・・・・桃色ですか?」

 少し口ごもったマテウスは、葉巻を吹かしながら、なのはのリンカーコアを興味深げに見ていたが、しだいに
姿が薄くなり消えていった。そして黄色の輪の中には、リンカーコアの影も形もなかった。

(光ありて我あり、闇ありて我あり 我は混沌の君、我は秩序の王 我ら交わりて万物を生ぜり 故に万物は光
 と影を宿せり・・・)

 ユーノの詠唱で目を覚ましたなのはは、闇の中に浮かび上がる石碑とそれを見上げるヴィヴィオの姿を認める
とともに一緒にいたはずのユーノの姿が見えないことに気づいた。

「ユーノくん、どこにいるの?」

(・・・かくて聖王、天より降りたまいて、地に法を敷き、人々を導けり・・)

「そこに・・・・いるの?」

 石碑から聞こえる声が、ユーノであることに気づいたなのはが、石碑に目を向けるとヴィヴィオに連なる聖王
の圧倒的なイメージが、なのはの中に流れ込んできた。

 聖王陵最後の聖王の死後、新たな聖王がゆりかごで天を渡って去り、やがて今は無きベルカの地に降り立つ。

 混沌の君と呼ばれる聖王の出現により戦乱の地と化す古代ベルカの地、質量兵器による戦争が人々の生命をい
とも簡単に奪うことに嘆く人々。

 荒廃する世界で魔法を見いだした聖王。

 質量兵器と古代ベルカ式魔法を併用して戦乱を終息に導いた聖王の中の聖王。

 次元世界に進出する覇王と呼ばれた聖王。

 やがてミッドチルダとの接触を平和理に果たした聖王教会の最初の聖遺物となる聖王。

 時空管理世界に聖王教が広がっていく時代に各管理世界を巡礼する聖王。

 ミッドチルダに誕生した”いにしえの時空管理局”と対立し、和平を説く聖王教会を弾圧する聖王。    

 やがて天を覆う時空管理局の戦艦群”地獄の番犬たち”に襲来され炎上する王都、反撃の為、出撃する聖王の
ゆりかごと随伴戦艦群。

 激しい戦闘の果てに撃墜されるゆりかごと随伴戦艦群。

 ゆりかごの玉座に座り、最後の時を静かに迎えるヴィヴィオにうりふたつの女性の聖王と勝利の美酒に酔いし
れ、ベルカの支配する管理世界を蹂躙する地獄の番犬たち。

 撃墜されたゆりかごから時空管理局の目を掠めて聖王の遺体を持ち出す聖王教会の聖職者たち。次元世界の覇
者となった時空管理局の圧政に苦しむ人々の希望の星となる聖王教会。

 突如、聖王陵の上空に出現する時空管理局の戦艦群。

 その戦艦群の前にユーノそっくりの黄砂色の髪を風になびかせた若者が立ちはだかる。

 聖王陵に向けられた質量兵器と魔導砲の集中砲撃を複数のラウンドシールドで防ぐと同時に巨大なチェーンバインドが、戦艦に巻き付き一挙に握りつぶす。
 十数隻の戦艦を失った時点でミッドチルダの戦艦部隊は散開すると若者を無視して聖王陵へ殺到する。
 
 若者はチェーンバインドで戦艦を阻止しようとするが、白光の砲撃が緑の鎖を砕き四散させる。
 
 紅い4枚の羽を背中に持った純白のバリアジャケットに、レイジングハートを思わせる魔導杖を持ち、栗色の
髪をサイドテールに結った美女が放った砲撃によるものだった。

 空中で対峙する二人が、恋人でありながら、互いの信念のために生死を賭けて戦わざるをえないことが、膨大
な聖王の意識の海に呑み込まれてもがくなのはの心を戦かせた。

 ディバインバスターを思わせる白光の砲撃をラウンドシールドで防ぐ若者の顔が痛みに歪む。

 その眼下の聖王陵に対して戦艦群の質量兵器と魔導砲の集中砲撃が実施されようとしている。

 砲撃の衝撃に耐えきれずラウンドシールドが砕け散るのと同時に魔導杖を長槍の形に変じ、神速の刺突で迫る
恋人を憂いを含んだ目で見つめる若者の周囲から、密度を最高度に高めた為に針金のようになったチェーンバイ
ンドが24本射出される。

 突き出された槍が、死を前にしながらも微笑む若者の胸を貫くのと同時に24本のチェーンバインドが、涙に
顔を濡らす美女の背中から胸を貫き若者と美女を縛り付ける。

 次の瞬間、聖王陵に墜ちる二人に合わせるかのように戦艦群の集中砲撃が、聖王陵を陵辱した。

 死によって一つとなった二人が、大砲撃の閃光に包まれる聖王陵に墜ちていくのを見ながら、なのはの意識は、
悲しみの闇の中に溶けていった。

 砲撃の閃光が収まった無傷の聖王陵の上で目覚めたユーノは、古代の映像記録でしか見たことのない、いにし
えのミッドチルダ時空管理局の誇った戦艦群”地獄の番犬たち”の砲門が、自分と自分の脇に横たわるなのはに
向けられていることに愕然とした。

「なのは・・」
 自らの死を覚悟し、意識を失って横たわる恋人を救えなかった無力さを噛みしめるユーノの目が大きく見開かれた。

 再び砲撃の準備に入った戦艦群の射線上に、突然、薄茶色のレインコートを羽織った壮年の男が出現したのだ。

 ユーノの目に映る男の背中からは、自分に向けられた戦艦群の砲門を睥睨し嘲笑っている雰囲気が漂っていた。

 戦艦群の砲門が一斉に火を噴き、男の姿を一瞬にして消滅させるが、砲撃は聖王陵に届くことなく、戦艦群の
上方や下方、後方から降り注ぎ、戦艦を次々と打ち抜いていく。

 自らの砲撃によって数を4分の1以下に減らし、算を乱して離脱を計る戦艦群の前に消滅したはずの男が再び
姿を現す。

 男が心底くだらないといった仕草で指を鳴らすたびに、戦艦が不可視の手によって粘土細工のように捻り潰さ
れるという非現実的な光景がユーノの眼前で展開される。

 最後の一隻が捻り潰されるのを見ながら、ユーノの意識は、安息の風に抱かれる。

 ヴィヴィオは、自らの始まりとなった碑と対峙していた。何故、自分が古代ベルカの聖王の系譜に連なるのか
碑に浮かび上がった文字が語りかける。

「聖王、正義を望みし故、政は大いに乱れ、かくて世は混沌の海に沈む 光は闇を討たんとして、闇に墜ち、
 燃え尽きん 陵墓、大いに嘆きて 正義を望みし聖王を空に放逐せり かくて聖王の世は、途絶えたり」

 幼いヴィヴィオには全く理解できない言葉が、深層意識に眠っていた聖王の後悔と悲しみの記憶を蘇らせる。

 自らの正義と信念に固執するあまり、故郷より追放され、ミッドチルダとの対立の果てに多くのベルカの民を
死に追いやりベルカ王国を滅亡させた自らの過ちに圧倒されたヴィヴィオは、忘却の海に放り出された。

「なのは、なのは!」「なのはママ〜」

 ユーノとヴィヴィヴォの声に導かれ、闇空をひたすら上昇し続けるなのはを柔らかな緑色に包まれるリンカー
コアと虹色の光輝を放つリンカーコアが、さらなる高みにと導いていく。やがて闇の帳が開け、光の海になのは
は、浮かび上がった。

「ユーノくん・・・ヴィヴィオ」

「なのは、良かった」「ママァァァ」

「にゃははは、気絶しちゃった」

 安堵の色を浮かべるユーノとわんわん泣くヴィヴィオに囲まれたなのはは、照れ笑いして、立ち上がろうとし
たが、全身の力が抜けてしまったらしく起きあがることができなかった。

「ユーノくん、腰が抜けちゃったみたい」 

「なのは、僕につかまって」

 真っ赤になってうつむくなのはをお姫様抱っこしたユーノは、黄色い輪の中で、ちびた葉巻をふかしている
マテウスを振り向いた。

「なのはを送りますので、これで失礼します」「マテウスおじさん、バイバイ」

「今日はありがとうございました。ユーノ博士、高町一尉、ヴィヴィオさん」
 葉巻を口から放したマテウスは、珍しく真摯な口調で礼を言うと去っていく三人に深々と頭を下げた。



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目次:再び鎖を手に
著者:7の1

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