257 名前:槍騎士“悲愴” [sage] 投稿日:2010/02/07(日) 19:48:58 ID:0LrVPdy6
258 名前:槍騎士“悲愴” [sage] 投稿日:2010/02/07(日) 19:50:19 ID:0LrVPdy6
259 名前:槍騎士“悲愴” [sage] 投稿日:2010/02/07(日) 19:51:49 ID:0LrVPdy6
260 名前:槍騎士“悲愴” [sage] 投稿日:2010/02/07(日) 19:52:59 ID:0LrVPdy6
261 名前:槍騎士“悲愴” [sage] 投稿日:2010/02/07(日) 19:53:49 ID:0LrVPdy6
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263 名前:槍騎士“悲愴” [sage] 投稿日:2010/02/07(日) 19:55:46 ID:0LrVPdy6
264 名前:槍騎士“悲愴” [sage] 投稿日:2010/02/07(日) 19:56:43 ID:0LrVPdy6
265 名前:槍騎士“悲愴” [sage] 投稿日:2010/02/07(日) 19:57:56 ID:0LrVPdy6

槍騎士“悲愴”
前編


新暦75年、夏。
先進都市クラナガン……ミッドチルダ地上本部と呼ばれる、天を突く塔の最上階にて。
音はない。静寂さ、と言えばいいのか。そこにあったのは一人の男の亡骸と、一体の機人の残骸だった。
胸を貫かれ肺腑と血の池で溺れ死んだ、あるいは友だったのかもしれない男の死体――人間としての原形を留めている。
もう一つ、残骸と称すべき存在は酷い有様だった。

「……これは」

一足遅く辿り着いた女、シグナムという剣士が目にしたのは、バラバラに打ち砕かれた機械と肉片だ。
元々は人の形であったことさえも信じられないような、暴虐の嵐が吹き荒れた後。
それを為したであろう一人の槍騎士は、シグナムの目線を受けながら静かに哀哭していた。

「遅かったな……」
「……中将は?」
「死んだ。殺した機人は俺が壊した」

瞑目。シグナムという武人は瞳を開けると、ただ低い声で告げた。
選択を……せめて誇りだけは守れる死と、責務を背負う生き方を。
疲れ切った虚空を泳ぐ目が、どちらを選択するかなどわかりきっていたのに。

その筈だった。





思えば堕ち続ける人生だった。
物心ついた頃には天涯孤独、家名だけの家、友に裏切られ、大勢の部下を巻き添えに死んだ。
この手から零れ落ちたモノはあまりに多く、願いどおりに為せたことなどない。
“正義”を謳う世界の片隅で、届くはずもない夢を追い求めた果ては、死と呪詛に満ち牢獄じみた境界線。

こう思った。
踏み止まる理由など何処にもない。
不完全な肉体と目的を見失った魂に、何が残っているというのだ。

こうも思う。
踏み越えれば楽になれるはずだ。
背負うべき責務と罪を捨て、冥府の腹の奥底へ二度と振り返ることなく歩き出せばいいのだと。

「俺は……」
「旦那ァ!」
「……」

ゼスト・グランガイツが選択しようとした。
その不吉な響きに、彼を慕う融合騎は声をあげ、烈火の将は眼を細めた。
残されるものたちへすべてを丸投げする道を、彼が選ぼうとした刹那。

――キリキリキリ

……壊れた歯車の音が聞こえた。
まだ赦せないことがあるのだと、真っ黒な虚無が唸っている。
もう、己の心には何も残っていないと思ったのに。

――キリキリキリキリキリ

正義を信じて走った記憶は穢れた。
少なくとも、あの狂科学者の存在自体が、正義の否定。
絶対の秩序を求めた騎士の理想は、もうどこにもなかった。

築き上げた友情と信頼は信ずるに足らなかった。
一番信じていた者は真相を語らず去り、確かな信頼は戦闘機人によって蹂躙された。
裏切られた。
それを否定するだけの事実はなく、虚ろに壊れた真実のみが“笑う”。
そう、笑うということ。


笑い合えるということ。
幸せを信じるということ。
絆がそこにあるということ。


――思えば俺は何時笑っただろうか?


心の底から笑ったのは……もう思い出すことも難しい昔、信じられる正義と仲間たちが存在した過去。
ルーテシア・アルピーノという部下の忘れ形見を預り、父娘のように振舞ったことも幾度かある。
しかし偽りの笑みしか浮かべたことがないし、心の底には沈殿した憎悪と怒りと疑念が渦巻いていた。
そう、それは初めこそ特定された目標へのものだったが、何もかも無意味となった今では……。

――キリキリキリキリキリキリキリ

『――私はせめて、妹たちには幸せになってほしい』
『私やドクターを恨むなとは言わない。……それでも、お前の幸せを見つけてくれないか?』

ああ、知っている。銀髪を伸ばした、ちっぽけな少女の姿の言葉を。
確かにこのゼスト・グランガイツが隻眼にした少女であり、引き換えとして彼のすべてを奪い取った者。

ナンバーズ。戦闘機人でありそのすべてが母体となりえ、未来を紡ぎうる可能性の存在。
人造魔導師。蘇生と改造により兵器化された人体、性欲も食欲も存在しない可能性無き存在。

未来を紡ぎたいという欲望さえ奪われ、ただ執念で動き続けるだけ……幸せなど、最初からあるはずも無い。
そう認識してしまった瞬間、停滞し諦観し壊死を起こしていた感情が、真っ黒な虫食い穴に呑まれて消えた。

「――――カッ」

虚ろだった視線に戻ったのは力(パワー)であり、正も負も超越した煉獄の炎。
おそらく男の運命を【死】と信じていたシグナムは、その変化に剣の柄を握りしめたし、
長い間ゼストを支え続けた融合騎アギトは、健気に近づこうとし、異形の気配を纏った彼に瞠目した。

「だ、旦那……?」

黙れ。うるさい。ノイズが止まらない。
理性と執念が抑えていたはずの、男の焦げ付きが音を立てて広がる。

――キリキリキリキリキリキリキリキリキリ

『チンク姉、とな。あの子たちは私をそう呼んでくれた』
『……たとえ縛られた運命でも構わない、あの子たちが幸せなら――』

何もかも消え去ったあとの虚無さえも、平穏と錯覚したあの頃。
まだ憎悪も憤怒も燃え盛らず、“それしかない”と気づいてしまう前。
不意に思い出されたのは、確かな羨望を覚えた笑顔だった。
ひねり潰したいほどに。

さらに。
再生されるのは、かけがえのない日々。

『隊長ぉ、見てくださいよ! うちの娘たち、もう本当に可愛いんですよ〜!』

クイントも、

『……父親がいないのは辛いってわかってます。それでも……この子を産みたいんです』

メガーヌも、

『ゼスト。俺はきっと、この世界に平和をもたらして見せる……よろしく頼む』

レジアスも、


それぞれが大切だった仲間たちの言葉で、もう二度と戻ることの無い日々の―――。
ああ、ゼスト・グランガイツが愚かで無力だったからこそ、失われ喪わせた、人生と命。

そして。
ゼストは……希望と呼ばれた『ストライカー』はこう言ったのだ。


『――――俺が、皆を守ってみせる』


誰一人、守れやしなかったのに。
耳鳴りのような歯車の音は、もう聞こえない。


  それは音もなく崩れ落ち、砂のように散らばって、もう二度と戻らない。
  数え切れない未来を奪うのだと、言われるまでもなく理解していた。
  これはワガママだ。誰もが望まぬ破滅の終わり。
  ああ、それでも……俺はそうするべきなんだ。




静かに瞼を広げると、こちらを警戒する騎士シグナムと、旅を共にしたアギトがいる。
二人はゼスト・グランガイツという騎士の変化を感じ取り、鋭くこちらを見た。
ゼストは、己の魔導端末【デバイス】から情報をコピーし終えると、データの入ったメモリスティックを床に落とした。
からん、と乾いた音を立てて転がったメモリスティックに目を奪われることなく、シグナムが告げた。

「騎士ゼスト……貴殿は投降する気は――」

あるいは死を以て誇りを守る終わり。
先程までの男ならば、おそらく飲んだはずのそれ。
厳かとさえ言える声を遮ったのは、爛々と燃え盛る炎を宿した瞳……!
アギトは恐怖しながら叫んだ。

「旦那? いやだよ旦那、どうしちまったんだよ!?」

ゼストはすでに、決意も覚悟も狂気も固めていた。
だから答えは決まっていて、

「……長い夢だったよ。どうして気づけなかったのだろうな、復讐など、殺すしか無いと言うことに」

正確に言うならば復讐ですらない。
咎あるもの咎なきものも、平等に殺すのだから。
そう思考し笑う……そう、これはただの報復。
己の人生を狂わせたすべてを侵し尽くす儀式だ。

「っ! まさか――」

歪極まる表情に怖気を覚え、繰り出されたシグナムの剣閃は宙を切る。ゼストが一瞬早く、跳んでいたのだ。
後方、ナンバーズの肉片とレジアスの死骸を飛び越え、渾身の一撃が対物理シールドを兼ねた窓ガラスを叩き割る。
先の襲撃で機能を停止した地上本部の警戒網は男を捉えられず、止む無くシグナムも飛行術式を展開。
追撃すべく飛び立つ寸前、悲痛な声を耳にした。

「旦那ぁぁぁ!!」

ユニゾンデバイス。おそらくは古代ベルカ式。
ここで放置するわけにもいかず、彼女は思いとどまった。
都市上空で水蒸気を棚引かせ消えゆく影――最強の騎士。


ここで融合騎の保護を優先したことを、シグナムは後に悔やみ続けた。




負けた。
戦うために造り出された、自分たち戦闘機人――ドクターの技術の結晶が。
戦闘機人の8番目、特殊術式による支援担当、オットーは敵の守護騎士に確保された己を恥じつつ、
リンクシステムによって12番ディード――オットーにとっては双子の姉妹に等しい存在――が無事であると確認し、安堵した。
完膚なきまでに負けてしまった。データリンクが正しければ、展開していたナンバーズのほとんどが劣勢ないし敗北していた。

……僕らの負け、か。ゆりかごと陛下が無事なら大丈夫だろうけど……そう上手くいくわけないし、ね。

戦うために造り出された命でありながら、オットーには――いや、多くのナンバーズには執着というものがなかった。
そのことを考えれば、あっさりした彼女らの反応はごくごく自然なものだが、どうやら守護騎士にとってはそうでないらしい。
困惑している。あの精強な兵たちが見せる困惑顔に、内心、可笑しな気分になりつつオットーは姉妹との顔合わせを夢見た。
尤も、これだけのテロを起こした自分たちがどうなるかなど、まったくわからなかったが。
そう思いながら、ボーイッシュな少女は空を見上げて――。

「……? アレは……」

空にちかりと閃光が見えた次の刹那、突如として減速することもなく“落下”した影。
爆圧と衝撃波が巻き起こり、拘束されたオットーはなす術なく弾き飛ばされた。
砂の味がする。オットーが目を剥いて落下してきたそれに目線を向けると、機動六課のメンバーが臨戦体制に入っていた。

「なんだ、貴様は!」
「ザフィーラ、この人は……間違いないわ、あの騎士よ!」

オットーも良く見知ったその男は、場違いなほどに穏やかな笑みを浮かべている。
少なくともオットーが知る限り、精々が作り笑顔くらいの、《喜》の感情を忘れてしまったような男だというのに。
何故――笑っているのか? オットーは恐怖を感じながら、それでも正気を保つために声を上げた。

「……騎士、ゼスト? まさか、助けに?」

無言だ。ゼスト・グランガイツは捩れた黒い刃、すなわち槍と剣の中間的運用が出来るポールウェポンを構えた。
立ち上るものは闘志ではあるまい。むしろもっと冷たく澄んだ意志であり、オットーには理解できない何か。
それが何なのか、その場で理解しえたのは守護騎士たるシャマルとザフィーラのみだった。

「……騎士ゼスト、何のつもりだ?」
「この子たちは時空管理局が拘束しています、貴方も投降を……」

理解してなお、彼らはゼスト・グランガイツという誇り高い騎士を信じた。
あるいは言葉さえあれば、彼自身が秩序を守る立場に戻るのではないか、と。
そう信じる声をかけられて、男が発したのは異様なほど平坦な声。

「――退け」

そう発したときには、既に長身の槍使いは飛んでいた。
慣性重力を支配し、ただの踏み込みを異常な加速に変えたのだ。
ザフィーラは咄嗟にシャマルを押し倒すことで、殺害半径から逃れていたものの、浅くない傷を負った。
血が、舞う。そしておそらく最後まで、オットーは自分の身に起きたことを理解できなかった。

ぞぷり。

紅い尾を引いて、首が宙を舞った。
力を失ってどうっ、と倒れ込んだオットーの身体と、地面をごろごろと転がる生首。
まるでモノを値踏みするようなゼストの目は、それが生命活動を停止していることを確認し、

「あっけないものだ」

生命を奪ったことをなんとも思わぬ、冷え冷えとした声である。
こんなにも……こんなにも惨めに殺される程度の存在に、俺と部下たちは――。

「くだらん」

制御しようなどとは間違っても思わない、男の“焦げ付き”。
これはゼスト・グランガイツの選択、絶望も希望も捨てた果ての選択なのだから。

「……ぐ、う。貴様ァァァ!」
「なんて、ことを……あなたは……」

ザフィーラとシャマルが呻く惨状さえも、無意味――ゼストには奴らの【死】さえあればいい。
もう、彼の男に声は聞こえていない。それは既にヒトであることをやめたのだから。
だから、無言。次なる獲物を求めて、猟犬のように飛び立った。

「待てぇ!」


咆哮する守護獣への一瞥が、すべてを物語っていた。





ティアナ・ランスターが行動不能にした三体の機人。
彼女が相棒のナカジマ陸士とともに去った後、その三体は独自判断で動いていた陸士部隊に預けられていた。
ノーヴェ、ウェンディ、ディード。直接戦闘タイプの戦闘機人であり、後期ロットのナンバーズだ。
拘束されていた三人が目を覚まし、最初にしたことはデータリンクによる姉妹の無事の確認だった。
陸士部隊が装甲車で防衛しているその場所は、ガジェットドローンの活動が停止した今では最も安全な場所。
ノーヴェはチンクの無事を、ウェンディはセインの、ディードはオットーのそれを真っ先に確認した。
ノーヴェ――安堵。
ウェンディ――溜息。
いずれも姉たちが生存していることを確認し、

「良かった……」
「たっく、心配させる人ッス」

安心感を共有しようと、ディードにも声をかけた。
あのすこぶる優秀な機動六課の連中なら、こちらが負けても生かして捕らえているだろうと思って。
けれど、ディードの表情は凍りついたように動かず、ぽつりと言葉が漏れた。

「……オットーからの、リンクが、ない……」
「き、気絶してるんだろ、きっと!」
「気絶した位じゃデータ共有は途切れないッスよ?」

陸士たちが見張る中、不安げに少女たちは空を見上げ――まるでそうすればオットーが無事だと確認できるように――、
あるいは本当の意味で彼女の安否を知る人物を発見した。首都防空隊が壊滅した今、空を飛ぶ者を遮るものはいない。
だからそれは、間違いなく騎士ゼストだった。その飛行に気づいた陸士部隊が応戦する構えを見せ、誘導射撃を数十発放つが。
空気が軋むほどの轟音が響き、ただの一閃ですべての攻撃が無効化されていた。
ゼストが応戦として放つ攻撃魔法は、陸士たちが乗っていた装甲車に突き刺さり――爆裂。
ごぅ、と爆風がナンバーズの三人にぶつかる。堪らず目を閉じると、何かが着地する音が聞こえた。
三人とも、“ソレ”の放つ気配に逃げ出したいくらい怯えている。なのに、手足は拘束具で満足に動くことも叶わなかった。
“ソレ”を視認しようと、ウェンディは瞼を開いた。このまま暗闇に閉じこもるよりは、ずっとマシだと信じたかったから。

「……貴方ッスか、ゼストのおっちゃん」

なるほど、目を開けてみればそこにいたのは騎士ゼストで、ドクターの言うことを聞かざるを得ない人物だった。
大方、自分たちの救出を頼まれでもしたのか。そう思って親しげに接しようとした瞬間、刃が煌いた。
痛覚カットの鈍い音をノイズのように聞き、「あれ?」と間抜けに唸ってみると……。
両足が綺麗に腿の部分で切断され、凄まじい量の血が溢れていた。
茫然自失のウェンディに代わり、ノーヴェが凄まじい形相で怒鳴る。

「テメエ! 何しやがるッッ!!」
「見て分からんか?」

さらに刃が閃く。ウェンディの腹に切っ先が突き刺さり、ずるずると血の線を描き地面を引き摺られた。
激痛――痛覚カットも間に合わない速度のダメージに、陽気な機人の甲高い絶叫が響く。
まるで虫けらだな、と冷えた脳髄が囁く……刃を返し、その臓腑を掻き乱した。
致命的ダメージ。ショックで痙攣する身体。

「おい、ウェンディ、ウェンディ! しっかりしろよ!」
「…………ぁ……ぃたぃ」

ノーヴェが泣きそうな声でウェンディの名を叫ぶも、その頃には少女の瞳は虚ろに宙を見ていた。
槍を引き抜く。それを血に塗れた黒槍で為した“騎士だった男”は、笑いもせずにそれを眺める。
何もかも無意味だと確認するための儀式――心を飲み尽くした、真っ黒な虚空へ捧ぐ。
これだけの惨禍を為してなお、報復(ヴェンデッタ)を求める心の渇きは満たされぬ。
いや、むしろ―――。

「まさか……オットー」

そう呟いたのは、最後発の戦闘機人だったか。
流麗なロングヘアの少女が、怒りとも悲しみともつかない激情を宿してこちらを見る。
オットー。先ほど首を刎ねた機人の名前が、そうだったろうか。
ゼストは初めて知った。
命を刈り取った先に感じる、虚無の途方もない許容を。
ああ、だから――その少女に告げていた。

「俺が殺したよ、戦闘機人ども。足掻け、貴様らが俺にした行為の報いだ」

希望を目の前で摘み取られ、奪われ続けた男の言葉は――あるいは嘆くかのようで。

「ッァァア!」

戦闘機人ナンバーズ12番ディードが殺意を剥き出しに、拘束錠を破壊し飛び掛ったのと、
絶対零度の殺人機械と化したゼスト・グランガイツが、闇色の刃を振るったのは同時だった。
剣槍の一撃よりも早く機能したIS《ツインブレイズ》……紅い高エネルギー体の刃が顕現し、ゼストの槍を真っ向から受けとめる。
バチバチと飛び散るスパークと、二刀流の機人のパワー。
なるほど、如何にもゼストは不利のように見えた。
だがそれだけだ。

「その程度か」

後退に見せかけたタメにより、恐ろしい加速をゼストの両足が生み出した。
衝撃――弾き飛ばされ、空中へ投げ出された双剣士の肉体に向け、突き刺し・穿ち・切断せしめる連撃が見舞われた。
次の刹那に散らばっていたのは、ディードの四肢だったもの。
そして悲鳴を上げることもなく、首の付け根から切断された頭部が地面へ落下。
赤い体液が生温いスコールとなってノーヴェの髪を汚し、そのおぞましさに彼女は絶叫する。

「う、ぅあああああああああああああ!」

姉妹の血に塗れた少女を見据える、純粋な暗黒が渦巻く瞳。
先ほどまで安堵を浮かべていた機人の、悲嘆と呼ぶべき激情。
それを眼にして感じたのは、あるいは虚無へ加速するための悟り。
ノーヴェという少女の姿をしたそれに、止めを刺すべく歩み寄る。
後悔はない。歩みを止めるつもりはない。
いまさら、この魂には何も残されていないのだ。
故に出来ることなど決まっている。

二度と、奪わせないために――――


「死ね」


――――殺すしかないのだから。


次へ
著者:シロクジラ

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