魔法少女リリカルなのはA's++

[388]名無しさん@ピンキー<sage> 2007/03/03(土) 03:06:20 ID:lJcNRfht
[389]名無しさん@ピンキー<sage> 2007/03/03(土) 03:07:07 ID:lJcNRfht
[390]名無しさん@ピンキー<sage> 2007/03/03(土) 03:07:50 ID:lJcNRfht
[391]名無しさん@ピンキー<sage> 2007/03/03(土) 03:08:34 ID:lJcNRfht
[392]名無しさん@ピンキー<sage> 2007/03/03(土) 03:09:20 ID:lJcNRfht
[393]名無しさん@ピンキー<sage> 2007/03/03(土) 03:10:17 ID:lJcNRfht
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[395]名無しさん@ピンキー<sage> 2007/03/03(土) 03:11:45 ID:lJcNRfht

緑深き森の奥、月明かりが薄っすらと届く湖の畔に、ぽつんと小さな木造の一軒家が建っていた。
その建物を包むように虫たちが鳴き声を上げ、フクロウのような鳥がその声を森に響かせる。
煙突からは煙がもくもくと上がり、暖炉にある大きなナベの中では美味しそうなスープがぐつぐつと気泡を作っていた。
見る者全てにどこか懐かしさを感じさせるその光景の中、家の中では一人の少女が眠っていた。

「ん……」

なのははふかふかのベッドで寝返りをうった。
その包まれるような暖かさの中で、なのはは夢を見ていた。
夢の中でなのははユーノと遊園地に行っていた。二人で仲良く手を繋ぎ、様々なアトラクションを見て回る。
自分のことなのに、自分のことではない感じ。見ていて恥ずかしくなった。
一緒にアイスクリームを食べ、パレードを見て、最後は観覧車へ。女の子なら誰でも胸を躍らすイベント。
もちろんなのはも例外ではなかった。二人きりの個室が上昇を続け、目下にはイルミネーションに彩られたテーマパーク、
そしてテーマパークの向こう側には街の夜景が広がっていた。
感動に目を潤ませながらガラスに張り付くように見ているなのはを、少年は微笑みながら見つめている。
「私から誘ったのに、自分ばっかり楽しんじゃって、ごめんね」
気付いたようになのははユーノに言った。
ユーノは笑みを崩さず首を振って言った。
「僕も楽しいよ。それに、こんな素敵な瞬間になのはといれることが、何より嬉しい」
すらすらと臭い台詞を吐くユーノになのはは顔を真っ赤にした。
言葉が出てこない。なのはの鼓動は自分でも聞こえるくらい高鳴っていた。
今の雰囲気がそうさせるのか。密室に異性といるからか。
同じ場所、同じ雰囲気で、他の男の子といてもこの胸の高鳴りは起こる?
少年の存在が近すぎてわからない。今まで触れてこなかった心の未開の地に足を踏み入れる不安。
今までのできごとが次々とフラッシュバックする。その全ての場面に現われるユーノがなのはの名前を呼ぶ。
笑いながら、悲しみがなら、喜びながら…。
気がついたらなのははユーノに抱きしめられていた。
(あ…え!?)
突然のことに見ているなのはは戸惑うが、夢の中の自分は何も疑問を抱かずに受け入れる。
そして視点が夢の中の自分へと移る。観覧車の中、目の前にはユーノの肩越しに窓ガラスと夜景が見えるだけだ。
「心配させて…ごめん」
そう言って抱きしめられる腕に力が込められる。
なのはは何も言わずに身を任せていた。
「でも…もう大丈夫。もう、どこにも行かない」
その声になのはは安心する。自分の身近な人が遠くに行ってしまうかもしれない不安はなのははよく知っていた。
一人ぼっちであることより、それは何倍もつらい。
なのははぎゅっとユーノを抱きしめ返した。
するとふいにユーノが腕を緩めた。
窓ガラスに映ったユーノは右腕を掲げていく。その手には、一本のナイフ。
「だから…僕のために……」


―――――死んで



ゴンッ!!!

「!?」
鈍い音とともに額に衝撃が走る。
「いったぁ……」
なのははおでこを押さえて涙目になった。先ほどなにやら夢を見ていたようだが、その衝撃で全て吹っ飛んでしまった。
額をこすりながら目を開けると、のけぞったままの体勢のメイド姿の女性が目に入った。
「あ……え?えぇ?」
状況が把握できずに辺りを見回す。自分はパジャマを着ていて暖炉にはナベがかけてあり、テーブルには美味しそうな食事が
並んでいた。その童話の中のワンシーンのような光景が、なおさら混乱に拍車をかけた。
「お目覚めですか?お食事の時間です」
目の前の黒髪でロングヘアーのメイドがぐぐっとのけぞった体を垂直にすると、瞬きを一切せずに言った。
「あ、あの、えっと、だ…誰ですか?ここは…どこ?」
まるで身を守るかのように掛け布団を自分に引き寄せながらなのはは言った。
その質問に赤い瞳に一瞬電気のような線を走らせ、メイドは答えた。
「私の名前はセリカXX。ここは、ミッドチルダE57地区コテージ『フェアリーテイル』です」
「だ、だぶる…えっくす?」
戸惑うなのはをよそにメイドはテーブルの椅子を引いた。
「お食事ができました。他にご注文があればなんなりとお申し付け下さい」
そう言ってメイドはテーブルの側で直立を維持した。
静かになった部屋の中でなのははようやく今の状況について考え始めた。
ベッドの脇の木目の装置に触れると、半透明の画面が浮き出る。時計を見ると、なのはがアースラにいたときから
5時間程経過しており窓の外を見ても真っ暗だった。
アースラがハッキングされ、ユーノと戦って、それから…
そこまで思い出してなのははメイドに尋ねた。
「あ、あの!…ここに私を連れて来た人は今どこに?」
その声に反応しセリカが答えた。
「わかりかねます。名称不明の男性でしたので。ユーノ・スクライア様からは遣いの者がくると聞いておりましたのでその方かと」
そう言うと、セリカは突然なのは方を向いた。
「高町なのは様のお目覚めから5分が経過しましたので、これより自動解説プログラムを開始いたします。
数分の間、ご質問等にお答えすることはできません。ご了承ください。プログラム終了後、ご命令を承ります」
ペコリと頭を下げた後、セリカはくるっと回ってスカートを広げた。
「この度はミッドチルダアンドロイド派遣サービスをご利用いただき真にありがとうございました。
私の名前はセリカXX。基本家事から警備まで、クライアントのご要望に幅広くお答えするセキュリティー強化型でございます」
アンドロイドが両手でスカートを軽く持ち上げると、スカートの下からジャコッと銃器やナイフなどが一瞬だけ顔を見せた。
「依頼主ユーノ・スクライア様、派遣先高町なのは様。依頼内容は高町なのは様の世話及びAランク警備です」
そう言いながらセリカはなのはに近づき、ドレスのポケットから端末を取り出した。
「詳しいご利用状況ならびにメッセージ等はこちらをご参照下さい」
なのはが薄いボードを受け取ると、契約日時やら金額やらがずらずらとスクロールしていった。
最後にメッセージのマークが点滅していたので押してみる。
すると[VOICE ONLY]と表示され、メッセージが再生された。

『これを聞いてるってことは、僕と戦って魔力が空になったなのはがそこにいることだろうと思う。

今の天候やなのはのその後を考えて安全な場所を選んだつもりだけど、少しは気分が落ち着いたかな…。
詳しくは言えないんだけどとにかく急なことだったから全部電話予約で済ませちゃって、十分僕の手が行き届いてないかもしれない。
このメッセージもうまく送信されていればいいんだけど。本当にごめんね。
…いまさらなのはを攻撃したことを許してもらおうとは思ってない。でも、しかたがないことだったんだ。
たぶんしばらくそこにいればアースラの誰かが迎えに来てくれるはずだからそれまでそこで待っていて。
全て片付いて、なのはがまた僕と会ってくれるなら、僕は直接会って謝りたい。今いえるのは、それだけ。
時間が無いから、それじゃあ』

そこでユーノのメッセージは終わった。
なのははいまだに頭の中の整理ができていなかった。結局ユーノがなぜ捕虜を逃がして自分を攻撃してきたのか
さっぱりわからなかったからだ。ただ、ユーノが何らかの事件に巻き込まれてやむを得ずに従っているということだけはわかった。
そういえば自分はユーノの右肩を脱臼させてしまった。大丈夫だろうか…。
そう思っているとぐぅっとなのはのお腹が鳴った。部屋にいるのはメイドのアンドロイドだけだったがなのはは頬を赤く染めた。
色んな情報が入ってきて考え始めたらようやく自分が空腹であることに気付いたのだ。
(とりあえず食べよう…)
間接的にとはいえユーノが用意してくれたものならば問題はないだろう。
魔力のない今は焦っても仕方がない。こちらから連絡をいれればすぐにでも誰か来てくれるだろう。
そう思ったなのははのそのそとベッドから降りテーブルにつくのだった。

                 *

「ユーノのやつ、ホントどこ行ったんだよぉ…」
円筒形の空間、膨大な本が陳列する本棚を前に、耳を振りながら小さな少女が本をしまっていく。
少女の周りではいくつもの本が浮かび、その本もとっかえひっかえ飛んで行った。
無限書庫の中では多くの多くの司書たちが必死の形相でその整理に当たっていた。
先ほど検索の陣頭指揮をとっている司書長が行方不明と知れ一時は混乱に陥っていたが、
この4年で慣れた者も出始めていたこともありかろうじて機能していた。
司書達が司書長の存在の大きさを改めて実感し、穴を埋めるべく仕事に没頭する中、獣耳を生やし尻尾をふる少女も
それに埋もれるように作業を続けていた。
(最近のユーノ調子悪そうだったし、まさか嫌になって逃げたんじゃ…)
そう思いながらもすぐに首を振る。
(いや、あのユーノは逃げるようなヤツじゃない。それはあたしが一番よくわかってんだ)
ふんっと鼻息を荒げて新たに取り出した本を抱える。
フェイトの使い魔、アルフは現在無限書庫で働いている。1年前まではフェイトと行動を共にしそのサポートをしていた。
しかし執務官試験に合格したフェイトはアルフのサポートの手から離れるほどめきめきと成長し、
アルフに戦線からの離脱を決意させた。
使い魔は主人の魔力を消費しつつ、存在し続ける。
そして高性能な使い魔ほど、消費魔力も大きくなる。故にアルフは自らその性能を封印することで、
主であるフェイトの魔力消費を押さえることにしたのだ。
その徹底振りは形成する肉体にまで表れ、長身の女性だった体型はいまでは幼い少女となっている。
戦闘以外でフェイトを助けたい。その想いを叶えてくれたのが無限書庫の司書長、ユーノ・スクライアだった。
付き合いも長く、立場も近かったことからアルフが最も気に入っている人間の一人だ。
検索魔法など使ったこともなかったアルフに一からその手ほどきをしてくれ、アルフは今ではユーノの右腕として活躍していた。
(そういやあいつを連れて来たときも、こんな感じだったような…)
ふと青い髪の少年が思い浮かぶ。三週間ほど前にユーノが連れて来たスクライア一族の人間。
ユーノの幼馴染らしいその少年が連れて来られた時もまた、ユーノ失踪疑惑で無限書庫は一時混乱した。
その少年は即日でユーノの秘書となり、ユーノの傍らで色々な雑務をしていた。
はっきりいってアルフはその人間が気に入らなかった。
自分のポジションが奪われた嫉妬も多少あったが、なによりその雰囲気がアルフの癇に障った。
獣としての感だろうか。表面上は静かに装っているその態度も、内面では怯え、人の顔色ばかり伺っているように思えた。
「きっとあいつがユーノを誑(たぶら)かしてんだ。そうに違いないよ」
乱暴に本をしまいながら呟いたアルフに、突然通信が入った。
「はいよ。どうしたんだい?」
目の前に薄いモニターが現われ、司書の一人の顔が出る。
「アースラから通信が入ってるわよ。今そっちに取り次ぐから」
そう言ってモニターの画面が切り替わると、エイミィの顔が映った。
真剣な顔で話すエイミィの話を聞くうちに、だんだんとアルフの顔が険しくなっていく。
「あたしの分の仕事、頼んだよ!」
「えぇ!?」
モニターを切った瞬間、アルフは縦横に走る通路に向かって飛び出した。
突然のアルフの職場放棄に近くにいた司書は驚いたが、その様子すらすでにアルフの目には入っていなかった。



『フェイト、フェイト!!』
通路を駆けながらもアルフは念話を飛ばした。
(駄目か…やっぱり遠くにいるんだ…)
その事実に唇を噛む。本局周辺にはいないとは思っていたが、精神リンクからの感情の流れも全く感じられない。
エイミィからの報告。それはフェイトがアースラからいなくなり、もしかしたら危険な目に遭うかもしれない、というものだった。
別に現に危機に直面しているわけではないようだが、アルフの感が胸をざわめかせた。
フェイトを最も感知できるアルフの呼び出しと、本局や他の人間に絶対に知らせてはならない、
というエイミィの厳重な釘刺しも関係しているかもしれない。
フェイトは責任感が人一倍強い。執務官として冷静な判断力を持ち合わせてはいるがまだ駆出しだ。
アースラのサポートもなしに単独で行動していることからなにか無茶をやっているような気がした。
(なんもなきゃいいんだけど)
そう思いながらアースラに向かうために本局の転移装置を目指し走り続けると、
「キャッ!!」
「おわ!?」
角を曲がった瞬間何かにぶつかり、アルフはその物体に重なるように倒れこんだ。
「いったぁ……」
アルフの下から声が漏れる。自分よりちょっとだけ大きなその物体がのそのそと蠢いた。
「ご、ごめんよ!今急いでて…」
アルフが飛びのくと、下敷きになった人影がよろよろと立ち上がる。
「もう!管理局の人ってなんでそう生き急いでるのよ!?ちょっとはゆとりってものを…」
通路の床にぶつけた鼻を押さえながら一気にまくし立てた少女はそこで言葉を止めた。
「…あら?あなた使い魔?」
少女が首を傾げると、その灰色の髪がふわっと揺れた。
外ハネし、シャギーのかかったセミロングの髪。局内では珍しい茶色いマントに独特の衣装。
焦る気持ちも忘れ、アルフは思ったことを口にしていた。
「あんたこそ、その服はスクライア一族かい?」
そう、目の前のアルフより少しだけ身長の大きな少女の衣装は、ユーノのバリアジャケットにも現われる模様が描かれていたのだ。
すると少女の脇に立っていた長身の女性がこちらを覗き込んできた。
「あら可愛らしい。コルトちゃん、この子お知り合い?」
透き通るような金髪。腰まで伸びるロングヘアーのその女性もまた、少女と同じ衣装だった。
アルフはこの数年で女性を何人も見てきたが、その人は今まで見た中でも三本の指に入るほど美しかった。
もちろん一番はフェイトであったが。
「お姉様今ぶつかったの見てたでしょう!?絶対身長だけ見て言ってるに違いないわ!」
コルトと呼ばれた少女が女性に激しく突っ込んだが、女性は微笑を崩さずに考え過ぎよ、とほんわかと返した。
その濃い二人組みの掛け合いをぼんやり見ていたアルフだったが、本来の目的を思い出しはっとした。
「わ、悪いんだけどあたしゃ今すぐアースラに行かなきゃならないんだ!どっかで会ったらそんときゃ改めて謝るよ!!」
そう言って駆け出そうとした瞬間、ぐっとアルフの腕が捕まれた。
「な、なにすんだい!」
「アースラって言ったでしょ、今」
少女のブラウンの瞳と目が合う。
「…そうだけど、なんなのさ」
早く転移装置に向かいたいアルフは苛立たしげに言った。
「よかったわぁ。あやうく遭難するところだったの」
「はぁ?」
手を合わせて顔をほころばせる長身の女性にアルフは口をぽかんと開けた。
「私達もアースラに呼ばれてるの。連れてってちょうだい」
呆けるアルフを意に介せず、灰色の髪の少女が切羽詰った表情で言った。
それが、アルフとコルトの初めての出会いだった。

次回へ続く

次回 第十九話 「スクライア」

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目次:魔法少女リリカルなのはA's++
著者:396

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