516 名前:7の1[sage] 投稿日:2008/11/17(月) 19:38:07 ID:RIy3MV2V
517 名前:7の1[sage] 投稿日:2008/11/17(月) 19:40:32 ID:RIy3MV2V
518 名前:7の1[sage] 投稿日:2008/11/17(月) 19:43:40 ID:RIy3MV2V
519 名前:7の1[sage] 投稿日:2008/11/17(月) 19:47:57 ID:RIy3MV2V
520 名前:7の1[sage] 投稿日:2008/11/17(月) 19:50:50 ID:RIy3MV2V

第4章 聖王の碑

 扉が開くと、艦内食堂とは思えない世界が広がっていた。

 柔らかい光に満ちた天井は、その高さがわからないほどで、その中を青い羽根をした鳥が飛んでいる。

 聖王樹の森に囲まれた芝生の中央には木製の丸いテーブルと四脚椅子が置かれており、テーブルの上に置かれた
ガラス製の鉢には見たこともない果物が盛られていた。

「こちらが、本船自慢の食堂です。ユーノ博士からお二方を同伴されるとのことでしたので、聖王陵特産の果物を用意
しておきました。どうぞ、お座りくださいヴィヴィオさん、高町一尉」

 テーブルを挟んでヴィヴィオとなのはの前に座ったマテウスが、人差し指を立てるとガラス鉢の果物の一つが二人の
前に置かれた白磁の皿に現れた。

「こちらが、聖王陵特産のスレビアとい果物で、別名”聖王玉”と言って97管理外世界のリンゴに味が似てい ます。
皮は手で向いて食べてください」

「なのはママ。これ、おいしいよ」

 皮をむいてスレビアを食べ始めたヴィヴィオは、まだ手を付けていないなのはに声を掛けたが、なのはは、あえて無視した。

「おいしいですか、それは良かった。ヴィヴィオさん、後でご自宅にお届けしましょう。スレビアも良いですがこのモレス”聖王の星”は、
もっとおいしいですよ。いかがですか?」
「わあ、きれい」

 ヴィヴィオの皿にあったスレビアの皮が消えると、代わりに深紅の色をした星形のモレスが現れた。モレスを手に取るや躊躇すること
なくかぶりつき、夢中で食べるヴィヴィオの周囲にモレスの濃厚な香りが広がる。

「高町一尉、先ほどから手をお付けになっていませんが、スレビアやモレスは、なじみがないのでお気に召しませんかな? 
それでは、これは如何?白いナザンなら高級将校のパーティーでよく出されるものですからご存じでしょう」

「いい加減にしてくださいバウアー卿!」
「はあぁ?」

「何が目的です。ヴィヴィオに聖王の洗礼果を食べさせるなんて・・・・」
「なのはママ怖い」

 血相を変えて抗議するなのはに怯えたヴィヴィオが、食べかけのモレスを皿に落とした。



「ごめんね、ヴィヴィオ。これ食べる?」
「なのはママが食べないなら、ヴィヴィオも我慢する」

 差し出されたスレビアに手を出そうとしないヴィヴィオに根負けしたなのはは、スレビアの皮をむくと二つに分けて、
一方をヴィヴィオに差し出した。

「ママも食べるから、ヴィヴィオも食べるのよ」
「うん」

 なのはの抗議の意味がわからないのか、しきりに首をかしげていたマテウスだが、二人のやりとりを見て

「これも、おいしいんですがね。ヴィヴィオさん食べないんですか?」

 とナザンを勧めるが、ヴィヴィオはマテウスの前に置かれたナザンから顔を背けた。

「それ、ママは嫌いみたいだから、ヴィヴィオ食べない」

 ナザンの皮をむき、自分の皿に盛っていたマテウスは、ヴィヴィオの言葉を聞くとがっくりと首を垂れた。

「美味いんですよ、これ〜 。残念です、実に残念です」

 ナザンのやけ食いを始めたマテウスの愚痴は、なのはとヴィヴィオから完全に無視された。 

「失礼します。マテウス様、ユーノ博士が碑の解読で話があるそうです」

 いつの間にか芝生の上に出現した黒髪を肩の高さに切りそろえた女性士官にマテウスは、軽くうなずくと椅子から立ち上がった。

「ヴィヴィオさん、高町一尉、お聞きの通りです。ちょっと席を外します。リアン三尉、お二方の接待を頼む」

「了解、全力を尽くします」
「頼んだよ。リアン」

 リアンと呼ばれた女性士官が胸に左手を当て頭を下げ、マテウスを見送った

「ヴィヴィオ様、高町一尉、翠屋製のアップルパイは如何でしょうか?先日、注文していたものが、転送便で先ほど届きました」
「翠屋のアップルパイが食べられるなんて、リアンさんありがとう」

 ニコニコしながらアップルパイの入ったボックスをテーブルの上に出現させたリアンになのはは微笑んだ。

(バウアー卿と違って魔法の気配を感じるわ。どんな系統の魔術かしら、波動は、レイジングハートが記録したから、
後でユーノくんに聞いてみよう。ユーノくんならわかるかも)

 手書き文字で医務室と書かれた木札が掛かった部屋の中で、ユーノとマテウスは、レナードの寝かされている
高酸素カプセルを挟んで対峙していた。

「何をお聞きになりたいので?」
「陵墓盗掘の真実です」

 ユーノの鋭い視線が、眼鏡越しに、ちびた葉巻を吹かすマテウスのさえない顔を射抜く。

「はて?真実とは難しいものですな。真実は必ずしも美しくなく、かつ正しいとも言えないという俚言がありま
 す。事実は遺跡盗掘をしていたスクライア、いやライアー一族を我々が捕縛したとういうだけのことです」

「嘘だ!バウアー卿、あなた方は真実を隠している。彼らに、ラーナやレナードに何があったんです?」

「知らない方が良いこともありますよ。私としては、貴方を評議会入りさせる切り札に、これを持ち出すつもりはないんですから」
「僕は真実が知りたいんです」
「言い出したのは貴方です。若さ故の代償を払うことになるかもしれませんよ」

 マテウスが、左手の人差し指をユーノの眼前に突きつけるとモニター画面が出現した。

 密林の向こうに見える、いかなる樹木の侵攻をも許していない赤茶けた土肌をむき出した墳墓の一角に直径10mほどの大きな
穴が穿たれ、そこからバインドで縛り上げられ、泣き叫ぶラーナを担いだ3人の男が出てくるシーンが映し出された。

 3人の首には黒い首輪がはめられており、その足取りはラーナの抵抗を考慮してものろのろしていた。

「サック、ビルス、それにバック・・・」

 生き残った一族の中にいなかった長老3人の蛮行を見て、ユーノは言葉を失った。彼らは、こちらに背を向けている褐色の装甲服
を着た10数人の男たちの前に泣き叫ぶラーナを置くと、うずくまって深々と頭を垂れた。

「言われたとおりにしました。どうか命ばかりは」

 卑屈な笑みを浮かべ命乞いするサックの首輪が爆発した。首を失った身体は、そのまま後ろに跳ね上がって地面にたたきつけられる。

 あたりに漂う血臭の中をビルスとバックが狂ったように駆けだし、こちらの方に走ってくるが、無造作に振り返った装甲服の一人が、
はなったクナイが背中に刺さった瞬間、ビルスの身体が内部から弾け四散した。

(チンクと同系統のIS、いや人体を内部から破壊している。遺失技術の波動系ISだ!)

 次元連合の総攻撃にあって完膚無きまでに殲滅された、いにしえの時空管理局の武装機兵が標準装備していたISの威力を眼の前で
見せつけられたユーノは戦慄した。

 記録映像が写真でしか残っていない為、実感がなかったが、この技術が現在も生きているなら管理局の武装局員にとって最大の脅威
になるのは明らかだった。

「た、助けてくれ。あんたたちに言われたとおり女を、ラーナを連れてきたじゃないか?頼む、頼みます」

 ビルスの悲惨すぎる最後に気力が尽きたのか、地面にしゃがみ込んだバックは、ゆっくりと近づいてきた男の
一人に弱々しく訴える。

「男はどうした?探索にはやつが必要だ。レナードは何処だ?」
「・・・・・」
「何処だと聞いている。答えんか」

 男の一人が、無造作にバックを蹴り上げた。骨の折れるいやな音と共にバックが血反吐をはいて跳ね上がる。

「ふ、墳墓の中だ。ラ、ラーナの件で抵抗したんで痛めつけ・・・ぐぎゃあぁ」
 
バックの言葉が終わらないうちに、男の一人がバックの首を左手に仕込んでいた刀で切り落とした。

「奴を連れてこい。怪我をしていたら、手当をして、すぐに働かせろ」
「女はどうします」
「殺さない程度に楽しめ。お前たちは、レナードの確保と一族の身柄を押さえろ。行け!」
「はっ、ただちに取りかかります」

 バックの首を切り落としたリーダとおぼしき男の命令で、待機していた装甲服の男たちが、空に飛び上がると
穴の中に突入する。しばらくして穴の中から、悲鳴が聞こえてきた。

「墳墓の監視カメラの送ってきたデータを確認したのがこの辺からですな。見ての通りの状況ですから、ただち
 にレミオ指揮下の武装隊を派遣することになったわけです」

 続けますかと尋ねるマテウスにユーノは苦い顔でうなずいた。

 しばらくして血のにじみ出ている白い布を額に巻かれたレナードとユーノが再会できた一族の若者たちが、鎖
付きの首輪をはめられた状態で男たちに引っ立てられてきた。

「バックたちはどこだ?」

 レナードの前に血にまみれたバックの首が投げ出された。それが男たちのリーダーの返答だった。

「お前の妹は預かった。すぐに封印を解除しろ」
「封印?」
「とぼけるな。お前たちが掘り出している石碑がロストロギアだってことは、割れてるんだ。我々に残された時間は残り少ない。
早急に聖王の猟犬を浮上させ同志スカリエッティに合流しなければならない。お前の役割は石碑の封印を解除して、聖王の
猟犬の動力源を解放することだ」

 聖王の猟犬という言葉を聞いた瞬間、ユーノの顔色が変わった。
 いにしえの時空管理局と戦った聖王軍の主力戦艦にして、ゆりかごを上回る殺戮を管理世界で行った殺戮兵器が生き残っ
ていて、スカリエッティと共闘する連中の手に渡っていたのだ。 

「・・・・命は、俺の命はどうでも良い。妹と他の一族の命を保証してくれ」
「早くしないとラーナだったかな。お前の妹の命も保証できんぞ。17号、見せてやれ」
 17号と呼ばれた装甲服の男が、ラーナを抱えてレナードたちの前に降り立った。 

「に、兄さん助けて・・・痛い、痛いよぉぉぉ、や、やめて、やめてよぉぉぉ」

 固定カメラの映像は、悲鳴を上げるラーナを抱きかかえている17号と呼ばれる男の背中しか捉えていないが、
その足下にぽたぽたと血が垂れて血だまりが広がっていくのが見える。

「やめろ、やめてくれ。封印は解除する。だから妹を助けてくれ」
 できもしない事を口にするレナードの必死さを思ってユーノの心中に苦い思いが広がる。
 ユーノの探索魔法の師であったレナードだが、封印の解除に必要な検索魔法や魔道書などの速読魔法については、
ユーノに遠く及ばないのだ。

「同志が石碑を運んできたようだ。早くしないと妹の身体が持たんぞ」

 墳墓に穿たれた穴からデートリッヒに積み込まれているものに酷似している石碑が装甲服の男たちによって
運ばれてきた。
 レナードの背後に石碑が置かれると石碑の隣に17号が着地した。

「お兄ちゃんを応援しないのか?いけない妹だ。これはお仕置きが必要だね」

 軽口を叩く17号に抱かれているラーナの股間に突き刺さった金属製の肉棒が、上下するたびに耳を覆いたく
なる悲鳴と血が地面に流れ落ちる。

「ひぎゃぁぁぁぁ、いやぁぁぁぁ、いやぁぁぁぁ」
「よい妹だ。お兄ちゃんのために、精一杯、応援するんだよ」

「やります。封印解除でもなんでもやります。だから妹に、これ以上ひどいことはしないでください」
「では、やってもらおうか  な、何奴!」 

 狼狽したリーダーが石碑へ顔を向けた瞬間、17号の頭がまっぷたつに割れ、血のシャワーをまき散らして
倒れた。
 聖王陵の騎士甲冑を纏ったレミオを先頭にした魔導騎士の奇襲を受けた戦闘機人たちが、反撃する間も許さ
れず、呆気なく倒されていく。
ISを作動させ高速起動で上空に逃れたリーダーが、腹部に根本まで刺し仕込ま
れた狩猟ナイフと狩猟ナイフを握っているレナードを見て信じられないと言った表情を浮かべた瞬間、腹部が爆発し、
リーダーの身体が四散した。

 同時に右肘から先を失ったレナードも血の花を咲かせながら地上に墜ちていく。

「戦闘機人は全滅。後に残ったのは陵墓盗掘の実行犯たちだけ。情状酌量の余地はありますが、如何せん戦闘機人
たちの目的が目的ですからねぇ。まあ戦闘機人の生存者がゼロってことが救いですかね」

 JS事件の裏側で進行していた恐るべき事件に、スクライア一族が関わっていた事実に衝撃を受けたユーノの顔色は
死人のようだった。

「・・・・」

「そろそろ石碑をお披露目と行きますか、ユーノ博士」




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目次:再び鎖を手に
著者:7の1

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