魔法少女リリカルなのはA's++

[28]名無しさん@ピンキー<sage>2007/04/02(月) 02:06:36 ID:9KG2yhW+
[29]名無しさん@ピンキー<sage>2007/04/02(月) 02:07:30 ID:9KG2yhW+
[30]名無しさん@ピンキー<sage>2007/04/02(月) 02:08:31 ID:9KG2yhW+
[31]名無しさん@ピンキー<sage>2007/04/02(月) 02:09:19 ID:9KG2yhW+
[32]名無しさん@ピンキー<sage>2007/04/02(月) 02:10:02 ID:9KG2yhW+
[33]名無しさん@ピンキー<sage>2007/04/02(月) 02:10:47 ID:9KG2yhW+
[34]名無しさん@ピンキー<sage>2007/04/02(月) 02:11:44 ID:9KG2yhW+
[35]名無しさん@ピンキー<sage>2007/04/02(月) 02:12:59 ID:9KG2yhW+


重低音を響かせながら雲の上を航行する黒い巨大な船。星空の中で、船は真下の雲に影を作りながら移動を続けていた。
その船内の一室、船長室では二人の少年と一人の男が対峙し、殺伐とした雰囲気が部屋の中を支配する。
少年の一人、ユーノ・スクライアは目の前の机に座っている憎き男に向かって言った。
「あなたのせいで計画が実行できなくなるところだった!一体あなたは何がしたいんですか!」
ユーノの知らないところで一族を利用し犯罪行為を犯させようとしたこと。その許されざる行為にユーノは憤慨した。
その怒声を聞いてもサイオンは普段と変わりない様子で答えた。
「知ったことか。使えるものは最大限使う。それだけだ」
そう言ってサイオンは持っていたペンをくるくると指先で回し、つまらなそうに続けた。
「もっとも、お前の一族は大して使えなかったがな」
「お前は…!!!」
今までずっと押し隠し我慢してきたサイオンへの怒りが爆発しそうになり、ユーノは咄嗟に右腰のナイフへ手をかけた。
この距離なら…!
しかし、すぐに手が止まる。サイオンの鋭い瞳が何を言っているのかわかった。
俺を殺すと同時に、一族の首輪は起爆するぞ。その瞳はそう言っていた。
「くっ…!」
震えながらこぶしを握り締め、ユーノは俯いた。扉の前では護衛の男が向けていた杖を降ろした。
エリオはただその様子を見ていた。
「計画が始まったことですでにアースラの下準備は終わったとみなし5名、エースを一人倒したことで
さらに5名解放したんだ。今の残りの人質の人数は13名。なにか不満でもあるのか?」
怒りに顔を歪ませるユーノにサイオンは眼鏡をかけ、コンピュータにデータを打ち込みながら言った。
たしかにそれは事実だった。ユーノがグランディアに到着したとき、10名の首輪は外され船外へと解放された。
もちろん解放された一族が管理局に知らせるなどということはなかった。
そんなことをすれば残された家族がどうなるか目に見えていたからだ。残りの13名の人質の半数は幼い子供だった。
ユーノは心配することはない、自分が絶対何とかすると一族に繰り返し解放された一族を見送った。
「それで、お前の初期に立てた計画は続行可能か?」
サイオンはちらりと目線を上げてユーノを見た。
ユーノも突発的な感情の高まりがしだいに静まり、息を吐いてサイオンに答えた。
「…アースラのハッキングに紛れてAMF発生装置を破壊しておきました。本局に帰らない限りアースラは装置を交換できない。
今は待機状態に入っているので、その間に交換型転送魔法陣の射程内にグランディアを近づけます」

その内容を聞いて、サイオンはぴくりと眉を上げて尋ねた。
「なぜ、アースラは待機を選択したと思う?」
当然の疑問だった。アースラは転移をする気配もない上に武装局員も派遣していない。
ユーノの捜索も表面的には行われていないようだ。
「それは…」
ユーノは顔を俯かせ、少し言いとどまった。
緘口令を発したクロノの姿が思い浮かぶ。そして、しばらくの沈黙の後事実だけを伝えた。
「アースラの艦長が、僕を庇っているからだと思います」
なのはの姿で潜入していたユーノも、クロノのその決定には驚いた。
まさかあの規則にうるさいクロノが、自分を庇うために規則をねじまげる決断をするとは思わなかったからだ。
その言葉を聞いて、一瞬サイオンは目を丸くした。その顔は今までサイオンを見てきた中で初めての気の抜けた顔だった。
「ク、クク、ハハハハハ!」
そして部屋に響き渡る声で笑い始めた。
ユーノとエリオは突然のことにびくりとした。
「そうかそうか。…あのクロノ・ハラオウンがねぇ」
言いながらもサイオンはクククと笑いを堪えている。ユーノは自分を庇ってくれたクロノが馬鹿にされたようで頭にきた。
サイオンは眼鏡をはずし、椅子に深く腰をかけた。
(アースラの待機は予想外だったがこれはこれでうまくことが運んだな)
満足そうに指を組んで目の前のユーノを見る。確かにこの少年は頭がいいが、サイオンの真の狙いについては気付いてはいない。
気付いていれば、のこのことこのグランディアには姿を見せないはずだ。
サイオンの計画はすでに最終段階に入ろうとしている。
アースラの本局への報告がまだのようだが、もはや誰にも止められまい。
今はこの場にいない同胞、ミッドチルダの議員であるウィリアムスのことを考えた。
あいつはあいつで違う場所で戦っている。俺たちはこれでいい。
「では明日の夜、お前の計画を発動する。それまでしばらく休め」
サイオンがそう言うと扉の前の護衛がユーノ達に退出を促した。
部屋を出る際、エリオが不安そうにサイオンを見た。しかし、サイオンはわざとそれを無視した。
(くだらんやつだ)
エリオを見てサイオンは思った。ユーノ・スクライアもクロノ・ハラオウンも、その他のエースたちも、
その才能を認めなければならないだろう。今回の事件を起こしたことで、年端の行かぬ人間でもいかに優秀かが理解できた。

それに比べて、このエリオという少年の不甲斐なさと行動理念の不純さは子供のそれだ。
そしてそのエリオの考えの浅はかさが、サイオンに哀れみにも似た感情を覚えさせた。
(最後の夜だ。ゆっくり過ごすがいい)
サイオンは持っていたペンをポケットに入れた。

                 *

「みんなに集まってもらったのは他でもない。今回の事件について話したいことがあるからだ」
アースラ内、作戦会議室。クロノ、エイミィをはじめはやてとヴォルケンリッターの騎士達、
そしてアルフとスクライア一族から召喚された2人が椅子に腰掛けていた。
その場にいる多くの人間は見慣れぬそのスクライア一族が気になってしょうがなく、ちらちらと目線を送っていた。
「その前に、僕以外は会うのが初めてだから自己紹介をお願いしてもいいかな」
それに気付いたクロノが金髪の女性に言うと、女性は立ち上がって周りを見て少し頭を下げた。
「私の名前はセラ・スクライア。ユーノがお世話になっているようで、みなさんにお会いできて嬉しい限りです」
そう言ってにこにこ笑うセラにはやてが挙手して尋ねた。
「あの…セラさんはユーノ君とはどういった関係なんでしょうか」
比較的訛りを抑えつつ尋ねたはやてに、セラは透き通るようなライトブルーの瞳をみなに向けて言った。
「ああ、初めに言うべきでしたね。私はユーノの母です」
その言葉に会議室にしばしの沈黙が下りる。その静かな様子にセラは不思議そうに首を傾げた。
「な、え、えええぇぇぇ!?」
はやてが驚きの声をあげ、その他の者も目を丸くした。
「何をそんなに驚いているんだ」
「そやかて…」
呆れた顔で見てくるクロノにはやては呟き、みなと同じことを思った。
((((わ、若すぎる…))))
みながあらためてその女性の風貌を見た。
長く垂れた金髪を胸の辺りで銀のリングで留め、ライトブルーの瞳でにこやかに笑うその顔はどう見ても子供がいる年齢には見えない。
セラに集まる疑惑の目を見て心を読んだクロノが答えた。
「その人はユーノとは血は繋がってないぞ」
「え?あ、そ…そうなんだ」

エイミィが少し気まずそうに言った。触れてはならないことかも知れないと思ったからだ。
「ああ、そのことでみなさん驚いてらしたんですね」
ぽんっと手を合わせたセラが続けて言った。
「そう、あれはちょうど10年前。3歳のユーノを一族が拾って、私が育てることにしたんです」
そう言って目を閉じて昔を懐かしむセラにシャマルが尋ねた。
「あの…ちなみに今はおいくつなんですか?」
それに気付いて目を開けたセラが答えた。
「今年で18になりました」
「え!?っていうことは8歳で子供を育てようと思ったんですかぁ!?」
シャマルが驚きとともに尋ねるとまるで当然といった表情でセラが言った。
「ユーノは遺跡で拾われたのですが、その時の落盤事故で私は両親を失いました。
私は、ユーノを育てることこそが神様のお導きだと確信したのです」
祈るように指を組むセラ。どうやら彼女は聖王教会の信徒のようだ。
(でも母ってよりは姉よね。…クロノ君と同い年だし)
エイミィはセラを見ながら思った。ユーノがクロノの挑発に毎回ムキになるのも
このことが関係しているのかもしれない、と思った。
(それにしてもいつの間に知り合ったのかしら)
自分の知らない、しかもとびきり美人の女性と面識があったクロノにエイミィはちょっとやきもちを焼いた。
「そろそろあたしの自己紹介、してもいいかしら」
セラの隣に座っていた灰色の髪の少女が少し苛立たし気に言った。
「ああ、すまない」
クロノは謝りつつも、
(僕が呼んだのはアルフとセラだけだったんだがな…)
と思ったが、口には出さなかった。
直感的に言わない方がいいと思ったからだ。
「私はコルト・スクライア。ユーノの幼馴染兼許嫁よ!」
自信満々に立ち上がって言うコルトに、その場は静まり返った。
先ほどとは違い、誰も何も言ってこない。
「え、あ、何?もしかして誰も興味なし?」
反応のない様子にコルトは一人あたふたした。

(こいつはあたしよりも下だな)
それを見ていたヴィータが会議室にいるメンバーのランク付けで自分の下にコルトをランクインさせた。
「コルトちゃん嘘は駄目よ。一族に許嫁なんてもの、ないもの」
「違うわ!約束したの!それにお父さんもお母さんもいいって言ってくれたもん!!」
カップに口をつけながら静かに言うセラにコルトは必死に言った。
確かにスクライア一族の系譜は根深く、その血を薄めては一族としての成り立ちが弱まってしまうので
一族内での婚姻が比較的多かった。しかし、掟があったり親から強制される時代はとうの昔に過ぎていた。
それはユーノのような孤児も受け入れられた所以でもある。
「それにしてもユーノ君に妹さんがおったとはなぁ」
セラが姉ならコルトは妹、といったところだろう。はやてが呟くとそれを聞いたコルトが怒り心頭をあらわにしていった。
「はぁ?誰が妹ですって?あなた歳いくつよ」
「え?じゅ、13やけど…」
自分の失言がなんなのかわからずにはやては戸惑いながら言った。
「あたしは15よ!」
「んな!?」
あまりの衝撃にはやては驚いて口を開けた。少女の身長はアルフやヴィータよりも少し大きい程度。
おそらく140センチを超えてるか超えてないかぐらいではないだろうか。3年前の自分に近いかもしれない。
(な、なにー!?)
それを聞いていたヴィータが心の中で叫んだ。プログラムの自分には関係ないが年功序列はどこの世界にもある。
つまり、あの小生意気で自分と同じくらいの少女ははやての上の立場なのだ。ヴィータは泣く泣く会議室内ランキングを入れ替えた。
自分の下にはかろうじてリィンフォースがいるくらいであった。
「コルトちゃんは胸にばっかり栄養がいって、肝心の頭にいかなかったのよね?」
「そうなのよ。ホント困っちゃう…って頭じゃなくて背!今の絶対わざとでしょお姉様!!」
クスクスと笑うセラにコルトは猛烈に突っ込んだ。
実はセラは自分よりも身長が何センチも低いこの従姉妹に胸では完全に敗北していることを、あまり快くは思っていなかった。
はやてもコルトの胸と自分の胸と見比べて渋い顔をする。その悩める主の隣でシグナムは、
なぜユーノが若くしてあれほどしっかりしているのかわかった気がした。
(話が進まない…)
クロノは見ていて頭痛がした。まさか自己紹介だけでこうも緊張感がなくなるとは思っても見なかった。
スクライア一族はその活動同様、かなり自由奔放な人種らしい。

「ごほん!」
クロノは大きな咳払いをして、みなの注意を引いた。ようやく静まった会議室の中でクロノが真面目な顔をして話し始めた。
「まずは事実確認からだ。セラ、行方不明のスクライア一族について調べてもらえたか?」
そう言うとセラ真剣な表情で報告を始めた。
「調査をしたのが連絡を受けてからでしたが、行方不明のグループというのはありませんでした。ただ…」
セラは調査書のデータをモニターに表示して続けた。
「ただ、明らかに構成の足りないグループが一つありました。スクライア一族は各所で、血縁が近いもの同士や
研究内容に応じてグループを組み活動します。そこのグループは血縁での繋がりでしたので家族構成として
名簿の特定はできたのですが、いない人間について尋ねても知らないの一点張りでして…」
28名のグループのはずが現在は15名しかいない。家族単位のグループで半数の所在が不明というのはありえなかった。
(それにしてもほんの数時間でそこまで調べ上げるスクライア一族はやはり優秀だな)
クロノはそう思いながらみなを見渡して言った。
「数時間前、ユーノがはやてに接触してあるデータを渡してきた。みんなの手元のモニターにも表示されているが、
要約するとユーノはスクライア一族を捕らえた集団の条件を飲みながら解放の交渉に当たっている。今日の一件もその一つだ」
そう言ってクロノは画面を切り替えると、アースラの艦体が映る。
「ユーノの最終目標はアースラの奪取。先のAMF装置の破壊はこの時のための布石だったようだ。
艦内の人間をまるごと転送できる魔法を発動する補助装置もすでにアースラにしかけられている。が、僕はこれをはずすつもりはない。
それは、ユーノが考えている人質解放の手段に必要なことだからだ」
そしてクロノははやてとシャマルを見て言った。
「君達二人は今後いかなるときもアースラを降りないでくれ。首輪を無効化するには君達がグランディアに転送されなければならない」
クロノの言葉に二人は頷いた。
「次に、先ほど向こうから連絡があったがフェイトは独自でグランディアに潜入している。ユーノの身を守ることのみに
専念してもらうように指示を出しておいたから下手なことはしないだろう。安心してくれ」
それを聞いてアルフがほっと胸を撫で下ろした。
「それからなのはの居場所もわかった。この迎えにはヴィータ、君が行ってくれ」
「あぁ!?なんであたしが……いや、やります」
ヴィータは宿敵高町なのはのお迎えが自分であることに納得がいかなかったが、はやてに睨まれて素直に応じた。
会議室内ランキングでは自分は下から二番目。しかもリィンフォースははやてと同義。結局自分が行くしかなかった。
「アースラと本局に敵の内通者がいる可能性もユーノから指摘されている。ここでの内容は口外禁止だ」
その命令に会議室にいる全員が頷いた。

「それから最後に一つ聞いておきたいんだが…」
そう言ってクロノはセラを見た。
「エリオ・スクライアとはどういう人物か教えてくれないか?」
その質問に、セラがコルトに目配せしながら言った。
「それはこの子の方がよくわかっていると思います」
それを聞いて少し言いづらそうな表情をしながらもしぶしぶコルトが答えた。
「6年前から会ってないけど、なんてゆーか冴えないヤツよ。泣き虫だったし一人じゃなにもできないし。
ただ、それでも結構勉強はしてたみたい。結局魔法学院も中退して母親とどっか行っちゃったけどね」
幼馴染であるがゆえか毒を吐くコルト。しかし、毒舌は元からだった。
「まぁ優しいとこもあるし、ユーノと3人で昔は楽しかったわ」
カップに液面に映る自分の顔を見る。あの時から自分はあまり変わっていないような気がした。
そう思いながらも、もう元の3人の関係には戻れないんじゃないかとコルトは思った。
コルトは頭はあまりよくないが洞察力に長ける。クロノ・ハラオウンの瞳を見て、彼の考えていることの察しがついた。
「あ、そうだ。あともう一つ」
コルトは少し呆れたような表情で付け加えた。
「あいつって思い込み激しいのよね。猛烈に」
それが、コルト・スクライアから見た幼馴染の印象だった。


次回へ続く

次回 第二十話 「閃光」

前へ 次へ
目次:魔法少女リリカルなのはA's++
著者:396 ◆SIKU8mZxms

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

メンバーのみ編集できます