527 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/11/18(火) 19:17:29 ID:qxpTklGi
528 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/11/18(火) 19:20:26 ID:qxpTklGi
529 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/11/18(火) 19:23:12 ID:qxpTklGi

第5章 口碑

 森に囲まれた芝生の上にあるテーブルに座って談笑しているなのはとヴィヴィオとリアンの頭上には、艦内
食堂とは思えない光景が広がっていた。

 のどかな日の光が天井から降り注ぐ。見上げれば、太陽は見えないが柔らかい光が降り注いでいる。その中
を青い鳥が、雁行陣を組んで飛んでいる。

「リアンさんが、海鳴市の人だとは思わなかったよ」

 リアンの話を聞いたなのはは、マテウスの前で演じていた良き母の口調を忘れる程、興奮していた。

「曾祖母が出身者ってだけですわ。まだ曾祖母の兄の家系が続いているので、親戚づきあいの関係で地球に行き
ますが、まさか親戚の住んでいる都市が、なのはさんの出身地の海鳴市とは思いませんでした」

「翠屋のケーキっておいしいでしょ。リアンお姉ちゃん」
「ヴィヴィオちゃんは、何が好きかな?」

「翠屋のガトーショコラ」

「あ、それも良いかも。でも私はブランデーケーキ、でもヴィヴィオちゃんには、まだ早いかな。なのはさん
 は、何が好きです?」

「子供の頃、翠屋を継ぐつもりだったからシフォンケーキをよく作ってたからシフォンケーキが好きかな」

「今度、シフォンケーキの作り方教えてくださいよ。私が作ると型を抜いた後で必ず萎んじゃうんですよ」

「それじゃ、作ってるところをメールで送るからメールアドレスを」

「後で、戦技教導隊のなのはさんのアドレスにメールを送りますので、都合の良い時に返信していただければあ
 りがたいです」

「ママ、ブランデーケーキってリアンお姉ちゃんにしか食べれないの?ヴィヴィオ食べれないの?」
「ヴィヴィヴォが、これぐらい大きくなったら、翠屋でブランデーケーキ食べられるんだよ。それまではだーめ」

「ええ〜、そんなに大きくなれないよ〜」
「ママは、ヴィヴィオより小さかったから、ぜったい大きくなれるんだよ」

 他愛ない会話を交わすなのはとヴィヴィオを見ながら、微笑んでいたリアンの表情が、急に引き締まった。

「は、了解しました」
「リアンさん?」

「ユーノ博士が、石碑の解読を終えたようです。お二方に見せたいので、ご案内するようにとのことです。こち
 らにおいでください」

 武官らしいきびきびした口調に戻ったリアンは、立ち上がったなのはとヴィヴィオを芝生の上に姿を現した
転送ポートに誘った。

 AMFを解除した格納庫に案内されたなのはは、自分とヴィヴィオを迎えたユーノに走りよると、にっこり微笑んだ。

「ユーノくん、がんばったね。ヴィヴィオもパパのお仕事、見たいって言ってたし、グッドタイミングだよ」
(顔色が悪いよ。なにか嫌なことでもあったのかな?)

「なのは、皆が見てるよ。ほら、ヴィヴィオもこっち来たがってる。ヴィヴィオ、こっちおいで」
(なんでもないよ。口碑の解読に手間取っただけさ)

「ユーノパパ、ママがね。ブランデーケーキ、まだ食べちゃ駄目だって言うの。もっと大きくならないと駄目なんだって
ヴィヴィオ食べたい。ヴィヴィオの言うこと、そんなに間違ってる」

 なのはの魔王モードの口癖を真似てせがむヴィヴィオを見て、ユーノの緊張感が緩むのを見たなのはの微笑み
が深くなる。

「そうだね。ほんのちょっとならヴィヴィオでも食べられるかな。でもブランデーケーキって少し苦いんだよ、
 ヴィヴィオ、苦いもの嫌いだよね」

「うーん、苦いのは嫌だな。でもユーノパパが食べさせてくれるならヴィヴィオは平気だよ」

 ヴィヴィオの笑顔につられるようにユーノも笑顔を浮かべる。

(子供の笑顔ってのは救いだな。助かるよ)
(あら、私の笑顔は救いにならないのユーノくん何か隠してるんだね。恋人にも隠し事するなんて間違ってない?
 私の言うことそんなに間違ってるかな)

 その言葉に驚いたユーノは、目から笑いが消えているなのはの笑顔を見てぎょっとした。

(なのは・・・・後で話がある。君の助けが必要だ)(うん)

「じゃあユーノくん、今度の休暇にヴィヴィオと翠屋に行こうよ」
「そうだね。行こう」

 糖度200%のバカップルの雰囲気を振りまく二人のやりとりに辟易したのか、ユーノと一緒にいたレミオ
やなのはたちを案内したリアンの姿は、いつのまにか格納庫から消えていた。

「ユーノ博士、高町一尉、ヴィヴィオさん、お邪魔でしたかな?」
「うん、マテウスのおじちゃん、邪魔だよ〜」

 間髪入れずに答えるヴィヴィオを見たマテウスは、途方に暮れた表情を浮かべると頭をかきだした。

「後にしましょうか?晩餐を用意しますので・・・」

(ユーノくん!)
「いや、すぐに始めましょう」

「聖王陵自慢の食材をご賞味いただけないとは残念の極みです。ではご案内しますのでおいでください」

 格納庫の中央に一同を案内するよれよれのレインコートを着たマテウスの背中を見ながら、なのははヴィヴ
ィオの手を引いているユーノに話しかけた。

(バウアー卿ってどんな人なの? 教導隊の総隊長から名前だけは聞いた覚えがあるけど、総隊長も面識がない
 って話だったよ)

(第三管理世界始原ベルカ聖王陵出身。新暦47年若干11歳で入局、武装局員を経て戦技教導官に昇格。ここ
 までは、なのはとほぼ同じだね。一等空尉昇任直後、監察部へ異動、以後、監察部でキャリアを重ね、現在、
 監察部S級監察官、幹部評議会評議員、戦技教導隊最高名誉顧問、聖王陵伯爵)

(聖王陵伯爵って・・・本物の貴族なの!? )

(あんな格好してても伯爵だ。あのレインコートは、戦技教導官時代の愛用品って話だ)

(魔法ランクは、総合?それとも空戦か陸戦?)

(監察部異動時に情報保護のため記録を抹消してる。入局時 総合A+って記録しか残っていない。一等空尉だ
 から空戦S+以上は確実だね)

 目の前を歩くさえない中年男が、ベテラン執務官ですら恐れるS級監察官で、自分の大先輩でもあるという事
実に衝撃を受けたのか、なのはは押し黙ったまま、ユーノの腕を強くつかんだ。

「痛っ なのは、顔が怖いよ」

「ふぇぇユーノくん見てたの?」

「なのはママ・・・怖い」

 よほど厳しい顔をしていたのか、自分を見ているヴィヴィオの目が怯えているのに気づいたなのはは、小声で
ごめんと謝った。

 そんな3人のやりとりを聞いているのかいないのか、3人の前を歩くマテウスが振り返った。

「みなさん、着きましたよ。ユーノ博士、解説をお願いします」

 マテウスが指を鳴らすと直径2m高さ10mほどの石碑が足下に配置された照明によってライトアップされた。

 石の材質は不明だが、光沢のある材質で照明の当たり具合によって碧色や紅色、黄色などめまぐるしく色が変

わり、石碑の正面に刻まれた碑文を読み取ることができない。

「あれなんて読むのかな?ヴィヴィオ読めないや」

「古代ベルカ文字の方言だよ。ヴィヴィオ」

 自分には見られない文字を見ることが出来るユーノとヴィヴィオに、なのはは漠然とした不安を感じた。




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目次:再び鎖を手に
著者:7の1

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