485 名前:7の1[sage] 投稿日:2008/11/16(日) 18:03:31 ID:mpEKBUMv
486 名前:7の1[sage] 投稿日:2008/11/16(日) 18:08:08 ID:mpEKBUMv
487 名前:7の1[sage] 投稿日:2008/11/16(日) 18:11:11 ID:mpEKBUMv
488 名前:7の1[sage] 投稿日:2008/11/16(日) 18:15:25 ID:mpEKBUMv
490 名前:7の1[sage] 投稿日:2008/11/16(日) 18:20:39 ID:mpEKBUMv
491 名前:7の1[sage] 投稿日:2008/11/16(日) 18:22:48 ID:mpEKBUMv

第3章 デートリッヒ
「わぁぁ、大きいな。ユーノパパ、アースラより大きいよ、この船。」

 JS事件の後、六課の宿舎が再建されるまでアースラで暮らした経験のあるヴィヴィオは、目の前にある船の巨大さに目を丸くしていた。
 三人を迎えるために大きく開かれた荷受け用ハッチの高さだけでもアースラの2倍近くあるのだから、ヴィヴィオが驚くのも無理はない。

「そうだね。クロノおじさんのクラウディアより大きいんだよ。ZX級時空航行艦だからね。なのは、どうしたの?」
「ねぇユーノ君、なんでAMFが展開されてるの? 本局内での使用は禁止されてるはずだよ。ヴィヴィオ ママの側から離れちゃ駄目」

 ヴィヴィオを引き寄せたなのはは、バリアジャケットを形成すると愛杖のレイジングハートを起動して周囲に注意を払った。

「いやぁ、お待たせしてすみません。・・・高町一尉、何かあったんですか?そんな大仰な格好で、本局内でのバリアジャケット着用は
 第一種制限解除が必要なはずですが」

 武装したなのはの姿を部下から知らされたマテウスが、よれよれのレインコートを翻しながら、荷受けハッチの奥から出てくるや、
なのはの武装を見て眉をしかめた。

「緊急事態の際には、尉官権限で解除できます。それよりお聞きしたいのですが、本局内でのAMFの使用は 禁止されています。
AMF使用は許可を得ているんですか?バウアー卿、ご返答次第では、あなたを逮捕します」

 なのはを抑えようとしたユーノを目で制するとマテウスは、人の良さそうな笑顔を浮かべた。

「ああ、AMFの件ですね。本局管理部に照会していただければわかりますが今回の積み荷の口碑はロストロギアの疑いがあるので
 結界魔法のほかにAMFも展開しているんです。使用許可のディスクは、ここにあります。どうかご確認ください」

 レインコートから取り出したディスクを一瞬で、自分の目の前に転送したマテウスの魔術になのはは、内心舌を巻いていた。
発動の気配さえ感じさせず魔法を発動できる魔導師が、三提督以外に本局内に何人いるか

(間違いなくSS+、いえSSSクラスだわ。はやてちゃんでも、この手の魔法を使う際にかすかな気配を感じるもの。三提督級の人だわ)


「すみません。誤解していたみたいです」

 ディスクの内容を素早く確認したなのはは、バリアッジャケットを解除すると頭を下げた。つられてヴィヴィオもごめんなさいと謝った。

「こ、これは、どうか頭をお上げください。ヴィヴィオさ・・さん」

 ヴィヴィオさまと言いかけるのをさん付けに戻したマテウスの額にうっすらと汗が浮かんでいた。

 ベルカ文明出身者特有の癖なのか聖王の生まれ変わりであるヴィヴィオに対して、必要以上にへりくだるマテウスの態度を見て、
なのははヴィヴィオの将来を危惧した。
 聖王様、聖王様と言われているうちに気づいたら、時空管理局の敵対者に祭り上げられるかもしれない。

(魔法学院なら問題ないと思うけど、他の世界のことも知っておいた方がよいわ。そうだ、今度の休暇、ユーノくんとヴィヴィオ連れて
翠屋に帰ろう。アリサやすずかにも逢わせて、もっと普通の女の子として育てなきゃ)

 まだ本格的にユーノとの交際を家族や親友に紹介していないのを思い出したなのはは、ユーノとヴィヴィオをみんなに紹介する覚悟を固めた。

「話が付いたようですね。バウアー卿、口碑を発掘した人たちと話したいんですが、なのは、話がすんだらヴィヴィオと君を呼ぶから、
それまで待っていてくれないかな?」

「えぇぇユーノくん。同行しちゃ駄目なの?」

「ロストロギアの疑いがあるからね。もしもの時は、ヴィヴィオを連れて逃げるんだよ。転送魔法の使用許可は取ってあるから、
バウアー卿、ご案内願います」

「口碑の説明は発掘隊の責任者にさせましょう。レミオ一等航海士、ユーノ博士をご案内するように。高町一等空尉、ヴィヴィオさんのご同意が
あれば、艦内食堂で、第三管理世界自慢のフルーツとスイーツを振る舞いたいんですが如何でしょう?」

「ヴィヴィオ、食べたいな。ねぇ、なのはママ駄目?」
「ヴィヴィオ!」

(なのは、バウアー卿は、幹部評議会の評議員だ。素直に従ったほうが良い)
 いつにないユーノの強い念話に、なのはは思わず左のこめかみに手をやった。

「マ、ママぁぁ」
「ヴィヴィオごめん。バウアー卿、ご案内いただけますか」
「どうぞ、こちらの方のエレベーターへ、直行で食堂にご案内しましょう」

 マテウスは、揉み手せんばかりの愛想を振りまきながら、なのはたちに先だってエレベーターの扉を開けると乗り込んだ。

 目の前を歩くレミオという士官が、伸ばした黒髪を三つ編みにし白いリボンで結んでいるのに気づいたユーノは、一見、
ひょろりとした優男にしか見えない彼が、聖王陵騎士団の精鋭であることに気がついた。
     
「ユーノ博士は、結界魔導師だそうですね」
「ええ一応は、本局登録では空戦Aですが」

「高町なのは一等空尉のディバインバスターを素手で防がれたとのことですが、事実ですか?」
「昔のことです。今の彼女の敵じゃないでしょう」

「しかし、今でも一等空尉が模擬戦をやる際には、訓練室の結界を担当されてるそうですね」
「本局には、結界魔導師が不足気味ですから、僕みたいな専門外の者でも起用せざるえないんです」

「本局最強の盾と称されるかたの言にしては、謙遜がすぎますよ。噂では対AMF用の新技ディバインバスター
 クラスターのお相手をしたとか、如何でした?」

 強者への尊敬の念が込められたレミオの問いかけにユーノは苦笑を浮かべた。

「実体弾に魔力を込められて撃たれました。AMFで防げると思ったんですが、実体弾でAMF装備のガジェッ
 トドローンを打ち抜かれた上に、内部からバスターを爆散させるんですから、死にかけましたよ」

 対AMFに、ある種の封時結界が有効だということを無限書庫の古文献から発見したユーノは、自己責任という言葉を
思い出して苦笑を浮かべた。
 元々、不足気味だった結界魔導師を、前線の武装隊に引き抜かれた責任を取らされる羽目になったユーノは、なのはが模擬戦
をする際の専用結界魔導師を勤めているというか勤めさせられている。

 局内では、”魔王の使い魔”とか”悪魔の下僕”とか、隠れなのはファンから妬まれ、ある意味、悪評が高いユーノだが、部外者の
評価が意外に高いことを知らされ、警戒の念を抱いた。

(バウアー卿の言うとおり、僕がハラオウン閥と見なされているとしたら、他の評議員が無限書庫を警戒するのも無理はないか)

「こちらです。彼らはこの中にいます」

 レミオに発掘隊と称されている盗掘者の一団が収容されている格納庫の前に案内されたユーノは、部屋の前に
立っていた歩哨からレミオが着ているのと同じ深紅のベストを手渡された。

「対AMF用ベストです。卿のご命令でユーノ様が中に入る際は、絶対着用していただくようにとのことです。
 着用されない場合は、入室を命に駆けて阻止せよとのことで」

 必死の面持ちで、ベストを差し出す歩哨の肩を叩きながらユーノは笑顔で答えた。

「このごろ、運動不足でね、僕のサイズに合うかな」
「卿は、三種類のサイズをご用意されてますので大丈夫です」

 ユーノがベストを着用したのを確認したレミオは、歩哨に扉を開けさせると先に入って、中にいる兵士に何かを
確認するとユーノを差し招いた。

「ユーノ博士、入っても大丈夫だそうです」               

 室内は、強力なAMFが展開されているらしく、手のひらにむず痒い感覚が走り、背中を蟻が這い回り、靴底を通して、
芋虫が蠢く感覚がおぞましい。
 女の嬌声や子供のはしゃぐ声、中年男の酒枯れただみ声、若者の意味をなさない叫び声が耳元を直撃し、魔法の
詠唱を不可能にする。

(スカリエッティのAMFより強力だ。精神攪乱効果まで備えているとは、かっての時空管理局が手も足も出なかったのも無理はない)

「ユーノ博士、どうされました?もしAMFが強すぎるのでしたら、ジャケットの襟にあるボタンを押して調整してください」

 レミオが真剣な顔で声を掛けた。

(僕が気持ち悪くなって倒れでもしたらと懸念しているようだ。)
「ありがとう。もう大丈夫なようです」

 襟のボタンを数秒押し続けると、先ほどまでのおぞましい感覚が、嘘のように消えていった。
 改めて、部屋を見渡すとどうやら調査艇を収納する格納庫らしいことに気づいた。薄暗い間接照明の部屋の中央に発掘された口碑が、
三重の結界魔法で厳重に囲まれているのが見えた。

「あそこです。アル、代表者を呼んでくれ」
 歩哨の一人が、部屋の隅に敷かれた絨毯に寝転がっている人々に近寄ると声を掛けた。しばらくして、小柄な人影が立ち上がるとユーノ
たちの方へ足を引きずりながらやってきた。
 目が悪いのかサングラスをかけているが、長い栗色の髪と体つきからして女性らしい。
「レミオ、レナードに何かあったの? ま、まさか・・・ユーノどうして?」
「ラーナ、何があったんだ? 族長は何処にいる?」
 かっての許嫁の変わり果てた姿に声もないユーノにラーナが詰め寄った。

「族長は死んだわ」

 族長が死んだ・・・・孤児の自分を拾い上げ、育ててくれた人物の死を告げられ絶句したユーノにラーナは怒りをぶつけた。

「ユーノのおかげで、まともな遺跡発掘の仕事が増えたわ。でも収入には結びつかなかったの。時空管理局の 身内を持つ
発掘屋に、うま味のある裏仕事を回す馬鹿はいないもの」
「だからって盗掘に手を出すことはないだろう。僕に連絡してくれれば、ロストロギア絡みの仕事を回せたよ。何故、連絡をしなかったんだ」

「連絡なんかできるもんですか!割が良いって引き受けた辺境世界の遺跡発掘で事故にあったの。3人死んだしすぐに手術する必要な
怪我人が4人もいたわ。でもお金が足りなくて、2人しか助からなかった。それで族長は、盗掘を決意したの」

 族長は依頼を受けたロストロギアの発掘に成功はしたが、依頼者が時空犯罪者だったのが運の尽きだった。
 報酬を受け取りに行った族長と長老たちは、殺され宿営地も襲撃を受け、一族は散り散りになって逃げざるをえなかった。

「レナード兄さんと私が、10日後に再会したときには、父さんも母さんも襲撃されたときの傷が悪化して死ん でいたわ。生き残った一族は、
発掘前の3分の1以下、それからは墜ちるばかり、そのあげくがこのざまよ」

 サングラスをはずして、潰れた目をさらしたラーナは話し続ける。

「新しい族長には、レナード兄さんが選ばれたわ。年長者は、フリック爺さんしか生き残ってなかったから選択肢はなかったの」

 生き残った一族の総意で新族長に選ばれたレナードは、盗掘屋として生きていくためにはスクライアとういう姓を捨て、一族名をライヤー
と改めるしかないと宣言したのよとラーナは自嘲の笑みを浮かべた。

「ライアーと名乗ってからは、しばらくは順調だったわ。族長と長老たちが仕事を取り仕切っていたから、レナード兄さんがスクライアだって
知ってる人はいないし、レナード兄さんの優秀さは知ってるでしょ」
「ああ、義兄さんの探索魔法は、僕より凄いからね」

 人が良すぎるのも僕以上だったねという言葉を呑み込んだユーノは、ラーナに話を続けるよう促した。

「年寄りと若い子ばかりだから、遺跡発掘のような大きな仕事は出来なかったけれど、ロストロギアの無い陵墓の盗掘や封印されたB級ロスト
ロギアの回収のような仕事は、いくらでもあったから、生活はスクライアのころより楽になったわ。今思えば、あのころが一番、楽しかったな」

「しかし、陵墓の盗掘は、第一級遺跡破壊犯罪だ。捕まれば死刑は免れないんだぞ。生活のためとは言うなら、何故、僕に」
「どの面下げて行けると思うの? スクライアが時空犯罪者に協力したなんてこと、ユーノに言えるはず無いでしょ。それにレナード兄さんが、
迷惑を掛けたくないって言ったの、だから」

「ラーナ、薬の時間だ。後は僕がユーノ博士に話そう。君は本調子じゃないんだから休みたまえ。」
「レミオ邪魔しないでちょ・・う・・だい」

 言いつのるラーナの後頭部に左手をかざしたレミオの掌から、ユーノの膨大な魔法知識の中にも覚えのない魔法の波動が発せられた。


「ラーナ!」
「発作です。病室に連れて行きますので、しばらくお待ちください」

 意識を失ったラーナを抱え上げたレミオは、ユーノに一礼すると背を向けた。

「ユーノすまんかった。お前を頼っていれば、皆、死なずにすんだんじゃ」
 半ば呆けたのか、何回も謝罪を繰り返すフリック爺さんにかける言葉もないユーノに、生き残った一族の若者
たちは、頭を下げてひたすら謝罪し続けた。

「レミオ三尉のところに、ご案内申し上げます」
 歩哨がユーノを案内した部屋には、手書きで医務室とミッドチルダ語で書かれた木の札が掛かっていた。

「昏睡状態ですが、命に別状はありません。意識も、あと2,3日もすれば戻るでしょう」
 部屋の中央に置かれている高酸素カプセルの中に寝かされているレナードを指さすレミオの声は、ラーナの発作を抑えた時
とは対照的に、いたって平静だった。

「犯罪者の彼に、正規の医務室を使うわけにいかないので、この部屋を臨時の医務室にしています。設備に問題ないので、ご安心ください」
「ラーナは、ここにいないようですが?」

「彼女は、保護された状況が状況ですから犯罪者扱いになりません。発作の問題もありますので、正規の医務室で寝てもらっています」
「ラーナやレナードを助けてくれたそうですね。皆、感謝していましたよ」

「・・・彼らの今後は、あなた次第でしょう。私は、卿の命に従うだけです」
 一瞬、口ごもったレミオの顔を見たユーノは、一族の運命が自分の手に委ねられているのを自覚せざるえなかった。
 ラーナの告白したことが事実なら、スクライア一族の破滅は避けがたい。
 そして、それを阻止できるの自分しかいないのだ。



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目次:再び鎖を手に
著者:7の1

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